異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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二度目の祝い 3

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 中央広場まで戻ってくると、振る舞い料理は一巡りしたよう。
 また初めの方で作っていた品が追加され、食事処から運び出されてきた。

「唐揚げおまちどうー……って、レイ様か」

 ……半面を付けてても一発でバレた。まぁ、孤児らとは日々接しているし、流石にこの程度の変装は見破られるな。

「ただいま。頑張ってるなぁ」
「お駄賃出るなら当然でしょ!」

 孤児院の十三歳より上の子たちに、社会勉強として手伝いを許した。
 それで今回、食事処に来ているのだ。昼まで働いたら駄賃が貰えることになっており、そこからは自由時間。午後からの手伝いと入れ替わる。
 だけど子供らの殆どは、昼からも働き、駄賃を二倍にするつもりのようだ。自由時間は減るけれど、それでも二時間くらいは祭りを楽しめるから、それで我慢するよう。
 もしくは、その二時間のための軍資金を作っているのかもしれない。……一応お小遣いは与えたのだけどな……。

 この子たちも賄いは好きに食べて良いから、運びながら口が動いている子らもいる。
 女長屋の子供らからも、十三歳以上は幾人か、手伝いに来ているようだ。孤児でない子らも、手伝いに混じっていた。

 食事処に入ると、本日ここに客の姿は無く、机という机が下準備用の作業台になっており、普段は館で手伝いをしている女性らが、一心不乱に野菜や肉の下処理を行っていた。
 交代で休憩できているのか、心配になるくらい真剣。けれど、俺に気付くと笑顔で「お帰りなさーい!」明るい声が、飛んでくる。

「ただいま。皆有難う」
「ここはいいから、早く上がって!」
「サヤさん首を長くして待ってるよきっと」

 そう声を掛けられて、オブシズから道中で買ったものを手渡された。
 上まではついてこないつもりなんだろう。

「オブシズも、もう自由にして良いからね」

 ここにいれば、安全だ。そう声を掛けたら、分かってるから早く行けと、手を払われる。

 そうして普段はエレノラたちの生活空間である二階へ来た。
 広場を見下ろせる中程の大部屋に、サヤはいるはず。

「ただいま」
「お帰りなさい。如何でし……あっお面ですね!」
「うん。売ってたよ。サヤのも買ってきた」

 白猫の半面を差し出すと、嬉しそうに目を細めてくれて、早速身につけるサヤ。
 それを見てハインが「料理の追加をいただいてきます」と、部屋を出て行った。
 部屋の中心にある机には、手のつけられていない料理が沢山あるから……きっと俺たちを二人きりにする口実だと思う。

 ハインは祭りに興味は無いと、サヤの元に残っていてくれた。
 一人で留守番させるのはさすがに申し訳なかったから、その心遣いが有難い。まぁ、祭りに興味ないのは本音だろうけど。

「お祭り、如何でしたか」
「凄く盛り上がっていたよ。お面をつけた大人も子供も沢山いたし、風車も持ってた。
 料理はどれもよく売れているようだったし、渦巻芋には人だかりができていたよ」
「あれは形が凄いですもんね!」

 くすくすと笑うサヤ。

 今年の誕生祝い、何故祭りになったのかというと、サヤがそれを望んだからだった。
 物欲があまり無いサヤは、自分だけ祝ってもらうのも気が引けると、祝いの品はいらないから、村の皆でおいしいものを食べませんかと、俺たちに言ったのだ。
 その結果が、これ。

 まだ祭りらしい祭りの無いこの村で、初めての行事ごとということもあり、その企画を聞いた村人らは、すこぶるやる気になった。
 ウーヴェの指示のもと、午前中を祭りの準備時間と定め、仕事や修練は午後からのみにして、その時間で祭りに出品する品々を作り出したのだ。
 地方から来ていた職人たちも、皆がこぞって、その準備に明け暮れた。

 メバックやバンス等、近くの街にも知らせが行き、祭りならば、子供たちが喜べるものをとサヤが、お面や風車を考案して、更に盛り上がることとなった。
 お面作りが内職として出され、子供たちも手伝った。
 孤児らも頑張ったのだよな。木彫りの型に濡らした古紙を何重にも貼り付けて、下地を作ったのだ。

 出店を出すことにして、メバックへの辻馬車の本数も臨時で増やした。
 一棟貸しが基本の、吠狼らが管理する宿も、祭りの前後だけを限定して、部屋貸しをすることに決め、セイバーン村の空き家も臨時の宿に化けた。
 そこの宿泊状況が想像以上で、これは料理が足りないんじゃないかとなって、館の料理人や、賄いを手伝ってくれている女性らや、セイバーン村のダニルの元にいた手伝いの女の子らや、ヴァイデンフェラーから派遣された料理人たちまで巻き込み、作る料理の品数と量が増やされ、祭りも夜までに延長された。
 働いてもらう者たちも楽しめるように、午前と午後で役割を分けて、収入を得たい者だけが、一日裏方に徹する形となった。
 それでも、振る舞い料理の分量が足りないかもしれないとなり、じゃあ食べ物の屋台も出そうとなって…………。
 ぷち麵麭けえきや渦巻芋で更に皆の興奮度合いが高まって……。
 そんな感じで、たった半月足らずの間に、こんな大きな祭りになってしまったのだ。

「祭りは大成功だよ。村の祭りの規模じゃないもんな。
 みんな笑顔で、びっくりしたり、笑ったり……子供らもはしゃいで走り回っていたよ」

 そう言うと、サヤは嬉しそうに笑ってくれる。

 だけど……。

 当のサヤは、祭りに行けない……。

 カツラで髪色を隠すことはできた。
 でも……男性に対する恐怖が強くなってしまったサヤは、この人の溢れかえるような村を歩くことも、ままならなかった……。
 当人がいないと言った村人に、ドキリとしてしまったのは、そのせい……。
 自分の祝いであるにもかかわらず……。
 それが、不憫で、しょうがない。

「……大丈夫、私も充分楽しいで?
 ここから見ていても、みんなの笑い声は、聞こえてくるしな」

 俺の心情を察したサヤが、すかさずそう言う。
 それは確かにそうなんだろう。だけど、そうじゃないのだ……。

「うん。分かっているよ」

 でも俺がそれを言っても、サヤを困らせるだけだから……。俺も、笑って肯定する。
 俺が表情を歪めたって、サヤは喜ばない。それよりも、サヤに笑ってもらえることを、俺はするべきだ。

「他にも色々、買ってきたよ」

 屋台の料理は、一通り買い求めた。そのために袋や油紙まで持参していたのだ。それを机に取り出していく。

「どれから食べる?」
「うーん……やっぱりトルネードポテトからっ」

 二人きりで、机の料理と、屋台の品を楽しんだ。
 旅の楽師でも来ているのか、外から喧しいけれど、楽しげな笛の音色が響いてきて、その調子っ外れな音色に笑い合った。
 今回はちゃんと、しめの甘味も買ってきてる。
 そうして満たされない心を埋めるみたいに、お腹をいっぱいにした。

「ふぅ! お腹いっぱい……もう入らへん……」

 お面をつけたままそう言ってサヤが、満足そうに伸びをする。
 かしこまった所作が多いサヤの、どこか気の抜けたその動作を、頬杖で眺めていたのだけど……。

「サヤ、俺が帰るまで何も食べずに待っていたんだ?」

 つい悪戯心でそう聞いた。
 確かにしっかり食べた。まるで朝から、何も手をつけていなかったような量を。
 俺の指摘に、ハッとしたサヤは。

「そういうわけじゃ……」

 もごもごと、まだお腹、空いてへんかったし……と、そんな言い訳を口にする。
 嘘なのは一目瞭然で、俺を待っていてくれたのだと思ったら、もう、たまらなかった。

 あぁ、愛しい。この人が好きだ。
 その気持ちを、触れて伝えられないことが、苦しくて、俺は最後に取っておいた木箱に、手を伸ばす。

「サヤ……」

 それをサヤの前に、押し出した。

「受け取ってもらえる?」
「プレゼントは、いらへんって言うたのに……」
「違うよ。これは屋台で買ったんだ。祭りの土産だよ。
 絶対に、サヤに似合うと思ったから……つい、買ってしまった」

 用意していた言い訳を口にすると、困ったように眉が寄って、だけど嬉しそうに、頬を染めてくれる。
 その桃色の頬に触れたかった。体を抱き寄せて、唇を重ねて、あの蕩けるような表情を、見たい……。

「開けてもええ?」
「うん」

 サヤの手が、机の木箱に伸びて、それをそっと引き寄せる。
 飾り紐を括っただけの封印を解いて、蓋を取ると、その瞳が大きく見開かれた。

「わぁ……なんて……」

 綺麗。……と、溶けていくような、感嘆の声。
 その繊細な装飾が、サヤに似合うに違いないと、思ったんだ。

「もの凄うに薄くて細かい……内側の花弁まで、手を抜いてへんのやね」

 こんな綺麗で高価そうなもの、私みたいな小娘には不似合いや思うけどと、サヤが苦笑するから……。

「似合うよ。絶対に。
 でもそれは綺麗だけど、添え花だよ。サヤの方が、もっと綺麗で、芳しいんだから」

 そう言うと、何故か机に突っ伏した。

「レイ……今日は砂糖でも口に流し込んでるん?」
「は?」
「それはレイ、ちょっとお世辞がすぎる……」
「お世辞じゃない! 俺は本気で、そう思って……」
「いいっ、もう言わんといて!」

 拒絶が胸に突き刺さった。
 だけど俺は、本当に、心から……。
 伝わらないもどかしさと、触れられない苦痛が、胸を締め付けてくる。

 けれど、黒髪の間から出ていた耳が、見事に真っ赤なのに気付き、サヤの言葉が拒絶ではなく、照れ隠しなのだと分かった。

「も、それ以上はかんにん……心臓が、保たへんから……」

 そう言うサヤが、おずおずと顔を上げて、ちらりとだけ俺を見て、すぐに逸らす。
 また困ったように眉を寄せる、赤い顔。
 瞳を潤ませて、本当に小さな声で「こんなに幸せでええんやろか……」って、そう……っ。

 痛いくらいに拳を握り締めた。
 触れたい気持ちを押さえ込むのに必死だった。

 あぁ。
 触れたい。
 たったこれだけのことを、幸せだなんて、思わせたくない。
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