異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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新風 3

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 そのまま暫く意匠についての意見交換が行われた。
 ギルとアルバートさんはこのままこれからの経営について話を詰めると応接室に残ることとなり、俺たちは退室。
 気付けば昼近くになっていたから、早めに昼食を取り、騎士団の訓練所に向かう準備に入る。

「あ、あの……この従者服で行って本当に大丈夫でしょうか?」
「結局どこかで踏ん切らなきゃならないんだから、ここにしよう。
 クロードも合流するって言ってたし、良い機会だと思う」

 王宮の中とはいえ、騎士団訓練所は端の外れだ。リカルド様なら、サヤを伴っていてもとやかく言うまいという考えもあり、女従者服のお披露目を兼ねることにした。
 サヤはいつもの馬の尻尾みたいな髪型。だけど、右耳に耳飾を付け、化粧も女性風に施しており、凛としていつつも華やか。きっと人目を惹くだろうな。

「気分が悪くなったら、遠慮するな。これから男性職に就く女性が増える。そんな王宮で、女性を軽視、侮蔑することは許されない。
 嫌なことは、嫌だと言って良いんだからね」

 一応念を押すと、苦笑しつつ、はい。と、返事をくれた。

 マルとサヤ、オブシズを伴って騎士団の訓練所に向かう。街中は昨日までの祝祭が嘘であったかのようにシンとしており、道行く人も少なく、表情も暗い……。
 王家の病……やはりそれが原因だろう。
 まだ祭りの装飾も残っており、片付けられず残された屋台すらあるというのに、まるで死霊の街のように静まっている。
 昨日は遅くまで騒がしかったけれど、祭りで盛り上がっているというよりは、混乱して叫び、逃げ惑っているかのような、どこか異様な賑わいだった。
 本来ならばもっと明るい雰囲気だったろうにな……。

 外門で印綬を示して王宮の中に入り、馬車を預けた。
 まずは詰所に行き大工らを入れるための手続きを行う。
 俺の紹介状を持った大工が来たら、知らせてほしい。騎士団の訓練所にいるからとお願いしておいた。

 本当なら馬車に一人従者が残り、管理をするのだけど、俺は本日従者を一人しか連れていなかったし、サヤを残すわけにはいかない。
 まぁ、王宮内に男爵家の馬車をどうこうしようなんて輩はいないだろうし、馬の世話だけ厩番にお願いした。
 そうして三度目の、騎士団訓練場へ足を向ける。
 暫くはいつも通りだった。こちらに出向く人は少ないのか、あまり人ともすれ違わない。
 けれどサヤが「何か騒々しいです」なんて言っており、街の混乱が騎士団を困らせる事態でも引き起こしているのだろうかと考えたのだけど、違った。
 俺の進む方向が、酷く騒がしい。そうして……。

 訓練所で行なった手押し式汲み上げ機の試運転。成功だったのでそのまま汲み上げ機は設置したままにしてあったのだけど、行ってみたら人集りが凄い……騎士どころか女中まで加わる、長蛇の列が出来上がっていた。皆が手に桶を持っているのは……水汲み?

「いやぁ、壮観な眺めです。この現象は当分続きそうですねぇ」
「……他の井戸に行った方が早いと思うんだけど……」

 順番が入れ替わり、手押しポンプを押す度に、キャー!    とか、おー!    とか、歓声が上がる。
 街中の雰囲気とえらい違いだ……。無茶苦茶楽しそう。あれを見てきたから余計にそう思う。
 汲み終わった者らも、仕事に戻らずそこで話に花を咲かせているようで、帰ろうとする者がいない……。業務は大丈夫なのか?
 そんな風に考えつつ、唖然と見ていたら、たまたま振り返った一人が、あっ!    と、口を開け、俺を指差した。

 するとその周りの面々が、その声に釣られ……うわ、なんで俺を見て声を上げる?    なんの指差し確認だ……なんかこっちに来ようとしてるけど⁉︎

「えっ、何⁉︎」
「こ、これは予想以上かもですね……」
「何が⁉︎」
「逃げろってことですよ!    もみくちゃにされちゃいますよ⁉︎」
「っ!    でもマル走れないだろ⁉︎」

 こいつは数歩走ったら体力が尽きてしまう。
 そうしたらあっという間に踏み潰されてしまうじゃないか!
 慌てて背に庇ったら「今僕は良いですからさっさと逃げてくださいよ⁉︎」と背をポカポカ殴られた。いやだって、逃げれないからこうしてるんだけど⁉︎

「お前もみくちゃにされたら死んでしまうじゃないか⁉︎」

 絶対に死ぬ!    骨なんかすぐに粉々にされてしまう。
 今、一番命が危ういのはお前だからな⁉︎
 そんな押し問答をしていた俺の前に、オブシズがザッと見を割り込ませた。
 腰の剣を握り、晒された不思議な瞳に気迫を漲らせ、「寄らば斬る‼︎」と、大喝!

「我が主人の許可無く近寄るな!    無礼を働くならば、それ相応の覚悟をしてもらう!」

 命のやり取りをして来た者の覇気だ。相当鋭い。
 それが脅しでもなんでもなく、本気だということは肌に伝わる。
 その圧倒的な気迫に、女性はあっという間に圧された。ぺたんと膝をついてしまう方々。中には涙目の者もいる。
 男性らも、文官などあまり殺生ごとに関わってない人々は、真っ青になって、足を縫いとめられてしまったように止まった。
 だけど中には、身分という鎧に守られている者もいる。

「たかだか男爵家家臣が、何をほざく」

 そう言い捨て、さらには俺を睨み据え……。

「貴様、上位の私に、成人すらしておらぬ分際で、無礼だと……!」

 無礼でしょうが。
 身分年齢関係無しに、いきなり詰め寄るのは誰にだって無礼だと思う。
 とりあえず殺到され、もみくちゃにされることは回避できたので、マルを背に庇いつつ、オブシズの横に並んだ。

「失礼いたしました。
 ですが、こちらとて身の安全は確保させていただきたく存じます。
 それに我が臣は、私の身を守るのが職務。彼は職務に尽くしただけですので、どうかご了承ください」

 一応相手を立ててそのように言葉を繋げた。
 服装的に、伯爵家の方かな。ここで身分を持ち出すからには、他の方々よりも更に上だと自負しているのだろうし。

 いつの間にやら姿を消したサヤ。
 俺とマルがごちゃついている間に、オブシズと何言か言葉を交わしていたし、彼女が戻れば場は落ち着くだろうと頭の中で考える。
 俺の前の人物は、他の動きを止めた者らを押し退けて、俺の前に進み出て来た。まるでひれ伏せとばかりに、両腕を組み、前に立つ。
 その周りには複数の人物。従者か、武官か……まぁ、守られるだけの地位がおありだと主張したいのだな。
 視線を少し下ろすと、腰の辺りに印綬がちらついていた。
 成る程、長であられましたか。それで俺を見知っており、汲み上げ機これを作ったのが俺であることも、理解していると。

 俺も多分、任命式で彼を見ているのだと思うけれど、なにぶん人数が多かったし、記憶に無い。だが相手は俺を覚えているだろうな。なにせ成人前は、俺一人だし。
 それに……役職上の地位としては同列。お互いそれを賜ったからには、ご承知のことと思いますよ、それ。
 だけど敢えて居丈高に出ているのには、理由があるのだろうなぁと、思った。
 一つしか思い浮かばない。それを口にするのを、待つ。

「……まあ良いわ。私に対する不敬は、別の形で償ってもらおう」

 不敬……。成る程、こちらに非があると、言うのですか。

「其方の詫びは、あれを一機、それで手を打と……」
「お断りします」

 まあそれ言うんだろうな。って思ってたので、即断らせていただいた。
 ちょっと気持ちが逸って、この方の言葉の最後を打ち消してしまったが、それくらいは許してほしい。

 全く悩まず即座に断った俺に、その方は一瞬呆然とした。断られるとは思ってなかった様子。

「…………なっ、なんだと⁉︎」
「まず、詫びねばならぬ理由がありません。
 私は身を守っただけのことで、貴方に不敬を働いた記憶も無いので」
「貴様は成人前の男爵家だろう!」
「そうですね。ですが、それが今、何か関係ありますか?
 我々は、役職上は同列。
 我が父も男爵家領主ごとき身分ですが、公爵家領主様を同列として呼びます。アギー殿、オゼロ殿と。
 こちらから敬意を払い、様を付けて呼ぶことはあれど、呼ばぬことを不敬と咎められたことはございません。
 ならば当然、貴方と私も同列。不敬は働いておりませんね」

 腰の印綬を示し、そう伝える。
 無礼を不敬とすり替えたって釣られませんよ。そんな、子供騙しな。

「それに、手押し式汲み上げ機は私の私物ではございません。
 秘匿権は得ておりますが、それは役職上、現在の管理者として有しているだけ。
 これは全て、国に譲渡される権利。ですから、正式な手続きのないものはお渡しできかねます」
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