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episode.4 魚人との出会い
しおりを挟む「えっ、『魚人』?」
思わずその人種の名称が口をついて出た。
ずっと人間と思っていたのでその驚きはとても大きい。
そもそもこんな水面近くに魚人が現れるなんて珍しかったはずだ。
魚人は海域が広がると同時に発見された新人類で、私達人間と同じ先祖が大昔に深海に住処を移したのがルーツとされている。
海面が上がった事により生活範囲が広がって発見されるに至ったとされているけど、それ以上の情報は聞いた事がない。
まだあまりよく分かっていない事の方が多いそうだ。
そんな魚人とこんな所で会えるなんてすごい偶然なんじゃないだろうか。
どうしよう、あっちも私に興味を示しているし何か話しかけてみようか。言葉が通じるのかは分からないけど。
「こ、こんにちは?」
私の声に魚人は不思議そうに水面から青白い顔を上げた。
その造形は新人類と言うだけあって基本的には人間とほとんど変わらない。
でもその表情が意図する事は汲み取れなかった。
やっぱり人間の言葉は分からないのだろうか?
どうにかコミュニケーションを取れないものかと悩む私の耳に、ふとソプラノの可愛らしい声が届いた。
「初メ、マシテ。コンニチ、ハ」
片言ではあるけど下から聞こえた少女の声は確かに日本語を話した。
まさか本当に話せるとは思ってもみず、私は驚いて彼女の方へ乗り出す。
「えっ! 言葉分かるの?」
「ハイ。少シ、ダケ」
「えー! すごいすごい!」
テレビでしか見た事のない魚人と話せて興奮する私に対して、彼女はきょとんとした顔で目をぱちくりさせていた。
そんな魚人の少女に私は質問を重ねる。
「ねぇ君、名前は?」
「私、名前、ミベロ」
「ミベロちゃん、ね」
「ミベロチャン、違ウ。ミベロ」
「あー、えーとね……じゃあミベロって呼ぶね」
『ちゃん』という敬称の説明が面倒になった私は早速呼び捨てにする事を決めた。
そもそも教えてもらったのが苗字なのか名前なのかすら分からない。
ミベロなんて変わった名前は聞いた事がないし、これは魚人特有のものなのだろう。
ミベロという名前を少し考察していると、また水面から女の子の声がする。
「貴方、名前?」
ミベロの言葉に自分が自己紹介をしていなかった事に気づく。
人に聞いておいて自分が名乗らないのは失礼だ。私は慌てて自分の名前を答えた。
「あ、私は岸直」
「キシナオ?」
「直でいいよ」
「ナオ?」
「うん、それで大丈夫」
私はそう言ってにこりと笑ってみせた。
するとそれに応えるようにミベロもにっと笑い返してくれた。
その薄い唇から覗く綺麗に生え揃った歯は結構尖っていた。
人間に似ていても違う所はあるみたいだ。それでも言葉が通じて意思疎通が出来るなら、この提案をしてみる価値はあるんじゃないだろうか。
私は内心そわそわしながら思い切って口を開いた。
「あのさ、良かったら友達にならない?」
「トモダチ?」
「うん、友達。つまりは、えーっと……仲良くする、みたいな?」
自分の両手を繋ぎ合わせるジェスチャーも交えながら、なんとか分かってもらおうと説明を試みる。
ミベロは少し考える素振りを見せてから、何かを理解したようにはっと顔を上げ満面の笑みで頷いた。
「分カッタ! 友達! ヨロシク、ナオ!」
「良かった! よろしくね、ミベロ」
私は彼女の反応にほっと胸を撫で下ろした。
こうして私は魚人の少女と友達になった。
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