これは報われない恋だ。

朝陽天満

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437、蘇生薬生成

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 サラさんの前で作った時より、手の動きはスムーズだった。

 頭が覚えているレシピ内容を手がなぞっていく。

 一度作ってるからか、最初より戸惑いが少ない分、今の方が気持ち的に余裕がある。

 簡易キットの中身を上級キットの中に入れて、普通のキットの中身を混ぜて。

 果実の汁を、一滴。

 そこで気付く。前に作った時より色が変わってくのが早い、かも。

 じゃあ、果汁は少なめがいいのかな。

 ふぅ、と息を吐いて、キットの中身を注視しながら、一滴一滴入れていく。

 ここだ、とふわっと香りが変わった瞬間普通キットを火から外して上級キットの中に丁寧に流し入れていく。

 最後の素材を目で確かめて、すべてのキットの中身が混ざり合った上級キットを混ぜ続けた。

 気泡が出てきたら最後の素材を、と考えた瞬間ぽこっと泡が生まれ、俺は「早過ぎだろ!」と思わず口走りながら最後の素材を入れた。

 全体的に次の過程に移るのが早い。これは気を抜くとジャストタイミングを逃しちゃうかも、と顔を顰めた。

 瞬きの瞬間が鬱陶しい。サラさんの前で作った時より、タイミングを掴むポイントが短い気がする。

 ドキドキしながら掻き混ぜてると、ちょっとした違和感を感じた。そして次の瞬間、サッと色がはちみつ色に変わる。



「うわわ」



 慌てて上級キットを火からおろして、キットの中身が黒くなっていないか確認する。

 前はもう少し時間があった気がするけど、と手に持ったフラスコのような上級調薬キットを覗き込んだ。

 大丈夫、はちみつ色だ。

 用意していた空瓶にその液体を流し入れて、俺は鑑定眼を使った。



『蘇生薬:ランクC 生命維持が限界を迎え仮死状態になった者を蘇生させる薬。ただし生命維持活動停止後15分が経過している場合やすでに身体が朽ち果ててしまっている場合、身体はあってもその者の核となる物が消滅していた場合は使っても意味をなさない。復活後体力回復値30』



 鑑定眼の説明を見て、俺は思わず声を出しそうになった。

 蘇生薬でもランクがあるのか。ってことは、もっと作って腕を上げてランクを上げた方がいいってことかな。そうだよな、調薬だもんなあ。調薬アイテムはランクが普通にあるよ。

 そんな当たり前のことも気付かないくらいに、俺は蘇生薬がとんでもないレアアイテムだと思ってたよ。

 レアアイテムには違いないんだけど、きっとヒイロさんが作る蘇生薬は、ランクSとかなんだろうなあ。でもランクが上がると何が変わるんだろう。この復活後の体力回復値があがるのかな。

 これは、今回だけじゃなくてたくさん作らないとだめだ。



「せめてランクAまで、できればランクSまで作りたいなあ。でもシックポーションもまだランク低いからな」



 それでも、今の蘇生薬を成功させたことで、調薬スキルのレベルも薬師のジョブレベルもしっかりと上がった。それだけ経験値が高かったんだってことだ。

 俺は出来立てほやほやの蘇生薬をインベントリにしまい込んで、もう一度挑戦することにした。

 そして、三個作っただけでスタミナが空になり、ランクはすべてCだった。そこまで簡単には上がらないよね。

 調薬キットごとインベントリに蘇生薬をしまうと、俺はよし、と頷いて椅子から立ち上がった。



 ヴィデロさんに蘇生薬をあげに行こう。







 門に到着すると、ヴィデロさんが鎧を着て立っていた。

 相変わらず鎧を着たヴィデロさんかっこいい。

 でも長光さんが作った最新の鎧を着てるヴィデロさんが一番カッコいいけど。



「ヴィデロさーん」

「マック」



 俺が声を掛けた瞬間、ヴィデロさんは面を上げて振り返った。

 満面の笑み貰いましたありがとうございます好き。

 ギャラリーもほぼいなかったので、そのままくっついていくと、鎧の冷たい感触が頬に触れる。



「今日は何してたんだ?」



 ヴィデロさんに聞かれて、俺はオランさんの手を見に行ったことを教えた。

 あと、ヒイロさんとセィとセッテに行ったこと、そして、トレアムさんと輪廻が一緒に神殿に行くことになったこと。



「お、マックの友達結婚するのか」

「ロイさん。ロイさんも神殿に行ったの?」



 ヴィデロさんと一緒に立っていたロイさんが、面を上げて会話に混ざって来る。

 新婚さんだから、神殿の様子とかわかるんだろうなあ。



「もちろん行ってきた。フランと一緒に奥の広間で祈りを捧げて来たよ」

「それだけ?」

「それだけってお前」



 俺的には成人の儀みたいに身体の中を何かが通り抜けて、何かが変わるみたいなそんなのを期待してたんだけど、祈りを捧げるだけなのか。

 変な顔をしていただろう俺の肩に、ロイさんの手が乗る。



「神聖な儀式なんだから。それにな、まず気持ちが変わるだろ。これからはこいつと家族を作っていくんだから、頑張ろうって」

「家族を作る……か」

「お前らはいつ行くんだ? もうマックも成人したなら、婚姻の儀も受けれるはずだろ」



 俺とヴィデロさんは、ロイさんの言葉にハッと顔を見合わせた。

 そっか、俺、成人したからすぐにでもヴィデロさんと結婚することもできるんだ。

 ヴィデロさんも今までそんなことを考えなかったみたいで、目から鱗が落ちたような顔をしていた。



「なんだよ。あんだけイチャイチャしてて全然婚姻の儀を受けること考えなかったのかよ」

「そうだな、考えていなかった。マックを待っていたから……」

「ああ、うん、俺も……」



 ちゃんと生身でこっちに来た時にヴィデロさんと正式に結婚するもんだと思ってたから、輪廻の話を聞いても、自分は行こう、なんて全然考えなかったよ。



「バカだなあお前ら。なんかこう、どこか抜けてるよな……」



 呆れたような目を向けられて、二人で顔を見合わせて苦笑する。

 俺を待ってたってことは、ヴィデロさんも俺と全く同じ気持ちだったんだよな。

 でも、婚姻の儀だけ先に受けるってこともできるのかな。

 そうしたら、名実ともにヴィデロさんは俺の伴侶、ってことかな。

 そ、それはそれで……。ゴクリと喉が鳴る。



「ヴィデロさん、俺と、婚姻の儀を受けに行かない?」



 口に出した瞬間、隣でロイさんがブッと吹き出した。



「なんだよそのナンパみたいな言い回しは。そんな気軽に行くもんじゃねえからな、婚姻の儀」

「気楽に言ってるわけじゃないよ」



 くくくと笑うロイさんに口を尖らせて見ながらも、自分でもなんかナンパのセリフっぽいと思って思わず赤面する。

 すると、俺を抱きしめていたヴィデロさんがスッと腕を解いて、地面に片膝を着いた。

 門を通ろうとするプレイヤーたちがなんだなんだ、とヴィデロさんを注目する。



「どうしたのヴィデロさん、俺があんまりにもあほなことを言っちゃったから、呆れちゃった?」



 慌ててヴィデロさんの顔を覗こうと身体を屈めると、ヴィデロさんが兜を脱いで、綺麗な金髪を陽の光に晒した。

 そして俺の手を取って、俺を見上げる。



「マック……生涯俺の横にいて、弱い俺を支えて欲しい。全身全霊を持ってマックを護り幸せにするから、マックも俺と幸せな一生を送ってくれないか。愛してる……」



 周りから歓声が上がったけれど、その声は俺の耳には入って来なかった。

 真摯に俺を見上げるヴィデロさんの瞳に見惚れて、その言葉に、声に、姿に見惚れて、のぼせるように「はい」と返事をすると、洗練された優雅な動きで、ヴィデロさんが俺の手にキスをした。

 うわ、うわわ、これ、正式なプロポーズってやつかな!

 すっごくかっこいい! もちろん否やはないよ。あああ、どうしてこんなかっこいい人が俺にプロポーズしてくれるんだろう。夢みたいだ。



「好き……」



 思わず小さく呟くと、それが聞こえたらしいヴィデロさんが、満面の笑みで応えてくれた。

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