異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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解放

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「うさぎさん、こんにちは」
「あら、くまさんごきげんよう。きょうはもりに、なにかごようでも?」
「はちみつを、とりにいくんですー」
「それはおいしそう!    わたしはきょうは、はたけのにんじんを、しゅうかくするの!」
「まぁ!    なんてすてきなの!」

 えへんと胸を張る縫いぐるみ。現在目の前で展開される縫いぐるみ劇場に、俺はどう立ち入るべきか悩んでいた……。
 いや、犬を渡されてるんだけどね。この会話にどう割って入れば良いのかなって……。ごっこ遊びってしたことないんだよ……。

 玄武岩の舞台の上、昨夜ここで起こった修羅場など知るよしもないロゼが、一人二役。兎さんと熊さんをやっているのだ。
 玄武岩の上には手拭いが数枚敷かれ、これが兎さんの家、これが畑、こっちが熊さんの家……みたいに説明は受けたのだけど、森があるなんて初耳だった……。どこらへんからが森なのかな。立地が分からない。

 因みに現在護衛はシザーなんだけど、彼は喋らないのでごっこ遊びに加えてもらえなかった。
 いや、巻き込もうとしたんだけどね……喋らないから……で、結局ロゼが二役やっている。

「……あらっ。おおかみさん、こんにちは」

 うわっ、いつまで経っても入ってこない俺に痺れを切らせたロゼが、強引に俺を登場させにきた。
 しかも犬さんだと思っていたのに狼さんだった。

「こ、こんにちは……今日は良い天気だね……?」
「きのうのあめがうそのようね!    おおかみさんは、もりに、なんのごようがあるの?」
「え、えっと……狩猟……っ」

 言ってしまってから間違いに気付いた。動物が登場人物なのに狩猟はマズイよね⁉︎

「まぁ、それはすてき!」

 …………素敵なんだ。

「よいけがわがとれたら、すこしわけてくださいな」

 …………毛皮取って良いんだ……。

「……あ、えーと……今日は大きな蛇を退治しようと思っていて……毛皮は無理かなぁ?」

 だって……兎さんに毛皮は……なんかこう……兎さんが毛皮にされる率を考えるとね?

「へびさん!    あのもりのわるものを、やっつけにいくなんて!」
「なんてゆうかんな、おおかみさん!」
「ゆうしゃだわ!」
「ゆうしゃおおかみさん!」

 勝手に盛り上がってくれて有難いなぁ。

「では、ゆうしゃおおかみさんには、おべんとうをさずけましょう!」

 待って。なんでお弁当……。

「…………わぁ、お、おいしそう……?」
「ひゃっひゃ、ウケるーっ!」

 ウケるの⁉︎    何が入っているお弁当なの⁉︎

 大変盛り上がっているロゼには申し訳ないのだが、設定、設定をもう少し……詳しくください!

 その後も展開は急激に進み、何故か蛇退治についてきた兎さんと熊さんで、勇者狼さんそっちのけの熱い戦いが繰り広げられた。
 畑はいつの間にか蛇さんになっていた……。
 必死についていこうと悪戦苦闘していたのだけど、陽当たりの良い岩の舞台の上でのごっこ遊び。白熱していたロゼも、だんだん眠たくなってきた様子……。 
 台詞が止まりがちになり、瞳がとろんとしだしたので、おいでと腕を広げたら、縫いぐるみをポトンと落として俺に倒れこむように抱きついて、そのまま眠ってしまった……。

 よいしょと抱き上げたら、その間にシザーが縫いぐるみや手拭いを集めだす。
 一旦戻ろうか。と、視線だけで示し、俺たちは静かに家々の方へと足を向けた。

 朝食時に、玄武岩の採掘場の視察を済ませたら、拠点村に戻らないとね……という話を、していたのだけど……。
 ホセと共にやって来ていたロゼが、それを偶然聞いてしまい、大変機嫌を損ねてしまった。
 俺たちは視察出来ていたのだけど、ロゼ的には遊びに来てくれたという感覚だったのだろう。まだ来たばっかりなのにと駄々をこね、我儘を言うなとホセに怒られ、憤懣やるかたない!    といった様子で、滂沱の涙を流し、鼻水まで垂らしながらほっぺたを膨らませるものだから、じゃあ今日一日は、ロゼと沢山遊ぶよと話し、なんとか納得してもらった。
 その結果が、さっきのごっこ遊びだったのだ。もうちょっと野山を駆け回る遊びを想定していたから焦った……。

 眠ったロゼを送り届けるため、ホセらの家にお邪魔すると、赤子が二人ともギャンギャン泣いていて、何事かと思ったのだけど……聞くとサナリが原因らしい。
 レイルは先にお乳をもらい、良い気分で眠っていたのだという。
 サナリもお乳をもらっていたのだけど、腹が満たされてきたことで、お腹が圧迫されたのか、途中でもよおしてしまった。
 赤子だから、そのままオムツの中に排泄。そのおかげでお乳から引き剥がされて、まだ飲みたかったのに!    と泣き始め、眠っていたのに煩い!    と、起こされたレイルも鳴き出した。……という修羅場だそう……。
 もうオムツも交換し終えたのだけど、二人はお互いの泣き声に触発されてさらに声を張り上げる、次の段階に移行していた。収拾が付かない……。

「泣き疲れるまで泣かせておくしかないかと……」
「大変だな……。じゃあ、ロゼは集会所に連れて行くよ。お昼もうちで食べさせて良いかな」

 ロゼは、二人の泣き声などものともせず、スヤスヤとおやすみ中。
 それでも一応、一旦集会所へ連れ帰るよとホセに伝えた。赤子二人に振り回されているから、ロゼにまで手が回らないだろうし。

「も、申し訳ありません」
「良いんだよ。今日はいっぱい遊ぶと約束したからね。陽が暮れるまでは、ロゼに付き合うよ」

 ロゼを抱っこしたまま、来た道を戻り、集会所に帰ると、荷物整理を進めていたサヤとハイン、オブシズが迎えてくれた。

「ロゼは眠ってしまったのですか?」
「うん。ホセのところは今赤子が二人ともギャンギャン泣いていたから」
「では少々お待ちください、寝間を整えます」

 集会所の片隅に、敷布を敷いてロゼを寝かせ、縫いぐるみを横に並べた。
 上掛けを掛けてやると、なんとも可愛らしいことになった。ふふ、縫いぐるみと一緒にお昼寝だな。
 そういえば、サヤの部屋にもこれはたくさんある。小さなものから大きなものまで。サヤの寝台の上にあったのは、それこそ幼子くらいの大きさだったと思うのだが……。サヤも、こんな風にして眠っているのだろうか……。

 ……う、考えてはいけないことだった気がする……。

 なんか妙にこう……ロゼを見る微笑ましさではなく、ちょっといかがわしい方向に思考が引っ張られる気がして慌てて頭を切り替えた。
 もう少し健全な思考……っ。こ、これは……うん。子供の遊び道具に良い!    ロゼはとても気に入っている様子だし、子供はなんだって遊びに使う。
 …………うん?    これ、内職にも良いのではないかな……。縫い仕事ならば、苦にしない女性も多かろうし……。

 そんなことを考えながら寝姿に見入っていたら、後ろで人の気配。

「片付けの方は進んだ?」
「はいっ。……あらかた。余った木箱は置いて帰ることになりました」

 ハインだと思って声を掛けたらサヤだった。
 内心でギクリとしてしまったのは、昨日のことと、先ほど不埒なことを考えかけていたから……。
 朝も少し意識してしまい、皆の目もあって、当たり障りない話しかできなかったのだけど、それはサヤも同じであった様子。

「昨日は……色々と……その…………ご、ご迷惑をおかけしま……」
「しっ」

 言いにくそうにごにょごにょとサヤ。
 俺は唇の前で指を立てて、ロゼが起きてしまうよと示した。
 まぁ、赤子らの豪快な泣き声二重奏にも無反応だったし、起きないと思うけどね。俺は別に、昨日のサヤが失態を犯したなんて、思っていないんだ。
 申し訳ないことをしていたのは俺の方。だから、謝らないで。

「父上に話すまでは、本決まりじゃないし、昨日のことはそれまで保留。
 だから、今まで通りにしていたら良いし、俺もその方が嬉しい。……良い?」

 婚約のことも保留だから、今まで通りが良い。
 例え先がどうなるにしても、俺にはサヤだけ。この気持ちも、変わらない。
 その想いで見つめたら、サヤは少し恥ずかしそうにしつつ、頷いてくれた。

「は、はい」
「ありがとう。……あ、そうそう、今思いついたのだけど……」

 引きずらないよう、話を逸らすことにして、あの縫いぐるみ、女性らの内職に加えたらどうかと提案してみた。

 身体は使い回しのようだし、同じものを沢山作って、頭を色々付け替えれば良いのだから、結構融通がきくし、部位ごとに発注し、職人を分けても良いだろう。
 端切れはバート商会や、他の服職業関係にだっていくらでも出ていようし、縫いぐるみの大きさだっていくつかに分ければ良いと思うし……。

「ロゼ、とても気に入っているみたいなんだ。他の女の子たちにも好評じゃないかな。
 端切れであれば、値段もある程度抑えられるし、釦も余りもので良いんだろう?」

 色や柄の違う端切れの縫い合わせなのに、なんか妙に合うし、可愛い。端切れの寄せ集めだなんて、誰も思わないと思う。

「あまり見かけないなって思っていたのですけど……こちらには、子供のおもちゃって無いんですか?」
「あるけど、貴族以外では、買うものじゃない感じ。大抵は本人や家族の自作だったりだよ。……まぁ、器用ならね」

 代々譲り受けてボロボロになったものでも使い回されている。庶民にとっておもちゃは、贅沢品なのだ。
 たまに売られているものもあるが、職人らの手慰みに作られたりしたもので、あまり売り物として出てこない。値も張るしね。
 犬橇の時も思ったのだけど、サヤの世界は、子供が楽しめるものも多くあるみたいだし、出してみると案外面白いのじゃないかと考えた。

「買うものじゃないのに……売れるでしょうか?」
「無いのに買わないよ。売っていれば買うようになるかも?」
「ん……売り方も、戦略を考えなければいけない感じですね……」

 途端にサヤは、真剣な顔になった。
 贈答品としてなら……じゃあやはり貴族方が主軸でまずは……端切れってどれくらいで譲ってくらはるやろ……と、ブツブツはじめて、サヤがしっかりギルに感化され、商人みたいな思考になっていることに笑った。
 うん。萎んで申し訳なくしているサヤより、こっちの方が良い。こっちの方がずっと綺麗で、可愛い。

 チュッと、頬に口づけをしたら、飛び上がるほどにビックリして、俺を見上げる。

「…………なっ……⁉︎」
「今まで通りだから」

 にっこりと笑ってそう言うと、赤い顔で、口をパクパクさせて、何か言おうとしたけれど言葉が出てこないといった様子。

「ほら、早く何かに書き記しておかないと、考えていることが消えていってしまうよ?」
「⁉︎    そうでした!……じゃなくて……もうっ!    それならなんであんなことするんですか⁉︎」
「ごめん、悪気は無かったんだ。可愛かったからだよ」
「シザーさんがいるのに!」

 プンプンと怒ってポカリと肩を叩かれた。
 あ、シザーいたんだった。忘れてた……。ごめんって、素で忘れてたんだってば。
「笑いながら謝ったって駄目です!」と、怒ってくるサヤの手を取って、ロゼが起きちゃうよと耳元で囁いたら、ハッとロゼの方を見る。

 俺はその隙に、もう一度頬へ口づけして、呆気にとられるサヤに手を振って、その場を逃げ出した。
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