異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

文字の大きさ
894 / 1,121

晴天の霹靂 8

しおりを挟む
 夜も遅くなってきて、本日はここまでということに。

 クレフィリア殿とオブシズも、なんとか交流を深めることには成功したよう。
 縁を繋ぐかどうかは後日……と、いうことにはなったけれど、感触としては悪くないようだ。

「はぁまぁ……良い方だとは、思いましたよ、実際。
 十も歳が離れているとは思えないくらい、しっかりとした方でしたしね」
「絵や草紙が絡むと、子どもみたいにはしゃぐこともあるんですけど……概ね落ち着いてる人ですかね」

 オブシズと、ヘイスベルトの言葉。
 それを横で聞きつつルフスが結婚は良いものですよ。なんて言っている。
 元々父上の従者であったルフスは庶民だし、当然もう結婚しており、娘と息子もいる、一家の長なのだ。
 せっせと結婚を布教してくる二人に、オブシズは困り顔。
 何か、引っかかるものがあるような顔をしているから「何かあった?」と、こちらから水を向けることにした。

「……黙っているのは卑怯だと思うので……と、クレフィリア殿から……。
 ハマーフェルドは現在、かなり巨額の借金を抱えているそうです。
 前回の遊学の際、長の任を解かずに旅立ったとおっしゃっていたグラヴィスハイド様ですが……あれは、彼女を兄の策略から守るためであったようで」
「……どういうこと、ですか?」

 これも、ヘイスベルトの知らない話であったようだ。
 グラヴィスハイド様の名誉を傷つけたくないからと、クレフィリア殿が語ったことによると、ハマーフェルド男爵家は現在、運営が破綻をきたしているような状況であるという。
 どうも兄上殿は、ハマーフェルドの地に適さない事業に手を出し、失敗してしまったようだ。
 そのため、手っ取り早く負債を取り返そうと、クレフィリア殿を結納金目当てで嫁がせようとした。
 当時彼女は成人も済ませており、恋人までいたというのにだ。

「それは……」
「はい。それで、グラヴィスハイド様が彼女を自身の女中長に任じたと。
 女性とはいえ、公爵家で職務を得た者を都合よく好き勝手に退職させ嫁がせるなど、できませんからね。特に、ハマーフェルドはアギーに縋っている身です」

 アギーの心情を悪くしたくないと考えた結果、兄の計画は流れてしまったらしい。
 奇しくも女中長となったクレフィリア殿の収入をあてにもでき、それはそれでと納得したようだ。まぁ当然、それもグラヴィスハイド様の策略の一端だろうけど。

 その段階で、グラヴィスハイド様の遊学の話は決まっており、出発も目前という状況だったのだそう。
 だから、恋人と添い遂げるならば、私の不在を理由に任を降りて構わないと、グラヴィスハイド様は伝えて旅立った。
 それだけであれば良かったのだけど……彼女の恋人も、職務を得た彼女を嫌煙してしまうという、不可抗力が働いてしまったという話だった。

「…………何も、知りませんでした……」
「仕方ありませんよ。現ハマーフェルド領主殿は、だいぶん複雑な方向に、矜持が高いお方みたいですしねぇ」

 項垂れるヘイスベルトに、のほほんと答えたマル。
 その斜め方向の矜持が働いて、庶子のヘイスベルトには伝えられなかったのだろう。
 馬鹿にしている相手になめられたくなかったとか、そういうことだ。

「それに、わざわざオブシズに事情を説明した姉君、どうせ恋人にも家の事情を話したんでしょうしね。
 馬鹿正直というか……貴族社会に適合しない性格ですねぇ」
「誠実な方なのですね。それにしても……酷い話だ。ヘイスベルト様の姉君が、不便でなりません……」

 我がことのように眉を寄せるルフス。
 けれどヘイスベルトは、そんな風には考えられなかったようだ。
 ぎゅっと拳を握りしめて、オブシズに向き直る。

「…………知らなかったこととはいえ、申し訳ありませんでした……。
 姉とのことは、ご縁が無かったとしていただいて構いません」

 オブシズに頭を下げる、ヘイスベルト。
 それを微妙な顔で見下ろすオブシズ。

 これに関しては……俺は先程、グラヴィスハイド様からも聞いていた。
 クレフィリア殿とグラヴィスハイド様との関係が、ただ幼馴染みというだけではないように感じていたのを、グラヴィスハイド様に拾われ、それは無いと否定されたためだ。

「正直、お前の武官との話は渡りに船だった。
 クレフィリアはどうせ、家の事情に巻き込みたくないからと、家名持ちには嫁がなかったろうから」

 クレフィリア殿がグラヴィスハイド様に淡い気持ちを抱いていたこと。
 グラヴィスハイド様もそれを憎からず思っていたろうことは、今の関係で察することができる。
 けれど、身分差や状況や、グラヴィスハイド様の異能、お互いの性格……そんな色々が絡み、その先が繋がることはなかったのだ……。
 それでもお互いが、お互いの幸せを、願っている。だからこそ……。

「長の任を解けば、クレフィリアの収入をあてにできなくなる。だからまたあの話が蒸し返されるだろう。
 その時に、多額の結納金を積み上げて欲しいと請えば、二つ返事で承知するはずだ。
 結納金には、手切れ金代わりとして、私も色をつけよう。それくらいの用意はしてやりたいしね。
 貴族とはいえ、名を捨てた男爵家の武官……とはいっても、今を羽ばたくセイバーンの関係者ならば、あれはすり寄ろうとするよ。
 その上でお前たちを侮るだろう。貸しを作れたくらいに考えるだろう。名を捨てた馬鹿者と、同列の男爵家の領主だとね……」

 お前があれに遅れを取るなんて、微塵も考えていないけれど。……と、グラヴィスハイド様は人の悪い笑みを浮かべていた。

 そんなことを思い出しつつ。

「……オブシズは、どう思った?」

 未だ沈黙したままの彼にそう問い掛ける。
 あれだけ渋っていたくせに、どう答えるべきか、悩んでいる……。

「守ってあげたいと思ったなら、それで良いと思うよ。俺も当然協力するしね」

 オブシズは、こういうのに弱いと理解している。
 俺を助けようとしたのだってそう。知ってしまえば、目を背けていられない……。彼は本当に、優しいから。
 今はともかく、将来はきっと、上手くいくと思っている。
 お互いを大切にする気持ちが、そのうちお互いを想う気持ちに育ってくれれば良いと思う。願っている。

「……進めてくださって結構です」
「うん。ではそれでお伝えする」

 慌てるヘイスベルトに、大丈夫だよと笑い掛けつつ、俺はもうひとつを提案することにした。

「ヘイスベルト。
 姉上殿が女中長の職を辞した時、きっと次は、お前が狙われる。
 お前の婚姻を姉上が急いていたのは、きっとそれが理由だ。
 お前はどうする? どうしたい。相談には乗るし、協力できると思うよ」

 そう言うと、はっと気付いたよう。申し訳なさげに、視線が俺を見た。
 主君にご迷惑をかけるわけには……なんて、考えなくて良いからね。

「ヘイスベルトは大切な俺の家臣だから。そんな顔しなくて良い。
 大丈夫、お前はそれだけの仕事をしてくれているよ。
 マル。ハマーフェルドの財政状況を調べてほしい。あと、失敗した事業っていうのも」

 そう言うと、予想してましたよという感じで、マルからの軽い返事が返る。

「はいはい。畏まりましたぁ。
 そうですねぇ……セイバーンに戻るまでには調べ上げておけますよ。
 その後またすぐ王都ですしねぇ」
「あ。王都で思い出した」

 いけない。つい失念していたけれど、拠点村のことも色々準備しなければならないのだ。

「春の会合の話なんだけど……陛下から事前のお達しがあったんだよ。
 拠点村に名を付けろって。その上でブンカケンを、国の研究機関として召抱えることになるみたい」

 場が、凍った。

「「「「「…………は?」」」」」

 揃えたように皆が言い、口を開いたまま固まる。

「ご、ごめん。なんか諸々都合が良いらしくてね。成人前仕官らの研修地になるみたいで」
「えっ、えええぇぇ……?」
「研修地……王都の仕官者の?」
「あんな田舎で?」

 良識ある方々は理解不能といった様子……。
 もうここでそれなりの衝撃を受けている様子の皆に、本当にごめんと思いつつ、もうひとつを付け足すことにする。
 傷は深くとも一つで済んだ方が良いだろう……。

「あと、その関係で王家の離宮を作ることにするから、土地を確保しろって」
「「「「「……………………」」」」」

 返事も返らなかった。
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...