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後日談
二人の冬
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会合の翌日から、領地に帰る公爵四家の領主らと、契約を交わすこととなりました。
獣人を雇い、それをセイバーンに派遣していただくことで、赤茄子の油漬けを作る技術をその獣人に教え込むという契約です。
またそれには、獣人の中に特別優れた嗅覚を持つ者がいれば、滞在期間を伸ばし嗅覚師として育てる。という契約も含まれました。
この特別優れた嗅覚というものだけは、人の目で判断できるものではありませんから、運に頼ることとなります。
「この嗅覚師が確保できれば、瓶詰めの保存期間は飛躍的に伸ばせます。
領内でこの保存食を作る場合にも活きることでしょう。
ただ、この適正があるかどうかは本当に運任せですから、それだけはご承知ください」
確実に嗅覚師を得ようと思えば、多く獣人を雇用するしかありませんし、セイバーンで受け入れられる獣人にも制限がありますから、いっときだけの雇用でどうにかなるものではございません。
また、干し野菜職人には、国が定めた認定証が与えられることも、会合の中で決まっておりました。
それは獣人の立場を守るためでもありましたが、保存食の品質を保証するためのものでもありました。
まずは公爵家と、こちらの基準で吟味した領地からの獣人を受け入れ、職人が育てば他を受け入れていく形での運営となります。
そうやってレイシール様は、各地域の獣人雇用を進める方策を織り込んだのです。
長の方々が帰還するのを見送りつつ。
「これでまた……獣人がこの地に増えてしまうでしょうし、貴方の命を狙おうとする者も現れるのでしょうね……」
ぽつりとそう溢しましたら。
「お前たちがいてくれるから、心強いよ」
という返事が返りました。
獣人の中にはレイシール様を怪しみ、恨み、命を狙おうとする者も当然います。
ですがこの方は、そんな者たちすらも、手の内で慈しもうとなさるのです。
「今までそれだけ厳しい世界で生きてきたんだ。当然の反応だと思うよ。
だから俺たちは、それに負けない強さを持たなきゃいけない。武力や肉体的な面じゃなく、心としても」
牙を向けられても、それを一度は受け入れ、包み込める強さがいるのだと、この方は言うのです。
そしてそうやって受け入れられた私やウォルテールは、この言葉に逆らえません……。
「……必ずお守り致します」
決意を胸にそう伝えますと、レイシール様は愛情深い瞳でにこりと微笑み、言いました。
「うん」
それは、絶対の信頼。
この瞳を裏切らないと、私たちが奮い立つ瞳です。
優しくも、決意に満ちたお顔をされていたのですが、そこでフッと、表情が和み……。
「けどまぁ、それは来年の春からだよ。この越冬は英気を養うのに使おう。
さしあたり、陛下からとある方の越冬をこの地で頼むと依頼されているからハイン、任せる」
「は?」
そのような話、聞いておりませんが……。
「うん。俺も会合の席で言われたから。
でも大丈夫。一人だけだから、食料等は貯蔵量的にも問題無い。
春になったらアギーの社交界に同行してもらって、そのまま王都へお連れする。春の会合で陛下にお返しする形だ。
まぁ、お前の未来の妻だし、成人済みだし、何も問題は無いよな?」
は⁉︎
「女近衛は人員不足が続いてるからなぁ。この冬はなんとか調整したけど、来年は難しいだろうって話だ。
あまり時間を作ってやれなくて申し訳ないんだけど、ちゃんと婚約してるに足る実績も作らなきゃまずいだろ?
それに……せっかくこの地に来てるのにお前たち、まだちゃんと二人で顔合わせしてないよな。
仕事も大切だけど、少しくらい休みをくださいとか、なんとか言ってくれればこっちだって動けるのに……。
お前たちがあまりに何もしないもんだから、陛下も痺れを切らしちゃったんだからな?」
「ギルはリヴィ様との面会時間、ちゃんと作ってたぞ? そこは見習えよ」と、レイシール様はおっしゃいましたが……。
それは違いますよね。陛下。あの方が、そんなことで動くわけがございません。
楽しいからですよね。いつもの無理難題の一環ですよね。私にそれが分からないとでも⁉︎
「俺に言うなよ! 陛下がそうお決めになったんだから、俺に拒否権は無いんだからな!」
貴方が必死で笑いを堪えたお顔をされているのが、私に分からないとでも⁉︎
「俺だってサヤと水入らずで過ごしたいんだよ!
だからお前もそうしろって話! あとな、意地張ってないでちょっとくらい素直になれ!」
問い詰める前に、コンコンと扉が叩かれました。
本日まで、陛下の護衛の任に就かれていたサヤ様が帰還されたと、従者見習いによる報告が入ったわけですが……。
多分、話が聞こえていたであろうサヤ様は、苦笑しつつも体裁を整えることを選ばれたよう。
「あの、ロレンさんもお連れしました。
レイシール様には話を通してあるって陛下はおっしゃってたのですが……」
「うん、もらってる!
じゃあハイン、越冬中はコレットが手伝いに行けるって言ってたから、頼んでおいたよ。
特に出勤は必要無いと思うけど、何かあったら犬笛で連絡入れるから」
会合で言われたくせに、何から何まで根回し済みとはどういうことでしょう⁉︎
結局レイシール様には逃げられ、歯噛みしつつも嬉しさが無いわけではなく……応接室で待っているというロレン様の元に向かう羽目となりました。
本日からということは……越冬と合わせて約四ヶ月、季節一巡り分も共にあれるということです。それは、レイシール様が何もかもを失ってしまったと思っていた、あの冬以来のことでした。
訪を告げ、返事に応え部屋の扉を開き中に入りますと、普通に歩いてやって来た私に、唖然と口を開くロレン様。
ほんの少し髪が伸びておりましたが、相も変わらず凛々しいお姿。腰には去年の冬、お渡しした小剣がございます。
しかし、なにを惚けておられるのでしょう?
……あぁ、義足ができてから、ちゃんと顔を合わせたのは、これが初めてでしたね。
「見ての通り、義足を得ることができました。
ですから前ほど、頼りなくはないと思うのですが……如何でしょう?」
そう言いますと、呆気に取られた様子のロレン様でしたが、ぱくぱくと口を開き、やっと出てきた言葉が……。
「……お前、久しぶりの第一声がそれ?」
「お久しぶりです」
「うわっ、なにその取ってつけた挨拶っ」
「貴女がいちいち照れてそっけない言葉を吐く仕様であるのが、私に分からないとでも?
だから貴女に合わせたのですが」
そう言いますと、ボッと頬を染めるロレン様。
左様ですか。分かっていなかった……と。ですがその表情は、良くありませんよ。
突き動かされ、足を踏み出しました。私を意識したお顔をされてしまいましたからね、そんな表情を見せられてしまったら、こちらとて煽られます。
そのまま左手でロレン様の右手を引くと、一歩を踏み出したロレン様。その腰に右腕を絡めて抱き寄せ唇を喰みますと、また驚いたように瞳が見開かれ、ドンと胸を押されました。
片脚であったら倒れているところです。
「おっ、お前っ⁉︎」
「は?」
「な、何しやがる⁉︎」
「婚約者の唇を求めて、何が悪いと言うのです?」
「こん……え、いやっ、あれはっ!」
「まさか、国の認定した書類まで作っておいて、逃れられるとお思いで?」
そう言うと、困ったように表情を歪めて一歩身を引いたロレン様。更に詰め寄ると、あらぬ方向に視線を彷徨わせます。
「貴女は私との婚約を認めたのですよね」
「え……いや…………」
「私を利用した。承知しております。その一環であの書類に署名されたのですね」
「えっ、いや、違っ、じゃなくてっ……」
「貴女がどう考えているかなどどうでも良いと、私も昨年、お伝えしました」
そう言うと、弾かれたようにこちらを向く視線。
そこに傷付いたと書かれておりましたから、有無を言わさず私より上背のあるその身体を、抱き寄せました。
「あれは嘘です。
できるならば貴女の気持ちが欲しいと思うほどに、もう私の心は縛られている。
貴女もそうであって欲しいのですが……」
そう言うと、腕の中の身体が強張りました。
私が抱き寄せているというのに、ロレン様は私の肩に手を掛け、離そうとなさるのですから、相変わらず冷たいことです。
ですが今回は、それだけでなく、言葉がございました。
「…………ぼ、ボクは……あんたがそんな風に、思うようなことは、して、ない……。
あんたが生きていたから、連れ帰って、医者に見せたってだけだろ……。
だから……」
恩を感じる必要は無いと、掠れ声を吐き出すものですから……。
「もうその嘘は結構です」
そう言うと、はぁ⁉︎ と、反発する声。
「嘘です。貴女はずっと、私の命を繋いでくれていました。
この時期に、医師が二人も私一人にかかずらっていられるわけがない。
なにより、私は人より鼻が効くのです。貴女の匂いが鼻に馴染むほど、貴女はずっと私の傍にありました」
そう伝えますと、ロレン様は動揺したように一歩身を引きました。勿論、逃しません。
「ぼ、ボクはそんなつもりじゃなかった……っ。あんたたちの習性とかも、知らなかったんだよ!」
「言っておきます。レイシール様を生涯の主と定めたのは、彼の方に命を救われたからではありません。
確かに初めは習性でしたが……彼の方の思想や言動が、その後の長い時間が、私の命を捧げるに足る方だと、そう誓わせたのです。
同じように、貴女に懸想したのも、ただ習性だけではありません」
獣人の習性を話しても、貴女はそれを利用しなかった。
貴女は私に身を預けた時でさえ、私に何も命じなかったのです。
「一度も命じられていないのに、貴女を抱きました。つまり婚約を選んだのも私の意思です」
それでようやっと、ロレン様の抵抗はなくなりました。
まったく……強情でしたね。
「ご納得いただけたようで」
左腕を首に絡め、頭を引き寄せてもう一度、唇を喰みました。
何度か甘噛みして促すとやっと口が開き、舌を伸ばして互いを絡めました。
一年越しのそれを、長い時間をかけて味わい唇を離しましたら、銀糸がまだ互いを繋いだままで、また羞恥に頬を染めるロレン様。
そういう年よりも幼い反応を、私は自然に、可愛らしいと感じました。
獣人を雇い、それをセイバーンに派遣していただくことで、赤茄子の油漬けを作る技術をその獣人に教え込むという契約です。
またそれには、獣人の中に特別優れた嗅覚を持つ者がいれば、滞在期間を伸ばし嗅覚師として育てる。という契約も含まれました。
この特別優れた嗅覚というものだけは、人の目で判断できるものではありませんから、運に頼ることとなります。
「この嗅覚師が確保できれば、瓶詰めの保存期間は飛躍的に伸ばせます。
領内でこの保存食を作る場合にも活きることでしょう。
ただ、この適正があるかどうかは本当に運任せですから、それだけはご承知ください」
確実に嗅覚師を得ようと思えば、多く獣人を雇用するしかありませんし、セイバーンで受け入れられる獣人にも制限がありますから、いっときだけの雇用でどうにかなるものではございません。
また、干し野菜職人には、国が定めた認定証が与えられることも、会合の中で決まっておりました。
それは獣人の立場を守るためでもありましたが、保存食の品質を保証するためのものでもありました。
まずは公爵家と、こちらの基準で吟味した領地からの獣人を受け入れ、職人が育てば他を受け入れていく形での運営となります。
そうやってレイシール様は、各地域の獣人雇用を進める方策を織り込んだのです。
長の方々が帰還するのを見送りつつ。
「これでまた……獣人がこの地に増えてしまうでしょうし、貴方の命を狙おうとする者も現れるのでしょうね……」
ぽつりとそう溢しましたら。
「お前たちがいてくれるから、心強いよ」
という返事が返りました。
獣人の中にはレイシール様を怪しみ、恨み、命を狙おうとする者も当然います。
ですがこの方は、そんな者たちすらも、手の内で慈しもうとなさるのです。
「今までそれだけ厳しい世界で生きてきたんだ。当然の反応だと思うよ。
だから俺たちは、それに負けない強さを持たなきゃいけない。武力や肉体的な面じゃなく、心としても」
牙を向けられても、それを一度は受け入れ、包み込める強さがいるのだと、この方は言うのです。
そしてそうやって受け入れられた私やウォルテールは、この言葉に逆らえません……。
「……必ずお守り致します」
決意を胸にそう伝えますと、レイシール様は愛情深い瞳でにこりと微笑み、言いました。
「うん」
それは、絶対の信頼。
この瞳を裏切らないと、私たちが奮い立つ瞳です。
優しくも、決意に満ちたお顔をされていたのですが、そこでフッと、表情が和み……。
「けどまぁ、それは来年の春からだよ。この越冬は英気を養うのに使おう。
さしあたり、陛下からとある方の越冬をこの地で頼むと依頼されているからハイン、任せる」
「は?」
そのような話、聞いておりませんが……。
「うん。俺も会合の席で言われたから。
でも大丈夫。一人だけだから、食料等は貯蔵量的にも問題無い。
春になったらアギーの社交界に同行してもらって、そのまま王都へお連れする。春の会合で陛下にお返しする形だ。
まぁ、お前の未来の妻だし、成人済みだし、何も問題は無いよな?」
は⁉︎
「女近衛は人員不足が続いてるからなぁ。この冬はなんとか調整したけど、来年は難しいだろうって話だ。
あまり時間を作ってやれなくて申し訳ないんだけど、ちゃんと婚約してるに足る実績も作らなきゃまずいだろ?
それに……せっかくこの地に来てるのにお前たち、まだちゃんと二人で顔合わせしてないよな。
仕事も大切だけど、少しくらい休みをくださいとか、なんとか言ってくれればこっちだって動けるのに……。
お前たちがあまりに何もしないもんだから、陛下も痺れを切らしちゃったんだからな?」
「ギルはリヴィ様との面会時間、ちゃんと作ってたぞ? そこは見習えよ」と、レイシール様はおっしゃいましたが……。
それは違いますよね。陛下。あの方が、そんなことで動くわけがございません。
楽しいからですよね。いつもの無理難題の一環ですよね。私にそれが分からないとでも⁉︎
「俺に言うなよ! 陛下がそうお決めになったんだから、俺に拒否権は無いんだからな!」
貴方が必死で笑いを堪えたお顔をされているのが、私に分からないとでも⁉︎
「俺だってサヤと水入らずで過ごしたいんだよ!
だからお前もそうしろって話! あとな、意地張ってないでちょっとくらい素直になれ!」
問い詰める前に、コンコンと扉が叩かれました。
本日まで、陛下の護衛の任に就かれていたサヤ様が帰還されたと、従者見習いによる報告が入ったわけですが……。
多分、話が聞こえていたであろうサヤ様は、苦笑しつつも体裁を整えることを選ばれたよう。
「あの、ロレンさんもお連れしました。
レイシール様には話を通してあるって陛下はおっしゃってたのですが……」
「うん、もらってる!
じゃあハイン、越冬中はコレットが手伝いに行けるって言ってたから、頼んでおいたよ。
特に出勤は必要無いと思うけど、何かあったら犬笛で連絡入れるから」
会合で言われたくせに、何から何まで根回し済みとはどういうことでしょう⁉︎
結局レイシール様には逃げられ、歯噛みしつつも嬉しさが無いわけではなく……応接室で待っているというロレン様の元に向かう羽目となりました。
本日からということは……越冬と合わせて約四ヶ月、季節一巡り分も共にあれるということです。それは、レイシール様が何もかもを失ってしまったと思っていた、あの冬以来のことでした。
訪を告げ、返事に応え部屋の扉を開き中に入りますと、普通に歩いてやって来た私に、唖然と口を開くロレン様。
ほんの少し髪が伸びておりましたが、相も変わらず凛々しいお姿。腰には去年の冬、お渡しした小剣がございます。
しかし、なにを惚けておられるのでしょう?
……あぁ、義足ができてから、ちゃんと顔を合わせたのは、これが初めてでしたね。
「見ての通り、義足を得ることができました。
ですから前ほど、頼りなくはないと思うのですが……如何でしょう?」
そう言いますと、呆気に取られた様子のロレン様でしたが、ぱくぱくと口を開き、やっと出てきた言葉が……。
「……お前、久しぶりの第一声がそれ?」
「お久しぶりです」
「うわっ、なにその取ってつけた挨拶っ」
「貴女がいちいち照れてそっけない言葉を吐く仕様であるのが、私に分からないとでも?
だから貴女に合わせたのですが」
そう言いますと、ボッと頬を染めるロレン様。
左様ですか。分かっていなかった……と。ですがその表情は、良くありませんよ。
突き動かされ、足を踏み出しました。私を意識したお顔をされてしまいましたからね、そんな表情を見せられてしまったら、こちらとて煽られます。
そのまま左手でロレン様の右手を引くと、一歩を踏み出したロレン様。その腰に右腕を絡めて抱き寄せ唇を喰みますと、また驚いたように瞳が見開かれ、ドンと胸を押されました。
片脚であったら倒れているところです。
「おっ、お前っ⁉︎」
「は?」
「な、何しやがる⁉︎」
「婚約者の唇を求めて、何が悪いと言うのです?」
「こん……え、いやっ、あれはっ!」
「まさか、国の認定した書類まで作っておいて、逃れられるとお思いで?」
そう言うと、困ったように表情を歪めて一歩身を引いたロレン様。更に詰め寄ると、あらぬ方向に視線を彷徨わせます。
「貴女は私との婚約を認めたのですよね」
「え……いや…………」
「私を利用した。承知しております。その一環であの書類に署名されたのですね」
「えっ、いや、違っ、じゃなくてっ……」
「貴女がどう考えているかなどどうでも良いと、私も昨年、お伝えしました」
そう言うと、弾かれたようにこちらを向く視線。
そこに傷付いたと書かれておりましたから、有無を言わさず私より上背のあるその身体を、抱き寄せました。
「あれは嘘です。
できるならば貴女の気持ちが欲しいと思うほどに、もう私の心は縛られている。
貴女もそうであって欲しいのですが……」
そう言うと、腕の中の身体が強張りました。
私が抱き寄せているというのに、ロレン様は私の肩に手を掛け、離そうとなさるのですから、相変わらず冷たいことです。
ですが今回は、それだけでなく、言葉がございました。
「…………ぼ、ボクは……あんたがそんな風に、思うようなことは、して、ない……。
あんたが生きていたから、連れ帰って、医者に見せたってだけだろ……。
だから……」
恩を感じる必要は無いと、掠れ声を吐き出すものですから……。
「もうその嘘は結構です」
そう言うと、はぁ⁉︎ と、反発する声。
「嘘です。貴女はずっと、私の命を繋いでくれていました。
この時期に、医師が二人も私一人にかかずらっていられるわけがない。
なにより、私は人より鼻が効くのです。貴女の匂いが鼻に馴染むほど、貴女はずっと私の傍にありました」
そう伝えますと、ロレン様は動揺したように一歩身を引きました。勿論、逃しません。
「ぼ、ボクはそんなつもりじゃなかった……っ。あんたたちの習性とかも、知らなかったんだよ!」
「言っておきます。レイシール様を生涯の主と定めたのは、彼の方に命を救われたからではありません。
確かに初めは習性でしたが……彼の方の思想や言動が、その後の長い時間が、私の命を捧げるに足る方だと、そう誓わせたのです。
同じように、貴女に懸想したのも、ただ習性だけではありません」
獣人の習性を話しても、貴女はそれを利用しなかった。
貴女は私に身を預けた時でさえ、私に何も命じなかったのです。
「一度も命じられていないのに、貴女を抱きました。つまり婚約を選んだのも私の意思です」
それでようやっと、ロレン様の抵抗はなくなりました。
まったく……強情でしたね。
「ご納得いただけたようで」
左腕を首に絡め、頭を引き寄せてもう一度、唇を喰みました。
何度か甘噛みして促すとやっと口が開き、舌を伸ばして互いを絡めました。
一年越しのそれを、長い時間をかけて味わい唇を離しましたら、銀糸がまだ互いを繋いだままで、また羞恥に頬を染めるロレン様。
そういう年よりも幼い反応を、私は自然に、可愛らしいと感じました。
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