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「雪也、心遣いはありがたいが、あのようなことはしなくて良い。私はお前に働いてほしくて連れてきたわけではない」
 部屋に連れ帰って、なるべく優しく言い聞かせても、雪也は怒られたことに顔を強張らせるだけで納得はしていないようだった。そして夕餉を用意しても箸をつけないことに体調が悪いのかと問えば、「働かざる者食うべからず、と言われました。だから、ご飯は、ダメです」と、〝働かざる者食うべからず〟だけはやけに流暢に言いながら、自分は今日働いていないのだから食事は許されないと繰り返した。
 さてどうしたものか、と同じ席で食事を摂っていた優と紫呉に視線を向ければ、こちらも難しい顔をして黙り込んでいる。何か良い策は無いかと考えて、ふと、妙案を思い付いた。
「雪也」
 名を呼べば、真っ直ぐにその瞳が弥生に向けられる。弥生は立ち上がって雪也の正面に膝をつくと、手を伸ばしてその頬を撫でた。
「仕事というのは人によって違う。お前が今までどのような仕事をしてきたのかは知らないが、ここでは、それは雪也の仕事ではない。他者の仕事を奪ってはいけない、彼らはそれらをすることで生きるための衣食住を賄っているのだ。ここまではわかるな?」
 問えば雪也は少し俯きながらコクンとひとつ頷く。元来冷たく聞こえる弥生の声音に、怒られたと思っているのだろう。
「だが雪也にもしなければならないことはある」
 その言葉に、雪也はそっと顔を上げて弥生を見た。
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