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第2章
108膝を突き合わせて②
しおりを挟むミコトはとっくりとレオラムとエバンズを眺めると、にっこりと笑った。
「まったく? 役目はこなすつもりだけど、プライベートまで口を出されるなんて真っ平御免だからこういうのは先にはっきりしとく方がお互い楽なのよ」
それにしても、ミコトが話すと余計にこじれそうというか。言葉を飾らず率直なので、人によっては誤解を招きそうな言い方だ。
こういうところから、誤解を生んで騒動が大きくなっていたのだろう。
「ミコト。もう少し言葉を足そうか。ミコトがそう思っていることとは別に、頑張ってることを知る人は増えてきたけどやっぱり印象は良くないよ。自由に動きたかったらもう少し言葉も選んだら楽じゃないかな?」
「うーん。そういうのが面倒なのよね」
「ミコト」
「まあ、レオラムが言うなら仕方がないわね。でも、私はこの国に仕えているわけではないし、ただ現状を知ってできるのが私しかいないなら頑張るかとは思ってるけどね。それとこれは別だし。で、いい?」
「うん。さっきよりはマシかな」
ちゃんとミコトなりに考えていることを周囲にも理解して欲しくて、レオラムは追加された言葉に満足する。
徐々にではあるが、ミコトの行動も周囲は理解してきたのでそれぞれで折り合いをつけてきている。訓練以外は関わらなかったというアルフレッドがこの場にいることが、その証拠だろう。
だが、この国に縛られる必要がないからか自由で勝手な印象を与えてしまって、それは時として攻撃の対象になりやすくて心配である。
それとは別にミコトの言葉には一理あるし、やはりそこまで強気に出れる者は少ないので、その自由さは憧れもするものだ。
言葉の足し方も清々しいほどで、ミコトはミコトだなとレオラムは小さく笑う。
ミコトとのことは訓練の手伝いのこともあり、関係者で協議した結果、レオラムがミコトと仲良くすることはプラスになるので賛成者多数で決定されたと聞いている。
カシュエルも反対しなかったと聞くし、本人からは言及はされなかった。
だから、ミコトと仲良くすることは誰にも気兼ねすることはない。
レオラム自身も、ミコトの気分転嫁や、魔王討伐にあたり少しでも危険から避けるために、伝えられることや役に立てることがあるのならば協力したいと思っている。
そんなやり取りを見ていたエバンズが、はあっと溜め息を吐き出した。
「レオラム様はカシュエル殿下の大事な人であるという自覚が足りない。そして、ミコト様に意見を言って聞き入れてもらえるほどの影響力があるというのも自覚してほしいですね」
「…………」
レオラムは喘ぐように口を開いたが、結局言葉が出てこなかった。
自分がまったく彼らに影響していないとは思わない。レオラムも意思を持って彼らと接しているのだから、影響はそれぞれにしあうものだとは思っている。
ただ、レオラムは自覚はないが、幼少期に愛情を持って育てられたことで気を許した人を信じる心はあるが、その後の虐げられてきた生活は自己肯定感を低くしていた。
あとは、圧倒的に人付き合いをしてこなかったので、自分に関する機微を捉える気があまりないという、周囲にとっては謙虚過ぎてじれじれする現象が起きていた。
カシュエルに協力する過程で過去をそれなりに知るエバンズは、その辺の事情を考えると親戚のような気持ちになって若干レオラムを見る視線が緩む。
「レオラム様にも事情がおありのことかと思いますし、謙虚な姿勢は好ましくもあります。殿下の思いをレオラム様なりに受け止めているのだろうとも思います。ですが、まだまだです。そろそろ全体を見ていただかないと、こっちは心労で倒れる者が出てもおかしくない」
「ねえ、もしかしてレオラム自身が周囲になんて呼ばれてるのか知らないんじゃない?」
「まさか」
ミコトの言葉にエバンズが目を見開き、レオラムを凝視する。
そんなに凝視されなくても、噂くらい知っている。
今回の説教とどう関わるのかは知らないが、こういった話はエバンズもミコトとも話したはずなのに、今更噂話をするなんてとレオラムは首を傾げた。
「無気力守銭奴ヒーラーだよね? それは知ってるよ」
「違うわ。それじゃないわよ」
「違う?」
「そう。こういうのって当人には誰も言わないし、私もアルフレッドもそういった話をしないし意外と知らないものなのかもね。周囲は大騒ぎで、現在進行で加熱してるって感じだけど」
そこで、ミコトがじっとレオラムを見つめポンと手を打った。
──……えっ。なんか怖いんですけど。
レオラムは話の流れに頬を引きつらせた。
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