705 / 830
702、クエスト現場に行きました
しおりを挟む雄太たちと『白金の獅子』と日時を合わせ、約束の時間少し前に魔大陸に跳んだ俺。
跳んだ先には先客がいた。
「あれ、ユキヒラ、この間はいなかったのに」
腕を組んで仁王立ちしているユキヒラが俺を出迎えていた。
俺はヴィデロさんと冒険者ギルドの転移魔法陣で魔大陸まで来て、そこから魔王と戦ったここまで二人で跳んできたんだけど。
周りを見回しても、雄太たちはまだ来てない。ってことは、雄太たちと来たわけではないのかな。
と思ったら、遠くの方から「おーい! 待て待て待て!」と焦ったような声がかかった。
走ってきたのは、長光さんだった。
長光さんは凄いスピードで目の前に来ると、ヴィデロさんの腕をガシッと掴んだ。
「どうしてヴィデロ君がここにいるんだよ! 魔物化しちまうんだろ! マック君! 何危険なところに連れて来てるんだ!」
真剣な面持ちで叱りつける長光さんに、ユキヒラが待ったをかける。
「あのな長光。ヴィデロさんは一緒に魔王と戦ったメンバーだから、大丈夫なんだよ。教えたろ、誰が戦ったか」
「聞いたけどな、ヴィルさんと言い間違えたと思ってたんだよ。本気で本人がここに来れるなんて思わねえだろ。ヴィデロ君、体調は大丈夫か? 苦しくないか?」
ヴィデロさんの身体をバンバン叩きながら確認する長光さんに、ヴィデロさんが苦笑する。
「大丈夫だ。ここだけの話なんだが、実は魔力を最大値まで引き上げる魔法陣を知っている知り合いの獣人がいるんだ。だから」
思わせぶりにそこで言葉を止めたヴィデロさんは、俺に向かってウインクした。
嘘は言ってない。確かに嘘は言ってないけど。だからヴィデロさんがここに来れたわけじゃないんだよね。でもしっかりとマップに載ってるマーカーはNPC色になっているから、それが真実みたいな感じがするのが何とも言えない。
複雑な気分で笑ってごまかしていると、ユキヒラも複雑そうな顔をしていた。
長光さんは「ああ、だから魔大陸に来れるのか……?」と首を捻りつつもその言葉で多少は納得したようで、ホッとしたように息を吐いた。
「でもどうして長光さんがここに?」
俺がそう聞くと、長光さんは「ユキヒラの足」と笑って答えた。
足になるから連れて行け、とユキヒラは強引に迫られたらしい。でもどうやってここまで跳んできたんだろう。行ったことのある場所しか跳べないはずなのに。
そのことを聞くと、あっさりと答えが返ってきた。
呪術屋を出たその日の夜、クラッシュの店に買い物に行った時にクラッシュと雑談をしてた長光さん、ぽろっと「魔王と戦った場所行ってみてえ」と呟いたところ、クラッシュにあっさりと「じゃあ行ってみる? 時間が遅いから行って帰って来るだけになると思うし、何もないけど」と連れて行かれたんだそうだ。クラッシュ、軽すぎるよ。まあその前に、長光さんも後始末クエストが出ていたことが話題になったからそんなにあっさり連れて行ったんだとは思うけど。
その話を聞いたヴィデロさんは顔を手で抑えて嘆息した。ユキヒラも苦虫を噛み潰したような顔をしている。多分俺も同じような顔をしてると思う。クラッシュ……もっと危機感持とうよ。
「っていうかユキヒラもクエスト貰ってたんだ」
「ああ。次の日にログインしたらクエストが来てた。聖剣関連。もしやと思ってガンツと連絡取ったら今日皆が集まるって教えてもらったんだ」
レベル上がるなら全然問題ないけど、とユキヒラは腰の聖剣に手を添えた。
そういえばユキヒラも魔物を倒すとレベルが上がる聖剣だった。
そんな感じで雑談をしていると、目の前に大人数がパッとひと塊で現れた。
皆が寄ってたかってユイをもみくちゃにしているように見えなくもない。触れないと一緒に跳べないからなあ。
「よ、早いな。ってか長光もいる!?」
雄太が驚いた顔をして、長光さんをガン見する。
ちらりと俺を見て来るけど、俺が連れて来たわけじゃないよ。自主的に参加してたんだよ。
長光さんは自力転移できるから。
「じゃあ、手っ取り早く後始末しようか」
ドレインさんとユーリナさんが早く探そうよ、とブレイブを急かす。
それに応えるように、ブレイブがスキルを使用した。
「レベルが低いからいまいちはっきりしないけど……」
そう言いながら、先に進んでいく。
「高橋、そこの大きめの瓦礫を壊せ」
ブレイブが指さした瓦礫は、城だったと思われる紋章がかなり黒くなってるけど残っていて、雄太は頷くとそれを難なく粉々にした。
でもその紋章はそのままで。汚れてはいるけれど、背中に羽根の生えた女神が腕を組んでいるような絵柄が見える。
「ここら辺……のはずなんだけど……」
ブレイブはきょろきょろと辺りを見回して、首を傾げた。
特に変わった所のない景色を皆で見回すけれど、何もない。
そんなことより俺は、あれだけくっついていた瓦礫が粉々になったのに傷ひとつついてない紋章が気になるよ。
これ、ここに国があった時の国の紋章みたいなものなのかな。
近付いて行って落ちているそれに手を伸ばす。
触れる寸前でヴィデロさんに手を押さえられた。
「マック、そういうのは不用意に触るんじゃない」
「あ……うん。でもこれ、さっきの高橋の攻撃で傷ひとつつかなかったんだよ。気になるじゃん」
「気になるけどな、触れたことで呪いにかかったりしたらどうするんだ。せっかく鑑定眼があるんだ。こういう時に使うもんだろ」
そうだった。
ヴィデロさんの言葉にハッとして、俺は早速足元の紋章を鑑定眼で見た。
「あ、やっぱりこれ、この国の紋章だった。でも待って『死の女神モルテ・デーア』ってなってる。国の紋章が死とかおかしい」
「説明はなんて書いてるの?」
いつの間にやら隣に来ていた海里が一緒になって紋章を覗き込む。
「『死の女神モルテ・デーア:ソルディーオ大国に代々伝えられてきた女神の国章であり象徴。王が道を違えたことで、女神がその責を受け、『死の女神』として恐怖の象徴となった。触れた瞬間文字に呪いとして刻まれた魔素が身心を染める』って書かれてる。ああ、これに触れると魔王になるかもしれないってことかな。ヴィデロさんに止めてもらってよかった。俺が史上最弱の魔王になるところだった……」
「触ってみてもいい?」
「だから、触ったらだめだって!」
ワクワクした顔で手を伸ばそうとする海里の手を、これまたいつの間にやらすぐ隣にいたブレイブが止める。
「見つけた。これだ。これがどこかの次元と繋がってる感じがする。なるほどな。それを意図するとはっきりと見えるんだな。使い辛いな」
「ねえブレイブ、どんな感じに見えるの? 目を使って大丈夫? 昨日ちょっと使ってみた時、具合悪くなったじゃない」
「今もちょっと気持ち悪いけどな。でも見る対象がはっきりしてると視点が定まって視界のブレも減るから悪くはないな」
「どうすればここから『神の御使いの欠片』を取り出すんだ? 俺には普通の紋章にしか見えない」
「僕も。でもスクショ撮っていい? 記念に。なんだっけ『ソルディーオ大国』だっけ? ここにあった国の名前?」
「面白いね。そういう国関連の物を鑑定すれば、魔大陸の国名がわかるんじゃん? ちょっとそういうのしてみたいかも。ユイ、魔大陸、隅から隅まで跳ばない?」
「無理だよユーリナさん。私は行ったところにしか跳べないもん」
「隅々までいこ。高橋なんて置いて、二人で行こ。ね」
女の子同士のデートが成立する直前、俺と同じように鑑定をしていたブレイブがユイを呼んだ。
「この紋章の中に転移って出来るか?」
「したことないからわからない。でも、この立派なプレートの奥に何かあるの?」
「道がある。でも、入り方がわからない。セイジはいつもシークレットダンジョン、どうやって入ってたんだ?」
「転移で入ってたのは確かだけどね。どうやったんだろ。訊けばよかったね」
「この間はこんな疑問持たなかっただろ。仕方ない」
二人が頭を悩ませる。
セイジさんはどうやって魔法陣を描いてたんだっけ。
早すぎていまいちセイジさんの魔法陣って読めないんだよね。
でも数字を書いてたのは覚えてるんだけど……その数字が何を意味するのかは全然分からないんだよな。
これは……最初から前途多難?
そう簡単なことじゃないのはわかってたけど。
911
お気に入りに追加
9,298
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる