これは報われない恋だ。

朝陽天満

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436、オランさんの血族と思い出の花

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『【NEW】「細胞補正剤」を作ろう



 獣人の長の服用している「細胞補正剤」がなくなった

 長の腕の生成速度を上げるため、「細胞補正剤」を作って渡そう



 タイムリミット:3時間



 クリア報酬:思い出の花 獣人解放率上昇

 クエスト失敗:時間内に「細胞補正剤」を作ることが出来なかった 獣人解放率低下 仮腕生成率上限減少』



 クエスト欄を開いて中を確認すると、俺はインベントリ内の素材を確認した。

 最近は結構いろんな素材を持ち歩いているから、ほぼ満杯に近かったインベントリは、ケインさんのおかげで3分の2が埋まった程度の状態になっている。インベントリが拡張できるってホントケインさんすご過ぎだよ。

 それにしてもこのクエスト失敗欄に書かれている「仮腕生成率上限減少」って、もしかして100%で完璧に治るのが、95%とかで止まっちゃうってことかな。あのエルフさんの足がどうのって話みたいな。気合い入れて作ろう。

 部屋にいる皆が興味津々な目を向ける中、俺はインベントリから釜を取り出した。

 ドイリーをセットしてその上に錬金釜を置くと、俺はつぎつぎ素材を並べた。もちろんエルフの里から貰って来た素材多数。

 すっごくギャラリーの視線を感じるけど、気にしないことにして錬金釜にMPをたんまり注ぐ。一度MP回復した後、俺は「始めます」と声を出した。



 次々素材を釜に放り込んでは溶かしていく。そこまで棒が重くなることなく、俺は釜を混ぜる棒を回し続けた。

 少しずつ色が変わり、ふわっと全体的に色が変わったところで、俺は棒を回す手を止めた。

 『細胞活性剤』も、錬金術レベルがそこまで高くないときに作れたから、こっちもそれほど難しくはなかった。

 ヒイロさんの手を借りることなく、無事『細胞補正剤』は出来上がった。



「できた」



 難しくはないと言っても、やっぱり出来上がるとホッとする。

 一言息を吐きながら呟いた俺は、釜の中身を瓶に移してヒイロさんに渡した。ヒイロさんが主治医としてオランさんの薬の管理をしてるらしいから。こういう時はさすがに薬師らしくてかっこいいと思う。

 ヒイロさんは俺の作った物を熱心に見つめて、匂いを嗅いで、鑑定をすると、「すげえ」と呟いた。



「調薬ってのはおもしれえけど、錬金はもっと面白いなあ。何であの素材からこんなもんが出来上がるんだろうな」



 感心しながら、俺の飲み物の横に置いてあるスプーンを手に取ると、そっと零さないようにスプーンで一杯分掬って、オランさんの口に持っていく。

 オランさんも大人しく薬を口に含むと、その後ヒイロさんに渡されたスタミナポーションを呷った。そこでピロンとクリアの通知が届いた。



「もう少しで完治だから、無理せず絶対安静にしててくれよ、オラン様」

「こいつらがいる限り絶対に安静にする以外出来ないから安心しろヒイロよ……」



 オランさんは溜め息を吐いて、そばでニコニコしている獣人さんたちを見渡した。確かに絶対安静にすること以外なにも出来ない状況だと納得。オランさん軽く軟禁中なんじゃなかろうか。それだけ皆がオランさんを大事に思ってるんだろうな。それを分かってるからこそ、オランさんもおとなしく安静にしてるんだろうし。

 最初に飲んだ日から計算すると、大体あと3日くらいで完治するはずだから、と必死で計算して告げると、周りの獣人さんは歓声を上げて、オランさんは目をスッと細めた。



「本当にあの時は、この腕などいらないと思っていた。しかし、腕が戻るとなると、やはり、安堵するな……何年生きようとも、やはり俺は弱い……」

「オラン様が弱かったら俺ら獣人誰も強くねえよ」

「ほんとにな。オラン様が弱いはずがねえ」



 オランさんのちょっとした弱音を、獣人さんたちが笑い飛ばす。そんな二人を見たオランさんは、少しだけ視線を下げてから、ゆっくりと目を閉じた。



「ほらほら、オラン様はこれから休むから、お前らは隣の部屋で待機な。飯でも作っとけよ」



 目を瞑ったオランさんを確認したヒイロさんは、わいわい騒いでいる獣人さんを追い出すように手を払い、俺に視線を向けて頷いた。

 俺もオランさんの部屋を出ると、最後に出てきたヒイロさんがドアを閉めて、早速キッチンに向かった獣人さんたちに「任せたぞー」と声を掛けた。



 オランさんの家を出て、二人で並んでヒイロさんの家に向かう。

 まだまだ外では掛け声や話し声、子供たちの遊ぶ声が聞こえてくる。

 長閑だなあ、と思いながら歩いていると、さっき俺の肩に乗っていた犬の獣人の子が近寄ってきた。



「ヒイロ先生、お兄ちゃん、オラン様の様子はどうだった?」



 その子の声をきっかけに、子供たちが心配そうに寄って来る。

 一瞬にして子供たちに囲まれたヒイロさんは、一人一人の頭を撫でながら、「大丈夫だ」とニパッと笑った。



「もうすぐ治る。だからそんな心配そうな顔すんなよ。オラン様は皆の笑った顔と笑った声が好きなんだからな」

「でも……だっておててなくなっちゃったんでしょ。痛くない?」

「痛くないよ。大丈夫。そうだな……4日くらい経ったら、お見舞いに行ったらいい。いいか、その前に行くと、オラン様は治らなくなっちまうから、4日な。絶対だぞ」

「わかった! よっかたったらいく! おらんさま、うちの庭のおはなきれいっていってたから、もってく!」

「あ、俺も! この間すっごく丸い石を拾ってきたから、俺はそれをお見舞いにする!」

「ぼ、僕は何も持ってないよ……」

「4日あるんだからその間に探そうよ」

「そうだよ。手伝うよ」



 ワイワイ始めた子供たちは、お見舞いの時に持って行く物を検討し始めてしまった。

 それを聞いていたヒイロさんが、「あのな」と声を掛ける。



「オラン様は、お前らの元気な顔を見るだけで満足するんだよ。だから無理に何かを持って行こうとなんてするなよ。特に森には子供たちだけで入っちゃだめだ。いいな? 誰か一緒に着いて行ってくれる大人がいないと、森は絶対にダメだぞ。わかったか? 怪我したら、俺のにがーいお薬飲ませるよ?」

「ヒイロせんせのお薬は美味しいよ!」

「甘いよ!」

「あのな、俺を甘く見るなよ。お薬をにがーく作るのだって得意なんだよ。俺の言葉を無視して森に入ったやつにはもうにがーい薬しか出さないからな。ちゃんと言うこと訊けよ」



 ヒイロさんが脅すようにそう言うと、子供たちは身を寄せて震え上がりながら「はーい」といいお返事をした。 

 そして、村の中から何かを探すためになのか遊ぶためになのか、皆で元気に駆けていった。

 ヒイロさんはフンスと鼻から息を吐くと、「見回り強化だな」と呟いた。

 そんなヒイロさんに笑いを誘われながらふと近くの木を見ると、そこには一人の小さなライオンの獣人の子が立っていた。鬣はまだ生えてなくて、一瞬ライオンだとわからなかった。



「お、どうしたアリオン。皆と遊ばねえのか?」



 ヒイロさんも気付いたらしく、その子に声を掛けた。そのライオンの子は、「あの」とおそるおそる俺に近付いてきた。



「おにい、ちゃん……オラン様を治してくれてありがとう。ワインズおじい様が代わりに今見張りをしているんです……でも、おじい様、もうすぐまた一緒に遊べるようになるかもしれないって。それは、おにいちゃんのおかげだって。オラン様のことを助けてくれたのもおにいちゃんだって聞いて、僕、一度、おにいちゃんにありがとうございますって言いたかったんだ。あの、僕もオラン様の血を継いでるから、オラン様がお元気になるの、嬉しくて」



 もじもじしながら、オランさんの子孫の子は背中に隠していた物を俺の前に差し出した。



「あの、これ……僕からのお礼……庭のお花なんですけど、受けとってください。これだけ、うちの血族に引き継がれてきたお花で、オラン様がまだ洞窟に行く前からずっと咲かせ続けてたって、おじい様が言ってたんです。僕も、これの咲かせ方を一生懸命勉強して、これから生まれる血族のために、絶やさないつもりです」

「そんな大事な物を貰ってもいいの……?」



 その子が差し出したのは、花弁が真っ青の、大きめの花だった。

 花を俺に差し出してまっすぐ俺を見上げて来るその子を、俺は戸惑ったように見下ろした。 

 だって、オランさんの家に代々伝わる花って、そんな大事な物……と思ってそこでハッとする。クリア報酬の思い出の花ってこれのことか。オランさんが石像になる前から栽培していた思い出の花……ってことは、もしかして、オランさんの番の方が育てていた花だったりするのかな。あの、人族に命を奪われた……。

 俺は、身を引き締めて、青い花を受け取った。

 口調は穏やかでも、その子の視線はとても強くてまっすぐで、オランさんに似ているな、なんてちょっとだけ思った。

 俺が花を受け取ると、その子はホッとしたように顔を緩めた。



「僕、アリオンと言います。あの、またこの村に来てください」

「ありがとう。俺はマック。絶対に来るよ。このお花も、大事にするね」

「はい!」



 フレンドリストに名前が追加された通知音が鳴ったのを聞きながら、俺は楽しそうに駆けて行くアリオンの背中を見送った。







 獣人の村から帰ってきた俺は、アリオンにもらった花をテーブルに飾った。

 そして大量にある謎素材を取り出して、錬金レシピを埋め始めた。

 中には魔物からドロップした物じゃないような謎素材もあったので、そっちを優先して作ることに専念する。

 長光さんからゲットした謎素材は、ほとんどが装備品に付けれる石になったので、今度長光さんに持って行こう。

 魔物からのドロップ品は、大体がデバフ効果の対魔物用錬金アイテムに変わったので、これは俺が活用しよう。

 新しいものが結構作られたので、錬金レベルが二つも上がった。

 限界突破してからは、パーソナルレベルが上がるときとジョブレベルが上がった時に、ちゃんとMP上限も上昇するから、前よりも大分MPが増えて来た。

 ちょっとした魔術師職の人並にはMPが増えたかもしれない。

 レベルアップと共に上がったMPに満足すると、俺はちらりと未消化クエストを覗いた。

 セイジさんのクエストが、ポツンとそこにある。



「蘇生薬……か」



 開くと、蘇生薬成功率はしっかりと100%になっている。調薬レベルも複合調薬レベルも十分作れるくらい上がった、はず。

 錬金釜を片付けて、数多ある錬金アイテムをインベントリに突っ込んだ俺は、ステータスを回復した。

 なんか、作れる気がする。

 気のせいかもしれないけど、成功率100%の文字が俺の背中を後押ししてくれてるように感じて、俺はよけてあった蘇生薬の素材を取り出した。





 サラさんの前で作った手順を思い出して、素材を並べて行く。

 レシピを見ながら作ったらレシピをチラ見した瞬間失敗しそうだったので、おさらいでレシピを読み直して、頭に叩き込むと、俺は深呼吸した。

 調薬器具を並べて、最終確認をする。



「……よし」



 こういうのは出来るって思うときに作るのが一番だと思う。

 気合いを入れて、俺は調薬を開始した。



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