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第1章
20確認①
しおりを挟むだったら、先に身体を洗おうかって、接続詞も内容も間違えてませんかね? と王子との会話はツッコミどころ満載だ。
相手が王族であることとともに混乱が続いているが、多少レオラムが礼を欠いていても気にならないらしいが、言ってからしまったと内心焦った。
これはレオラムが小心者だからではないはずだ。王族相手には誰だって気を遣いすぎるぐらい気を遣う。
つい感情的になってぽろっと、 “勝手” なんて言ってしまったが、王族に言っていい言葉ではなかった。特に、カシュエル殿下はレオラムを心配してくれているようなので、尚更丁寧さを心がけるべきだ。
「勝手なんて言って申し訳ありませんでした」
「それだけレオラムにとっては大事なことなのだろう?」
「ですが」
「私も追い詰めたいわけではないから、二人きりの時はむしろ感情を溜め込まずレオラムの思うように話してくれる方が嬉しい」
「………ありがとうございます」
寛大な言葉とともに許されて、申し訳なさと歯痒さに眉根を下げ口を引き結んだ。
思わず反論しても、それに対しては咎められないことは非常にありがたいのだが、ずっと会話は平行線どころか、カシュエル殿下の思惑通りに転がり落ちている気がする。
そして、言葉通り遠慮されることの方が嫌だとばかりの態度に、レオラムのペースは乱れっぱなしだ。
敬う気持ちは十分あるのに、距離を詰められて対応するこちらも距離感が曖昧になってやり取りに混乱する。
ひとまず謝罪ができ改めて許しを得たことにほっとすると、やっぱり王子から発せられた言葉が信じられなくて気になってきた。
レオラムは、ひと呼吸おいてから再度問いかける。
「その、さっきのは聞き間違いでしょうか?」
「聞き間違いではないと思うよ。先に身体を洗おうか」
聞き間違いじゃなかったぁー。
ゆっくり一語一語丁寧に返されて、レオラムは遠い目をした。
「どうしてそうなるのでしょうか?」
「レオラムが理由を知りたいと言ったから」
「そうなのですけど、それがよくわからないのです」
「確認したいこともあるし、夜も遅いからね」
結局、同じような話に戻ってしまった。
ただ、王子の中では筋が通っているようで、……確認? と夜も遅いことも付け加えられれば、レオラムがこれ以上ごねても仕方がないような気がしてきた。
一瞬、自分が知りたい理由って何だったっけとあれこれ考えることがありすぎてわからなくなったが、カシュエル殿下のご褒美に自分が関わっている理由であったことを思い出す。
謎に執着されているから、一緒に住むということに繋がっているのだろうし。まずそこの理由がわからないことには、レオラムもすっきりしない。
それと、身体を洗うことはどうしても繋がらないのだけど……。うーん。
「…………んー」
首を傾げ唸っていると、カシュエル殿下が同じように首を傾げ燃えるような瞳をレオラムに据えた。
「納得いかないようだね?」
「いかないというよりは、なんでしょう……」
王子としては要望を通すことの方が重要なのだろう。
確認? とか、洗う? とか、ここに住むこととか。その全てが唐突で理解できていない。
物腰は柔らかいが、カシュエル殿下の瞳は決めたことに対して妥協しないと強い光を放っている。
「レオラムが譲れないものがあるように、私も譲れないことがある」
「はい」
圧に押されるように、レオラムは頷いた。
レオラムが周囲から厭われても譲れなかったものがあるように、誰にでもそういう事は大なり小なりある。それを自分が相容れないからと、否定するつもりはない。
ただ今回問題なのは、王子のそれがレオラムに関わることだからややこしくなっている。
「それで、話す気はない?」
「…………」
「沈黙するならするでいいが、レオラムがここで過ごすことは決まっているからね。それが嫌なら、どうして田舎に帰るのか理由を教えてくれたら考慮する」
「考慮……」
それって、考えることは考えるが意を汲むかはまた別って言っているようなものだ。
レオラムが言葉を繰り返すと、王子は淡々と頷き肯定した。
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