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命の価値 14
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夜の明けぬうちに、胡桃さんたちはセイバーンを離れた。
小一時間だけ仮眠を取ったサヤも、すぐ身支度を済ませ、賄いを作りに行った。
日が昇ってすぐ、別館には衛兵が呼ばれ、検分や聞き取り、死体の運び出しに時間を取られたのだが、何故襲撃の後直ぐ、連絡を寄越さなかったのかと訝しむ衛兵に、ハインがいつも以上に剣呑な顔で「そんな余裕があるとでも?」と、凄む。
「人手不足なのですよ。この襲撃も、護衛の一人が用足しに行った隙をつかれたのです。
レイシール様をお守りする身としては、わざわざ報告に人を一人使う気になりませんね。
それでも直ぐに連絡をよこせと言うなら、次からはそうしましょう。
で? 万が一、レイシール様に何かあった場合、どなたが責任を取って下さるので?」
当然、返事を返す者はいなかった。まあ、こっちも夜襲に出てたから連絡に行けませんでしたとは言えないから、上手く誤魔化せて良かったよ。
襲撃は押し込み強盗の仕業ということで落ち着いた。兇手では? という疑いは、見ないことにした様だ。執事との交渉? 恐喝? も、上手くいったということなので、これ以上ことを荒立てる必要もなく、その結論を受け入れる。
その代わり、屍三体を引き取りたいと申し出た。
何の為に? と聞かれたのだが、いや、弔う為だよと伝えたら、余計腑に落ちない顔をされた。
「命を狙って来た相手をですか?」
「死ねばただの躯だ。もう悪さもしないのだから、弔ったところで害にはならないだろう?」
打ち捨てたら山犬や狼を呼びかねないしと言うと、一応は納得してくれた。
こちらの襲撃は、どうやら知られずに済んでいる様子だ。もしくは、同じ輩に襲われたと考えたのかもしれない。
こちらは撃退したけれど、あちらはまんまとやられたわけだ。口外はしにくいな。
エゴンは元から伏せられていたろうから、姿を消したことを誰も言及しなかった。
エゴンも、胡桃さんたちと共にセイバーンを離れている。ここに置いておくのは色々とやばい。メバックの、商業会館に匿ってもらう手筈をマルが調えていたので、今頃はもう到着していることだろう。
事情は語って聞かせ、落ち着いたというか……もう色々気力が尽きた様子だったので、しばらくは大人しくしていると思う。
ウーヴェには、朝のうちに父親の無事を知らせたのだが、父と共に行くより、工事の手伝いを優先すると言われた。
事後処理があり、作業に手が回せない俺たちを、気遣っての発言だと思う。正直ありがたかった。親子の再会を先延ばしにさせるのは申し訳なかったのだが「もう、再会は無いと覚悟していましたから……数日会えないくらい、なんてこともありません」と、そう言った。
昼。サヤはまた、賄い作りに行った。
引き取った屍は焼かれ、共同墓地に埋葬する。村外れの焼き場は、襲撃を受けたさらに先にある為、俺は出向くことが出来なかった。万が一があるからと、止められてしまったのだ。
なので、昼食前のひと時に、墓地への埋葬から参加することとなった。
大きな共同墓地の石碑の下に、村人らとともに眠ることになるから、寂しくはないだろう。
サヤから、手向けの野花を託されていたので、それを供える。
通常は、石碑に名と、没した日を刻むのだが、彼らの名が分からない……どうしたものかと悩んでいたら、マルが「髪の色を名の代わりに刻みましょう」と言ったので、その様に処理することにする。
「兇手は、名を捨てます。だから、彼らも多分、名はありませんよ」
そう言われ、あぁと、気付く。
胡桃さん、名ではないのだ。胡桃色の髪だから、胡桃さん。
なら、草と呼ばれていたのは、草色の髪の、彼だ。
「兇手は自身の名を名乗りません。いつも偽名ですからねぇ。使わないから捨てるのだそうで。
……良い名だったんですけどねぇ」
それが、胡桃さんについで言っているのだということは、すぐに分かった。
胡桃さんの名を知っているマル。それはつまり、彼女が兇手となる前からの、知り合いだということ。
「同郷なんですよねぇ。
あそこは寒さが厳しくて、冬の間、食料が手に入りにくい。
胡桃は、冬山でも獲物を狩ることのできる、狩猟の民の出です。
いつも毛皮をまとった珍妙な一団なんですよぅ。なにせ、頭は獣の頭蓋で作った、頭巾を被ってましてね。その実態は……ふふ、なんだと思います?」
答えは、出てるようなものだな……。
「とはいえ、胡桃ほど顕著に、特徴の出ている者は珍しい。大抵は、もう少し人に近いですよ。
彼女はきっと、先祖返りなんでしょう。獣化なんて、今は殆ど、できる者はいないそうですし。
勿体無いですよねぇ……あんなに美しいのに。
四本足の頃の彼女は、そりゃあ凛々しく、美しかったんですよ。
彼女も、身を晒しさえしなければ、人としていられたんですけどねぇ」
何があったのかは、語らなかった。けれど、狩猟の民であることを辞め、兇手となるしかなかったのだろう。あの姿は、どうあっても人では通せない。
…………何故、獣人は、悪魔の使徒となったのだろう……。
何故、獣人は、人と共に生きられないのだろう……。
知られさえしなければ、人でいられるのに。
「マル……近いうち、また胡桃さんに、会えるかな?」
そう聞くと、気が向けば、あちらから来るんじゃないですか?という返事があった。
「レイ様のこと、気に入ってはいるようですよ。
胡桃の獣化を見ても、態度を変えませんでしたし。
サヤくんの同行を許したことで、彼女らを使い捨てにする様な使い方を、する気が無いことも、証明できましたし。
サヤくんがレイ様方にとって大切な存在であることも、理解してましたしね。
なにより、貴方はハインを重用してますからねぇ。
ハインが獣人と知りつつあの態度なレイ様には、好感を覚えたことでしょう」
……なんか、全部、マルの手の内って気がするのは……気の所為じゃないんだろうなぁ。
けれど、マルはよくやってくれてる。
自分の思惑も何かしら含んでいるのだろうけれど、別にそれが嫌でもないし。
そう思ったので、懐から小箱を取り出す。
「マル、君にこれを受け取って欲しいと思うんだけど」
「はい?」
銀と青玉で作られた襟飾。マルのものは、開いた本の意匠だ。
正直、これ以外の形を思い付かなかった。
俺の手の中の飾りを見たマルが、困った顔をする。
「レイ様……僕、商業会館に籍を置いてるんですけど?」
「分かってる。でも、俺がマルをどう思ってるかって部分は、これで証明したかったんだ。
身の保証にも使えるんだろう?保険だと思って持っててくれないか」
差し出したそれを、まじまじと見て、こてんと首を傾げる。
まだ何か問題があるのか?
「……後で取り下げたりとか、渡す相手が間違ってたとか、ありませんよね?」
「俺をなんだと思ってるの……。そこまで間が抜けてるつもりはないよ。
それに、これはマルの為の意匠なんだから。マルが受け取らないなら、誰の手にも渡らない」
俺の机の中で埃を被ることになるだけだ。
マルが、やっと俺の手の上の、飾りを指で摘まみ上げる。
「僕、結構自分勝手すると思うんですけど……本当に大丈夫です?」
「それも含めてる。マルの勝手も、嫌じゃないよ。ちょっと色々、忍耐を問われると思うけど、そこは俺が努力するよ。
マルとだって、結構な時間を共に過ごしている。マルがどんな人かも、分かってるつもりだけど……まぁ、まだ知らない部分は沢山あるんだろうなぁ。
けど、ハインにもそんな部分はあったんだし、気にしない」
「ほんと、計り知れない胆力の持ち主ですね、レイ様」
マジですかぁ。と、呟く。
嫌なら、拒否する権利もあるんだよ?と、言うと、慌ててそれを懐にしまった。
「貰っちゃいますからね?後悔しても知りませんよ?」
「しつこい。しない」
「じゃあ、レイ様の部下だと名乗りたい時は、これ、使わせてもらいます」
「うん。よろしく。あまり、危ないことを勝手にするなよ?」
「そこはお約束出来かねますねぇ」
埋葬を見届けてから、護衛としてついて来ていた、ハインとギルの所に戻る。
少し離れた、見晴らしの良い場所から、全体を警戒していたのだ。
それにしても……ハイン、帰ったら絶対に休憩させないとな。ギルやサヤより休んでないのは確実なのに、譲らないんだから……。
「さぁて、じゃあ、戻ったらエゴンの処理ですねぇ」
馬車に乗り込むと、マルがそう言った。
動き出す馬車に揺られつつ「うん」と、相槌を打つ。
「ジェスルとの関わりを伏せる為、エゴンに全責任を取らせます。財産も没収。
その代わり、命は取らない……で、良いのですね?正直、斬ってやるべきだと思うんですが」
「今までの横領金額が、ギリギリ賄える財、ちゃんとあるんだろう?
メバックから立ち退き。職も失うことになる。しかも全財産没収。充分な制裁じゃないか?」
「違います。切って捨ててやるのが、慈悲だし妥当だと言ってるんですよ。
ウーヴェの枷でしかないですし、穀潰しですよ。人の怨みも多く買っている。
裏切りや情報の漏洩……危険を抱えることにもなります。それでも生かしておくのです?」
「……うん。それだけの罪だ。死んで償える内容ではない。だろ?」
そう言ったのだが、ギルも、マルも渋面だ。
俺が、罪に対しての罰として、エゴンを殺さないのではないと、知っているから。
せっかく生きて帰れたのだから、死なせたくない。親子の時間を、大切にしてほしい。
死んでしまっては、後悔も、何もない。苦しさが残るだけだ。
でも、生きていれば、時が解決するものもある。
「まぁ、レイ様がそれで良いなら、良いんですけどねぇ。
結構な資金調達ができますし、僕的には恨みもありませんし。
それで落とし所を調節しますけど……」
またハインが納得しないんでしょうねぇ……と、呟く。
今御者をしているハインは多分、ものすごく怖い顔をしていると思う。小窓を開けているので、話は聞こえているだろうしな。
「メバックを離れれば、親子で生活するくらい、なんとかなると思うよ。ウーヴェは優秀だし」
「あいつ、金貸しに向いてねぇし、嫌ってたし、ある意味良かったかもな」
そんな風に話しながら、帰路についた。
小一時間だけ仮眠を取ったサヤも、すぐ身支度を済ませ、賄いを作りに行った。
日が昇ってすぐ、別館には衛兵が呼ばれ、検分や聞き取り、死体の運び出しに時間を取られたのだが、何故襲撃の後直ぐ、連絡を寄越さなかったのかと訝しむ衛兵に、ハインがいつも以上に剣呑な顔で「そんな余裕があるとでも?」と、凄む。
「人手不足なのですよ。この襲撃も、護衛の一人が用足しに行った隙をつかれたのです。
レイシール様をお守りする身としては、わざわざ報告に人を一人使う気になりませんね。
それでも直ぐに連絡をよこせと言うなら、次からはそうしましょう。
で? 万が一、レイシール様に何かあった場合、どなたが責任を取って下さるので?」
当然、返事を返す者はいなかった。まあ、こっちも夜襲に出てたから連絡に行けませんでしたとは言えないから、上手く誤魔化せて良かったよ。
襲撃は押し込み強盗の仕業ということで落ち着いた。兇手では? という疑いは、見ないことにした様だ。執事との交渉? 恐喝? も、上手くいったということなので、これ以上ことを荒立てる必要もなく、その結論を受け入れる。
その代わり、屍三体を引き取りたいと申し出た。
何の為に? と聞かれたのだが、いや、弔う為だよと伝えたら、余計腑に落ちない顔をされた。
「命を狙って来た相手をですか?」
「死ねばただの躯だ。もう悪さもしないのだから、弔ったところで害にはならないだろう?」
打ち捨てたら山犬や狼を呼びかねないしと言うと、一応は納得してくれた。
こちらの襲撃は、どうやら知られずに済んでいる様子だ。もしくは、同じ輩に襲われたと考えたのかもしれない。
こちらは撃退したけれど、あちらはまんまとやられたわけだ。口外はしにくいな。
エゴンは元から伏せられていたろうから、姿を消したことを誰も言及しなかった。
エゴンも、胡桃さんたちと共にセイバーンを離れている。ここに置いておくのは色々とやばい。メバックの、商業会館に匿ってもらう手筈をマルが調えていたので、今頃はもう到着していることだろう。
事情は語って聞かせ、落ち着いたというか……もう色々気力が尽きた様子だったので、しばらくは大人しくしていると思う。
ウーヴェには、朝のうちに父親の無事を知らせたのだが、父と共に行くより、工事の手伝いを優先すると言われた。
事後処理があり、作業に手が回せない俺たちを、気遣っての発言だと思う。正直ありがたかった。親子の再会を先延ばしにさせるのは申し訳なかったのだが「もう、再会は無いと覚悟していましたから……数日会えないくらい、なんてこともありません」と、そう言った。
昼。サヤはまた、賄い作りに行った。
引き取った屍は焼かれ、共同墓地に埋葬する。村外れの焼き場は、襲撃を受けたさらに先にある為、俺は出向くことが出来なかった。万が一があるからと、止められてしまったのだ。
なので、昼食前のひと時に、墓地への埋葬から参加することとなった。
大きな共同墓地の石碑の下に、村人らとともに眠ることになるから、寂しくはないだろう。
サヤから、手向けの野花を託されていたので、それを供える。
通常は、石碑に名と、没した日を刻むのだが、彼らの名が分からない……どうしたものかと悩んでいたら、マルが「髪の色を名の代わりに刻みましょう」と言ったので、その様に処理することにする。
「兇手は、名を捨てます。だから、彼らも多分、名はありませんよ」
そう言われ、あぁと、気付く。
胡桃さん、名ではないのだ。胡桃色の髪だから、胡桃さん。
なら、草と呼ばれていたのは、草色の髪の、彼だ。
「兇手は自身の名を名乗りません。いつも偽名ですからねぇ。使わないから捨てるのだそうで。
……良い名だったんですけどねぇ」
それが、胡桃さんについで言っているのだということは、すぐに分かった。
胡桃さんの名を知っているマル。それはつまり、彼女が兇手となる前からの、知り合いだということ。
「同郷なんですよねぇ。
あそこは寒さが厳しくて、冬の間、食料が手に入りにくい。
胡桃は、冬山でも獲物を狩ることのできる、狩猟の民の出です。
いつも毛皮をまとった珍妙な一団なんですよぅ。なにせ、頭は獣の頭蓋で作った、頭巾を被ってましてね。その実態は……ふふ、なんだと思います?」
答えは、出てるようなものだな……。
「とはいえ、胡桃ほど顕著に、特徴の出ている者は珍しい。大抵は、もう少し人に近いですよ。
彼女はきっと、先祖返りなんでしょう。獣化なんて、今は殆ど、できる者はいないそうですし。
勿体無いですよねぇ……あんなに美しいのに。
四本足の頃の彼女は、そりゃあ凛々しく、美しかったんですよ。
彼女も、身を晒しさえしなければ、人としていられたんですけどねぇ」
何があったのかは、語らなかった。けれど、狩猟の民であることを辞め、兇手となるしかなかったのだろう。あの姿は、どうあっても人では通せない。
…………何故、獣人は、悪魔の使徒となったのだろう……。
何故、獣人は、人と共に生きられないのだろう……。
知られさえしなければ、人でいられるのに。
「マル……近いうち、また胡桃さんに、会えるかな?」
そう聞くと、気が向けば、あちらから来るんじゃないですか?という返事があった。
「レイ様のこと、気に入ってはいるようですよ。
胡桃の獣化を見ても、態度を変えませんでしたし。
サヤくんの同行を許したことで、彼女らを使い捨てにする様な使い方を、する気が無いことも、証明できましたし。
サヤくんがレイ様方にとって大切な存在であることも、理解してましたしね。
なにより、貴方はハインを重用してますからねぇ。
ハインが獣人と知りつつあの態度なレイ様には、好感を覚えたことでしょう」
……なんか、全部、マルの手の内って気がするのは……気の所為じゃないんだろうなぁ。
けれど、マルはよくやってくれてる。
自分の思惑も何かしら含んでいるのだろうけれど、別にそれが嫌でもないし。
そう思ったので、懐から小箱を取り出す。
「マル、君にこれを受け取って欲しいと思うんだけど」
「はい?」
銀と青玉で作られた襟飾。マルのものは、開いた本の意匠だ。
正直、これ以外の形を思い付かなかった。
俺の手の中の飾りを見たマルが、困った顔をする。
「レイ様……僕、商業会館に籍を置いてるんですけど?」
「分かってる。でも、俺がマルをどう思ってるかって部分は、これで証明したかったんだ。
身の保証にも使えるんだろう?保険だと思って持っててくれないか」
差し出したそれを、まじまじと見て、こてんと首を傾げる。
まだ何か問題があるのか?
「……後で取り下げたりとか、渡す相手が間違ってたとか、ありませんよね?」
「俺をなんだと思ってるの……。そこまで間が抜けてるつもりはないよ。
それに、これはマルの為の意匠なんだから。マルが受け取らないなら、誰の手にも渡らない」
俺の机の中で埃を被ることになるだけだ。
マルが、やっと俺の手の上の、飾りを指で摘まみ上げる。
「僕、結構自分勝手すると思うんですけど……本当に大丈夫です?」
「それも含めてる。マルの勝手も、嫌じゃないよ。ちょっと色々、忍耐を問われると思うけど、そこは俺が努力するよ。
マルとだって、結構な時間を共に過ごしている。マルがどんな人かも、分かってるつもりだけど……まぁ、まだ知らない部分は沢山あるんだろうなぁ。
けど、ハインにもそんな部分はあったんだし、気にしない」
「ほんと、計り知れない胆力の持ち主ですね、レイ様」
マジですかぁ。と、呟く。
嫌なら、拒否する権利もあるんだよ?と、言うと、慌ててそれを懐にしまった。
「貰っちゃいますからね?後悔しても知りませんよ?」
「しつこい。しない」
「じゃあ、レイ様の部下だと名乗りたい時は、これ、使わせてもらいます」
「うん。よろしく。あまり、危ないことを勝手にするなよ?」
「そこはお約束出来かねますねぇ」
埋葬を見届けてから、護衛としてついて来ていた、ハインとギルの所に戻る。
少し離れた、見晴らしの良い場所から、全体を警戒していたのだ。
それにしても……ハイン、帰ったら絶対に休憩させないとな。ギルやサヤより休んでないのは確実なのに、譲らないんだから……。
「さぁて、じゃあ、戻ったらエゴンの処理ですねぇ」
馬車に乗り込むと、マルがそう言った。
動き出す馬車に揺られつつ「うん」と、相槌を打つ。
「ジェスルとの関わりを伏せる為、エゴンに全責任を取らせます。財産も没収。
その代わり、命は取らない……で、良いのですね?正直、斬ってやるべきだと思うんですが」
「今までの横領金額が、ギリギリ賄える財、ちゃんとあるんだろう?
メバックから立ち退き。職も失うことになる。しかも全財産没収。充分な制裁じゃないか?」
「違います。切って捨ててやるのが、慈悲だし妥当だと言ってるんですよ。
ウーヴェの枷でしかないですし、穀潰しですよ。人の怨みも多く買っている。
裏切りや情報の漏洩……危険を抱えることにもなります。それでも生かしておくのです?」
「……うん。それだけの罪だ。死んで償える内容ではない。だろ?」
そう言ったのだが、ギルも、マルも渋面だ。
俺が、罪に対しての罰として、エゴンを殺さないのではないと、知っているから。
せっかく生きて帰れたのだから、死なせたくない。親子の時間を、大切にしてほしい。
死んでしまっては、後悔も、何もない。苦しさが残るだけだ。
でも、生きていれば、時が解決するものもある。
「まぁ、レイ様がそれで良いなら、良いんですけどねぇ。
結構な資金調達ができますし、僕的には恨みもありませんし。
それで落とし所を調節しますけど……」
またハインが納得しないんでしょうねぇ……と、呟く。
今御者をしているハインは多分、ものすごく怖い顔をしていると思う。小窓を開けているので、話は聞こえているだろうしな。
「メバックを離れれば、親子で生活するくらい、なんとかなると思うよ。ウーヴェは優秀だし」
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そんな風に話しながら、帰路についた。
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