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episode.5 少女の目的
しおりを挟む私は海面でぷかぷかと揺られる魚人の少女をまじまじと観察する。
水面からくすんだ目だけ出しているあどけない顔は、幼いと言う程ではないが私よりも年下に見える。
見た限り保護者とか友達が一緒という訳ではなさそうだし、そもそも海の深い所に住んでいるはずの魚人がどうしてこんな所にいるのだろう?
気になった私は尋ねてみる事にした。
「ミベロはここで何してるの?」
私の質問にミベロは少し考えた後、言葉を選びながらゆっくり答えた。
「私、オ母サン、探ス」
「お母さん? どこか行っちゃったの?」
「山ノ、所、行ク、言ッタ。帰ル、ナイ」
そう言ったミベロはなんだか不安そうだ。その表情から彼女の母親が暫く帰ってきていないと予想がついた。
山に何の用があったのか分からないけど、それは心配になるだろう。
だからミベロは母親の後を追ってここまで来たという事か。
「それでここまで来たんだ。お母さんどうしちゃったんだろう、心配だね……」
私の言葉にミベロは小さく頷いた。
寂しげに俯く彼女が心許なく、私は何か力になってあげられないかと考えた。
山への道案内くらいは出来るかもしれない、そう思いついた私はポシェットからスマホを取り出した。
手に持ったスマホの画面から地図アプリを選択しながらミベロに尋ねる。
「ねぇ、向かってる山の名前とか分かる?」
「山……名前……?」
ミベロは首を傾げて固まってしまった。上空に視線を泳がせて何か思い出そうとしている様子だが一向に目的地の情報は出てこない。
えっ、と私は言葉に詰まってしまう。
それではどこに向かっているか実質分からないも同然だ。それじゃあ道案内のしようもない。
だけど海しか知らないであろう魚人の少女が右も左も分からない世界で、見た事もない山を目指すのはとても無謀に思えて、どうにか手助けできないものかと考える。
手持ち無沙汰に画面の地図をスワイプしていた指先に止まった陸地を見て私は閃いた。
「あ! じゃあさ、とりあえずここ目指してみれば?」
私がスマホの地図を突き出して指し示したのは、ここから一番近い陸地である砂丘だった。
山とは言えないかもしれないが、目指す場所なく彷徨うよりはずっといい。
ミベロは目を丸くしてスマホの画面を凝視するが、その顔はすぐに困惑したように眉間に皺を寄せて横にかくんと傾いた。
「もしかして地図読めない?」
なんとなく察した私の問いにミベロは難しい顔のまま頷いた。
またアテが外れてしまった私は心の中でため息をつき、再度スマホと睨み合う。
地図を縮小し目的地と現在地との距離を確認する。
この距離なら一日漕ぎ続ければ到着できるかもしれない。よし、それなら。
私は意を決してスマホから顔を上げた。
「じゃあ私が案内してあげる。一日あれば着くと思うから」
「ホント? 山ノ、場所、分カル?」
ミベロは期待に満ちた眼差しで私を見つめてきた。
その笑顔の眩しさと言ったら。気まずくなった私はそれに苦笑いで返す。
「ミベロの行こうとしてる場所かは分かんないけど……たぶん近くまでは行けるんじゃないかな」
「近イ、良イ。アリガト」
彼女の満面の笑みに思わずたじろいでしまう。
記憶の中の魚人と言えば青白くて毛の生えていないエイリアンみたいな印象だったけど、確かにその特徴はあれど普通に可愛らしい女の子だ。
ミベロに見つめられてなんだか恥ずかしくなった私は咄嗟に顔を背けて視線を逸らしてしまった。
妙に早まる心拍数が何故かとても落ち着かなかった。
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