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第2章
111影響力②
しおりを挟むそんなレオラムたちの様子に周囲はほっこりし、エバンズも子供を諭すように声を柔らかくさせた。
ほんと、やめてほしい。
「ミコト様のはお言葉が過ぎますが、概ねそのようなことです。殿下が実際どう感じていらっしゃるかはわかりませんし、我々の勇み足である可能性もあります。それでも、私たちは勇者殿も含め、皆様がなるべく心を和やかにと願っております。ミコト様とレオラム様に関しては身の安全は尽力を持って守らせていただきますが、そういったことは我々ではどうすることもできません。ですから、くれぐれもそれを乱すようなことは控えていただけたらと」
「気をつけます」
レオラムは神妙に頷いた。
忙しい宰相様が出張ってきて、膝詰めて話し合いまで行われる事態というのを、レオラムなりに受け止めようと思う。
前よりは影響というものを理解できたような気もするし、今回は生足のくだりがいらぬ誤解を生む可能性もあったから、そういった誤解を生むようなことは控えろということなのだろう。
殿下がそこまで狭量だとは思わないが執着されている自覚はあるので、いらぬ心労をかける可能性があるのならレオラムもそれは本望ではないので気をつけたい。
というか、そろそろ解放してほしい。
限界を通り過ぎて足の感覚がなくなってきた。
だが、まだ話は続く。
ミコトがいると良くも悪くも話が弾みすぎて、周囲を巻き込む力は絶大だ。
「ミコト様もですよ」
「そこが難しいのよねー。楽しむことは個人のものだし?」
「個人のものですか?」
「ええ。聖女としての仕事とは別でしょ? 聖女関係はある程度管理されるのは仕方がないとして、ミコトとしては微塵も譲らないから」
「なるほど」
今もエバンズの言葉に、軽やかにミコトは自分の意見を主張する。
それに対して、エバンズがすんなり頷いた。いや、でも管理されるのは仕方がないとか、そういう発言はしっかり記憶していそうである。
エバンズが言葉を続ける。
「こちらは管理しているつもりではなかったのですが、確かにそうですね。国の危機に対して尽力してくださるのでしたら、その他のことでとやかくいう権利は確かにこちらにはありません。ですが、レオラム様はこの国の第二王子であるカシュエル殿下の大事な人なのです。ですから、その方に対してはもう少し発言は気をつけていただきたいと申しているのです」
「うーん。邪心ないのに?」
「なんでも邪心がなければいいわけではありません。ミコト様も影響力を考えていただきたい」
「影響力ねえ」
ミコトが興味なさそうに相槌をしたので、エバンズは目を細めた。
「例えば、悪意ある行動によって相手を傷つけることと、善良だと思い込んだ行動で傷つけること、どちらも相手を傷つけることは変わらないですよね?」
「そうね」
「それと同じで、その行動にどのような思惑があってもなくても、受け止める側、見ている側は同じように感じるかは別だということです。今回はその別の部分が、聖女であるミコト様、第二王子であるカシュエル殿下が入ることで大きくねじ曲がる可能性も視野に入れていただきたいという話をしているのですが」
「ええー。まあ、ある程度は考えるけど、今回だって私たち二人っきりではないし、護衛だって大勢いて、勇者だっていて、何もやましいことがないのは彼らが証明してくれるのでは?」
やっぱりエバンズはエバンズだったが、それに渡り合えるミコトもすごい。
どちらの言い分も確かにと思ってしまった。
レオラムなら、エバンズに言い負かされてしまうだろう。
ミコトはヒーラーとしても最強であるが、誰に対しても自分の姿勢を崩さないその姿勢も最強である。
あれだけレオラムに影響力について熱弁していたのに、自分の楽しみに関してはミコトは周囲の意見に一切妥協はしない。
だったら今回のスカートの件とかこれに似たようなことがあれば、レオラムの意思に関係なく巻き込まれるのではないだろうか……。
──あれ? なんか、しみじみと理解しかけたこととか、結局無駄なような気もしてきたのだけど?
レオラムは気づいてはならないことに気づいてしまったのだった。
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