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拠点村 2-1
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翌日からも、日々に変化は無かった。
今まで通り、サヤは俺と共に行動し、吠狼は秘密裏に館を警護し、やらなければならない職務を遂行する。
サヤの秘密は全て胸の内に秘め、口外はしないことを約束させはしたものの、吠狼の面々は、それを当たり前のことであるみたいに受け入れた。
彼ら自らが口にしていた通り、サヤとの絆は、この一年に満たない時間でも、確実に強くなっていたのだと思う。
◆
「ねぇ、今日はどんな予定なの?」
朝食の最中、クオン様にそう聞かれた俺は、意識して表情を和らげる。つい思考が沈みそうになるから気を付けないといけない。
「そうですね……とりあえず、朝一番で硝子職人のところに顔を出します。
そこで先に硝子筆を発注しておけば、本日中に完成すると思うので、メバックに帰る前に受け取りに行きましょうか」
「今日中⁉︎」
「一人一本だけにしてくださいよ。作れる職人は限られてるので」
「…………なんだぁ……。じゃあ、月単位なら何本くらいの注文が可能?」
「そんなにいりますか?
木筆と違って、雑に扱って先を折ったりしない限り、使い続けられるんですよ? 大切にしてくだされば、一生ものなんですから」
例えば先が欠けたりした場合も、硝子筆は修理が可能だ。
木筆みたいに磨耗しにくいし、筆先を水で濯げば、すぐ別色の墨も使える。
そう説明すると、キラキラとした笑顔を見せ……。
「そっか! じゃあとりあえず、まずは十本にしとく!」
「…………説明、聞いてましたよね?」
木筆みたいに色ごとに筆を用意するとかしなくて良いんだよって説明したつもりだったんだけどな……。
結局十本……どうしてそうなる……。
いや、購入してくれるのは嬉しいけど……十本いりますか? なにより値段も知らないうちから……。
「これ、木筆みたいに安くないですよ?」
「そんなこと分かってるわよ。でもこれ、ほんと使い勝手が良いんだもの。
色んな軸の色で購入して、兄弟にも配ろうかと思って」
「あ、そっちですか」
クオン様、三十人以上兄弟がいるんでしたね……。
まぁ、贈答品としての価値は元から高いと考えていたし、そのように使われるなら有難いくらいだ。
そんな風に思っていたら、マルが食事を終えた様子で、話に割って入ってきた。
「クオンティーヌ様、筆だけでなく、揃いで墨皿を購入することをお勧めしますよ。
墨壺でも使えますが、硝子筆は筆が墨を吸い上げますから、木筆ほどに墨が必要ではありません。それに、壺に突っ込んでると先を折ってしまいかねないんです。
使用方法の説明書きも付いておりますし、贈答品としてなら、そちらの方がお勧めですけどねぇ。
更に言うなら、墨を持ち歩けるよう小瓶が付いたものもあるんです。
木箱も筆入れとして使っていただけるよう、化粧彫りや螺鈿の細工を施したものなんかもありますし、外出先での書き物が多いクオンティーヌ様には、是非こちらがお勧めですよ」
ごりごり売り込んでいくマル……。墨皿と木箱付けただけでも値段が倍くらいに跳ね上がります。全部込みにした場合……うん、四倍。
まぁ、全部付けずとも良いけれど、墨皿付きのものはお勧めである。
墨壺でも使えるけれど、やっぱり筆が墨を吸い上げる光景を見てほしい。あそこに価値があると言っても過言ではないものな。
職人の所に行けば見本を置いてますからと言うと、じゃあ見てみる。とのこと。
「決まりっ! じゃ、出発の時間になったら教えてね。私部屋でちょっと書き物してるから」
もう珍しい料理に慄くのは諦めた様子で、さっさと食事を進めるクオン様。
悩んだって美味しいんだから悩むだけ無駄と理解してくださったので、良かったと思う。
「あーおいしい……うちの料理人からも、ここに所属者出す価値ある気がする……。まだ他領は受け付けてないのよねぇ……」
「んー、申し訳ありませんが、まだ試験段階といったところなので……。
来年以降ですかね、募集をかけるとしても」
「来年かぁ。ま、決まったらアギーにも一報入れてくれる?」
「はい。その時は」
まだ村の周辺でちまちまやってるだけの段階だからな。
任命式が済めば大々的に広げていく予定なので、まずはセイバーン領内での成功を収めなければならない。
そんなこんなで朝食を済ませてから、俺たちは各自、まず身支度を整えた。
部屋に戻ると、新たな女中が待機しており、既に外套や短剣等、外出準備を進めてくれていたのだが……。
「主、こちらで用意は事足りているだろうか」
「んー……うん。準備は良いんだけど……口調が硬い」
もうちょっとこう、柔らかくお願いします。
昨日はダニルのことや、サヤのことでバタバタしていてそれどころじゃなかったのだけど、帰ってきた館には、何故か女中や使用人見習いが増えていた……。
メバックで募集を掛けたばかりなのに……と、思うなかれ。彼らは皆、吠狼の者らなのである。
こうして見える形でも、館に配置されることになっていたのだ。
彼らは使用人として働くが、忍としての能力を持つものも含まれる。……まぁ、皆が皆、というわけではないのだけど。
「すまない。善処する……します」
つまり、マルの言っていた伝手とは、吠狼の者らのことだったのだ。
全員俺の傘下に入る。と、宣言した彼らは、本当に全面的に協力体制を取ってくれることとなったらしい。
その一環として、村に職人として入ったり、こうして使用人として入ったりすることになったわけだ。
獣の特徴を外見的に有していない……という、条件付きではあるのだけど。
「意図していたわけではありませんが、こうなった以上、彼らが村人や使用人として、館や村の中にもいるというのは、少し心強い気がしますね」
ボソリとハインがそう口にする。
彼らは普通に生活しつつも、周りに気を配っておいてくれるのだ。
怪しい動きの者がいれば報告があるし、万が一の場合も村人らを守るため行動してくれる。
サヤの部屋や木箱を調べた結果、この館に侵入者があった可能性は低いと出ていたが、油断できる状況ではないからな。
マルの推測ではあるのだけど、サヤの腕時計が盗まれたのは、領主の館を火玉で襲撃された時……あの辺りが怪しいのではないかということだった。
「吠狼らは総出で領主様奪還に動いてましたし、館周りの見張りも通常より手薄でした。
更に館の制圧や火玉……。レイ様が火に巻かれかけたりしてましたし、それに振り回されている間に別館を漁られたのじゃないかと。
更に推測ですけど……ジェスルで間違いないのじゃないですかね。一度目が下見、二度目が本番……ってことだったのだと思います」
吠狼の目を出し抜くほどに、手練れの影を有しているなら、公爵家かジェスルだろうとマル。
その中で、こんな田舎に手出ししてくるのはジェスルしかないだろうとなるのは、当然の結論だ。
「冬の間静かだったのは……サヤくんのその腕輪でも、吟味していたんですかねぇ……」
もしそれが事実なら、もうジェスルはサヤを得るための準備を整えきっているだろう。
雪が溶け、春となった今、セイバーンまでの道のりを遮るものはない。
サヤは、きっと狙われ出す……。そんな予感がしている。
だから、吠狼らが村や館の中も警護してくれることとなったのは、本当に有難かった。
「じゃあ、そろそろ良いかな」
支度を終えた一同を見渡してそう言うと、リヴィ様とクオン様も頷き返してくれた。
注意事項は先程伝えている。
村はまだ開村していない状態で、本来なら客を招く状況に無い。
今回は、特別に模擬販売を経験してもらうということ。そのため、少々の粗相は見逃してほしいこと。
質問等は、してもらって構わないけれど、職人の仕事場へ踏み込むことはしないこと。
できることなら、村人の貴族対応の、練習相手を務めてやってほしいこと。等だ。
サヤは今日も女性の装い。いつも通りハインやオブシズ、シザー、そしてギルと、マルもいる。彼はちょっと眠そうだ。
そうして皆で揃って玄関から外に出ると、久しぶりの拠点村に足を踏み出した。
今まで通り、サヤは俺と共に行動し、吠狼は秘密裏に館を警護し、やらなければならない職務を遂行する。
サヤの秘密は全て胸の内に秘め、口外はしないことを約束させはしたものの、吠狼の面々は、それを当たり前のことであるみたいに受け入れた。
彼ら自らが口にしていた通り、サヤとの絆は、この一年に満たない時間でも、確実に強くなっていたのだと思う。
◆
「ねぇ、今日はどんな予定なの?」
朝食の最中、クオン様にそう聞かれた俺は、意識して表情を和らげる。つい思考が沈みそうになるから気を付けないといけない。
「そうですね……とりあえず、朝一番で硝子職人のところに顔を出します。
そこで先に硝子筆を発注しておけば、本日中に完成すると思うので、メバックに帰る前に受け取りに行きましょうか」
「今日中⁉︎」
「一人一本だけにしてくださいよ。作れる職人は限られてるので」
「…………なんだぁ……。じゃあ、月単位なら何本くらいの注文が可能?」
「そんなにいりますか?
木筆と違って、雑に扱って先を折ったりしない限り、使い続けられるんですよ? 大切にしてくだされば、一生ものなんですから」
例えば先が欠けたりした場合も、硝子筆は修理が可能だ。
木筆みたいに磨耗しにくいし、筆先を水で濯げば、すぐ別色の墨も使える。
そう説明すると、キラキラとした笑顔を見せ……。
「そっか! じゃあとりあえず、まずは十本にしとく!」
「…………説明、聞いてましたよね?」
木筆みたいに色ごとに筆を用意するとかしなくて良いんだよって説明したつもりだったんだけどな……。
結局十本……どうしてそうなる……。
いや、購入してくれるのは嬉しいけど……十本いりますか? なにより値段も知らないうちから……。
「これ、木筆みたいに安くないですよ?」
「そんなこと分かってるわよ。でもこれ、ほんと使い勝手が良いんだもの。
色んな軸の色で購入して、兄弟にも配ろうかと思って」
「あ、そっちですか」
クオン様、三十人以上兄弟がいるんでしたね……。
まぁ、贈答品としての価値は元から高いと考えていたし、そのように使われるなら有難いくらいだ。
そんな風に思っていたら、マルが食事を終えた様子で、話に割って入ってきた。
「クオンティーヌ様、筆だけでなく、揃いで墨皿を購入することをお勧めしますよ。
墨壺でも使えますが、硝子筆は筆が墨を吸い上げますから、木筆ほどに墨が必要ではありません。それに、壺に突っ込んでると先を折ってしまいかねないんです。
使用方法の説明書きも付いておりますし、贈答品としてなら、そちらの方がお勧めですけどねぇ。
更に言うなら、墨を持ち歩けるよう小瓶が付いたものもあるんです。
木箱も筆入れとして使っていただけるよう、化粧彫りや螺鈿の細工を施したものなんかもありますし、外出先での書き物が多いクオンティーヌ様には、是非こちらがお勧めですよ」
ごりごり売り込んでいくマル……。墨皿と木箱付けただけでも値段が倍くらいに跳ね上がります。全部込みにした場合……うん、四倍。
まぁ、全部付けずとも良いけれど、墨皿付きのものはお勧めである。
墨壺でも使えるけれど、やっぱり筆が墨を吸い上げる光景を見てほしい。あそこに価値があると言っても過言ではないものな。
職人の所に行けば見本を置いてますからと言うと、じゃあ見てみる。とのこと。
「決まりっ! じゃ、出発の時間になったら教えてね。私部屋でちょっと書き物してるから」
もう珍しい料理に慄くのは諦めた様子で、さっさと食事を進めるクオン様。
悩んだって美味しいんだから悩むだけ無駄と理解してくださったので、良かったと思う。
「あーおいしい……うちの料理人からも、ここに所属者出す価値ある気がする……。まだ他領は受け付けてないのよねぇ……」
「んー、申し訳ありませんが、まだ試験段階といったところなので……。
来年以降ですかね、募集をかけるとしても」
「来年かぁ。ま、決まったらアギーにも一報入れてくれる?」
「はい。その時は」
まだ村の周辺でちまちまやってるだけの段階だからな。
任命式が済めば大々的に広げていく予定なので、まずはセイバーン領内での成功を収めなければならない。
そんなこんなで朝食を済ませてから、俺たちは各自、まず身支度を整えた。
部屋に戻ると、新たな女中が待機しており、既に外套や短剣等、外出準備を進めてくれていたのだが……。
「主、こちらで用意は事足りているだろうか」
「んー……うん。準備は良いんだけど……口調が硬い」
もうちょっとこう、柔らかくお願いします。
昨日はダニルのことや、サヤのことでバタバタしていてそれどころじゃなかったのだけど、帰ってきた館には、何故か女中や使用人見習いが増えていた……。
メバックで募集を掛けたばかりなのに……と、思うなかれ。彼らは皆、吠狼の者らなのである。
こうして見える形でも、館に配置されることになっていたのだ。
彼らは使用人として働くが、忍としての能力を持つものも含まれる。……まぁ、皆が皆、というわけではないのだけど。
「すまない。善処する……します」
つまり、マルの言っていた伝手とは、吠狼の者らのことだったのだ。
全員俺の傘下に入る。と、宣言した彼らは、本当に全面的に協力体制を取ってくれることとなったらしい。
その一環として、村に職人として入ったり、こうして使用人として入ったりすることになったわけだ。
獣の特徴を外見的に有していない……という、条件付きではあるのだけど。
「意図していたわけではありませんが、こうなった以上、彼らが村人や使用人として、館や村の中にもいるというのは、少し心強い気がしますね」
ボソリとハインがそう口にする。
彼らは普通に生活しつつも、周りに気を配っておいてくれるのだ。
怪しい動きの者がいれば報告があるし、万が一の場合も村人らを守るため行動してくれる。
サヤの部屋や木箱を調べた結果、この館に侵入者があった可能性は低いと出ていたが、油断できる状況ではないからな。
マルの推測ではあるのだけど、サヤの腕時計が盗まれたのは、領主の館を火玉で襲撃された時……あの辺りが怪しいのではないかということだった。
「吠狼らは総出で領主様奪還に動いてましたし、館周りの見張りも通常より手薄でした。
更に館の制圧や火玉……。レイ様が火に巻かれかけたりしてましたし、それに振り回されている間に別館を漁られたのじゃないかと。
更に推測ですけど……ジェスルで間違いないのじゃないですかね。一度目が下見、二度目が本番……ってことだったのだと思います」
吠狼の目を出し抜くほどに、手練れの影を有しているなら、公爵家かジェスルだろうとマル。
その中で、こんな田舎に手出ししてくるのはジェスルしかないだろうとなるのは、当然の結論だ。
「冬の間静かだったのは……サヤくんのその腕輪でも、吟味していたんですかねぇ……」
もしそれが事実なら、もうジェスルはサヤを得るための準備を整えきっているだろう。
雪が溶け、春となった今、セイバーンまでの道のりを遮るものはない。
サヤは、きっと狙われ出す……。そんな予感がしている。
だから、吠狼らが村や館の中も警護してくれることとなったのは、本当に有難かった。
「じゃあ、そろそろ良いかな」
支度を終えた一同を見渡してそう言うと、リヴィ様とクオン様も頷き返してくれた。
注意事項は先程伝えている。
村はまだ開村していない状態で、本来なら客を招く状況に無い。
今回は、特別に模擬販売を経験してもらうということ。そのため、少々の粗相は見逃してほしいこと。
質問等は、してもらって構わないけれど、職人の仕事場へ踏み込むことはしないこと。
できることなら、村人の貴族対応の、練習相手を務めてやってほしいこと。等だ。
サヤは今日も女性の装い。いつも通りハインやオブシズ、シザー、そしてギルと、マルもいる。彼はちょっと眠そうだ。
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