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望む未来 9
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そこで、急に喧騒が大きくなった。
二階から、姫様の護衛や従者の面々が到着した様子だ。
姫様がリーカ様しか連れていないのはちょっと違和感があった。従者の方が、応援を呼びに走っていたか。
そんなことを考えながら玄関広間を覗くと、あろうことか、リカルド様が姫様の胸倉を掴んでいる姿が見えて、咄嗟に足が動いていた。
「お止め下さい!」
女性に何しようとしてるんだこの人は⁉︎
走り寄って、腕を必死で抱え込む。
お互い同士しか見えていなかった彼らに、俺は意識されていなかったらしい。上手く間をすり抜けて、リカルド様の腕を捕まえることが出来た。
「女性に何をするのです⁉︎」
「煩い! 言っても分からん馬鹿者にはこうするしかあるまいが⁉︎」
頭に血が上ってしまっているのだろう。リカルド様は、力任せに俺を、腕から振り解く。
駆けつけた従者方は、リカルド様の配下の方に阻まれて、今一歩、届かない。
言って分からない人を殴ったって、多分、分からないことは変わらない。
それくらいで分かるなら、既に納得しているだろうに。
俺が避難していたから、ルオード様の元で遠巻きに状況を見ていたハインが、慌ててこっちに来ようとするが、来るなと視線で伝えた。こいつは手段を選ばない。火に油を注ぐ結果になるのが目に見えている。
冷静な状況判断が出来なくなっているのか、リカルド様がまた、姫様を捕まえようと腕を伸ばす。
一回殴らないと納得しないかな……。
だからって姫様を殴らせるわけにはいかないわけで、仕方がないので、リカルド様の腕を狙うことは諦め、姫様を抱え込む様にして庇った。
殴られること事態には、慣れている。
だから、まあ、そんなに気負いもなく取った行動だったのだが。
しばらく待っても衝撃は来ない。それどころか、場がしんと、静まり返っている違和感に気が付いた。
なんとなく察する。振り返ると、どういった事態に陥ったのかは分からないが、リカルド様が俺に背を向けて、床に座り込んでいた。右腕はサヤに握られている。周りの度肝を抜かれたといった様子からして、サヤが投げたな……リカルド様を。前にギルが宙を舞ったから、俺の衝撃は然程では無いが、小柄なサヤが大の男を投げ飛ばす様を見せられた面々は吃驚だろう。
「サヤ」
声を掛けると、リカルド様の手を離し、さっと俺の前に陣取る。
「暴力はいけません。それで物事が解決しないことくらい、リカルド様だってご承知でしょう?」
俺の言葉に、ハッと我に帰ったらしいリカルド様が、慌てて床を這う様にして逃げる。そのリカルド様とサヤの間に、配下の方が割り込むけれど、こちらとしてはもう、何をする気もないので、させるに任せた。
姫様を庇いきれなかった従者二人が、やっとのことで駆け寄って来るから、姫様を託す。
配下の後ろで、俺を凄い眼力で睨み据えているリカルド様。その瞳に焦りの様なものを読み取ったので、俺は口を開くことにした。
希望を、口にして良いと、言ってくれた。
俺一人で背負わなくて良いと、言ってくれた……。
だから……それを、言葉にする。
「その様に心配なさらずとも、俺は、王になんて興味はありません。
姫様の夫にという話も、申し訳ありませんが、辞退させて頂きたいと、思います。
俺には、寝耳に水の話です。リカルド様には信じられないかもしれませんが」
こんなことになる直前まで、姫様だなんて思ってすらいなかったのだから。
俺の拒否に、姫様が愕然とした顔をする。そして、泣きそうな程に、顔を歪めた。
そんな風に、絶望しないでほしい。別に、見捨てようというんじゃ、ないんです。
「ここは、私の館です。ここで、暴力で物事を解決しようとするのは、お止め下さい。
折角です。お互いの希望を言葉にして、話し合いをしませんか。
姫様も、リカルド様も、王家の安寧を思えばこそ、この様なことをされたのでしょう?なら、すり合わせが必要かと思います」
極力感情を抑えて、冷静な声音となるよう意識した。
感情で訴えても、場が炎上するだけだと思ったのだ。
俺の前に立つサヤは、静かに闘気を多揺らせている。
その凛々しい背中が、暫くぶりに、サヤを近く感じさせて、なんだか気持ちが落ち着いた。
だから、リカルド様がどれほど俺を睨もうと、配下の方が警戒を露わに、剣に手をかけていようと、冷静でいられる。大丈夫。サヤが、居てくれる。マルだって、俺の望みを、聞いてくれた。ギルと、ハインは……疑いようもない。今までずっと、俺を支えてくれていた二人だから。俺が俺らしくあれる様に、ずっと、願ってくれていた二人だから。
「姫様も……。
ただがむしゃらに押し進もうとするのは、良くありません。
姫様がどうされたいのか、ちゃんと言葉で聞かせてくれませんか。
一人で苦しまないで。貴女は孤独ではないと、言ったじゃありませんか」
乱闘騒ぎに発展していた玄関広間がやっと静まり、リーカ様が階段を駆け下りてくる。
ハインも俺の横にやって来た。
ルオード様は、拳を握って場を静観していたが、やっとその手の力を抜いて、肩を落とす。
騒ぎに介入しようとなさらなかったのは、何か理由があるのだろうな。そのことも一応、心に留めておくことにする。
「言ったとて……どうなる……。私の望みなど、誰も聞かぬわ。
何よりも重要なのは王家の存続。何を言うてもそうだったのだ…………」
「それは、王都での話ですよね?でもここは、セイバーンですよ。
それに……それでも諦められないから、足掻いているのでしょう?ならば、足掻きましょう。我々にその気持ちを伝えることも、その一つだ。
そして、皆が一番良いと思える方法を、探しましょう」
リーカ様が、姫様に寄り添って、そっと肩を抱きしめた。
そして俺に視線をやって、強く頷くから、姫様の説得は、彼女に任せることにする。
俺は今一度、リカルド様に向き直った。
「時間も無いのに、何を悠長な……」
「外は豪雨です。姫様を連れ帰るにしても、今日は無理ですよ。
ならば一晩、天候の改善を待つ間、語り合うくらい、良いではありませんか。
それに、無理やり連れ帰って、強引に婚儀を上げて、それで何か解決するでしょうか?お二人の溝が、深くなりこそすれ、良い方向には、絶対に動きません。
あと……リカルド様には、私がどういった者かを知って頂く必要があると思います。
私は、王なんて望みませんし、そんな器じゃない。貴方が不安を抱くような人間ではないのですよ。正直な話」
心を乱すだけ損だと思う。
姫様は押し切ろうとされているが、普通に考えたら、俺が王になるとか、そもそも無い。
あまりな展開に振り回されたけれど、気持ちを落ち着けたら、そう思えた。
「では、配下の皆様は食堂へどうぞ。お茶を用意致します。
話し合いは、当事者同士が相場。余計な口出しは無い方が良いでしょう。再度、先程の様なことになりかねませんから」
俺の言葉を拾って、ハインが良く言えば冷静沈着に……普段通り表現するなら、無礼すれすれな感じで、すたすたと歩き、食堂の扉を開く。
いつの間にか、玄関広間にディート殿やマル、ギルやルーシーも出て来ていた。
うーん……マルは必要だ。だけど、ギルやルーシーは引っ込んでおく方が良いな。庶民に王家の問題は重たすぎるだろう。
「では、俺の私室にどうぞ。お連れの方はお一人だけでお願いします」
「リカルド様を、信用のならぬ者らの中に晒すなど!」
リカルド様の配下の、一番年長者っぽい人が渋る。
先程、剣の柄に手を掛けていた人だ。姫様の御前で、抜刀も辞さないといった雰囲気には、正直ちょっと行き過ぎている感じがした。リカルド様を大切にされているのだとしても、状況によっては、主人まで不利にしかねない行動だ。
この人にはちょっと注意しておこう。そう思いつつ、言われた言葉に溜息が溢れる。
それは、今更じゃないかな?と、思ったのだ。
「そう思うなら、少人数でこの様なところに乗り込んで来ないで下さい。
先程のことで、サヤを警戒しているのであれば、この子は私に危害を加えようとしない限り、無体なことはしません。ご安心下さい。
それとも……この様な子供が怖くて、話し合いが出来ないと言われますか?」
最後の一言はリカルド様に向けた。
彼が是としなければ、話が進まないと思ったのだ。
成人すらしていない、格下の俺に舐められるなど、矜持が許さないだろう。案の定、リカルド様は渋った配下を押し退け、別の一人を指名した。その人と話し合いの席に着く。ということの様だ。
「では、私はサヤではなく、マルクスにします。
サヤは給仕係として部屋に入れますが、用意が済めば、部屋の外に待機させます。それで宜しいでしょうか?」
サヤならば、外からでも中の話は聞こえるだろうし、何かあれば駆けつけてくれるだろう。
だから、ここは策略大得意の、マルを連れて行くことにした。
「レイ様、それだと貴方が無防備すぎます……僕、戦力外ですよ?貴方だって、剣は握れないでしょうに……」
帯剣すらしていない俺に、今更気付いた様子のリカルド様が、少し驚いた表情になる。
まあ、貴族のくせに剣を帯びていないこと事態がなかなか無いものな。
「では……ルオード様に、同室して頂く。というのは如何でしょう?
先程の騒ぎでも中立を保って下さいましたから、適任かと。
俺につくのではなく、扉の内側に、同室願うだけの形で。
ルオード様が信用できる方であるかどうかは、リカルド様もご存じでしょうし」
姫様の婚約者であれば、顔を合わせることも当然あったろう。
「だが、そうなれば姫様ばかりの戦力が……」
まだ渋るんですか……。心配性な方だな。
近衛であるから、姫様の戦力と考えたのは頷けるが……。そこは女性なのだから、守られて然るべきだろう。少しくらい厚くても文句なんて言わないでほしい。
そう思ったのだが、姫様はやはり、負けず嫌いだった……。
「そう言うならば、私はリーカを伴う。
これで、リカルドが一番戦力的に厚く遇されておるな。満足であろう?」
……喧嘩を売らないでほしい……。
リカルド様がまた酷く怖い形相になってしまった……。
だけどリカルド様の配下は騎士然とした男性三人しかいないので、どうしようもない。
これ以上何かしら応酬してまた喧嘩になられても困る。そう思ったので、それでは移動しましょうかと声を掛け、率先して動くことにした。
「ハイン、従者の方々の対応は任せる。その……衝突がない様にお願いする」
「案ずるな。俺が目を光らせておいてやろう」
話し合いに同席出来ないディート殿が、ハインとともに部屋を管理してくれるらしい。
まあ、この方なら、万が一の乱闘騒ぎでも勝ち抜くだろう。場の制圧担当って所か。そんな風にはなってほしくないけれども。
「よろしくお願いします」
ギルとルーシーにも、目配せでお願いした。
とりあえず、騒ぎにだけはしない方向で、ほんと、お願いする。
二階から、姫様の護衛や従者の面々が到着した様子だ。
姫様がリーカ様しか連れていないのはちょっと違和感があった。従者の方が、応援を呼びに走っていたか。
そんなことを考えながら玄関広間を覗くと、あろうことか、リカルド様が姫様の胸倉を掴んでいる姿が見えて、咄嗟に足が動いていた。
「お止め下さい!」
女性に何しようとしてるんだこの人は⁉︎
走り寄って、腕を必死で抱え込む。
お互い同士しか見えていなかった彼らに、俺は意識されていなかったらしい。上手く間をすり抜けて、リカルド様の腕を捕まえることが出来た。
「女性に何をするのです⁉︎」
「煩い! 言っても分からん馬鹿者にはこうするしかあるまいが⁉︎」
頭に血が上ってしまっているのだろう。リカルド様は、力任せに俺を、腕から振り解く。
駆けつけた従者方は、リカルド様の配下の方に阻まれて、今一歩、届かない。
言って分からない人を殴ったって、多分、分からないことは変わらない。
それくらいで分かるなら、既に納得しているだろうに。
俺が避難していたから、ルオード様の元で遠巻きに状況を見ていたハインが、慌ててこっちに来ようとするが、来るなと視線で伝えた。こいつは手段を選ばない。火に油を注ぐ結果になるのが目に見えている。
冷静な状況判断が出来なくなっているのか、リカルド様がまた、姫様を捕まえようと腕を伸ばす。
一回殴らないと納得しないかな……。
だからって姫様を殴らせるわけにはいかないわけで、仕方がないので、リカルド様の腕を狙うことは諦め、姫様を抱え込む様にして庇った。
殴られること事態には、慣れている。
だから、まあ、そんなに気負いもなく取った行動だったのだが。
しばらく待っても衝撃は来ない。それどころか、場がしんと、静まり返っている違和感に気が付いた。
なんとなく察する。振り返ると、どういった事態に陥ったのかは分からないが、リカルド様が俺に背を向けて、床に座り込んでいた。右腕はサヤに握られている。周りの度肝を抜かれたといった様子からして、サヤが投げたな……リカルド様を。前にギルが宙を舞ったから、俺の衝撃は然程では無いが、小柄なサヤが大の男を投げ飛ばす様を見せられた面々は吃驚だろう。
「サヤ」
声を掛けると、リカルド様の手を離し、さっと俺の前に陣取る。
「暴力はいけません。それで物事が解決しないことくらい、リカルド様だってご承知でしょう?」
俺の言葉に、ハッと我に帰ったらしいリカルド様が、慌てて床を這う様にして逃げる。そのリカルド様とサヤの間に、配下の方が割り込むけれど、こちらとしてはもう、何をする気もないので、させるに任せた。
姫様を庇いきれなかった従者二人が、やっとのことで駆け寄って来るから、姫様を託す。
配下の後ろで、俺を凄い眼力で睨み据えているリカルド様。その瞳に焦りの様なものを読み取ったので、俺は口を開くことにした。
希望を、口にして良いと、言ってくれた。
俺一人で背負わなくて良いと、言ってくれた……。
だから……それを、言葉にする。
「その様に心配なさらずとも、俺は、王になんて興味はありません。
姫様の夫にという話も、申し訳ありませんが、辞退させて頂きたいと、思います。
俺には、寝耳に水の話です。リカルド様には信じられないかもしれませんが」
こんなことになる直前まで、姫様だなんて思ってすらいなかったのだから。
俺の拒否に、姫様が愕然とした顔をする。そして、泣きそうな程に、顔を歪めた。
そんな風に、絶望しないでほしい。別に、見捨てようというんじゃ、ないんです。
「ここは、私の館です。ここで、暴力で物事を解決しようとするのは、お止め下さい。
折角です。お互いの希望を言葉にして、話し合いをしませんか。
姫様も、リカルド様も、王家の安寧を思えばこそ、この様なことをされたのでしょう?なら、すり合わせが必要かと思います」
極力感情を抑えて、冷静な声音となるよう意識した。
感情で訴えても、場が炎上するだけだと思ったのだ。
俺の前に立つサヤは、静かに闘気を多揺らせている。
その凛々しい背中が、暫くぶりに、サヤを近く感じさせて、なんだか気持ちが落ち着いた。
だから、リカルド様がどれほど俺を睨もうと、配下の方が警戒を露わに、剣に手をかけていようと、冷静でいられる。大丈夫。サヤが、居てくれる。マルだって、俺の望みを、聞いてくれた。ギルと、ハインは……疑いようもない。今までずっと、俺を支えてくれていた二人だから。俺が俺らしくあれる様に、ずっと、願ってくれていた二人だから。
「姫様も……。
ただがむしゃらに押し進もうとするのは、良くありません。
姫様がどうされたいのか、ちゃんと言葉で聞かせてくれませんか。
一人で苦しまないで。貴女は孤独ではないと、言ったじゃありませんか」
乱闘騒ぎに発展していた玄関広間がやっと静まり、リーカ様が階段を駆け下りてくる。
ハインも俺の横にやって来た。
ルオード様は、拳を握って場を静観していたが、やっとその手の力を抜いて、肩を落とす。
騒ぎに介入しようとなさらなかったのは、何か理由があるのだろうな。そのことも一応、心に留めておくことにする。
「言ったとて……どうなる……。私の望みなど、誰も聞かぬわ。
何よりも重要なのは王家の存続。何を言うてもそうだったのだ…………」
「それは、王都での話ですよね?でもここは、セイバーンですよ。
それに……それでも諦められないから、足掻いているのでしょう?ならば、足掻きましょう。我々にその気持ちを伝えることも、その一つだ。
そして、皆が一番良いと思える方法を、探しましょう」
リーカ様が、姫様に寄り添って、そっと肩を抱きしめた。
そして俺に視線をやって、強く頷くから、姫様の説得は、彼女に任せることにする。
俺は今一度、リカルド様に向き直った。
「時間も無いのに、何を悠長な……」
「外は豪雨です。姫様を連れ帰るにしても、今日は無理ですよ。
ならば一晩、天候の改善を待つ間、語り合うくらい、良いではありませんか。
それに、無理やり連れ帰って、強引に婚儀を上げて、それで何か解決するでしょうか?お二人の溝が、深くなりこそすれ、良い方向には、絶対に動きません。
あと……リカルド様には、私がどういった者かを知って頂く必要があると思います。
私は、王なんて望みませんし、そんな器じゃない。貴方が不安を抱くような人間ではないのですよ。正直な話」
心を乱すだけ損だと思う。
姫様は押し切ろうとされているが、普通に考えたら、俺が王になるとか、そもそも無い。
あまりな展開に振り回されたけれど、気持ちを落ち着けたら、そう思えた。
「では、配下の皆様は食堂へどうぞ。お茶を用意致します。
話し合いは、当事者同士が相場。余計な口出しは無い方が良いでしょう。再度、先程の様なことになりかねませんから」
俺の言葉を拾って、ハインが良く言えば冷静沈着に……普段通り表現するなら、無礼すれすれな感じで、すたすたと歩き、食堂の扉を開く。
いつの間にか、玄関広間にディート殿やマル、ギルやルーシーも出て来ていた。
うーん……マルは必要だ。だけど、ギルやルーシーは引っ込んでおく方が良いな。庶民に王家の問題は重たすぎるだろう。
「では、俺の私室にどうぞ。お連れの方はお一人だけでお願いします」
「リカルド様を、信用のならぬ者らの中に晒すなど!」
リカルド様の配下の、一番年長者っぽい人が渋る。
先程、剣の柄に手を掛けていた人だ。姫様の御前で、抜刀も辞さないといった雰囲気には、正直ちょっと行き過ぎている感じがした。リカルド様を大切にされているのだとしても、状況によっては、主人まで不利にしかねない行動だ。
この人にはちょっと注意しておこう。そう思いつつ、言われた言葉に溜息が溢れる。
それは、今更じゃないかな?と、思ったのだ。
「そう思うなら、少人数でこの様なところに乗り込んで来ないで下さい。
先程のことで、サヤを警戒しているのであれば、この子は私に危害を加えようとしない限り、無体なことはしません。ご安心下さい。
それとも……この様な子供が怖くて、話し合いが出来ないと言われますか?」
最後の一言はリカルド様に向けた。
彼が是としなければ、話が進まないと思ったのだ。
成人すらしていない、格下の俺に舐められるなど、矜持が許さないだろう。案の定、リカルド様は渋った配下を押し退け、別の一人を指名した。その人と話し合いの席に着く。ということの様だ。
「では、私はサヤではなく、マルクスにします。
サヤは給仕係として部屋に入れますが、用意が済めば、部屋の外に待機させます。それで宜しいでしょうか?」
サヤならば、外からでも中の話は聞こえるだろうし、何かあれば駆けつけてくれるだろう。
だから、ここは策略大得意の、マルを連れて行くことにした。
「レイ様、それだと貴方が無防備すぎます……僕、戦力外ですよ?貴方だって、剣は握れないでしょうに……」
帯剣すらしていない俺に、今更気付いた様子のリカルド様が、少し驚いた表情になる。
まあ、貴族のくせに剣を帯びていないこと事態がなかなか無いものな。
「では……ルオード様に、同室して頂く。というのは如何でしょう?
先程の騒ぎでも中立を保って下さいましたから、適任かと。
俺につくのではなく、扉の内側に、同室願うだけの形で。
ルオード様が信用できる方であるかどうかは、リカルド様もご存じでしょうし」
姫様の婚約者であれば、顔を合わせることも当然あったろう。
「だが、そうなれば姫様ばかりの戦力が……」
まだ渋るんですか……。心配性な方だな。
近衛であるから、姫様の戦力と考えたのは頷けるが……。そこは女性なのだから、守られて然るべきだろう。少しくらい厚くても文句なんて言わないでほしい。
そう思ったのだが、姫様はやはり、負けず嫌いだった……。
「そう言うならば、私はリーカを伴う。
これで、リカルドが一番戦力的に厚く遇されておるな。満足であろう?」
……喧嘩を売らないでほしい……。
リカルド様がまた酷く怖い形相になってしまった……。
だけどリカルド様の配下は騎士然とした男性三人しかいないので、どうしようもない。
これ以上何かしら応酬してまた喧嘩になられても困る。そう思ったので、それでは移動しましょうかと声を掛け、率先して動くことにした。
「ハイン、従者の方々の対応は任せる。その……衝突がない様にお願いする」
「案ずるな。俺が目を光らせておいてやろう」
話し合いに同席出来ないディート殿が、ハインとともに部屋を管理してくれるらしい。
まあ、この方なら、万が一の乱闘騒ぎでも勝ち抜くだろう。場の制圧担当って所か。そんな風にはなってほしくないけれども。
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