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5.元聖女は自分のことを知る決心をしました。
124.(ライガ視点)
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「待ちやがれ!」
レイヴィスを追いかけて飛び出した先は、夕食を食べた谷の川の横にそびえてた山の森の中っぽかった。がさがさと草を掻き分けて逃げていくクソジジイの後ろ姿が狼男の俺の目にはよく見える。
「逃がすか!」
俺は全速力で駆けると、その背中に飛び掛かった。
小さい頃はやたらでかく、恐ろしく感じてたが今はそんなことはない。
体格はでかいが、たいしたことないぜ!
ひゅんっと自分が振り下ろした拳が風を切る音がする。
このまま一発当てて……と思った瞬間、身体が飛んで視界がひっくり返った。レイヴィスが俺の拳を片手で受け止め、放り投げたと理解した時には、木の幹に逆さに突っ込んでた。
「痛ってぇな!」
叫びながら身体を起こし、再び殴りかかる。レイヴィスはそれをまともに腹に喰らった――はずが、そのまま踏みとどまって、拳を握ると俺に逆に殴り掛かって来た。
――普通の人間で正面から喰らって耐えれるはずがねぇ!
俺はレイヴィスの拳を横に飛んで避ける。ジジイの拳は俺をかすって後ろの木の幹にめりこんだ。バキバキっと音を立てて、木が倒れる。
――こいつ、ステファンと同じで身体強化の魔法使ってるな?
俺はそれを見ながらちっと舌打ちをした。
いわゆる回復魔法が属する生命魔法って魔法属性の一種が身体強化魔法だ。
ステファンは戦うときに要所要所で使ってるらしい。
――道理であの当時、俺より年上だったベルリクが大人しく従ってたはずだ。
これじゃ、いくら力の強い獣憑きったって、子どもじゃ歯が立たないもんな。
「素早いじゃないか!」
ジジイは叫ぶと、また殴り掛かって来た。
上に飛び上がってそれをかわし、蹴りを入れるも、レイヴィスは手をクロスさせてそれを受け止める。
「っらぁぁぁぁ」
そのままの勢いで連続で両手の拳で連打するけど、レイヴィスは微動だにしない。
――ステファンよりだいぶ硬いんじゃねぇか? こいつ要所要所どころじゃなくずっと強化魔法維持してやがる!
そう思った瞬間、レイヴィスの拳が俺の腹を貫いた。
俺は「がぁ」と小さく呻いて後ろに吹っ飛んだ。
藪に突っ込んで、ばきばきと小枝が折れる。
殴られたところがじんじん痛む。防御したつもりだったのにな……。
身体を起こしたその時、俺の鼻はステファンとエイダンの匂いを近くにとらえた。
――あいつら、近くに来てる――
俺は二人のいる方向を探るため、腹を押さえて苦しむふりをしながら鼻先に集中した。
「お前のことは良い飼い主に売ってやったってのに、俺に何の不満があるんだ」
レイヴィスは大げさにため息を吐きながらこちらに近づいて来る。
右2時くらいの方向にいるな。俺はステファンたちのいる方向を確認すると、うずくまったふりのままレイヴィスを睨みつけた。
「――うるせぇ、不味い肉食わせて、事あるごとに殴りやがっただろ! 人のこと物みてぇに扱いやがって! お前には不満しかねぇよ!」
レイヴィスは拳を鳴らしながら俺に近づいて来た。
――こいつ、俺に確実に勝てるって思って、逃げるの止めやがったな。
にたにた笑いながら、クソジジイは言う。
「そんなこと言われると悲しいじゃないか――ライガ。俺はなぁ、俺なりにお前らに愛情持って接してたんだぜ? そうじゃなきゃ誰が親に棄てられた暴れまわる狼憑きのガキなんか引き取るよ。俺なりに育てて、良さそうな飼い主に引き渡してやったんだから――感謝して欲しいくらいなんだがな」
――なんだその恩着せがましい言い方は。
いらっとして、思わず立ち上がって殴り掛かりそうになるのをこらえる。
――――こいつの、この粘りっこい言い方、どっかで聞いたような感じがするような気がする……。
ああ、あれだ。大司教がレイラに言ってたやつだ。
『自分がどれだけ神殿に恩があるかも知らずに』
思わず奥歯を噛み締める。好き勝手人を売り買いして、それを恩着せがましく、さも正当化して、ふざけんじゃねぇぞ!
落ち着け、落ち着け、俺。ここはとりあえず、力を弱めて、油断させて――。
俺は息を吐きながら、拳を握ると、少し苦しそうに顔を歪めてから相手に殴り掛かった。
当然、パンチはレイヴィスに受け止められる。
そのままやつは、俺の手を掴んで蹴りを入れてきた。
防御しながら、ステファンたちのいる方向へ体の向きを変えて吹っ飛ぶ。
「――あそこに俺を捜しに来たってことは、お前、冒険者にでもなったのか。せっかく売ってやった先を逃げ出したのか? 馬鹿か。飼われて暮らしてりゃ、こんなことにならなかったのにな」
こっちに近づきながら、レイヴィスは拳を構える。
俺は後ずさるようにしながら周囲を探った。
――ステファンのことだから、何かやってると思うけど。
あいつ小細工好きだからな。
――ん? 今なんか見えたような……。
頭を伏せると、草むらの奥の木と木の間に、何かが見えた。
――ロープが、ところどころ張られている。
……古典的かよ……、まぁ、でも。
俺はレイヴィスに向かって向き直ると、応戦の体勢をとった。
「うるせぇ!」
吠え声を上げて、殴り掛かる。拳を止められる。奴が殴り掛かってくる。それを避ける。
そうやって、少しずつ後退していく。
よし、そろそろ!
俺は、深呼吸して奴の拳を受けてまた殴り飛ばされた。……ロープの近くに。
「――無駄にでかくなっただけみたいだな!」
レイヴィスはそう笑うと倒れ込んだ俺を殴ろうと、近づいてきて……
「あ……っ?」
ロープに足を引っかけた。
「ばーか!」
俺はそのタイミングで、レイヴィスの胴体を思いっきり蹴飛ばした。
――身体強化の魔法は、意識の集中が必要だってステファンが言ってた。
注意が途切れた瞬間は、強化が緩むはずだ。
レイヴィスの身体は悲鳴と共に宙を舞った。よっし、まともに入った。
「お前も、大司教も恩着せがましいんだよ!」
そのままやつが地面に落ちる前に飛び掛かると、頭を連続で殴った。
「ふざけんな! 俺もレイラも好きに生きてやるからな! 消えろ!」
最後に一発顔の正面から殴ると、「ぐ」っというくぐもった声と共に、レイヴィスは動かなくなった。
レイヴィスを追いかけて飛び出した先は、夕食を食べた谷の川の横にそびえてた山の森の中っぽかった。がさがさと草を掻き分けて逃げていくクソジジイの後ろ姿が狼男の俺の目にはよく見える。
「逃がすか!」
俺は全速力で駆けると、その背中に飛び掛かった。
小さい頃はやたらでかく、恐ろしく感じてたが今はそんなことはない。
体格はでかいが、たいしたことないぜ!
ひゅんっと自分が振り下ろした拳が風を切る音がする。
このまま一発当てて……と思った瞬間、身体が飛んで視界がひっくり返った。レイヴィスが俺の拳を片手で受け止め、放り投げたと理解した時には、木の幹に逆さに突っ込んでた。
「痛ってぇな!」
叫びながら身体を起こし、再び殴りかかる。レイヴィスはそれをまともに腹に喰らった――はずが、そのまま踏みとどまって、拳を握ると俺に逆に殴り掛かって来た。
――普通の人間で正面から喰らって耐えれるはずがねぇ!
俺はレイヴィスの拳を横に飛んで避ける。ジジイの拳は俺をかすって後ろの木の幹にめりこんだ。バキバキっと音を立てて、木が倒れる。
――こいつ、ステファンと同じで身体強化の魔法使ってるな?
俺はそれを見ながらちっと舌打ちをした。
いわゆる回復魔法が属する生命魔法って魔法属性の一種が身体強化魔法だ。
ステファンは戦うときに要所要所で使ってるらしい。
――道理であの当時、俺より年上だったベルリクが大人しく従ってたはずだ。
これじゃ、いくら力の強い獣憑きったって、子どもじゃ歯が立たないもんな。
「素早いじゃないか!」
ジジイは叫ぶと、また殴り掛かって来た。
上に飛び上がってそれをかわし、蹴りを入れるも、レイヴィスは手をクロスさせてそれを受け止める。
「っらぁぁぁぁ」
そのままの勢いで連続で両手の拳で連打するけど、レイヴィスは微動だにしない。
――ステファンよりだいぶ硬いんじゃねぇか? こいつ要所要所どころじゃなくずっと強化魔法維持してやがる!
そう思った瞬間、レイヴィスの拳が俺の腹を貫いた。
俺は「がぁ」と小さく呻いて後ろに吹っ飛んだ。
藪に突っ込んで、ばきばきと小枝が折れる。
殴られたところがじんじん痛む。防御したつもりだったのにな……。
身体を起こしたその時、俺の鼻はステファンとエイダンの匂いを近くにとらえた。
――あいつら、近くに来てる――
俺は二人のいる方向を探るため、腹を押さえて苦しむふりをしながら鼻先に集中した。
「お前のことは良い飼い主に売ってやったってのに、俺に何の不満があるんだ」
レイヴィスは大げさにため息を吐きながらこちらに近づいて来る。
右2時くらいの方向にいるな。俺はステファンたちのいる方向を確認すると、うずくまったふりのままレイヴィスを睨みつけた。
「――うるせぇ、不味い肉食わせて、事あるごとに殴りやがっただろ! 人のこと物みてぇに扱いやがって! お前には不満しかねぇよ!」
レイヴィスは拳を鳴らしながら俺に近づいて来た。
――こいつ、俺に確実に勝てるって思って、逃げるの止めやがったな。
にたにた笑いながら、クソジジイは言う。
「そんなこと言われると悲しいじゃないか――ライガ。俺はなぁ、俺なりにお前らに愛情持って接してたんだぜ? そうじゃなきゃ誰が親に棄てられた暴れまわる狼憑きのガキなんか引き取るよ。俺なりに育てて、良さそうな飼い主に引き渡してやったんだから――感謝して欲しいくらいなんだがな」
――なんだその恩着せがましい言い方は。
いらっとして、思わず立ち上がって殴り掛かりそうになるのをこらえる。
――――こいつの、この粘りっこい言い方、どっかで聞いたような感じがするような気がする……。
ああ、あれだ。大司教がレイラに言ってたやつだ。
『自分がどれだけ神殿に恩があるかも知らずに』
思わず奥歯を噛み締める。好き勝手人を売り買いして、それを恩着せがましく、さも正当化して、ふざけんじゃねぇぞ!
落ち着け、落ち着け、俺。ここはとりあえず、力を弱めて、油断させて――。
俺は息を吐きながら、拳を握ると、少し苦しそうに顔を歪めてから相手に殴り掛かった。
当然、パンチはレイヴィスに受け止められる。
そのままやつは、俺の手を掴んで蹴りを入れてきた。
防御しながら、ステファンたちのいる方向へ体の向きを変えて吹っ飛ぶ。
「――あそこに俺を捜しに来たってことは、お前、冒険者にでもなったのか。せっかく売ってやった先を逃げ出したのか? 馬鹿か。飼われて暮らしてりゃ、こんなことにならなかったのにな」
こっちに近づきながら、レイヴィスは拳を構える。
俺は後ずさるようにしながら周囲を探った。
――ステファンのことだから、何かやってると思うけど。
あいつ小細工好きだからな。
――ん? 今なんか見えたような……。
頭を伏せると、草むらの奥の木と木の間に、何かが見えた。
――ロープが、ところどころ張られている。
……古典的かよ……、まぁ、でも。
俺はレイヴィスに向かって向き直ると、応戦の体勢をとった。
「うるせぇ!」
吠え声を上げて、殴り掛かる。拳を止められる。奴が殴り掛かってくる。それを避ける。
そうやって、少しずつ後退していく。
よし、そろそろ!
俺は、深呼吸して奴の拳を受けてまた殴り飛ばされた。……ロープの近くに。
「――無駄にでかくなっただけみたいだな!」
レイヴィスはそう笑うと倒れ込んだ俺を殴ろうと、近づいてきて……
「あ……っ?」
ロープに足を引っかけた。
「ばーか!」
俺はそのタイミングで、レイヴィスの胴体を思いっきり蹴飛ばした。
――身体強化の魔法は、意識の集中が必要だってステファンが言ってた。
注意が途切れた瞬間は、強化が緩むはずだ。
レイヴィスの身体は悲鳴と共に宙を舞った。よっし、まともに入った。
「お前も、大司教も恩着せがましいんだよ!」
そのままやつが地面に落ちる前に飛び掛かると、頭を連続で殴った。
「ふざけんな! 俺もレイラも好きに生きてやるからな! 消えろ!」
最後に一発顔の正面から殴ると、「ぐ」っというくぐもった声と共に、レイヴィスは動かなくなった。
応援ありがとうございます!
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