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第五章 王妃のお茶会
39. 「ルー」
しおりを挟む青年はテーブルに置かれた燭台の火に手をかざし、灯りを強める。
そして椅子から立ち上がり、星のような煌めきを宿す瞳で俺の顔を覗き込んできた。
大きくはだけたローブの襟元から、透けるような白皙の肌が覗いている。
彼に対してなんら疚しい気持ちを持たないはずの俺でも、思わずどきりとするほどの際どさだった。それでも爛れた感じが一切しないのは、その血の為せる業か。
ジオルグもそうだが、古代種という存在は、原種に近い血筋の者ほど、全身が淡く発光しているような、侵しがたい美しさを持っている。
そして、やっぱり俺よりも背が高かった。
うん、兄上と同じぐらいかな、と囁くように返される。
「ふうん。君が、今回の月精か。徴は……、ああ、魔法で隠しているけどちゃんとあるね」
彼は、すでにあらかたの事情を知っているようだった。万が一、知らない場合のことも考えて一応は隠してみたのだが、これしきの小細工でその目を欺くことは出来ないようだ。
「はい。お初にお目にかかります、サファイン殿下。わたくしは……」
「ああ、いい、いい。堅苦しい挨拶なんて要らないよ」
片手をひらひらと振りながら、第二王子は再び椅子に腰をおろす。そして、俺にも前にある椅子を勧めてくれた。
いつの間にか、ルトは俺の影の中に戻ってしまっている。
ここは、影形の彼にとってはかなり居心地が悪い場所なのだろう。
この部屋が在る空間の正体を知っている俺にしても、それは同じだ。
……そう、まるで井戸の底にいるような気分だった。それは、顔を真上に向けないと見えないほど、馬鹿みたいな高い位置に天井があるせいだ。
井戸のようなとは言ったが、部屋自体はもちろん暗くも狭くもない。随所に燭台が配置され、充分な広さもある。窓は高い位置にしかなく(その外はおそらく現実世界の光景ではない)その下の四方の壁全面を、巨大な書架が埋め尽くしている。当然、そこには膨大な書物が並べられているのだが、さすがにこの量は異様すぎて実際に見ると絶句するしかない。その本を取るために立てかけられた大小いくつかの梯子の中で最も高いものは、おそらく五メートル以上はあるだろうか。
でも絶対、魔法で取った方が早いだろうなと思っていると、「運動用だよ」とサファインが言った。
「あんまり使わないんだけど、たまにはね。ここにずっと引き篭っていると、さすがに肉体は鈍ってくるからさ。ああ、そうだ、護衛師団にいるんなら俺の異能のことは当然、知っているよね?」
「はい、存じています」
「声に出していなくても、頭の中でブツブツ呟いたりしてたら大抵は聞こえてしまうから、気をつけて?」
それは精霊種の血を引く者に備わるとされる能力で、サファインの場合はいわゆる読心術というものだろうか。彼の前にいるとき、頭の中で言葉を組み上げて思考したり、映像的に何かを想像していたりすると、そっくりそのまま見えたり聞こえたりして伝わってしまうのだとか。
まさにこの異能と、さらにもう一つある異能の所為で、ゲームの世界のシリルは、この第二王子のことをあからさまに天敵扱いして、徹底的に避けていた。
そのため、主人公にとってもっとも平和で穏やかな攻略ルートが、実はこの変わり者の第二王子のルートなのである。ちなみに、ゲームではおなじみのセカンドネームからの愛称は「ルー」。
「嫌なら閉ざしておいて。君の魔力量なら、鍛えれば出来ちゃいそうだし」
「今も一応やってはみましたが……、まだ無理なようです」
「ああ、今だいぶ弱ってるみたいだしね。疲れてる? それとも精神的なもの?」
「確かに疲れてはいますが、たいしたことはありません。ただ及ばないだけです」
「そうかい? ふふふ」
なぜか、含み笑いをされてしまう。
「ま、夜は長いんだし、せっかくだからゆっくり話そうか。それから、俺のことは『ルー』って呼んでほしいな。うん、そうだな……。そしたら、君のお願いを一つ、叶えてあげなくもない」
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