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国と未来のために
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「私の知り合いに、国中の利権を把握している大商人の息子がいる」
ことの仔細をトリスタンに聞いていた。
わたしの実家が国を裏切ろうとしていること……いまだに信じられない。
だからこそ詳しく知らなければ。
「その友人にネシウス伯爵家の反逆未遂、および横領等の余罪について調べ上げてもらっている。こちらもリディオと同じく、ある程度の証拠を集めている」
「そう……証拠まであると言い逃れはできないわね」
「ああ。しかし、今回はリディオを相手にするのとはわけが違う。ひとつの伯爵家当主を相手取り、その罪の真偽を問う。一筋縄ではいかぬ相手だろうな。経験豊富なネシウス伯爵のことだ、言い逃れの手段も用意しているだろう」
お父様は色々と狡猾な性質だ。
自分の利のためならば用意周到に準備を重ねる。
きっと悪行が露呈した際の逃げ道も用意しているはず。
トリスタンも幼少から付き合ってきただけあり、両親の性格を熟知しているようだ。
未来を知っているという要因もあるだろう。
「わたしで力になれることはない? 仮にも実家を裏切るのだもの、見てみぬフリはできないわ」
「……その言葉はありがたい。しかし君を危険な目に遭わせるというのも」
「ううん、気にしないで。わたしはネシウス伯爵領の民を救いたいの」
もしも両親が糾弾されれば、わたしが領地を経営する可能性もある。
両親と共にわたしが処断される可能性もあるけれど……トリスタンが庇ってくれると信じている。
完全に彼を信じて進む方向に舵を取ったのだ。
「そうか……わかった。君の気持ちを尊重するのが大切だからな。では、ひとつ頼みがあるんだ」
「ええ、聞かせて」
「リディオにはこんな命令を出すつもりだ。『アレッシア嬢との婚約を破棄し、マリーズと婚約を結びたい』という旨の偽装文書をネシウス伯爵に送るようにと。この親書さえ届けば、君が実家に戻っても両親につらく当たられる心配はないだろう」
「つまり、わたしは実家に戻る必要があると?」
「ああ。もしも君が手伝ってくれるというのなら……ネシウス伯爵家にある確たる証拠を探してもらいたい。帝国との密会の記録、あるいは書状、なんでもいい。もう少しだけ材料が必要なんだ」
実家に戻るのは怖い。
しかし、リディオとの婚約という「盾」があれば大手を振って戻ることもできるだろう。
もちろん本当にリディオと婚約を結ぶつもりはないが、帰宅するための口実として偽装してもらうということだ。
遅かれ早かれネシウス伯爵家の反逆は露呈するという。
ならば今の内にわたしも実家と縁を切っておきたい。
だから、これが最後の帰宅になるだろうか。
「任せて。とはいえ……どこに帝国と通じている証拠があるのかしら? やはりお父様の執務室……?」
「だろうな。もしかしたら金庫などに厳重に保管されているかもしれない。そこで悪知恵の働く……いや、知恵者の令嬢を一緒に連れて行ってほしい。以前の夜会で会ったイシリアという令嬢を覚えているだろうか」
「もちろん。わたしとトリスタンが話す場を作ってくれた方ね?」
「イシリアは極めて頭が切れる令嬢だ。屋敷の不審な点をすぐに調べ上げ、証拠を掴んでくれるだろう。マリーズとリディオの婚約の仲介者……という立場で君に同伴してもらう。どうだろう、この計画で君に不満はないだろうか?」
わたしとロゼーヌだけでは不安が残る。
協力者が増えるのはありがたいことだ。
「不安がひとつあるわ。もしも帝国と通じている証拠を掴んだとしても……その後はどうするの? お父様に気づかれたら、逃げられてしまうのではなくて?」
「マリーズがネシウス伯爵家で証拠を確保次第、すぐに私はネシウス伯の取り押さえに入る。つまり君が帰宅する際は、私と大公家の騎士団も屋敷の周囲に潜んでいることになる。逃げられる心配はないとも。すでにネシウス伯が帝国と通じていることは、大公閣下に伝えてあるからな」
騎士団が屋敷を包囲する形になるのか。
それならわたしも安心できる。
……ということは、お父様が騎士団に捕縛される瞬間をわたしも見ることになる?
身内を売るみたいで気が引けるけど。
国の未来のため、そして民のために。
わたしが両親の操り糸を断つためにも。
覚悟をもって決別しなければならないのだろう。
ことの仔細をトリスタンに聞いていた。
わたしの実家が国を裏切ろうとしていること……いまだに信じられない。
だからこそ詳しく知らなければ。
「その友人にネシウス伯爵家の反逆未遂、および横領等の余罪について調べ上げてもらっている。こちらもリディオと同じく、ある程度の証拠を集めている」
「そう……証拠まであると言い逃れはできないわね」
「ああ。しかし、今回はリディオを相手にするのとはわけが違う。ひとつの伯爵家当主を相手取り、その罪の真偽を問う。一筋縄ではいかぬ相手だろうな。経験豊富なネシウス伯爵のことだ、言い逃れの手段も用意しているだろう」
お父様は色々と狡猾な性質だ。
自分の利のためならば用意周到に準備を重ねる。
きっと悪行が露呈した際の逃げ道も用意しているはず。
トリスタンも幼少から付き合ってきただけあり、両親の性格を熟知しているようだ。
未来を知っているという要因もあるだろう。
「わたしで力になれることはない? 仮にも実家を裏切るのだもの、見てみぬフリはできないわ」
「……その言葉はありがたい。しかし君を危険な目に遭わせるというのも」
「ううん、気にしないで。わたしはネシウス伯爵領の民を救いたいの」
もしも両親が糾弾されれば、わたしが領地を経営する可能性もある。
両親と共にわたしが処断される可能性もあるけれど……トリスタンが庇ってくれると信じている。
完全に彼を信じて進む方向に舵を取ったのだ。
「そうか……わかった。君の気持ちを尊重するのが大切だからな。では、ひとつ頼みがあるんだ」
「ええ、聞かせて」
「リディオにはこんな命令を出すつもりだ。『アレッシア嬢との婚約を破棄し、マリーズと婚約を結びたい』という旨の偽装文書をネシウス伯爵に送るようにと。この親書さえ届けば、君が実家に戻っても両親につらく当たられる心配はないだろう」
「つまり、わたしは実家に戻る必要があると?」
「ああ。もしも君が手伝ってくれるというのなら……ネシウス伯爵家にある確たる証拠を探してもらいたい。帝国との密会の記録、あるいは書状、なんでもいい。もう少しだけ材料が必要なんだ」
実家に戻るのは怖い。
しかし、リディオとの婚約という「盾」があれば大手を振って戻ることもできるだろう。
もちろん本当にリディオと婚約を結ぶつもりはないが、帰宅するための口実として偽装してもらうということだ。
遅かれ早かれネシウス伯爵家の反逆は露呈するという。
ならば今の内にわたしも実家と縁を切っておきたい。
だから、これが最後の帰宅になるだろうか。
「任せて。とはいえ……どこに帝国と通じている証拠があるのかしら? やはりお父様の執務室……?」
「だろうな。もしかしたら金庫などに厳重に保管されているかもしれない。そこで悪知恵の働く……いや、知恵者の令嬢を一緒に連れて行ってほしい。以前の夜会で会ったイシリアという令嬢を覚えているだろうか」
「もちろん。わたしとトリスタンが話す場を作ってくれた方ね?」
「イシリアは極めて頭が切れる令嬢だ。屋敷の不審な点をすぐに調べ上げ、証拠を掴んでくれるだろう。マリーズとリディオの婚約の仲介者……という立場で君に同伴してもらう。どうだろう、この計画で君に不満はないだろうか?」
わたしとロゼーヌだけでは不安が残る。
協力者が増えるのはありがたいことだ。
「不安がひとつあるわ。もしも帝国と通じている証拠を掴んだとしても……その後はどうするの? お父様に気づかれたら、逃げられてしまうのではなくて?」
「マリーズがネシウス伯爵家で証拠を確保次第、すぐに私はネシウス伯の取り押さえに入る。つまり君が帰宅する際は、私と大公家の騎士団も屋敷の周囲に潜んでいることになる。逃げられる心配はないとも。すでにネシウス伯が帝国と通じていることは、大公閣下に伝えてあるからな」
騎士団が屋敷を包囲する形になるのか。
それならわたしも安心できる。
……ということは、お父様が騎士団に捕縛される瞬間をわたしも見ることになる?
身内を売るみたいで気が引けるけど。
国の未来のため、そして民のために。
わたしが両親の操り糸を断つためにも。
覚悟をもって決別しなければならないのだろう。
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