必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

文字の大きさ
上 下
642 / 714

640 ※

しおりを挟む
 鉛のように重い足を引きずるようにして、雪也は庵へ向かった。歩く度にボタボタと真っ赤な血が流れ落ち、腕も力を失ってガラガラと耳障りな音をたてながら刀を引きずる。今にも男達と同じように倒れ伏してしまいそうだ。だが、まだ倒れては駄目だ。もしもの時は逃げろと言ったけれど、きっと周のことだから庵の中で待っているだろう。だから、あの子を守るためにも庵に戻り、必要とあれば一緒に逃げなければならない。それに、男の言葉は雪也の隙を作るためのハッタリかもしれないのだから、それを鵜呑みにせず、由弦も探さなければ。
 崩れそうになる身体を支えるようにして扉を開く。その瞬間、雪也は声もなく目を見開いた。
 血の臭いがするのは、わかっていた。だがそれは、自分の身体から溢れ出るものからだと思っていた。男達の誰一人として、この庵には近づけていない。どれほど身を切り裂かれようと、庵を背に庇っていたのだから。なのに、なぜ――。
「あま、ね……?」
 視線の先に、周が倒れ伏している。彼を中心に広がる、あの赤黒いものは何だ。
「周ッ!」
 ボタボタと血が溢れ出るのも構わず、雪也は周に駆け寄る。慌てて周を抱き寄せれば、彼の身体は異様なほどに冷たかった。雪也にも余裕はなく、随分と乱暴な動きで抱き寄せたというのに、周の身体はピクリとも動かない。開かれたままの灰の瞳から、一すじ、雫が流れ落ちた。
「あまね……、あま、ね……」
 何度呼んでも、周の応えはない。彼の腹部が真っ赤に染まっているのを見て、雪也はここで何が起こったのかを察した。察して、しまった。
 ノロノロと視線を向ければ、裏口の戸が僅かに開いている。どうやら周の命を奪った者は、よほど慌てていたのだろう。だというのに、雪也はその物音にも、周の異変にも気づかなかった。誰よりも、そんな己自身が憎い。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

今世では誰かに手を取って貰いたい

朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。 ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。 ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。 そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。 選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。 だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。 男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

みどりとあおとあお

うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。 ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。 モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。 そんな碧の物語です。 短編。

処理中です...