5 / 17
episode.5 少女の目的
しおりを挟む私は海面でぷかぷかと揺られる魚人の少女をまじまじと観察する。
水面からくすんだ目だけ出しているあどけない顔は、幼いと言う程ではないが私よりも年下に見える。
見た限り保護者とか友達が一緒という訳ではなさそうだし、そもそも海の深い所に住んでいるはずの魚人がどうしてこんな所にいるのだろう?
気になった私は尋ねてみる事にした。
「ミベロはここで何してるの?」
私の質問にミベロは少し考えた後、言葉を選びながらゆっくり答えた。
「私、オ母サン、探ス」
「お母さん? どこか行っちゃったの?」
「山ノ、所、行ク、言ッタ。帰ル、ナイ」
そう言ったミベロはなんだか不安そうだ。その表情から彼女の母親が暫く帰ってきていないと予想がついた。
山に何の用があったのか分からないけど、それは心配になるだろう。
だからミベロは母親の後を追ってここまで来たという事か。
「それでここまで来たんだ。お母さんどうしちゃったんだろう、心配だね……」
私の言葉にミベロは小さく頷いた。
寂しげに俯く彼女が心許なく、私は何か力になってあげられないかと考えた。
山への道案内くらいは出来るかもしれない、そう思いついた私はポシェットからスマホを取り出した。
手に持ったスマホの画面から地図アプリを選択しながらミベロに尋ねる。
「ねぇ、向かってる山の名前とか分かる?」
「山……名前……?」
ミベロは首を傾げて固まってしまった。上空に視線を泳がせて何か思い出そうとしている様子だが一向に目的地の情報は出てこない。
えっ、と私は言葉に詰まってしまう。
それではどこに向かっているか実質分からないも同然だ。それじゃあ道案内のしようもない。
だけど海しか知らないであろう魚人の少女が右も左も分からない世界で、見た事もない山を目指すのはとても無謀に思えて、どうにか手助けできないものかと考える。
手持ち無沙汰に画面の地図をスワイプしていた指先に止まった陸地を見て私は閃いた。
「あ! じゃあさ、とりあえずここ目指してみれば?」
私がスマホの地図を突き出して指し示したのは、ここから一番近い陸地である砂丘だった。
山とは言えないかもしれないが、目指す場所なく彷徨うよりはずっといい。
ミベロは目を丸くしてスマホの画面を凝視するが、その顔はすぐに困惑したように眉間に皺を寄せて横にかくんと傾いた。
「もしかして地図読めない?」
なんとなく察した私の問いにミベロは難しい顔のまま頷いた。
またアテが外れてしまった私は心の中でため息をつき、再度スマホと睨み合う。
地図を縮小し目的地と現在地との距離を確認する。
この距離なら一日漕ぎ続ければ到着できるかもしれない。よし、それなら。
私は意を決してスマホから顔を上げた。
「じゃあ私が案内してあげる。一日あれば着くと思うから」
「ホント? 山ノ、場所、分カル?」
ミベロは期待に満ちた眼差しで私を見つめてきた。
その笑顔の眩しさと言ったら。気まずくなった私はそれに苦笑いで返す。
「ミベロの行こうとしてる場所かは分かんないけど……たぶん近くまでは行けるんじゃないかな」
「近イ、良イ。アリガト」
彼女の満面の笑みに思わずたじろいでしまう。
記憶の中の魚人と言えば青白くて毛の生えていないエイリアンみたいな印象だったけど、確かにその特徴はあれど普通に可愛らしい女の子だ。
ミベロに見つめられてなんだか恥ずかしくなった私は咄嗟に顔を背けて視線を逸らしてしまった。
妙に早まる心拍数が何故かとても落ち着かなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
どうぞご勝手になさってくださいまし
志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。
辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。
やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。
アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。
風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。
しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。
ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。
ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。
ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。
果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか……
他サイトでも公開しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACより転載しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる