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第2章

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 この短時間で知った、良くも悪くも直情型のミコトが反応しないわけがなかった。
 感情的になったのか、先ほどとは違った意味合いで繋いでいるレオラムの手をむきぃーと力を入れてくる。相当、苛立っているようだ。

「バカにしてるよね」
「ヒヒヒヒッ。まさかァー。とても喜ばしいことだネ。さて、聖女サマ~。腕を出してごらん」
「嫌よ。なんなの。この男!!」

 そこでミコトは横にいるレオラムを見た。目を吊り上げて、ぷんぷんと頬を膨らませている。

「……変人?」

 レオラムは考えてみたが、それ以外の言葉が見つからず首を傾げた。
 緊張感があるのに緊張感が持続しないのは、魔物と墓石と牢屋を含めた男の異様さと、聖女であるミコトのあっけらかんとした対応のせいだ。

 総じて、変なことばかりなのでそれに尽きる気がした。
 それよりも、話を中断する前に聞いておいたほうがいいだろうとレオラムは切り出した。
 
「どうして腕を出す必要が?」
「レオラム、あなた真面目すぎなのよ。男が変人なのはわかりきったことだし、どうせろくなことではないわよ」

 ミコトがすっごい呆れたとばかりの声を出し、男はヒヒヒヒヒィッと笑った。

「変人でケッコウ。変人奇人と言われる類の人種はときに理解されにくいことが多いのが常だしネ。高潔な志のあるワタシが、意味のないコトなんて言わない。そこの平凡クンの言うように、断りを入れる前に人の話を聞くべきダヨ」

 ほら見なさいよ、とミコトはレオラムを可哀想な目で見てきた。

 解せない。
 ぽんぽん会話をしているのはミコトの方なのに、聞き返すと真面目やら、男に至っては平凡クンと言われたりと、二人からすればそうなのかもしれないが、絶対会話の応酬が弾んでいる方が変だ。
 レオラムが小さく肩を竦めると、ミコトは、「こういう冷静なところも噂の一因なのかしらね」とはぁっと息をつき男を睨みつけた。

「ああー、ほんと嫌!! 絶対、バカにしてるわよね。じゃあ、そのコウケツなココロザシとやらを言ってみなさいよ」
「血を採るカラだよ」
「ほらっ。レオラム。これよこれ。やっぱりろくなもんじゃない。真面目に相手するだけバカを見るやつよ」
「ヒドイなー。異世界から召喚されし伝承通り黒目黒髪の聖女サマ。人間はあまり好きじゃないのだけど、異世界から来たと言われて、さらに黒を持っているなら調べたいと思うのが心情。余計なのがついてきたけど、平凡クンなので許してあげよう。まあ、許容範囲かな。ンっ、むしろ……」

 そこで、男は言葉を止めると、レオラムたちの前にとん、とん、と飛び石でも渡るように軽やかにやってくる。
 レオラムはミコトを背後に隠そうとしたが、本人に拒まれて二人で男と対面することとなった。

 男はミコトとレオラムを見比べるように顔を突き出してきた。
 さらに、手をかざして二人の身長を測るようにさっと手を振るとヒヒヒッと笑い、出していた手をさらにぬっと伸ばしてきたので、レオラムはミコトを引っ張り後ろに下がった。

 男が近づくと、オーガの距離も近くなった。だが、鎖に余裕はあるがそれ以上は近づいてこようとはしなかったので、しっかりと教育(?)されているのかもしれない。
 レオラムはぎゅっとミコトの手を握り、少しでもミコトと男の障害になるようにと一度は下がったが一歩前に出た。
 
「なんですか?」
「君の瞳、黒っぽくたまになるネ」
「……まあ」
「ヘエー。それは随分面白いネ。聖女の黒には及ばないけれど、ウン。興味深い。ちなみに両親の瞳は何イロ?」
「……父は茶色で、母は黒っぽかったですが」
「そう。平凡クンの血も取ってアゲヨウ」

 なんで上から目線?

「いりません」
「聖女サマと平凡クン。なかなかいいサンプルになるヨ。ねえ、平凡クンの母親も小柄な方?」
「そうですけど」

 相手は全く話を聞いてない。仕方がないので答えると、ミコトがぶんぶんと繋いだ腕を振った。

「レオラム、まともに相手しなくていいって」
「でも」
「ヒヒヒヒヒッ。平凡クンは聖女サマへの興味をそらしたいようだね。でも、ザンネン。ワタシは二人にとっても興味がアルよ」

 ミコトより自分の方に注目がいく方がいいと思ったが、むしろ余計に煽ってしまったみたいだ。
 平凡、平凡と連呼しながら、レオラムの瞳の中に黒い要素があるのが気に入ったのか、二人して興味の対象となってしまった。


 ──黒? 興味の対象は黒?


 瞳の黒は忌み嫌われていた思い出しかなかったが、逆の意味でここまで関心を持たれるのは初めてだ。ただし、相手は変人なので全く嬉しくない。

 もっとよく見ようとばかりに、黒手袋をした手がレオラムの顎を掴みくいっと持ち上げてくる。
 目の前には赤い髪。その奥に、ちらりと緑の瞳が見えたと思った瞬間、

「レオラムになにをしているのかな?」

 ふわりと慣れた匂いと心地よいと感じるほど知った魔力の気配がして、レオラムと男の間を遮るようにカシュエルが姿を現した。
 それと同時に、男と黒いリボンをしたオークが、


 ギャアァァァーァァアアァァー

 ギェェーェーェーッ


 と、断末魔のような叫び声を上げ、物凄い勢いで遠ざかっていった。


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