必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 もともと弥生に与えられていたうちの一室を雪也に与えて、弥生は仕事の合間を見つけては雪也の元へ姿を見せるようにしていた。そこでわかったのは、雪也は必要なものさえ知っていることが少なすぎるというものだった。
〝可愛がって〟とスラスラ言っていたので言葉はそれなりに知っているのかと思っていたが、どうやら男を喜ばせる言葉以外はほとんど知らず、またぎこちないものだった。字を書くこともできず、魚などの食べ方も知らない。部屋の中の調度品や書物を見たこともないようで、急ぎあつらえた着物を差し出せば触れることさえ恐れ、布団に寝かしつけてもガチガチと身体の力を抜く術をしらず、目を離した瞬間に床に小さく丸まっている。それが寝相の悪さではなく、雪也がわかっていて布団の外に出ていると知った時の、あの何とも言えぬ虚しさや行き場のない苦しみ。おそらくは同じものを感じ取ったのだろう、弥生の側近である優も、護衛の紫呉もどこか痛ましそうに雪也を見ていた。
 この子は、与えられることを知らない。知らないから、与えられて恐れを抱く。おそらくは〝対価〟というものを知らないのだ。ただただ、搾取され続けるだけが日常だったから。
 一度仕事から戻った際に雪也の姿がどこにも見当たらず大慌てで探し回った時も、彼は細すぎる手で水がいっぱい入った桶を運んでいた。どうやら何もしていない自分を恐れて、歩き回って下働きの者達がいる水場に来たらしい。そして困惑する下女たちに仕事を聞いて、そして洗濯用の水を運んでいたのだと聞いた時は脱力のあまりしゃがみ込んでしまい、同じように探していた優や紫呉を大いに慌てさせてしまった。
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