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第1章

2聖女召喚②

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「失礼いたしました。私はこの国の第二王子カシュエル・フラ・ベルジュレントと申します。あなたさまは聖女として召喚されました。こちらに来られたばかりでさぞかし混乱されているかと思います。まずは聖女さまが落ち着かれる場所に移動していただき、王から話がありますのでその際にご質問をどうぞ。決して、我が国は聖女さまを不当に扱いませんので、待遇などの心配はご無用です」
「……はあ」

 流れるようなカシュエル殿下の説明に圧倒されるように、聖女さまは戸惑いながらも頷いた。それを見て、レオラムもほっとする。
 パニックになったりお怒りになれば、魔王退治に参加してくれない可能性もある。まあ、あまりのことに頭が働いていない可能性はあるが、騒がないだけ話が通じる相手だと思いたい。

 最終的には彼女が行くことは絶対なので宰相あたりが言いくるめるだろうが、そうすると時間が取られることになるだろう。
 それは互いに無駄でしかないので、双方気持ち良く事が進むのはいいことだ。

「おわかりいただけたでしょうか? 聖女さま」
「あっ、はいっ!! あの、聖女というのは慣れなくて名前を呼んで頂ける方が」
「そうですか。それでしたらお名前を教えていただけますか?」
「カツラギミコトと言います。下の名前がミコトです」
「ミコト様ですね。どうぞよろしくお願いいたします」

 にこっとカシュエル殿下が微笑むと、ここからでもわかるくらい聖女はぼふんと顔を赤らめた。
 そのあと、ぶつぶつと聖女が何か言っているようだが、小さな声はここまで聞こえなかった。ちらちらと王子を見ては顔を赤らめてを繰り返している。
 王子が主に話しているからもあるが、その美貌しか目に入っていないようだ。


 ──うーん。聖女さまは少々……、かなり面食い?


 確かに、カシュエル殿下は誰もが認める美貌の持ち主であるが、この状況で見惚れているのだから、ある意味肝が座っているので魔王討伐も問題ないかもしれない。
 勇者一行も顔はいいしレオラム以外には対応は良いはずだから、そちらの面でも聖女に魔王討伐の参加をお願いするにあたって良い条件となりそうだ。
 
 聖女がこの場に降り立ったその時から、彼女は女神ルナの使いとして侯爵の庇護が与えられることが決められていた。話を漏れ聞く限り、ダルボット侯爵家の養女となるようだ。
 異世界の少女もまさか召喚されてすぐ、侯爵家に迎え入れられるとは思ってもいないだろう。

 というか、王族が保護するものと思っていたのだが、そうではないらしい。しかも、公爵家でもなく侯爵家。その辺は大人の事情があるのだろう。
 ダルボット侯爵家なら力ある貴族であるので、ある意味これも保護ということなのだろうか。

 高位の方の考えてることはわかってもわからなくても一緒か、とレオラムは自分には関係のないことだと中央へと視線を戻す。

「ご不安は多くあるかと思いますが、まずお話を聞いていただけないでしょうか?」
「話……、えっ、ちょっと本当にここは異世界?」

 王子の説得は続いている。そして、聖女はやはり現状を理解しきれていないようだ。

 現在、誰もが視線を彼女とこの場の最高指揮権を持った王子へと注いでいた。
 この国の王族は皆美しく、特に第二王子はこの国の至宝とも呼ばれ人外かと言われるほど整い次元の違った美しさを誇る美貌の持ち主であった。

「話を聞いてくださるのでしたら、まず冷たい地べたではなく柔らかい場所に座っていただきたい。どうかこの手を取ってお立ちいただき、一緒に来ていただけますか?」
「わかりました」

 さすが聖女に選ばれるだけのことはあり、度胸はあるようだ。混乱しながらも目の前の銀髪の美青年に目を奪われているようで、王子に促されるまま頷いた。
 そろそろとカシュエル殿下に手を伸ばす姿はまるで催眠にかかったようだな、と他人事のように観察する。

 レオラムは間近で拝見したことはないが、何度か謁見の際に遠くから顔を見ている。
 離れていてもわかる血が通っていない人形のように整いすぎたご尊顔とはまた違った意味で、見透かすようで蠱惑的な紫の眼差しは凶器だと、一瞬視線が絡まっただけでぶるりと背筋に怖気が這い上がったあの感覚を今でも覚えている。

 王族を許可もなく不躾に見るものでもないので速攻視線を外したが、しばらく妙な感覚が残っていた。
 それからはどうしても謁見などがある時は、周囲がこの機に拝見と意気込んでいるのとは正反対にレオラムは視線を第二王子に向けることはなかった。

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