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5.元聖女は自分のことを知る決心をしました。
125.(ステファン視点)
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「エイダン、キアーラ関係っぽいもの、何かわかるか?」
僕の問いかけに、机の上の焦げた紙の束をあさっていたエイダンは「――わからない」と首を振った。
僕らはレイヴィスとグレンダを連れて、もう一度あの洞窟奥の部屋に戻っていた。二人を連れてサミュエルさんたちと連絡の取れるところまで戻るとなると、時間がかかってしまう。キアーラへ立ち入るのをできるだけ早くするためにも、キアーラとレイヴィスの関係を示す証拠だけ一緒に持って帰りたかった。
――といっても、『キアーラ』『大司教』と素直に書いてあるわけでもなく、紙をあさっていてもよくわからない。『兎の足 100本 金貨300枚』とか『赤スライムパール 20個 金貨200枚』とか帳簿のようなものは出てくるけど、誰に売ったかは偽名使われてるようだし、いくつかの書類を照らし合わせないとわからないようだ。
――というか、やっぱりあの不法投棄の一角兎、こいつらの仕業だったんだな。
僕はため息をついた。ベルリクは『今じゃこの一帯、任されてる』と言っていたっけ。あの雑な処理方法からして、このへんの魔物の取引を実際にやっていて、兎を埋めたのはベルリクだろうか。
その時、「うぅ」という呻き声がした。振り返ると、レイヴィスが意識を取り戻していた。
「起きたか、ジジイ」
ライガが襟首を持ち上げてゆすると、髭が生えた大柄な男は「痛ぇな!」と喚いた。――身体強化の魔法を使うらしいから、鎖で縛って手足の腱を切ってある。そりゃ痛いだろうけど。
僕はレイヴィスに近づくと、語り掛けた
「レイヴィスさん、端的に聞きたいんですが、あなたがキアーラとやり取りしてた記録はここにありますか?」
「――――お前、ライガの仲間か。――グレンダ……は?」
僕は顔で部屋の隅を示した。王都ギルドの所長の魔法使いは、縛られた状態で壁に寄り掛かったまま、小さい呻き声を上げていた。大きいスライムはすっかり彼女の身体の中へ潜り込んで姿を消していた。
「赤スライム飲み込んでますから、苦しいですよ。とりあえず、キアーラの大司教との取引の証拠がどれか言ってくれたら、教会まで連れて行きます」
体内にスライムに完全に入られてしまった場合は、教会で神官に祈ってもらってスライムの動きを停止させて、腹を切って核を手術で取るのが一般的だ。
「スライム飲み込ませたって……ひでぇな。火の水晶あるだろ、飲ませてやってくれ」
――確かに、スライムの飼育穴に置いてあった炎の魔法を宿した小さい水晶を飲み込ませれば、赤スライムは溶けるか、外に這い出してくるだろうけど。
僕は呆れて言った。
「――あなたにも仲間意識があるんですね。この人との関係性はなんです?」
「――同じ魔法使いに師事してた弟子仲間だよ。まぁ、俺は魔法使いにはならなかったがな」
――こいつは身体強化の魔法を使っていた、ということを思い出して、僕は顔をしかめた。
魔法には風や水や火といった属性がある。
その中でも、生命魔法は人間の身体に宿る生命の精霊と対話して奇跡を起こす。
――そして、それは一番基本的な魔法で、魔力がある人間なら誰でも基本的に使える魔法だ。
魔法使いは、さらにいろいろな火や風や水なんかの精霊の力を使いこなせる者のことを言う。生命の精霊とだけしか対話できない者は魔法使いと呼ばず、その魔法を生業とする人は治癒士と呼ばれることが多い。
こいつは、他の精霊の力が使えず魔法使いの弟子をクビになったんだろう。
「――ならなかったじゃなくて、なれなかっただろ」
そう吐き捨てると、レイヴィスは物珍しそうに僕を見た。
「――お前、ライガの仲間。俺の手足をやったのはお前か」
自分の足を顎で指して聞いてくる。短剣で腱だけ切って、出血多量にならないように傷口の表面だけ塞いであるので、そこは中で出血して真っ青になっていた。
「お前も他の精霊の力は使えなかったクチか」
ぴくっと自分の頬が引きつるのを感じた。
「――それが何か? 余計な話は置いておいて、あなた方とキアーラとの関係がわかるのはどれですか」
「わかった、わかった。まず帳簿だな。Aから始まる名前で取引相手が書いてあるのがキアーラ案件だよ。あと、大司教とのやりとりに使ってた水晶が机の引き出し奥に入ってる。いくつか水晶があるが、それも袋に名前が書いてあるから見りゃわかる」
レイヴィスは思った以上に素直にそう言った。
――こいつ、あっさり大司教を売る気か。
僕の問いかけに、机の上の焦げた紙の束をあさっていたエイダンは「――わからない」と首を振った。
僕らはレイヴィスとグレンダを連れて、もう一度あの洞窟奥の部屋に戻っていた。二人を連れてサミュエルさんたちと連絡の取れるところまで戻るとなると、時間がかかってしまう。キアーラへ立ち入るのをできるだけ早くするためにも、キアーラとレイヴィスの関係を示す証拠だけ一緒に持って帰りたかった。
――といっても、『キアーラ』『大司教』と素直に書いてあるわけでもなく、紙をあさっていてもよくわからない。『兎の足 100本 金貨300枚』とか『赤スライムパール 20個 金貨200枚』とか帳簿のようなものは出てくるけど、誰に売ったかは偽名使われてるようだし、いくつかの書類を照らし合わせないとわからないようだ。
――というか、やっぱりあの不法投棄の一角兎、こいつらの仕業だったんだな。
僕はため息をついた。ベルリクは『今じゃこの一帯、任されてる』と言っていたっけ。あの雑な処理方法からして、このへんの魔物の取引を実際にやっていて、兎を埋めたのはベルリクだろうか。
その時、「うぅ」という呻き声がした。振り返ると、レイヴィスが意識を取り戻していた。
「起きたか、ジジイ」
ライガが襟首を持ち上げてゆすると、髭が生えた大柄な男は「痛ぇな!」と喚いた。――身体強化の魔法を使うらしいから、鎖で縛って手足の腱を切ってある。そりゃ痛いだろうけど。
僕はレイヴィスに近づくと、語り掛けた
「レイヴィスさん、端的に聞きたいんですが、あなたがキアーラとやり取りしてた記録はここにありますか?」
「――――お前、ライガの仲間か。――グレンダ……は?」
僕は顔で部屋の隅を示した。王都ギルドの所長の魔法使いは、縛られた状態で壁に寄り掛かったまま、小さい呻き声を上げていた。大きいスライムはすっかり彼女の身体の中へ潜り込んで姿を消していた。
「赤スライム飲み込んでますから、苦しいですよ。とりあえず、キアーラの大司教との取引の証拠がどれか言ってくれたら、教会まで連れて行きます」
体内にスライムに完全に入られてしまった場合は、教会で神官に祈ってもらってスライムの動きを停止させて、腹を切って核を手術で取るのが一般的だ。
「スライム飲み込ませたって……ひでぇな。火の水晶あるだろ、飲ませてやってくれ」
――確かに、スライムの飼育穴に置いてあった炎の魔法を宿した小さい水晶を飲み込ませれば、赤スライムは溶けるか、外に這い出してくるだろうけど。
僕は呆れて言った。
「――あなたにも仲間意識があるんですね。この人との関係性はなんです?」
「――同じ魔法使いに師事してた弟子仲間だよ。まぁ、俺は魔法使いにはならなかったがな」
――こいつは身体強化の魔法を使っていた、ということを思い出して、僕は顔をしかめた。
魔法には風や水や火といった属性がある。
その中でも、生命魔法は人間の身体に宿る生命の精霊と対話して奇跡を起こす。
――そして、それは一番基本的な魔法で、魔力がある人間なら誰でも基本的に使える魔法だ。
魔法使いは、さらにいろいろな火や風や水なんかの精霊の力を使いこなせる者のことを言う。生命の精霊とだけしか対話できない者は魔法使いと呼ばず、その魔法を生業とする人は治癒士と呼ばれることが多い。
こいつは、他の精霊の力が使えず魔法使いの弟子をクビになったんだろう。
「――ならなかったじゃなくて、なれなかっただろ」
そう吐き捨てると、レイヴィスは物珍しそうに僕を見た。
「――お前、ライガの仲間。俺の手足をやったのはお前か」
自分の足を顎で指して聞いてくる。短剣で腱だけ切って、出血多量にならないように傷口の表面だけ塞いであるので、そこは中で出血して真っ青になっていた。
「お前も他の精霊の力は使えなかったクチか」
ぴくっと自分の頬が引きつるのを感じた。
「――それが何か? 余計な話は置いておいて、あなた方とキアーラとの関係がわかるのはどれですか」
「わかった、わかった。まず帳簿だな。Aから始まる名前で取引相手が書いてあるのがキアーラ案件だよ。あと、大司教とのやりとりに使ってた水晶が机の引き出し奥に入ってる。いくつか水晶があるが、それも袋に名前が書いてあるから見りゃわかる」
レイヴィスは思った以上に素直にそう言った。
――こいつ、あっさり大司教を売る気か。
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