異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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門出 13

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 俺たちも後に続き、土嚢壁の上に登ると、板で仕切られた壁の反対側にも土嚢が積まれ始めていた。

「これだけ積まれてるのにまだ積むの?」
「こちら側も傾斜になるようにするんですよ。その方が、水の抵抗を少なくできますし、板はいずれ朽ちますから。
 こうして袋を積んだ後、更に土と石を重ねます。
 今立つここも、砕石、砂、土、最上部に玄武岩ですね。場合によっては粘土なども重ねて道にしていきます」
「……?    層になるってこと?」
「ええ。強度を維持しなければならないので、水捌けの良い構造にしなきゃいけないんですよ。
 奥に染み込む前に、密度の差により荒い砕石の層に雨水が集まります。砕石の層は一部が土嚢壁の外側に繋げてありまして、そこから自然と外に排水されるよう、考えられた構造なんです」

 無論、道には排水溝も設ける。歩道と車道を緩く仕切るのに、その溝を利用する構造となる予定だ。

 この土嚢壁の上を交易路にするのは、山賊対策や物資運搬の効率化だけでなく、常に踏み固めて堤の強度を保つためなのだと説明する。
 川側は石で固めるけれど、畑側の側面は根を良く伸ばす草類が成長するに任せる予定。これもひとつの水捌け対策。
 地盤が緩んでは困るので、水捌けは大切なのだ。

「ここは堤としての役割があるのでそうしますけど、他の場所は、そこまでしません。
 一応、荒い砕石の層は作り、雨水の排水は二重構造となるようにはしますけどね」
「……貴方、良くこんなこと思いついたわね……」
「ははっ。俺が思いついたんじゃないですよ。知識者の進言をまとめた結果です。
 まぁ、成功するかどうかは、やってみないと分かりませんけどね。一応、堤としての役割は果たしてくれましたが」

 サヤの知識であるということは、姫様方には伝えたものの、マルが提案したこと……ということになっている。
 だからそこは誤魔化しておいた。
 この道の構造に関しても、サヤの世界の知識と、この世界の知識をマルが纏めて形にした。
 二千年以上も保っている道の構造を参考にしているので、かなり信頼度は高いと思っているのだけどな。

 作業の邪魔になってはいけないので、見学はほどほどで切り上げて、そろそろ昼食にしようという話になる。
 今日は料理長に、サンドイッチやホットドックを用意してもらった。
 夏場に賄いとして出したものを主にして、大きさだけ小ぶりに作ってもらったのだ。
 土嚢壁を降りて、雑木林の手前にある草地に敷物を敷き、ハインはお茶の準備。
 三徳と少量の薪を積み、薬缶を乗せる。食事に提供するお茶を沸かすのだ。今日は人数が多いものな。
 サヤは荷物の中にあった籠から、種類ごとに分けて布巾と油紙に包まれていたサンドイッチを広げていく。

「うっわぁ……見たことない食べ物ばかり」
「ても、食べ慣れた食材しか使ってませんよ?」
「……あの干物野菜も入ってるの?」
「はい。このタマゴサンド、卵と胡瓜と薫製肉を敢えて麵麭パンに挟んであるんです」

 トマトケチャップがあればもっと色々な味が用意できたのだけど、今日はマヨネーズだけで我慢だ。

 袴をふんわりと広げて座る女性陣に、ギルが馬車から毛織物の膝掛けを持ってきた。まだ少々風が冷たいから、冷えるといけないと思った様子。流石ギル。
 クオン様に、匙や肉叉が無いわと言われたのだけど、これは手に持って食べるんですよと伝えたら、少々驚かれてしまった。

「野駆けをする時などにお勧めの料理なのですけどね。
 道具がかさばりませんから、身軽ですよ」

 そう言って、俺とギルが好きなものに手を伸ばし、口に放り込むと、お嬢様方……とりわけクオン様はワクワクとした様子を見せる。
 とはいえ、珍しい食べ物だ。少々迷った結果、サヤが中身を教えて、比較的食べられると思ったらしい、カツサンドに手を伸ばした。
 真似をして、口を大きく開けてパクリと一口。

「んんーっ!」
「美味しいですか?」

 そう聞くと、満面の笑顔を見せてくれた。
 リヴィ様は流石に一口でとはいかず、手で口元を隠しながらゆっくりと食事を進める。

 あ、因みに、従者や武官の方々にも敷物が用意され、同じ食事が提供された。こちらは護衛も必要なので、交代で食べてもらったけど。

 食後のお茶の時間、更にサンドイッチがあってびっくりされたのだけど、サヤの国ではデザートと呼ぶのだと教えた。
 お茶とともに甘いものを少量だけ食べたりするのだという。

「あまりすると、駄目なんですけどね」

 太ってしまうらしい。だけど今日は、特別なのだ。

「今年初摘みの苺が入ったって、料理長さんが。だから、満を持して、フルーツサンドです!」
「サヤの好物なんですよ」

 急に感情を高ぶらせたサヤにキョトンとしたお二方だったけれど、サヤの好物だと聞き、その様子に納得した様子。
 フルーツサンドは、断然、苺なんです!    と、力説するサヤが可愛い。
 念願の苺フルーツサンドを口にし、蕩けそうな笑顔になっているのが、愛らしくて仕方がなかった。うううぅぅ、抱きしめたいのに……人目がある……くそっ。
 泡立て、蜜を混ぜた甘くてふわふわな白い擬乳と、赤い苺の酸味。確かに調和がとれていてとても美味。
 最後まで渋っていたクオン様も、結局は恍惚とした顔でフルーツサンドを食んでいたし。

「なんでなの……変な食べ物ばかりだったのに、結局全部美味しかった……」
「ディート殿がひたすら食事をお勧めしてきた理由が、良く分かったわね」
「フルーツサンド以外は、ほぼ人足の賄いにしていたものなんですけどね。気に入っていただけて良かったです」
「嘘⁉︎」

 そんな風に和気藹々と時間を潰し、ではそろそろ、拠点村に行こうかとなった頃……。

「レイ様!」

 名を呼ばれた。
 視線を巡らせると、川の向こう側から、小走りに駆けてくる女性の姿。
 声は聞き覚えのあるものだった。カーリンだ。

「やぁ、久しぶり……カーリン?」

 違和感を感じたのは、欄干に手を掛けつつカーリンが、どこかよたよたと走っていたこと。それと、彼女の見た目がなんとなく……何か、違う気がした。
 けれどその疑問の答えが見つかる前に、すぐ真横を風が通り過ぎる。
 ギルが走り抜けたのだ。そして、あっという間にカーリンのもとに到着し、彼女を抱きとめるものだから、一気に頭が混乱した。

 えっ、ええ⁉︎    なに、なんでギルが⁉︎

 咄嗟にリヴィ様を振り返ってしまった。俺もびっくりしていたが、リヴィ様も瞳をこれでもかと見開いていて、俺は更に慌てる。
 ちょっ、誤解……誤解ですよ⁉︎    ギルは女性全般に優しいから、これにはきっと理由が……っ!

「そんな身体で走るな!    何かあったらどうするんだ!」

 まるで怒ったような声音で、カーリンを叱りつけるギル。
 その状況にただ事ではないと、俺とサヤも急いでカーリンのもとに向かったのだけど……。

 カーリンを抱きとめたギルは、厳しい表情をしていた。
 腕の中のカーリンも、どこか顔色が冴えない。さして速く走っていたわけでもないのに、息が上がっている……。
 これは変だ。ギルとカーリンの関係がどうこうといったことではなく、何か問題があったということだ。
 俺はギルに「何があった?」と、まずは問うた。
 そうして俺に、ギルが言ったのは。

「……彼女は身重だ」

 …………。

「……み、身重?」
「…………赤ちゃん?」

 どこか呆然とした、サヤの呟きにカーリンは、顔を押さえてわっと泣き崩れ……。
 更に後方から、今度はダニルが走ってきて……ギルに抱きしめられ、泣き崩れるカーリンと隣に立つ俺を見て、凍りついたように足を止める。

「………………ダニル、話を聞かせてくれるか」

 表情を強張らせ、ただ泣くカーリンから視線を逸らしたダニル。カーリンは、ダニルに好意を寄せていた……だから……。

 ……お前がこれに、無関係ってことは、無いよな?
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