異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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作戦決行 7

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 セイバーンに到着したのは、空が仄かに、色彩を取り戻しはじめた頃合いだった。

 村の端で馬車を降り、俺たちはまず隊列を組んで、作戦の確認を行った。

「まず我々の任務は、フェルナン、アンバーの両名を捉えることだ。
 さらに、ジェスルの上位陣、特に執事長は必ず捕縛。取り逃がすな。
 ジェスルの者は、極力捕らえよ。武器を捨てた者には刃を向けるな。意味を成さない流血は許さん。
 我々はセイバーンの秩序を取り戻す。そのために剣を取るのだ!それを忘れるな!」
『っ!』

 非正規兵であるとはいえ、それなりの役割を担い、経験を積んでいる者たちは、一糸乱れぬ動きで左手を胸に当て、踵を揃えた。
 それを見届け、さあ出発だと思ったのに、一同が俺の方を向いて動きを止める。
 …………え。何か言えってこと?
 ちょっと怯みかけたけれど、自分に喝を入れ、顔を引き締めた。自分の気持ちは、自分の言葉で、きちんと届けよう。

「……今までの長い時間を、よく、耐えてくれた。
 そして父上も、同じ時間を共に戦っておられた。
 あちらは大丈夫だ。必ず、父上を無事、守り抜いてくれる。
 だからこちらも、セイバーンの者として恥じぬ行いをしよう。
 我々は、セイバーンの安寧を取り戻す。
 だがそれは、非道な行いの先には無い。
 苦しく、辛い日々を耐えてきてくれた君たちにだから、敢えて言う。これは、務めだ。
 明日の幸せのために、怨みは捨て、務めを果たしてくれ。必ず、報いるから、協力してくれ、頼む」

 皆、思うことはそれぞれあるだろう。けれど、それを敢えて飲み込んで、最敬礼でもって意思を示してくれた。

 そんな彼らの、命を預かる。
 失ってしまう者も、出るかもしれない。
 だけどその働きには、必ず報いる。セイバーンを、豊かで平和な地にする。その責務を、俺が果たす。
 今も戦ってくれているに違いないサヤたちのためにも、ここを抑え、終わらせる。

 村の中を進むと、ちらほらと起きていた農民たちが、何事かと顔を覗かせる。
 慌ててかけてきた警備の兵が、腰の剣に手をやって、俺たちを呼び止めるから、対応しようと前に出たら、それを横から遮られた。

「村の中は僕が。
 レイ様は本館へ急いでいただく方が良いと思いますよぅ」

 マルがそう言うので、ここは任せることにし、隊の一つをマルに残した。

「何かあれば……」
「良いですって。心得てますから。さぁ、急いでください」

 ポンと背中を押されて、先へ進んだ。
 橋を渡り、村の中を足早に突っ切る。
 朝の早い農民らと違い、北側の区画はまだ静かなものだ。
 村を抜け、ゆるい先道を登り、馬車用入り口を通り過ぎて、本館の門前にさしかかると、警備の兵二人が驚いた顔で俺を見る。
 そしてちらりと本館を見たかと思うと、一人が慌てて駆け寄ってきた。

「な、何事ですか⁉︎    こんな物々しい……いけません、ヤケを起こしては……」

 そう見えたか……。

「ヤケじゃないよ。必要があって、こうして来た。
 父上を救出した。病ではなく、監禁されていたんだ。
 今は安全な場所へ避難してもらっているが、こちらを放置するわけにはいかない。
 我々はこれより、アンバー、フェルナン、ジェスル幹部らを拘束しに行くので、ここを通る」

 そう言うと、あんぐりと口を開けて、棒立ちになった。
 きっと頭の中は混乱の極みにあることだろう。

「君たちは、誰も何も、見ていないとしておいてくれ。
 ここに父上がおられない以上、私の立場が反逆者となることは理解している。けれど、今動かなければ、被害を食い止めるのはより難しいことになるだろう。
 だから、君らがどれほど職務に忠実であっても、押し通る。
 が……セイバーンの者同士で、争うことはしたくない。
 だから、君らは何も、見ていない。ことが終わるまで、そうしておいてくれ」

 静かに、冷静な口調を意識して、言い聞かせるようにそう、伝えた。
 その場にその男を残し、足を進めようとすると……。

「待って、ください。
 し、正面からなんて、駄目です。
 そもそも、人数が、全然、少ないのに……!」

 そんな風に言い、必死で俺の上着を掴んできた。
 周りがザワリと警戒すると、慌てて手を離し……。

「あっあの……。ちょっと、ちょっとだけ、待っててくださいませんか。兵士長を、呼んできますから。せめて、長の判断を、仰がせてください!
 僕らは、貴方様を害す気はありませんが、のこのこ行って、貴方様に何かあっては……そ、それが、一番、怖いんです!    お願いします!」
「……人数が少ないことは、承知の上だ。それでも為すことは成さねばならない。
 それに申し訳ないが、時間が無い。行かせてもらう」
「ちょ、ちょっと待った!    待ってくだせぇ!
 お前も声がでけぇ、聞こえちまうだろうがっ」

 馬車用出入り口から、壮年の男が慌てたように駆けてきた。門番の頭を一発叩き、俺に対し礼をとってから「確かなのですか」と、口調を改め、問うてくる。

「領主様のことは、確かに、監禁であったのですか」
「……聞こえていたのかい?」
「門の内側にたまたま遅れてた、交代役が。それが急ぎ知らせてきました。
 それが確かであれば、我々は、貴方様に従うべきであります」
「なんの保証も持ち合わせていない。
 だから、見なかったふりをしていろと言っている」
「みすみす失敗しそうなのに、そんなん承知できますか!
 ああもう、協力します!    貴方様には、借りがあるんだ俺は。娘を助けてくださったことが……覚えていらっしゃるかは存じませんがね!
 馬車出入り口から入ってください。兵舎の通用口から館へ。ジェスルの騎士らの控え室前を、極力通らないで進めます。
 ジェスルの者らは、どうするおつもりで……」
「無益な流血は望まない。
 目的は、異母様、兄上、ジェスル上官職の捕縛だ。早急に上を抑える」
「畏まりました。
 では我らは極力足止め、拘束に務めます。……信用してくださいますか?」

 その壮年の男は、真面目な顔で、俺にそう問うてきた。
 うん。できないわけがない。その男がどこの誰か、どんな人かを、俺は知っている。

「宜しく頼む」

 そう言うと、胸に手を当て一礼し、交代員の到着した門番が入れ替わると、先ほど俺に縋り付いていた男に……。

「お前は、給仕長の元に走れ。領主様の密命だ。ジェスルの者を拘束するとな。事を荒立てずと念を押せ。
 二年半ぶりだと、そう言ってやれ」
「い、いいんですかね……」
「いい!    行けっ」
「はいっ」

 門番が駆けていくと壮年の男は「まあ、嘘にはならんでしょ」と、呟き、俺たちの誘導のため、こちらへどうぞと促した。
 馬車用出入り口から、厩の前を通り過ぎ、本館横の兵舎へ向かう。中に入るなり鋭い声で「整列!」と、号令をかけた。
 仮眠をとっていた者も、慌てて起き整列する。あっという間だ。

「領主様より密命。ジェスル捕縛の任だ。
 時間がねぇ、早急に上を抑えるとのことだ。お前ら、ジェスル控え室の扉を縄で括っていけ!    時間を稼げりゃいい。
 殺生は極力控えろ、容疑者は皆尋問せにゃならん。重ねた罪を一つ残らず晒してやるためにな」
「はっ!」
「レイシール様、補足等はございますか」
「自身の身の安全を優先しろ。無茶はしないこと」
「……は、はいっ!」

 言葉を添えると、兵舎の者は瞳を潤ませ、兵士長は苦笑した。
 そうしてから、ご案内しますと通用口を開く。

「兵士長……」
「館内の者に説明が必要なんでね。同行します」

 引く気は無いらしい。
 先程の領主様からの密命という発言も、自身で責任を持つ気でいるのだろう。
 そのことに苦笑してしまう。彼らも、この時を待っていたのかもしれない……。

「では行く。
 ジーク、ここからは気を引き締めよう」
「承知しておりますよ。では各隊、指示通りだ」
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