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閑話 山塩
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昼からは、ロゼを連れて村というか……森の中を散策することとなった。
サヤが持参したハーブ。それが森の中にあるかどうかを探すためだ。
初めは他の村人にお願いするつもりだったのだけど、ロゼが「ロジェはおねえちゃんだし、おてつだいするの!」と、主張したためこうなった。
俺としては大変有難い。縫いぐるみのごっこ遊びは、俺に向いてないと思うんだよね……。
それに、サヤと一緒にいられるなら、俺はなんだって嬉しいし。
サヤは、ロゼお昼寝中の俺の悪戯に、まだ若干怒っていたものの、ロゼの前で態度に出すのは大人気ないと思っているようで、流してくれるようだ。
その様子にホッと胸を撫で下ろしつつ、俺もご機嫌をとるためお手伝い。
「あったー!」
「ほんとだ、ありましたね」
サヤが探していたのは早芹菜と目箒(バジル)、そして迷迭香(ローズマリー)。干して乾燥させたものを持参していたのだけど、その香りをロゼに確認してもらい、この森にないか探していた。
「できるだけ沢山摘みましょう。他にもあるところがないか、見つけたら……」
「たくさんあるよ! あっちにも……そこにも!」
「……充分ですね。パセリは、そろそろ旬を外れてしまうと思うので、多めに摘んでおきましょうか」
持ってきた籠に、パセリとバジルの軟らかい葉を千切って放り込む。
ローズマリーの方は、やはり青々とした軟らかい葉の部分、茎ごとを先端から二十糎くらいで摘んだ。
暫く延々とそれを繰り返し、サヤの納得する分量を確保してから村に戻り、次の工程。
「このはっぱ、どうするの?」
「乾かします。さっと洗ったパセリ、バジルは干し笊に広げて。ローズマリーは十本くらいを目安に麻紐で縛って軒にぶら下げておけば大丈夫。
私が持ってきたこの見本くらいにカラカラにするんです」
二人がキャッキャとはしゃぎながら進める作業。
それを眺めながら俺は、これが一体どうなるんだろうなぁと、拠点村でのやり取りを思い出していた。
捨場にある隠れ里であった、ロジェ村の住人は、存在を認められない者たちであったから、村や街に出向くようなことは、極力避けていた。
場の特性として、獣人の血が濃くなり続けてしまった彼らは、外見的な特徴でも、獣人のそれが目立つようになってしまっていたし、余計に外界と疎遠になっていったようなのだけど……。
人が生きていくためには、必ず必要なものが、少なからずある。
例えば、水や、塩……。
水は雨水や雪、川や泉があるから良いとして、塩は、山で得ることはできない貴重な必需品……。と、思っていたのだけど……。
「塩は採れます」
という、驚きの回答を得た。
聞けば、塩辛くぬるい水が湧く水場があるという。昔から、それを煮詰めて塩を得ていたと言われ、驚愕したのだが……。
「あります。山間部で塩が取れる可能性。
太古の昔に海であった場所が地中にあり、化石化して岩塩となったものが、地下水に溶けて湧き出しているのではないでしょうか。
ロジェ村のある場所には玄武岩もあることですし、活火山、もしくは休火山が近くにある可能性が高いです。ですから、地下水が温められて、岩塩を溶かし湧き上がっている可能性も、同じく高いかと」
さらりとそんなことを言ったサヤに驚愕した。
相変わらず異様な知識量……そう思ったのだけど、サヤの国には火山が多く、そういった塩が取れる場所が、内陸にも多々あったのだという。
「つまり、ロジェ村の近隣でしか取れない、特別な塩ですから、特産品にするにはうってつけかと。
山塩は、海塩とは味にも差が出ますから、まずは味見してみたいです」
今まで塩の種類に拘ったことはなかった……。
と、いうか、塩は塩。という認識だったのだけど、サヤの国では、取れる産地によって塩の味が違うのは当然のこととして知られているという。
「多少は使い分けていましたよ、今までも。ですが、レイシール様はそこまで味に細かくありませんでしたから」
と、これはハイン。
二人きりの食事であった頃は量も少なかったし、多少は拘っていたらしいが、作る食事の量が増えてからは、一般的で安価なものに切り替えていたらしい。
「全然知らなかった……」
「だと思ってました……」
だから安物で良いと思いました。
そう言われると、なんだかなぁ……。
とまぁ、これが拠点村を出発する前の話。
その塩を使った特産品を考えておくとサヤは言い、この話はそこで保留とされていた……。
で、だ。
村の女性や、吠狼の女性陣を集会所の調理場に集めて、持参した乾燥ハーブを使った調味料作りが、これより決行されることとなった。目当てのハーブは全て森で見つけられるようだと、分かったからね。
俺とロゼも見学。ロゼもサヤの新たな料理が楽しみなのだと思う。美味しいものが食べられるかもと、期待しているのかもしれない。
「というわけで、ハーブソルトを作ろうと思います。こちら風に言い直しますと、香味塩……でしょうか」
助手はハイン。新たな調味料となれば当然彼も参加する。
寧ろ、まだ調味料ネタを隠し持ってたんですかと、サヤに恨みがましい視線を向けていた。
サヤは今まで思い至りませんでしたと苦笑していたけれど。
「用意するのは塩、乾燥したハーブ、今回は乾燥させた大蒜も持参しました。
大蒜は今からが旬なので、安い時期に大量に手に入れて乾燥させておくことをお勧めします。よく使いますし、薄切りや粉にすれば嵩張りませんから。
でははじめに塩ですが、極力水分を飛ばすために、鍋に入れ、弱火で炒ります。ハーブも同様なのですが、今回はしっかり乾燥したものを持ってきているので、そのまま使いますね。
ハーブは、天気の良い日に、軒へ二週間くらい干せば大丈夫だと思うのですが、見本を置いておくので、乾燥具合は後で各自、確認してみてください。
ではまず、全ての材料を包丁や手を使って、細かく砕きます。まだ水分が残っている場合は、鍋で炒って水分を飛ばします」
炒った塩は、皿に広げて粗熱を取る。
その間に薬研が用意され、砕いた草や大蒜が、これで更に細かくされることとなった。ツバキアブラの時もやった粉砕作業だ。
「おいしいにおい……こなにしちゃうの?」
「うんそう。ひと種類ずつね。後で配合して整える調味料だから」
「はいごう……?」
「そう。まぜまぜすることを、配合と言います。
今日作るのは……バジルとパセリのハーブソルトと、ローズマリー、大蒜、バジル、パセリの、全部を入れたハーブソルトです。
くしゃみをしたら粉が吹き飛びますから、注意してくださいね! 場合によっては、マスクを推奨しますっ」
笑顔を振りまくサヤが眩しくて可愛い。
皆で協力し合い、持ち寄った薬研や乳鉢を使って乾燥したハーブが粉々にされるまで、さして時間は必要なかった。人海戦術はやはり侮れない。
集会所の中は、なんともいえぬ良い香りが立ち込めており、まさしくそう……美味しそうだ。
獣人らには少々香りがきつい場合もあるみたいだったが、苦痛というわけではないらしい。
「全てが粉になったら……あとはこれを、塩と混ぜるだけです。
塩も、薬研で細かくしておくと、混ざりやすく、料理にも馴染みやすくなります」
そう言いつつサヤは、鉢に砕いた塩、バジル、パセリを入れ、かき混ぜた。だいたい同分量だという。
「ローズマリーは香りの強いハーブですから、これだけ分量は半分くらいにします。
とはいえ、ここの皆さんは鼻が良いので、美味しそうな香りを目安に考えてもらった方が良いかもしれませんね。これが絶対に正解というわけではないので。
はい。これで完成です。まずは普通の塩とどう違うか、味見してみましょう」
そう言ったサヤは、麵麭を薄く切って火で炙った。それにやはり持参していた阿利布油(オリーブオイル)を刷毛で薄く塗り、上に出来上がったばかりのハーブソルトをぱらりとひとふり。
麵麭に油と塩。たったそれだけだというのに、それはなんとも良い風味だった。たったこれだけでひとつの料理だ!
「うまー!」
「あらいやだ、本当に美味しいしいつものお塩と味も違う……」
「これ、あの鹿肉にも合うんじゃない?」
「はい。肉に揉み込んで下味をつけたり、魚の臭み消しと味付けに使用したり、素揚げにした野菜に掛けるだけでも美味です。
私の国では、魔法の塩なんて呼ばれていたり、最高の塩なんて名が付いていたり……何に掛けても美味なので、そんな風に親しまれていました」
皆が感心して麵麭を咀嚼している中、ふと気付いたようにハインが「他の塩でも作れるのでは?」と、サヤに問うた。
「はい。他の塩でも当然作れますよ。
でも、海塩よりも、こちらの山塩の方が味が鋭かったです。ハーブの香りに負けない、しっかりとした味なので、ハーブソルトに適していると思いました。
元々私の国でもハーブソルトは、海塩よりは岩塩や湖塩を使ったものが多かった気がしますし。
混ぜるハーブは、もっと色々な種類があります。セージ、タイム、オニオン……あ、柑橘類の皮を入れることも多いですし、茶の葉を砕いて入れたりもします。
つまり、同じものを全く同じに再現するのは至難の技……獣人さんの嗅覚がないと、難しいと思いますし、真似されたって新たなものが何通りでも作れます。
薬として使われているハーブも多いので、薬師さんと相談して独自のものを作り出すのも良いかもしれません」
これを、小壺や小瓶に入れて売るって、どうですか? と、サヤ。
「肉の調理に合う塩。魚の調理に合う塩……とか、そんな風に調合して種類を作るのも良いかと。
配合次第なので、作れる味や風味の幅も広いです。
これも獣人さんなら、嗅覚を活用できるので、適していると思うんですよね。
経費も基本のものなら薪代だけしかいりませんから、経済的ですし」
荷物の中から取り出した小さめの香水瓶に塩を入れ、飾り紐を結ぶ。そこに紙の札を通して、肉用の塩……など記入すれば見た目にも良いのではと言った。
「この塩であれば、少量を少し高級な塩として販売するのに丁度良いと思います。
ウルヴズ行商団でも売りやすいですよね。なんなら量り売りしても良いと思います」
もう……この娘の頭の中はどうなっているんだ⁉︎
あれもこれもに配慮された最高の内職が、どうして都合よく頭から出てくるんだ!
サヤはもう、ロジェ村の獣人たちの救世主だよ!
調理の間我慢して待っていたこともあり、感極まって抱きしめたら、人前駄目って言いました! と、悲鳴が上がった。
けれどそれは、周りの歓声と祝福の声に埋もれてしまった。
かくして、玄武岩の採掘に出られない女性陣は、これにて手頃な内職をひとつ得られることとなったとさ。
めでたし、めでたし。
「なんで、みんなが集まっている前でわざわざ、そういうことするんですか⁉︎」
「ごめんっ、つい……!」
「もう公然の秘密ですよ……。今更ですからそろそろ諦めましょう」
サヤが持参したハーブ。それが森の中にあるかどうかを探すためだ。
初めは他の村人にお願いするつもりだったのだけど、ロゼが「ロジェはおねえちゃんだし、おてつだいするの!」と、主張したためこうなった。
俺としては大変有難い。縫いぐるみのごっこ遊びは、俺に向いてないと思うんだよね……。
それに、サヤと一緒にいられるなら、俺はなんだって嬉しいし。
サヤは、ロゼお昼寝中の俺の悪戯に、まだ若干怒っていたものの、ロゼの前で態度に出すのは大人気ないと思っているようで、流してくれるようだ。
その様子にホッと胸を撫で下ろしつつ、俺もご機嫌をとるためお手伝い。
「あったー!」
「ほんとだ、ありましたね」
サヤが探していたのは早芹菜と目箒(バジル)、そして迷迭香(ローズマリー)。干して乾燥させたものを持参していたのだけど、その香りをロゼに確認してもらい、この森にないか探していた。
「できるだけ沢山摘みましょう。他にもあるところがないか、見つけたら……」
「たくさんあるよ! あっちにも……そこにも!」
「……充分ですね。パセリは、そろそろ旬を外れてしまうと思うので、多めに摘んでおきましょうか」
持ってきた籠に、パセリとバジルの軟らかい葉を千切って放り込む。
ローズマリーの方は、やはり青々とした軟らかい葉の部分、茎ごとを先端から二十糎くらいで摘んだ。
暫く延々とそれを繰り返し、サヤの納得する分量を確保してから村に戻り、次の工程。
「このはっぱ、どうするの?」
「乾かします。さっと洗ったパセリ、バジルは干し笊に広げて。ローズマリーは十本くらいを目安に麻紐で縛って軒にぶら下げておけば大丈夫。
私が持ってきたこの見本くらいにカラカラにするんです」
二人がキャッキャとはしゃぎながら進める作業。
それを眺めながら俺は、これが一体どうなるんだろうなぁと、拠点村でのやり取りを思い出していた。
捨場にある隠れ里であった、ロジェ村の住人は、存在を認められない者たちであったから、村や街に出向くようなことは、極力避けていた。
場の特性として、獣人の血が濃くなり続けてしまった彼らは、外見的な特徴でも、獣人のそれが目立つようになってしまっていたし、余計に外界と疎遠になっていったようなのだけど……。
人が生きていくためには、必ず必要なものが、少なからずある。
例えば、水や、塩……。
水は雨水や雪、川や泉があるから良いとして、塩は、山で得ることはできない貴重な必需品……。と、思っていたのだけど……。
「塩は採れます」
という、驚きの回答を得た。
聞けば、塩辛くぬるい水が湧く水場があるという。昔から、それを煮詰めて塩を得ていたと言われ、驚愕したのだが……。
「あります。山間部で塩が取れる可能性。
太古の昔に海であった場所が地中にあり、化石化して岩塩となったものが、地下水に溶けて湧き出しているのではないでしょうか。
ロジェ村のある場所には玄武岩もあることですし、活火山、もしくは休火山が近くにある可能性が高いです。ですから、地下水が温められて、岩塩を溶かし湧き上がっている可能性も、同じく高いかと」
さらりとそんなことを言ったサヤに驚愕した。
相変わらず異様な知識量……そう思ったのだけど、サヤの国には火山が多く、そういった塩が取れる場所が、内陸にも多々あったのだという。
「つまり、ロジェ村の近隣でしか取れない、特別な塩ですから、特産品にするにはうってつけかと。
山塩は、海塩とは味にも差が出ますから、まずは味見してみたいです」
今まで塩の種類に拘ったことはなかった……。
と、いうか、塩は塩。という認識だったのだけど、サヤの国では、取れる産地によって塩の味が違うのは当然のこととして知られているという。
「多少は使い分けていましたよ、今までも。ですが、レイシール様はそこまで味に細かくありませんでしたから」
と、これはハイン。
二人きりの食事であった頃は量も少なかったし、多少は拘っていたらしいが、作る食事の量が増えてからは、一般的で安価なものに切り替えていたらしい。
「全然知らなかった……」
「だと思ってました……」
だから安物で良いと思いました。
そう言われると、なんだかなぁ……。
とまぁ、これが拠点村を出発する前の話。
その塩を使った特産品を考えておくとサヤは言い、この話はそこで保留とされていた……。
で、だ。
村の女性や、吠狼の女性陣を集会所の調理場に集めて、持参した乾燥ハーブを使った調味料作りが、これより決行されることとなった。目当てのハーブは全て森で見つけられるようだと、分かったからね。
俺とロゼも見学。ロゼもサヤの新たな料理が楽しみなのだと思う。美味しいものが食べられるかもと、期待しているのかもしれない。
「というわけで、ハーブソルトを作ろうと思います。こちら風に言い直しますと、香味塩……でしょうか」
助手はハイン。新たな調味料となれば当然彼も参加する。
寧ろ、まだ調味料ネタを隠し持ってたんですかと、サヤに恨みがましい視線を向けていた。
サヤは今まで思い至りませんでしたと苦笑していたけれど。
「用意するのは塩、乾燥したハーブ、今回は乾燥させた大蒜も持参しました。
大蒜は今からが旬なので、安い時期に大量に手に入れて乾燥させておくことをお勧めします。よく使いますし、薄切りや粉にすれば嵩張りませんから。
でははじめに塩ですが、極力水分を飛ばすために、鍋に入れ、弱火で炒ります。ハーブも同様なのですが、今回はしっかり乾燥したものを持ってきているので、そのまま使いますね。
ハーブは、天気の良い日に、軒へ二週間くらい干せば大丈夫だと思うのですが、見本を置いておくので、乾燥具合は後で各自、確認してみてください。
ではまず、全ての材料を包丁や手を使って、細かく砕きます。まだ水分が残っている場合は、鍋で炒って水分を飛ばします」
炒った塩は、皿に広げて粗熱を取る。
その間に薬研が用意され、砕いた草や大蒜が、これで更に細かくされることとなった。ツバキアブラの時もやった粉砕作業だ。
「おいしいにおい……こなにしちゃうの?」
「うんそう。ひと種類ずつね。後で配合して整える調味料だから」
「はいごう……?」
「そう。まぜまぜすることを、配合と言います。
今日作るのは……バジルとパセリのハーブソルトと、ローズマリー、大蒜、バジル、パセリの、全部を入れたハーブソルトです。
くしゃみをしたら粉が吹き飛びますから、注意してくださいね! 場合によっては、マスクを推奨しますっ」
笑顔を振りまくサヤが眩しくて可愛い。
皆で協力し合い、持ち寄った薬研や乳鉢を使って乾燥したハーブが粉々にされるまで、さして時間は必要なかった。人海戦術はやはり侮れない。
集会所の中は、なんともいえぬ良い香りが立ち込めており、まさしくそう……美味しそうだ。
獣人らには少々香りがきつい場合もあるみたいだったが、苦痛というわけではないらしい。
「全てが粉になったら……あとはこれを、塩と混ぜるだけです。
塩も、薬研で細かくしておくと、混ざりやすく、料理にも馴染みやすくなります」
そう言いつつサヤは、鉢に砕いた塩、バジル、パセリを入れ、かき混ぜた。だいたい同分量だという。
「ローズマリーは香りの強いハーブですから、これだけ分量は半分くらいにします。
とはいえ、ここの皆さんは鼻が良いので、美味しそうな香りを目安に考えてもらった方が良いかもしれませんね。これが絶対に正解というわけではないので。
はい。これで完成です。まずは普通の塩とどう違うか、味見してみましょう」
そう言ったサヤは、麵麭を薄く切って火で炙った。それにやはり持参していた阿利布油(オリーブオイル)を刷毛で薄く塗り、上に出来上がったばかりのハーブソルトをぱらりとひとふり。
麵麭に油と塩。たったそれだけだというのに、それはなんとも良い風味だった。たったこれだけでひとつの料理だ!
「うまー!」
「あらいやだ、本当に美味しいしいつものお塩と味も違う……」
「これ、あの鹿肉にも合うんじゃない?」
「はい。肉に揉み込んで下味をつけたり、魚の臭み消しと味付けに使用したり、素揚げにした野菜に掛けるだけでも美味です。
私の国では、魔法の塩なんて呼ばれていたり、最高の塩なんて名が付いていたり……何に掛けても美味なので、そんな風に親しまれていました」
皆が感心して麵麭を咀嚼している中、ふと気付いたようにハインが「他の塩でも作れるのでは?」と、サヤに問うた。
「はい。他の塩でも当然作れますよ。
でも、海塩よりも、こちらの山塩の方が味が鋭かったです。ハーブの香りに負けない、しっかりとした味なので、ハーブソルトに適していると思いました。
元々私の国でもハーブソルトは、海塩よりは岩塩や湖塩を使ったものが多かった気がしますし。
混ぜるハーブは、もっと色々な種類があります。セージ、タイム、オニオン……あ、柑橘類の皮を入れることも多いですし、茶の葉を砕いて入れたりもします。
つまり、同じものを全く同じに再現するのは至難の技……獣人さんの嗅覚がないと、難しいと思いますし、真似されたって新たなものが何通りでも作れます。
薬として使われているハーブも多いので、薬師さんと相談して独自のものを作り出すのも良いかもしれません」
これを、小壺や小瓶に入れて売るって、どうですか? と、サヤ。
「肉の調理に合う塩。魚の調理に合う塩……とか、そんな風に調合して種類を作るのも良いかと。
配合次第なので、作れる味や風味の幅も広いです。
これも獣人さんなら、嗅覚を活用できるので、適していると思うんですよね。
経費も基本のものなら薪代だけしかいりませんから、経済的ですし」
荷物の中から取り出した小さめの香水瓶に塩を入れ、飾り紐を結ぶ。そこに紙の札を通して、肉用の塩……など記入すれば見た目にも良いのではと言った。
「この塩であれば、少量を少し高級な塩として販売するのに丁度良いと思います。
ウルヴズ行商団でも売りやすいですよね。なんなら量り売りしても良いと思います」
もう……この娘の頭の中はどうなっているんだ⁉︎
あれもこれもに配慮された最高の内職が、どうして都合よく頭から出てくるんだ!
サヤはもう、ロジェ村の獣人たちの救世主だよ!
調理の間我慢して待っていたこともあり、感極まって抱きしめたら、人前駄目って言いました! と、悲鳴が上がった。
けれどそれは、周りの歓声と祝福の声に埋もれてしまった。
かくして、玄武岩の採掘に出られない女性陣は、これにて手頃な内職をひとつ得られることとなったとさ。
めでたし、めでたし。
「なんで、みんなが集まっている前でわざわざ、そういうことするんですか⁉︎」
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