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第一章 胎動編
怨ノ詩 ~血濡れの宮~ ???
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半刻前……
骨鳥居も見る限りあと5本に差し掛かりゴールが見えてきた微かな安堵からか少し休息を取ろうと決めた。
崩れた骨鳥居を背もたれにして座る。
今日私は一体どれだけの距離を走ったのか分からない。既に足には力が入らない。
それにしても私……この骨の鳥居を潜り始めてどれぐらい経つんだろう……分からない…………あれ……?」
少しずつ自分の頭の中に霧がかかっていくように記憶が掠れ始める。
「私は誰だっけ……名前……なんだったっけ……?何か大切な物を取り戻そうとしたような……分からない……思い出せない……でも……いか……な……いと……」
瞼が重くなり、自分の意思に反して次第に瞼は閉じてゆく。そして程なく明美の視界は暗転し、力無く横たわる。
カツン……カツン……
明美の意識が途切れる寸前、足音と共に確かに聞いた。
「また無理をしたんだね。明美ちゃん」
女性の声だった。
声の主は暫く明美を見下ろし気を失った事を確認すると、声の主は明美を背負い歩き始める。
「骨鳥居の奥に妹がいる保証は無いのに、こんな身も蓋もないバレバレの罠に堂々と飛び込むとは……妹の為なら自分の命だって捨てるお人好し……変わってないんだね……」
声の主はクスッと微笑み、明美と共に骨鳥居の奥へ進む。
程なくして禍々しい赤紫に光る呪陣が見え、その中央には黒い軍服を身にまとい手印を結んだ状態で座禅をする男性がいる。男性はこちらの気配に気付くと薄目を開けボソッと呟く。
「大禍津姫の分霊か……俺になにか用か?それにその背負ってる小娘はなんだ?」
辺りに暫く静寂が包むが静寂を破ったのは大禍津姫の足音だった。
カツン……カツン……
大禍津姫はゆっくり男性に近ずき隣に腰を下ろし、いつの間にか抜き放たれた刀の物打ちを首に押し付けるのとほぼ同時に男性の背筋が凍りつく。
「ふぅ……」
大禍津姫は顔に影を落とし、ため息を漏らす。
吐き出された息は瞬時に白く染まり、二つの紅く大きな瞳だけが静かに男性を睨め上げる。
男性は口を開き何かを訴えようとするも、大禍津姫は、ますます物打ちを男性の首に食い込ませ、喉を裂く。
傷口から流れ出た黒い体液は刀身を伝い鍔から地に滴る。滴った体液は地面に辿り着く頃には冷やされ黒い氷となり地面に転がり、男性の霊体のひょうひはひび割れ、耳や手の指がボロッと崩れ落ちる。
「小僧……大勢穢唯一無二の血の掟は各々が自由にやること……だが他の大穢、いや教主には絶対服従だ……次は無いぞ」
「は、はい……も、申し訳……ございません……」
大禍津姫は刃を男性の首からスっと離し、一度刀を斜めに振り、血糊を落とした後にゆっくりと鞘に収める。
暫くの沈黙が続き、いつの間にか周囲の気温も元に戻っている。
ふと大禍津姫は再び大きなため息をつき、再び男性を睨む。
「茶ァぐらい出さないのか?お前」
「俺、陣地展開中ですよ!?この場から動けません!」
男性は理不尽な要求に驚いた口調で返答する。意外な返答に大禍津姫は少し言葉を詰まらせ
「それもそうですね。ところで天蓋、昭和からの侵入者はどうなりました?」
自分で湯呑みに黒い液体を入れながら大禍津姫は問う。
「着々と血濡レノ宮內院に向けて進行して来てます。あと数分もすれば俺の陣地とぶつかりますね。」
──あまりにも突入からここまでの到達が早すぎる……まさか……
黒い液体を啜る大禍津姫の脳裏に嫌な予感が過ぎる。少しの沈黙の後大禍津姫は恐る恐る口を開く。
「天蓋……暗部の派遣兵力は?」
「派遣兵力はたった3人。天知 弓華、夏乃里 呼吹、そして[暗部最強の剣姫]と詠われる秦宮 杏子。」
大禍津姫の緩んだ手から離れた湯呑みがゴトンと音を立て地面を弾みコロコロと転がる。
「天蓋今なんて言った……」
「え?ですから派遣兵力は……」
大禍津姫は天蓋の胸ぐらを掴み手繰り寄せ、天蓋の目を至近距離から睨む。
「もっと後!!二つ名を冠する隊員が居たはずだ。」
天蓋は大禍津姫の圧にたじろぎながらも答える。
「剣姫秦……宮…………杏子……」
「今奴は何処にいる!?」
つかの間の沈黙の後、天蓋の顔が恐怖に歪む。そしてボソッと震える声で
「目の前……」
「え!?どう言うk……」
「俺の陣地の目の前で刀を掲げ、霊力を刀に集中させ構えてます!!俺の最大出力の位相の歪みと陣地で防いでやる!!」
大禍津姫の言葉を遮り天蓋は叫ぶ。末席だろうと大勢穢の幹部なのだろう、瞬時に恐怖を押し殺し迎撃の体勢をとる。
「大将!!22年前にあの人間と戦ったんだろ!?指示を!」
天蓋が放ったその言葉により、大禍津姫が臨戦態勢に入るまで0.2秒……1手遅れる。
「天蓋、陣地解け!!」
大禍津姫の予想外の命令に戸惑い天蓋の思考が停止した時間0.5秒……これもまた1手遅れ。
たった0.7秒、2手の遅れは秦宮が大技を決めるのには十分過ぎる隙だった。
スっと右側から天蓋の首に赤黒い線が入り、それを追うかの如く黒い液体が垂れてくる。そしてその線が左端に到達した途端、天蓋の首がゴトン落ち、地面を転がる。
「秦宮め、陣地を天蓋の首に見立てて陣地ごと一刀両断したな!でも今はそんな事より……」
大禍津姫は刀に手をかけ居合の構えからの抜刀し、陣地を切り進んできた秦宮の獦斬穢刃を真正面から受け止めるが、本刃は受け止めても尚勢いは収まらず、ジリジリと少しずつ大禍津姫の身体を後退させてゆく。そして本刃から分裂した細かい斬撃は大禍津姫の霊体を徐々に切り刻み受け止める力を削いでゆく。
「チッ……力を抜けば私ごと斬られ、力を入れた所で細かい斬撃で力を削がれる……このままだと、厄災のコアの所まで斬撃が辿り着くな……一か八か……」
大禍津姫は大きく後方に飛び退き腰から小刀を取り出す。そして……
「陣地 魂寄狐 斬鬼 相呑深水」
大禍津姫は周りに水のような少し青みがかった液体を全身に纏う。そして臆することなく獦斬穢刃の雨のように浴びせられる細かい斬撃に飛び込む。無数に浴びせられる斬撃は大禍津姫の霊体の僅か5mmの距離で水の波紋を生み出し次々と消えてゆく。
そしてこの短時間でほぼトップスピードまで加速しで、天蓋の陣地を切り裂きながら尚も進み続ける最も巨大な斬撃の下に紙一重で滑り込み
「裏斬殺呪相 一の相 獦皇滅牙神突」
本刃の下から突き上げる形で小刀の刃を当てる。
秦宮の獦斬穢刃と大禍津姫の獦皇滅牙神突。双方の強大な霊力の衝突は数多の火花を散らせ空間をねじ曲げる。
「逸れろ!!」
小刀を握る大禍津姫の右腕から黒い血液が吹き出し、すかさず左手で支え押し出す。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
獦斬穢刃が少しずつ上へ軌道が逸れてゆく。
「あと……もうちょい!!」
踵から足首、膝、股関節、腰、背中、肩、肘、手首へと指に更に霊力を込める。
「うあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
ズンッと地面を踏み砕き獦斬穢刃を突き上げる。大きく逸れた獦斬穢刃は天井を突き破り瓦礫を降らす。直ぐに修復が始まる裂け目から見えた物は
月が一刀両断されている。いや月を覆い隠している術式が斬られたのか月を覆い隠す黒い影が崩壊していく。
「今のを受け止め受け流すか……」
土煙の向こう側、おそらく秦宮であろう声が空間に響く。
「やはり一筋縄では行かないですね。本体には遠く及ばない分霊とはいえ貴方が出る幕ですか? 大勢穢教主、大禍津姫」
大禍津姫は傍らの天蓋を一瞥し
「やれやれ大厄災霊の末席とはいえコイツの後釜は少ないんだぞ?」
土煙が晴れるにつれ3人分の人影が見える。大禍津姫は深く構え殺気を放ち威嚇をする。
「身体が動かないどうして。」
「アイツの圧だけで私と天知を硬直させるなんてただ事じゃないぞ……」
土煙の向こう、大禍津姫の殺気に当てられ動けない2人を横目に隊長らしき隊員が無言で歩いてくる。
「お前、恐怖を感じないのか?」
ふとした疑問を投げかけてみるが隊長は無言で大禍津姫のゼロ距離まで歩み寄り耳元で囁く。
「お前程度に私が感じるのは今ここで討祓されるお前への哀れみのみ。」
予想外の秦宮の発言に心が踊り笑を浮かべる。
「面白い奴だな。やr……ケハッ……」
凄まじい衝撃が腹部を襲い大禍津姫の身体はいとも容易く後方に吹っ飛ばされ、骨鳥居を2.3本へし折り止まる。
「夏野里!天知!この少女の手当及び保護を!!私はこいつの相手をする。」
「了解!!」
隊長の指示で2人の暗部隊員は明美を背負いその場を離れる。
大禍津姫はぺっと黒い液体を地面に吐き、口から垂れた黒い液体手で拭い立とうとするも足に力が入らない。どうやら先程軌道をずらした獦斬穢刃のダメージが残っているようだ。大禍津姫は苦笑いを浮かべながら震える脚で立ち上がり手印を組み叫ぶ。
「篠原いや……今は秦宮 杏子だったか。精魂果ててくれるなよ!ゴミ巫女!!」
秦宮は頭上に刀を掲げ
「雑い魚程よく吠える。今ここで果てよ。」
凄まじい緊張と双方の威圧がぶつかり辺り数kmにも及ぶ全ての存在の動きを牽制する。そして束の間の静寂の後、双方同時に叫ぶ。
骨鳥居も見る限りあと5本に差し掛かりゴールが見えてきた微かな安堵からか少し休息を取ろうと決めた。
崩れた骨鳥居を背もたれにして座る。
今日私は一体どれだけの距離を走ったのか分からない。既に足には力が入らない。
それにしても私……この骨の鳥居を潜り始めてどれぐらい経つんだろう……分からない…………あれ……?」
少しずつ自分の頭の中に霧がかかっていくように記憶が掠れ始める。
「私は誰だっけ……名前……なんだったっけ……?何か大切な物を取り戻そうとしたような……分からない……思い出せない……でも……いか……な……いと……」
瞼が重くなり、自分の意思に反して次第に瞼は閉じてゆく。そして程なく明美の視界は暗転し、力無く横たわる。
カツン……カツン……
明美の意識が途切れる寸前、足音と共に確かに聞いた。
「また無理をしたんだね。明美ちゃん」
女性の声だった。
声の主は暫く明美を見下ろし気を失った事を確認すると、声の主は明美を背負い歩き始める。
「骨鳥居の奥に妹がいる保証は無いのに、こんな身も蓋もないバレバレの罠に堂々と飛び込むとは……妹の為なら自分の命だって捨てるお人好し……変わってないんだね……」
声の主はクスッと微笑み、明美と共に骨鳥居の奥へ進む。
程なくして禍々しい赤紫に光る呪陣が見え、その中央には黒い軍服を身にまとい手印を結んだ状態で座禅をする男性がいる。男性はこちらの気配に気付くと薄目を開けボソッと呟く。
「大禍津姫の分霊か……俺になにか用か?それにその背負ってる小娘はなんだ?」
辺りに暫く静寂が包むが静寂を破ったのは大禍津姫の足音だった。
カツン……カツン……
大禍津姫はゆっくり男性に近ずき隣に腰を下ろし、いつの間にか抜き放たれた刀の物打ちを首に押し付けるのとほぼ同時に男性の背筋が凍りつく。
「ふぅ……」
大禍津姫は顔に影を落とし、ため息を漏らす。
吐き出された息は瞬時に白く染まり、二つの紅く大きな瞳だけが静かに男性を睨め上げる。
男性は口を開き何かを訴えようとするも、大禍津姫は、ますます物打ちを男性の首に食い込ませ、喉を裂く。
傷口から流れ出た黒い体液は刀身を伝い鍔から地に滴る。滴った体液は地面に辿り着く頃には冷やされ黒い氷となり地面に転がり、男性の霊体のひょうひはひび割れ、耳や手の指がボロッと崩れ落ちる。
「小僧……大勢穢唯一無二の血の掟は各々が自由にやること……だが他の大穢、いや教主には絶対服従だ……次は無いぞ」
「は、はい……も、申し訳……ございません……」
大禍津姫は刃を男性の首からスっと離し、一度刀を斜めに振り、血糊を落とした後にゆっくりと鞘に収める。
暫くの沈黙が続き、いつの間にか周囲の気温も元に戻っている。
ふと大禍津姫は再び大きなため息をつき、再び男性を睨む。
「茶ァぐらい出さないのか?お前」
「俺、陣地展開中ですよ!?この場から動けません!」
男性は理不尽な要求に驚いた口調で返答する。意外な返答に大禍津姫は少し言葉を詰まらせ
「それもそうですね。ところで天蓋、昭和からの侵入者はどうなりました?」
自分で湯呑みに黒い液体を入れながら大禍津姫は問う。
「着々と血濡レノ宮內院に向けて進行して来てます。あと数分もすれば俺の陣地とぶつかりますね。」
──あまりにも突入からここまでの到達が早すぎる……まさか……
黒い液体を啜る大禍津姫の脳裏に嫌な予感が過ぎる。少しの沈黙の後大禍津姫は恐る恐る口を開く。
「天蓋……暗部の派遣兵力は?」
「派遣兵力はたった3人。天知 弓華、夏乃里 呼吹、そして[暗部最強の剣姫]と詠われる秦宮 杏子。」
大禍津姫の緩んだ手から離れた湯呑みがゴトンと音を立て地面を弾みコロコロと転がる。
「天蓋今なんて言った……」
「え?ですから派遣兵力は……」
大禍津姫は天蓋の胸ぐらを掴み手繰り寄せ、天蓋の目を至近距離から睨む。
「もっと後!!二つ名を冠する隊員が居たはずだ。」
天蓋は大禍津姫の圧にたじろぎながらも答える。
「剣姫秦……宮…………杏子……」
「今奴は何処にいる!?」
つかの間の沈黙の後、天蓋の顔が恐怖に歪む。そしてボソッと震える声で
「目の前……」
「え!?どう言うk……」
「俺の陣地の目の前で刀を掲げ、霊力を刀に集中させ構えてます!!俺の最大出力の位相の歪みと陣地で防いでやる!!」
大禍津姫の言葉を遮り天蓋は叫ぶ。末席だろうと大勢穢の幹部なのだろう、瞬時に恐怖を押し殺し迎撃の体勢をとる。
「大将!!22年前にあの人間と戦ったんだろ!?指示を!」
天蓋が放ったその言葉により、大禍津姫が臨戦態勢に入るまで0.2秒……1手遅れる。
「天蓋、陣地解け!!」
大禍津姫の予想外の命令に戸惑い天蓋の思考が停止した時間0.5秒……これもまた1手遅れ。
たった0.7秒、2手の遅れは秦宮が大技を決めるのには十分過ぎる隙だった。
スっと右側から天蓋の首に赤黒い線が入り、それを追うかの如く黒い液体が垂れてくる。そしてその線が左端に到達した途端、天蓋の首がゴトン落ち、地面を転がる。
「秦宮め、陣地を天蓋の首に見立てて陣地ごと一刀両断したな!でも今はそんな事より……」
大禍津姫は刀に手をかけ居合の構えからの抜刀し、陣地を切り進んできた秦宮の獦斬穢刃を真正面から受け止めるが、本刃は受け止めても尚勢いは収まらず、ジリジリと少しずつ大禍津姫の身体を後退させてゆく。そして本刃から分裂した細かい斬撃は大禍津姫の霊体を徐々に切り刻み受け止める力を削いでゆく。
「チッ……力を抜けば私ごと斬られ、力を入れた所で細かい斬撃で力を削がれる……このままだと、厄災のコアの所まで斬撃が辿り着くな……一か八か……」
大禍津姫は大きく後方に飛び退き腰から小刀を取り出す。そして……
「陣地 魂寄狐 斬鬼 相呑深水」
大禍津姫は周りに水のような少し青みがかった液体を全身に纏う。そして臆することなく獦斬穢刃の雨のように浴びせられる細かい斬撃に飛び込む。無数に浴びせられる斬撃は大禍津姫の霊体の僅か5mmの距離で水の波紋を生み出し次々と消えてゆく。
そしてこの短時間でほぼトップスピードまで加速しで、天蓋の陣地を切り裂きながら尚も進み続ける最も巨大な斬撃の下に紙一重で滑り込み
「裏斬殺呪相 一の相 獦皇滅牙神突」
本刃の下から突き上げる形で小刀の刃を当てる。
秦宮の獦斬穢刃と大禍津姫の獦皇滅牙神突。双方の強大な霊力の衝突は数多の火花を散らせ空間をねじ曲げる。
「逸れろ!!」
小刀を握る大禍津姫の右腕から黒い血液が吹き出し、すかさず左手で支え押し出す。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
獦斬穢刃が少しずつ上へ軌道が逸れてゆく。
「あと……もうちょい!!」
踵から足首、膝、股関節、腰、背中、肩、肘、手首へと指に更に霊力を込める。
「うあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
ズンッと地面を踏み砕き獦斬穢刃を突き上げる。大きく逸れた獦斬穢刃は天井を突き破り瓦礫を降らす。直ぐに修復が始まる裂け目から見えた物は
月が一刀両断されている。いや月を覆い隠している術式が斬られたのか月を覆い隠す黒い影が崩壊していく。
「今のを受け止め受け流すか……」
土煙の向こう側、おそらく秦宮であろう声が空間に響く。
「やはり一筋縄では行かないですね。本体には遠く及ばない分霊とはいえ貴方が出る幕ですか? 大勢穢教主、大禍津姫」
大禍津姫は傍らの天蓋を一瞥し
「やれやれ大厄災霊の末席とはいえコイツの後釜は少ないんだぞ?」
土煙が晴れるにつれ3人分の人影が見える。大禍津姫は深く構え殺気を放ち威嚇をする。
「身体が動かないどうして。」
「アイツの圧だけで私と天知を硬直させるなんてただ事じゃないぞ……」
土煙の向こう、大禍津姫の殺気に当てられ動けない2人を横目に隊長らしき隊員が無言で歩いてくる。
「お前、恐怖を感じないのか?」
ふとした疑問を投げかけてみるが隊長は無言で大禍津姫のゼロ距離まで歩み寄り耳元で囁く。
「お前程度に私が感じるのは今ここで討祓されるお前への哀れみのみ。」
予想外の秦宮の発言に心が踊り笑を浮かべる。
「面白い奴だな。やr……ケハッ……」
凄まじい衝撃が腹部を襲い大禍津姫の身体はいとも容易く後方に吹っ飛ばされ、骨鳥居を2.3本へし折り止まる。
「夏野里!天知!この少女の手当及び保護を!!私はこいつの相手をする。」
「了解!!」
隊長の指示で2人の暗部隊員は明美を背負いその場を離れる。
大禍津姫はぺっと黒い液体を地面に吐き、口から垂れた黒い液体手で拭い立とうとするも足に力が入らない。どうやら先程軌道をずらした獦斬穢刃のダメージが残っているようだ。大禍津姫は苦笑いを浮かべながら震える脚で立ち上がり手印を組み叫ぶ。
「篠原いや……今は秦宮 杏子だったか。精魂果ててくれるなよ!ゴミ巫女!!」
秦宮は頭上に刀を掲げ
「雑い魚程よく吠える。今ここで果てよ。」
凄まじい緊張と双方の威圧がぶつかり辺り数kmにも及ぶ全ての存在の動きを牽制する。そして束の間の静寂の後、双方同時に叫ぶ。
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