3 / 115
第1章
3聖女召喚③
しおりを挟む今現在集まったお偉い方は彼らのそのやり取りを見守り、無事に意思疎通できるようだと徐々に緊張が解かれ騒ぎ出した。
「聖女さまが頷かれた」
「これで大丈夫ですね」
「ああ~、良かった。良かった」
──いやいや、魔王討伐はまだわかってなさそうだけど?
勝手に全てが終わったと安堵している貴族たちに、レオラムは思わず心の中で突っ込む。
常々、上位貴族たちは人任せで危機感が足りないと思っていたが、その予想をガッチリ固める発言に気持ちは引き気味だ。
「我が国の悲願を」
「ぜひ、魔王を倒してください」
「カシュエル殿下はさすがでございます」
周囲も起きた奇跡に目を奪われていたが、思い出したように口を開きこの場が一気に熱気に包まれた。
銀髪に誰をも魅了する神秘的な紫の瞳を持つ第二王子であるカシュエル・フラ・ベルジュレントは、聖女召喚という大それた儀式を終えたというのに何事もなかったかのようにスマートに聖女をエスコートした。
カシュエル殿下が彼女とともに広場から辞す。
一世一代の成果を上げ、魔力を盛大に消費したにもかかわらず、姿勢の良いその後ろ姿は貫禄があった。
さすがはこの国の聖君と呼ばれる第二王子だ。
ここから離れた小国の次女であった第二妃である美貌の母親の容姿を受け継ぎ、大国の姫との間にできた王太子である兄を常に立て、持って余る魔力でこのベルジュレント国のために多大な貢献を23という歳で成し遂げている。
そんな聖君と聖女の姿に見惚れる者多数。
あまりにその姿が絵になるので、ゆくゆくは聖女に第二王子を当てがえば、未だに婚約者も決めぬ王子の騒ぎは落ち着くだろうと考える者、年頃の独身娘、孫娘がいる者は、我が血族をとその瞳がギラッと光る。
噂では、カシュエル殿下はすでに心に決めた人がいるという話である。
国への貢献はそのためのもの。その方以外添い遂げる気がないとの意思表示だとされている。
実際、ここまで力を示した相手に歯向かうこともその力を失うことも、国としては痛烈な打撃になる。
なので、第二王子の対応はとても慎重なものになった。
そこまで成果を示し周囲を黙らせようとするのは、お相手に余程の身分差があるのかもしれない。
それと同時に、熱心に召喚を行ったあたり、もしかしたらご執心の相手は聖女なのではと噂もされていた。
どちらもあくまで噂だ。
それに、どのみち聖女をこの国で囲うのは前提なので、扱いは第二王子が絡んでも絡まなくても丁重になる。
とりあえず、実際の年齢や見た目や気質もわからぬため、どっちに転んでもいいように、公爵家ではなく侯爵家の養女。落とし所として良かったのであろう。
ダルボット家になるまでも、それはそれはいろいろあっただろうことは推測できる。
そこまで考えて、なるほどとレオラムは納得すると同時に、そういったことはよく頭が回るなと感心もする。
そんな渦巻く思考を理解すると、神聖な場が一気に淀むようだ。ヒーラーとしてそういった空気に敏感なレオラムは静かに溜め息をついた。
そう。レオラムは治癒士。実力はそこそこ。
茶色の髪に茶色の瞳、どこにでもあるような凡庸な顔。特に悪くもない顔だとは思うのだが、いかんせん周囲が派手派手しているので余計に地味平凡に見えるらしい。
そのせいでまたいろいろ絡まれたりとしてきたのだが、これでようやくお役御免だとレオラム的には肩の荷が軽くなった。
軽くはなったが、召喚された聖女を思うとあまり気分は良くない。
自分に解放されたという個人的なやましい気持ちがあるので主張しきれないし、もともと強く出れる身分でもないのだが、あまりにも勝手すぎないかとこの現状に思うところはあった。
レオラムはこれまで一応命を張って頑張ってきたのだ。ちゃんと任務を全うした上での安堵なので、死戦に出ない彼らとは見る視点が違う。
この達成感という空気でおかしくなっているかもしれないが、何のために聖女を呼び出したかそろそろ現実に戻ろうぜって思う。
──おっさんら、それよりも先に魔王討伐だから!!
応援ありがとうございます!
25
お気に入りに追加
4,025
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる