必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

文字の大きさ
上 下
640 / 714

638 ※

しおりを挟む
「そなたらがあの男と別れてどれほど時間が経っていると思っている? 火災の混乱に乗じて命を奪うことなど容易いことだ」
「火災? いったい彼に何をしたッ!」
 まさか以前耳にした噂が本当になったというのか? 近臣の屋敷に放火して、その混乱に乗じ衛府に大砲を打つ。春風家ですら把握し対応しきれないだろう混乱の中で、由弦の命を狙ったとでも言うのだろうか。そこまでしなければならない彼らの志とは、いったい何なのか。だが男は顔を歪める雪也を前に、ゆっくりと首を横に振った。
「恨むなら、我々ではなく衛府を恨むことだ。領主の屋敷に次々と火を放っているのは衛府の駒どもであり、我々ではない。そして炎が燃え盛る前に消すため春風の私兵は全て出払っていて、もし事態に気づいたとしてもあの男を助けるだけの余力も時間もない。つまり、すでに手遅れということだ」
 雪也がこの庵で戦っている間に――否、この庵に着いた時には既に由弦は彼らの刃を受けている。
「そなたは強い。この現状を前に、それは認めざるを得ないだろう。だが、それはそなただけだ。仮にここで我々が撤退したとしても、春風が妨げになる以上は狙われ続ける。そして、衛府は決してそなたらを助けはしない。――問おう。誰もいなくなった世界で一人、そなたは抗ってまで何のために生きる?」
 その生は疎まれ、枷となるだけだというのに。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

今世では誰かに手を取って貰いたい

朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。 ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。 ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。 そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。 選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。 だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。 男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

処理中です...