必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「理由が無ければ納得できないと言うのであれば、投資だと思ってくれていい。私は優秀な人材を埋もれさせておくほど馬鹿ではないからな」
 雪也が疑っていることを、弥生も理解している。わかっていて、雪也を引き取ったのだ。その覚悟はこの程度で引き下がるほど弱いものではない。
 弥生は触れていた頬から手を離すと、雪也の流れるような黒髪を撫でる。その温もりに雪也はハッと目を見開いた。
「お前は忘れているだけだ、無条件に与えられる温もりというものを。だがそれでも良い。気が済むまで疑っていい。それをどう覆すかは、私の役目だからな」
 微笑み、雪也を見るその瞳は、どこか懐かしかった。性別も年齢も、何一つとして重なるものはないというのに、懐かしくて、懐かしくて、雪也の心が騒めく。
「できる事ならば、大切にされることを知ってほしい。無条件に愛されることを知ってほしい。そしていつか、今度はお前が誰かにそれを与えられれば良いと思う」
 揺れ動く雪也に弥生は気づいていた。弥生だけではなく、その場にいた優も紫呉も。迷子のように揺れる瞳に、どうして気づかずにいられるだろうか。
 当たり前に与えられるものがあったはずだ。子供らしく無邪気に笑い、愛され、それが永遠に続くと信じていた日々が、きっと彼にもあっただろう。だが、どういう理由かは知らないが、それは奪われ、苦界に堕ちた。
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