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第2章

114滅びませんから①

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「カシュエル殿下……」

 次から次へとなんてタイミングにと思いながら説明しようとするが、殿下登場で驚きすぎた勢いで痺れが広がり話す余裕がない。
 体勢から顔は見えないが、アルフレッドがそっとレオラムの肩から手を退け一歩下がる。その分、カシュエルの気配が近くなる。

「カシュエル殿下もおいでになったのですね」

 エバンズがささっと立ち上がり、他の護衛たちと同じように頭を下げる。
 こっちはこれ以上の醜態はまずいと動けない状態なのに、エバンズは痺れていないらしい。座り方にコツでもあるのだろうか。あるなら言って欲しかった。

 レオラムは固まりながら王子の存在を意識していると、カシュエルがもう一度聞き直した。

「訓練は終わったと聞いて迎えに来たのだけど、何をしているのかな?」
「はぁぁぁ~。いつ見てもその美貌やばい。やっぱり潤うわー。あっ、今レオラムは足が痺れて動けない状態なんです」
「へえー」

 声に出てますよミコトさん。あと、代わりに説明をありがとう。痺れだした足は戻ることができないようで、だんだん思考も散漫になってくる。
 もう、なんでもいいからこの痺れをどうにかして欲しい。そう思っていると、カシュエルがレオラムの膝を救い抱き上げた。
 
「ひえぇぇぇっ」

 持ち上げるとか拷問なんですけど?
 ひぃぃっと笑いたくなるような痺れを少しでもごまかすように、レオラムはカシュエルの首にがしっとしがみ付いた。 

 ダメ。本当にダメ。
 触られてるのとか無理。かといって、降ろされるのも無理。レオラムはむぎゅうっと腕に力を入れてなるべくこれ以上動かされないようにとカシュエルにすがる。

「相当、痺れているようだね。痺れるほど長時間何を話してたのかな?」

 耳の近くで、こんな時でも無駄にいいカシュエルの声が響く。

「レオラムに王城でなんて呼ばれてどういう認識されているのか、自覚することを促していました。なので、殿下が心配することではないですよ。あとで聞かされるか、もう聞いてらっしゃるかはわかりませんが、スカートのやりとりは私たち二人とも邪気はありませんのでご心配なく。むしろ、推してますから!!」
「へえー」

 あのー、殿下。その反応とっても不安なんですが……。

 あとミコト。なんでもかんでも話しすぎ。いや、この場合は正直に先に話す方がいいのかな? 
 そこを判断する前に話せないレオラムをよそに、どんな話をしたとかエバンズと一緒になってここまでの会話を事細かく説明しだしたから考えても一緒だ。

 内容的には別に隠すことでもないし、自分の代わりに話してくれるのならば言い訳みたいにならなくていいだろうと任せることにする。
 カシュエルも納得するように頷いているので、その判断は間違っていないだろうと、少しずつましになってきたのでもぞもぞっと足を動かしながら慣らしていると、アルフレッドが余計な一言を投下した。

「結局多少自覚したところで、レオラムの根本が変わらなければあまり変わらない気がするけどな。やっぱり当人同士の信頼関係ってものが大事なんだろう」
「それは忠告と捉えていいのかな?」
「思うままに」
「なるほどね」

 なんでそこで水を差すのか勇者よ。変な絡み方をするのはやめてほしい。
 カシュエルの声が心なしか平坦に聞こえてなんだか嫌な予感がして顔を上げると、じっとレオラムを見つめるカシュエルと視線があった。

「殿下?」

 戸惑いで妙に鼓動が早くなっていくレオラムに、カシュエルが秀美な顔を寄せると眉間に唇が触れた。
 しっとりした感触に目を丸くすると、カシュエルは見事な笑みを浮かべた。

 ミコトが、「はわぁっ」と魂を飛ばしたような感嘆の声を上げているが、レオラムはミコトを注意するどころではない。
 形の良い唇が動き、もう一度同じように唇を触れさせたあと、カシュエルは穏やかな笑みを浮かべ口を開いた。

「レオラムが心身ともに離れようとしなければ杞憂に終わると思うけれど、レオラムはどう思う?」
「……できるだけ一緒にいられればとは思います」
「レオラムならそう言うと思ったけどね」
「…………」

 レオラムの精一杯の答えはお気に召さなかったらしい。
 くいっと顎を上げられて、唇が触れるか触れないかの状態でじっと見つめられる。


 ────くっ。拷問か……。


 視界いっぱいににカシュエルの顔しか見えないが、周囲の視線を嫌というほど感じる。

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