これは報われない恋だ。

朝陽天満

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702、クエスト現場に行きました

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 雄太たちと『白金の獅子』と日時を合わせ、約束の時間少し前に魔大陸に跳んだ俺。

 跳んだ先には先客がいた。



「あれ、ユキヒラ、この間はいなかったのに」



 腕を組んで仁王立ちしているユキヒラが俺を出迎えていた。

 俺はヴィデロさんと冒険者ギルドの転移魔法陣で魔大陸まで来て、そこから魔王と戦ったここまで二人で跳んできたんだけど。

 周りを見回しても、雄太たちはまだ来てない。ってことは、雄太たちと来たわけではないのかな。

 と思ったら、遠くの方から「おーい! 待て待て待て!」と焦ったような声がかかった。

 走ってきたのは、長光さんだった。

 長光さんは凄いスピードで目の前に来ると、ヴィデロさんの腕をガシッと掴んだ。



「どうしてヴィデロ君がここにいるんだよ! 魔物化しちまうんだろ! マック君! 何危険なところに連れて来てるんだ!」



 真剣な面持ちで叱りつける長光さんに、ユキヒラが待ったをかける。



「あのな長光。ヴィデロさんは一緒に魔王と戦ったメンバーだから、大丈夫なんだよ。教えたろ、誰が戦ったか」

「聞いたけどな、ヴィルさんと言い間違えたと思ってたんだよ。本気で本人がここに来れるなんて思わねえだろ。ヴィデロ君、体調は大丈夫か? 苦しくないか?」



 ヴィデロさんの身体をバンバン叩きながら確認する長光さんに、ヴィデロさんが苦笑する。



「大丈夫だ。ここだけの話なんだが、実は魔力を最大値まで引き上げる魔法陣を知っている知り合いの獣人がいるんだ。だから」



 思わせぶりにそこで言葉を止めたヴィデロさんは、俺に向かってウインクした。

 嘘は言ってない。確かに嘘は言ってないけど。だからヴィデロさんがここに来れたわけじゃないんだよね。でもしっかりとマップに載ってるマーカーはNPC色になっているから、それが真実みたいな感じがするのが何とも言えない。

 複雑な気分で笑ってごまかしていると、ユキヒラも複雑そうな顔をしていた。

 長光さんは「ああ、だから魔大陸に来れるのか……?」と首を捻りつつもその言葉で多少は納得したようで、ホッとしたように息を吐いた。



「でもどうして長光さんがここに?」



 俺がそう聞くと、長光さんは「ユキヒラの足」と笑って答えた。

 足になるから連れて行け、とユキヒラは強引に迫られたらしい。でもどうやってここまで跳んできたんだろう。行ったことのある場所しか跳べないはずなのに。

 そのことを聞くと、あっさりと答えが返ってきた。

 呪術屋を出たその日の夜、クラッシュの店に買い物に行った時にクラッシュと雑談をしてた長光さん、ぽろっと「魔王と戦った場所行ってみてえ」と呟いたところ、クラッシュにあっさりと「じゃあ行ってみる? 時間が遅いから行って帰って来るだけになると思うし、何もないけど」と連れて行かれたんだそうだ。クラッシュ、軽すぎるよ。まあその前に、長光さんも後始末クエストが出ていたことが話題になったからそんなにあっさり連れて行ったんだとは思うけど。

 その話を聞いたヴィデロさんは顔を手で抑えて嘆息した。ユキヒラも苦虫を噛み潰したような顔をしている。多分俺も同じような顔をしてると思う。クラッシュ……もっと危機感持とうよ。



「っていうかユキヒラもクエスト貰ってたんだ」

「ああ。次の日にログインしたらクエストが来てた。聖剣関連。もしやと思ってガンツと連絡取ったら今日皆が集まるって教えてもらったんだ」



 レベル上がるなら全然問題ないけど、とユキヒラは腰の聖剣に手を添えた。

 そういえばユキヒラも魔物を倒すとレベルが上がる聖剣だった。





 そんな感じで雑談をしていると、目の前に大人数がパッとひと塊で現れた。

 皆が寄ってたかってユイをもみくちゃにしているように見えなくもない。触れないと一緒に跳べないからなあ。



「よ、早いな。ってか長光もいる!?」



 雄太が驚いた顔をして、長光さんをガン見する。

 ちらりと俺を見て来るけど、俺が連れて来たわけじゃないよ。自主的に参加してたんだよ。

 長光さんは自力転移できるから。







「じゃあ、手っ取り早く後始末しようか」



 ドレインさんとユーリナさんが早く探そうよ、とブレイブを急かす。

 それに応えるように、ブレイブがスキルを使用した。



「レベルが低いからいまいちはっきりしないけど……」



 そう言いながら、先に進んでいく。



「高橋、そこの大きめの瓦礫を壊せ」



 ブレイブが指さした瓦礫は、城だったと思われる紋章がかなり黒くなってるけど残っていて、雄太は頷くとそれを難なく粉々にした。

 でもその紋章はそのままで。汚れてはいるけれど、背中に羽根の生えた女神が腕を組んでいるような絵柄が見える。



「ここら辺……のはずなんだけど……」



 ブレイブはきょろきょろと辺りを見回して、首を傾げた。

 特に変わった所のない景色を皆で見回すけれど、何もない。

 そんなことより俺は、あれだけくっついていた瓦礫が粉々になったのに傷ひとつついてない紋章が気になるよ。

 これ、ここに国があった時の国の紋章みたいなものなのかな。

 近付いて行って落ちているそれに手を伸ばす。

 触れる寸前でヴィデロさんに手を押さえられた。



「マック、そういうのは不用意に触るんじゃない」

「あ……うん。でもこれ、さっきの高橋の攻撃で傷ひとつつかなかったんだよ。気になるじゃん」

「気になるけどな、触れたことで呪いにかかったりしたらどうするんだ。せっかく鑑定眼があるんだ。こういう時に使うもんだろ」



 そうだった。

 ヴィデロさんの言葉にハッとして、俺は早速足元の紋章を鑑定眼で見た。



「あ、やっぱりこれ、この国の紋章だった。でも待って『死の女神モルテ・デーア』ってなってる。国の紋章が死とかおかしい」

「説明はなんて書いてるの?」



 いつの間にやら隣に来ていた海里が一緒になって紋章を覗き込む。



「『死の女神モルテ・デーア:ソルディーオ大国に代々伝えられてきた女神の国章であり象徴。王が道を違えたことで、女神がその責を受け、『死の女神』として恐怖の象徴となった。触れた瞬間文字に呪いとして刻まれた魔素が身心を染める』って書かれてる。ああ、これに触れると魔王になるかもしれないってことかな。ヴィデロさんに止めてもらってよかった。俺が史上最弱の魔王になるところだった……」

「触ってみてもいい?」

「だから、触ったらだめだって!」



 ワクワクした顔で手を伸ばそうとする海里の手を、これまたいつの間にやらすぐ隣にいたブレイブが止める。



「見つけた。これだ。これがどこかの次元と繋がってる感じがする。なるほどな。それを意図するとはっきりと見えるんだな。使い辛いな」

「ねえブレイブ、どんな感じに見えるの? 目を使って大丈夫? 昨日ちょっと使ってみた時、具合悪くなったじゃない」

「今もちょっと気持ち悪いけどな。でも見る対象がはっきりしてると視点が定まって視界のブレも減るから悪くはないな」

「どうすればここから『神の御使いの欠片』を取り出すんだ? 俺には普通の紋章にしか見えない」

「僕も。でもスクショ撮っていい? 記念に。なんだっけ『ソルディーオ大国』だっけ? ここにあった国の名前?」

「面白いね。そういう国関連の物を鑑定すれば、魔大陸の国名がわかるんじゃん? ちょっとそういうのしてみたいかも。ユイ、魔大陸、隅から隅まで跳ばない?」

「無理だよユーリナさん。私は行ったところにしか跳べないもん」

「隅々までいこ。高橋なんて置いて、二人で行こ。ね」



 女の子同士のデートが成立する直前、俺と同じように鑑定をしていたブレイブがユイを呼んだ。



「この紋章の中に転移って出来るか?」

「したことないからわからない。でも、この立派なプレートの奥に何かあるの?」

「道がある。でも、入り方がわからない。セイジはいつもシークレットダンジョン、どうやって入ってたんだ?」

「転移で入ってたのは確かだけどね。どうやったんだろ。訊けばよかったね」

「この間はこんな疑問持たなかっただろ。仕方ない」



 二人が頭を悩ませる。

 セイジさんはどうやって魔法陣を描いてたんだっけ。

 早すぎていまいちセイジさんの魔法陣って読めないんだよね。

 でも数字を書いてたのは覚えてるんだけど……その数字が何を意味するのかは全然分からないんだよな。

 これは……最初から前途多難?

 そう簡単なことじゃないのはわかってたけど。





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