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第1章
49早い再会②
しおりを挟む「あの晩からここにいるのか?」
「まあ……」
あなたが引き止めたことも原因なんですけどね、と声に皮肉が滲む。
アルフレッドは顎に手を当て、護衛、そして城の方を眺めると、顔をしかめレオラムを見下ろす。その青の瞳は名状しがたい複雑な色味をしていた。
「……なるほどね。やっぱりそういうことか」
「やっぱり?」
「いや。それで、今まで城にこもっていたお前が今からどこに?」
知っている勇者のどの様子とも違ってレオラムが首を傾げると、なんでもないと肩を竦めまた質問をしてきた。
「…………」
「レオラム」
答える気がなく黙っていると、鋭い声音で名を呼ばれ凶悪な目で睨みつけられた。
冒険者時代は用件だけ告げて、レオラムが答えても答えなくても話すのが面倒だとばかりに去って行ったのに、今は話さないことの方が気に食わないようだ。
レオラムは諦めの溜め息とともに、口を開いた。
「冒険者ギルドに行こうかと」
「冒険者は辞めるのではなかったのか?」
「今後活動する予定はありませんが、次回の更新まで猶予もありますしお金も預けているので」
「金、ね」
また金かよ、とばかりの視線だが、レオラムは慣れっこなので澄まし顔で頷いた。誰に何を言われようとも、お金は大事だ。
それを見たアルフレッドは唇を嗤いの形で歪ませ、ぼそりと吐き捨てた。
「本当、可愛げがないな」
「それはすみません」
「ちっ。いつも適当な相槌ばかりだな。あの晩は少し変わったのかと思ったが、気の所為だったか」
「そうじゃないですか」
「はあー。殿下の前ではあんなに感情が表に出ていたのに、なんか腹が立つな」
殿下との言葉にどきりと心臓が鳴ったが、レオラムは表情を歪めた。
「でしたら、絡みに来なければいいのでは?」
「だが、気になる」
だが、気になるってなんだ!!
しかも、堂々と言い切るって、勇者はこんなやつだったかな? いや、結構好き嫌いをはっきり言うタイプなので、勇者らしいと言えば勇者らしいのか。
だけど、気になってもらわなくて結構。むしろ、レオラムにとっては迷惑でしかない。
黙っていると、アルフレッドは舌打ちする。
「一年苦楽を共にした仲間だったのに、お前は俺のことを金蔓くらいにしか思っていない」
苦楽の楽を共にした覚えはないが、苦難は一緒に乗り越えてきた。お金は大事であったし、金払いのいい勇者はありがたいが、金蔓とまでは思っていない。
さすがにここまで言われると腹が立ち、さっき掴まれた手はまだ痛いしと、ついでとばかりに言ってやる。
「勇者さまの最後のお金も確認できてませんし」
「はっ!? 俺がケチったとでも」
苛立ったような声音に、一瞬びくりとなったがレオラムは少し溜飲を下げる。自分ばかりが相手に振り回されるのは割に合わない。
それに、アルフレッドのこの怒りようは微塵もそんなことを考えていなかったのだとわかる反応で、やっぱりこういうところは信用できると思った。
なので、素直に訂正する。
「いえ。その辺りは信用しています」
「……あ、そ」
レオラムがそう告げると、アルフレッドの勢いは萎んでいった。
サラサラの金色の髪をガシガシとかき回し、途方に暮れたような顔をする。
「えーっと、それで聖女さまの訓練はよろしいのでしょうか?」
調子が狂うなとレオラムから話しかけると、すぐに気を取り直したのかいつもの自信に満ちた表情で大きく頷いた。
そこには、以前まであったレオラムへの苛立ちのようなものが、若干薄れているような気がする。
「聖女は忙しくて俺たちばかり相手にしてられないようだ」
「ああー、そうなんですね」
アルフレッドは、聖女のことなどどうでもいいとばかりに肩を竦めた。
仮にも、この先魔王討伐に一緒に行く仲間になる人物である。自分が言えたことではないが、それでいいのかと気になった。
「で、ギルドだな。俺も行く」
「王城にいなくてもいいんですか?」
「どうせ今の段階では俺たちがいてもいなくても変わらないし、当の聖女は殿下のおっかけだろ? じゃあ、行くか」
こちらの意見を聞く気のない勇者は、レオラムの腕を掴んだまま外門を出る。
──なんなの? 一言も同行許可を発してないけど!?
護衛だけでなく、勇者も同行することになった外出。しかも、どちらも己の意を通せない現実に、レオラムはげんなりと肩を落とした。
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