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リアム様に手を引かれて、私は学園のホールを出た。
「あの……どこへ……」
「学園内は少し騒々しくなっていますから、別のところで落ち着いた方が良いでしょう。俺の滞在している離宮はいかがでしょうか」
リアム様は確か来賓用の離宮に滞在しているはずだった。
薔薇のお庭がとても綺麗な、私もとても好きな場所だった。
私は学園を振り返った。
ネイサン様とモニカのいるあの場所から少しでも離れたい気持ちはあった。
「……ありがとうございます」
そう言うと、リアム様は微笑んで、「では馬車へ」と私を自分の馬車へと連れて行ってくれた。
***
私とリアム様が並んで座って、馬車が走り出した。
色んな事が起こり過ぎて、頭の整理が追い付かないわ……。
窓を開けて、外を眺める。
『ルイーズ、君との婚約を破棄する』
流れる景色を見ているはずなのに、そう冷たい目で私を見下ろして告げたネイサン様の姿が視界に浮かんできた。「う」と声が漏れた。口を押えると、今度は目から塩辛い液体がぽたぽたと流れ出てくる。
「……これを」
目の前に白いハンカチが差し出された。「ありがとうございます」と鼻声で呟いて、それで目頭を押さえる。
「みっともない姿をお見せして申し訳ありません……」
しばらくそうしてから、何とか涙が止まったので謝ると、リアム様は物悲し気に言った。
「……そんなにネイサン様のことがお好きだったのですか……」
「……ちょっと、信じられなくて……ごめんなさい……」
彼の言葉でまた涙が溢れてきて、私はハンカチを顔に被せた。
好き……そう、私はネイサン様が好きだった。
学園に入った時から、誰に対しても明るく接する彼に憧れていた。
婚約者候補にはなったものの、成績が良いだけの私が婚約者に選ばれるはずなんてないと思っていたら、ネイサン様は候補者とのダンスパーティーで壁に1人で立っていた私を見つけて、声をかけてくれた。
それだけで十分だったのに、婚約者にまで選ばれて本当に嬉しかった……。
「仲良く、していたと思っていたの……」
婚約者になってからは、週末に一緒に色々なところに出かけた。
花の綺麗な庭園でお茶をしたり、一緒に本を読んだり。
社交的で乗馬だとか、剣の試合なんかが好きなネイサン様だったけど、私といると普段苦手な静かなことでも楽しいって言ってくれていたのに……、
「ルイーズ様」
私の手をリアム様が握っていた。
驚いて手を放そうとしたけれど、リアム様はがっしりと強く私の手を握っていた。
「……ネイサン王子は、あのモニカという娘の言葉を真に受けて、あなたを突き飛ばそうとしたのですよ」
「……わかっています」
「あなたをそんな風に悲しませるネイサン王子を俺は許せない」
力強くリアム様はそう言う。私は思わず聞き返した。
「どうして、そこまで……」
「先ほども言いましたが、俺はずっとあなたをお慕いしているからです」
「あの……どこへ……」
「学園内は少し騒々しくなっていますから、別のところで落ち着いた方が良いでしょう。俺の滞在している離宮はいかがでしょうか」
リアム様は確か来賓用の離宮に滞在しているはずだった。
薔薇のお庭がとても綺麗な、私もとても好きな場所だった。
私は学園を振り返った。
ネイサン様とモニカのいるあの場所から少しでも離れたい気持ちはあった。
「……ありがとうございます」
そう言うと、リアム様は微笑んで、「では馬車へ」と私を自分の馬車へと連れて行ってくれた。
***
私とリアム様が並んで座って、馬車が走り出した。
色んな事が起こり過ぎて、頭の整理が追い付かないわ……。
窓を開けて、外を眺める。
『ルイーズ、君との婚約を破棄する』
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「……これを」
目の前に白いハンカチが差し出された。「ありがとうございます」と鼻声で呟いて、それで目頭を押さえる。
「みっともない姿をお見せして申し訳ありません……」
しばらくそうしてから、何とか涙が止まったので謝ると、リアム様は物悲し気に言った。
「……そんなにネイサン様のことがお好きだったのですか……」
「……ちょっと、信じられなくて……ごめんなさい……」
彼の言葉でまた涙が溢れてきて、私はハンカチを顔に被せた。
好き……そう、私はネイサン様が好きだった。
学園に入った時から、誰に対しても明るく接する彼に憧れていた。
婚約者候補にはなったものの、成績が良いだけの私が婚約者に選ばれるはずなんてないと思っていたら、ネイサン様は候補者とのダンスパーティーで壁に1人で立っていた私を見つけて、声をかけてくれた。
それだけで十分だったのに、婚約者にまで選ばれて本当に嬉しかった……。
「仲良く、していたと思っていたの……」
婚約者になってからは、週末に一緒に色々なところに出かけた。
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社交的で乗馬だとか、剣の試合なんかが好きなネイサン様だったけど、私といると普段苦手な静かなことでも楽しいって言ってくれていたのに……、
「ルイーズ様」
私の手をリアム様が握っていた。
驚いて手を放そうとしたけれど、リアム様はがっしりと強く私の手を握っていた。
「……ネイサン王子は、あのモニカという娘の言葉を真に受けて、あなたを突き飛ばそうとしたのですよ」
「……わかっています」
「あなたをそんな風に悲しませるネイサン王子を俺は許せない」
力強くリアム様はそう言う。私は思わず聞き返した。
「どうして、そこまで……」
「先ほども言いましたが、俺はずっとあなたをお慕いしているからです」
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