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確かに従兄弟だと仰ってました

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 セレッサの件が一応のところ片付いてから、持ちきりだった彼女の噂話も収束した頃、学園では中間考査テストが行われた。
 ある意味、この中間テストのおかげで噂話が立ち消えたと言っても過言ではないだろう。良いタイミングだったと思う。

 特待生の私は当然の事ながら成績を落とすわけにはいかないので全力で臨んだのだけど、今朝、校舎へ入るとテスト順位が学年別に廊下に張り出されていた。
 一学年の順位で最も上に自分の名前があるのを見て、安堵と共にグッと拳を握り締める。

「……良し。ひとまずキープ出来た」

 入学してから初めてのテストで順位が下がってしまったとなれば、それこそ特待生試験で不正があったと疑われかねない。これからも気を抜かず勉強せねば。セレッサがいなくなった今、第二王子の婚約者として私の一挙手一投足がつぶさに見られる事になり、それがアシュレイ様の評価へと繋がってしまうのだから、益々気を引き締めねば。

「……文句なしの一位ですね、リヴィエール嬢。全教科満点はあなたただ一人でしたよ」

 背後から降ってきた声に振り返って見上げれば、車付き椅子を押してくれているジスランが私以上に誇らしげな顔をしていた。

「ジスランだって本気で実力発揮出来れば満点取れるんじゃない?」

 と苦笑まじりに言ったら、無言でにっこり笑顔が返ってきた。 ……役目しごととはいえわざと成績を狙った通りに操作出来ちゃう一族だもんね……何せね。ジスランが本気出せたらどこまで出来るんだろう。知りたいような知りたくないような。

 気を取り直して再び順位表を見上げれば、二位はニコルで三位はケイト、四位ジュリアンで五位がカミーユという番狂わせのない順位だった。私とニコルが七点差でケイトとは九点差か。

「エメは全教科満点かよ。お前、やっぱすげえな」

 いつの間に来たのか、そう言って私の右隣で瞳をキラキラさせながら順位表を見上げるのはニコルだ。

「次は負けねえからな!」

 なんて屈託なく笑うから、不覚にも胸が熱くなってしまった。

「うん。望むところだよ、ニコ」

 こんなに早く良い友人が出来るなんて思ってもみなかったなあ、としみじみ感慨に耽っていると、ニコルとは反対の左隣に立って私の肩をぽん、と叩いたのはケイトだった。

「私なんてジュリアンと二点差よ、危なかったわあ……。 って、そういえば殿下も一位ですって」

 危なかったと言う割にはけろりとした顔をしているのが、なんともケイトらしい。そしていつの間に階の違う三学年の成績を知ったのだ。

「さすがの耳の早さ」
「まあね。ちなみに二学年の順位も変わらずだそうよ」
「おお……そっちの情報も抜かりないとは」

 という事は、三学年の一位はアシュレイ様、二位がセシル様で三位がセヴラン様。そして二学年の一位がディディ(ブラッド)で二位がジュディス様、三位がクレア様か。

 入学初日にセシル様がSクラス上位は順位の変動がほぼない、と言っていたけど……どうやら本当みたいだな。
 公務も生徒会もあって日々多忙なアシュレイ様もそうだけど、ディディなんていつ勉強してるんだろう。私の護衛をする傍らでちょくちょく諜報関係の任務でふらりといなくなるのに。
 
 勤勉に努力を積み重ねていくアシュレイ様は隙間時間を上手く活用されている様子なのだけれど、それに対してディディは未だに謎だ。あ、でもそういえば少し前に、一度見聞きすれば大体の事は頭に入るって言ってたからなあ……彼こそ正真正銘の天才というやつなのではなかろうか。
 ディディが一学年上で良かった……。私はもちろん天才などではないので机に必死に齧りついて成績をキープしているのだ、天才を前にすればひと溜まりもないだろう。

 そう考えると、ほんと、よく特待生試験受かったなあ……。試験問題の範囲が多岐に渡っていたのが逆に功を奏したのかも。これ、学力のみだったら案外落ちてたんじゃ……?
 まあもう既に受かってしまっているから考えても栓のない事だけど。

 とりあえず、この中間テストが終われば前期は終わったとも言える。来月になれば長期休暇に入るしね。
 実家が遠すぎて帰れない私は、長期休暇をどう消化しようか考え中だ。
 未だ王宮に居候させて貰っているのであまり好き勝手には出来ないし、ウィル君ルー君といっぱい遊びたいなあと思っていたら、どうやら王太子御一家は王家直轄領にある北の離宮へ避暑に行くらしい。豊かな山や森に囲まれていて川や大きな湖があるのだそう。ウィル君ルー君からエメちゃんも一緒に行こうよ、とせがまれていて、もうめちゃくちゃ嬉しいのだけれど、何せ足がね……。

 義足が直ってないんだよなあ……。だから遊びたくても遊べないし……うーん……どうしたものか。
 ヒューバート殿下が「俺が抱き上げて運んでやろうか」なんて悪童の顔して言うけど、アシュレイ様のお許しが出るわけもないし、王太子殿下に抱き上げて運ばれるとか私の胃が保ちません、と断固お断りしておいた。
 まあ、あのにやりとした笑みは十中八九揶揄ってる顔だから断られるのわかってて言ってるのだろうけど。

 そういえばヒューバート殿下、セレッサ嬢の件が片付いたからてっきり学園には来ないと思っていたのに、なんと、まだいるんだなこれが。来月の長期休暇に入るまで、ではあるらしいけど。律儀な事だ。 ……律儀なのか?
 
 なんでも新学期から新しい教師が代わりに来る事が既に決まっているのだとか。
 とはいえバートランド・フランクリン先生の人気凄かったから代わりに来る先生は大変だろうな……。顔だけ人気ならまだしも、授業がわかりやすくて楽しかったからなあ……ほんと、王太子殿下って何者だ。
 
 聞けばどうやらヒューバート殿下、セレッサ嬢の件だけでなく、可愛い弟の婚約者になった特待生ってどんな奴だ、と見極めるために教師として潜入していたらしい。ゴリ押しと無茶振りされた学園側が心底気の毒でならない。
 
 あと、それとは別に可愛い弟の学生生活を見てみたかったというのも理由のひとつだったらしいけど……。
 そんな授業参観みたいなノリで……と胡乱な目を向けたら、「自分が品定めされていた事はどうでも良いのか」と可笑しそうに笑われた。
 良いよ。何せお相手は王子だ。王族なんだからたとえヒューバート殿下御自ら乗り出して来ずとも誰かしら調査は入ってただろうし。
 
 いやでもね、王太子ですよ、王太子。暇を持て余した王族の遊びじゃないんですよ。ただでさえ公務で毎日目が回るくらい忙しいだろうに……しかも国王陛下ご夫妻、外遊で不在中よ……?
 どうなってるんだ、と本気で大丈夫なのか心配したら、「サウスフェリうちの臣下は優秀だからなあ」とどこ吹く風だった。
 臣下の方々ももう慣れたものなのかな……? だとしたら全体の調整力と機動力半端ないのだが。確かに優秀なんだろうけど、皆様の心身が無事で健康だと良いなあと切実に願う。

 そんなわけで無事中間考査テストを終え、あとは長期休暇まで何もないぞ、と学園中がどこか弛緩した空気に包まれる中、放課後に生徒会を終えた私たちはテストの打ち上げと称してアシュレイ様お手製のお菓子や軽食を囲んでいた。
 本日のラインナップは苺のフレジェ、桃と紅茶クリームのロールケーキ、ディプロマットクリームたっぷりのシュークリーム、オレンジのジュレ、レモンソルベにルバーブパイ。それから数種類のサンドイッチにハムやレバーのパテ。

「うわあ……どれも美味しすぎて……ルビーみたいに美しいフレジェと甘酸っぱいルバーブパイ、紅茶の香りと桃が絶妙に合うロールケーキ……甘くなった口を爽やかなソルベやジュレで口直ししたら……もう永久に食べられる……どうしよう止まらない」
「相変わらずしあわせそうに食べてくれるね、エメは」
「しあわせです……はー……アシュレイ様、天才……」
「ありがとう。ほら、こっちのシュークリームも食べてみて?」
「……んんっ、クリームが! すっごく美味しい~!」
「そう言ってくれると思った。次はスモモのお菓子を作ろうと思うんだけど、どうかな」
「わあ、美味しそう……是非!」
「楽しみにしてて。 ……ふふ、口の端っこにクリーム付けちゃって……あ、こら、舐めちゃ駄目」
「…………っ!?」
「うん、美味しい。クリームごちそうさま」
「あ、アシュレ、さま……舐め……? 今、舐め……?」
「またそんな真っ赤になって可愛い顔して」

 という遣り取りをしていたら、気づけばケイトとニコルが遠巻きにひそひそ話していた。

「あっっっっっっまぁ……! なにアレあっっっま! 見ただけで歯が溶けそうなんだけど……ねえちょっと、私そろそろ砂糖吐いても良いかしら」
「は? 砂糖? 歯が溶けそうって虫歯か? ってか、なあ……エメってあんな奴だったっけ?」
「エメの好みを的確に突いてがっつり心と胃袋掴んじゃってるわ……端から逃す気なんてないじゃないのアレは……」
「……? 逃す気? ってなんだ?」
「………………ニコは清らかなそのままでいてね……」

 ホントにね! ピュアボーイ・ニコルは皆んなの癒しなのだから。そしてケイト! 全部まるっと聞こえてるからね!?
 あっ、ちょっと! ニヤニヤするんじゃありません!

「そういやさあ……」

 ニヤニヤ笑いで揶揄ってくるケイトに赤くなったり青くなったりしているところへ、唐突にニコルが何か思い出したように口を開いた。

「もうすぐ前期終わるのにさ、えーっと……オールディス先輩……? だっけ、結局一度も来なかったよな……生徒会」
「……そういえばそうねえ。どんな方なのかしら」

 あー……ニコルとケイトは知らないよね。傾国お兄さんの美貌を変装で隠して、今、私の背後にぴったり立っているその人の事を。
 二人は護衛の一人だと思ってるだろうし、私も請われてディディと呼んでいるから、まさかこんな近くで極限まで気配を消している冴えない容貌の人がくだんのブラッド・オールディスだなんて露程も思わないだろうなあ。

 王子の従姉妹であるクレア様はディディの正体を知っているけれど、同じくクラスメイトのジュディス様は変装後のディディしか見た事がなさそうで、その彼が私の背後でしれっと何も言わずにいるのを観察してこれは黙っておいた方が良さそうだ、と判断したようだ。ひとり静かに頷くと、オレンジジュレをゆっくり口に運んでいる。
 さすがは財務大臣の娘さん、状況判断に優れている。そういえば、あれから栞の君とはどうなったんだろう。ジュディス様ともまたゆっくりお話ししたいなあ。

 などと考えながらレモンソルベで口直ししていると、ニコルがおずおずとアシュレイ様に声を掛けた。

「あの、殿下……その……オレでも作れそうな菓子って何かありますか?」

 アシュレイ様がぱちりと瞬く。

「ニコルでも? つまり初心者でも作れるもの、という事だよね」
「そ、 ……です」
「うーん、そうだね……材料や手順がシンプルな方が良いから……あ、チーズケーキなんてどうかな。難しそうに見えてどんどん混ぜていくだけで良いし、あとはしっかり焼けるまで放っておけるから意外とクッキーなんかよりずっと楽に作れるよ」
「マジすか! あの、それでお願いします……!」
「わかった。長期休暇入る前に一度一緒に作ってみようか。実際自分で作る時は道具一式貸してあげるからそれを使うと良いよ。ちなみに、誰かに贈るの?」
「あ、いや。長期休暇なんですけど、領地に帰ろうと思ってたらじいちゃ……じゃなかった、祖父母がチビ……あ、弟や妹たち連れて王都に来るらしくて。だから、殿下の作る菓子ってどれもすげえ美味うまいから皆んなにも食わしてやりたい、っつうか……その……」

 恥ずかしそうに口を尖らせたあと、へへ、とはにかむニコルに、皆んなの視線が集中した。三学年男子三人が真顔でおもむろに立ち上がると、ニコルを囲んでぎゅうっと抱き締める。

「……は!? え!? なんだ!?」

 目を白黒させて慌てているニコルに、皆んなの慈愛の眼差しが降り注いだ。

「何この子……ピュアすぎ……これは確かに保護案件だね」

 そうでしょうともそうでしょうとも、遂におわかりいただけましたかアシュレイ様。

「なんだろうね……お兄さん、いっぱいお小遣いあげたくなってきたなあ」

 ……えーっと……気持ちはわかるんですけどやめておきましょうか、セシル様……。

「………………たくさん食べて大きくなれ」

 セヴラン様……。言ってることはいまいちですけど、セヴラン様のゴールドフィンガーで頭なでなでされたニコルはなんだかキラキラした目でセヴラン様を見ている。心の声が聞けたらたぶん、「この人カッケー(格好良い)!」とか叫んでそうだなあ……。

 とりあえず、生徒会でもニコルは総愛され枠に収まったようだ。先輩方にもたくさん可愛がられると良いね。
 
 そういえばこの中で嫡男なの、意外にもニコルだけなんだよね。アシュレイ様は第二子だし、セシル様は三男、セヴラン様なんて四男だもんなあ。当時の貴族家の多くがヒューバート殿下のご生誕に合わせて子供が生まれるように計画した結果、というやつだね。しかも第二子であるアシュレイ様が生まれるまで随分時間が経ってるから余計にね。忘れた頃に思いがけず出来た第二王子だから、貴族家としても計算どころの話じゃなかっただろうし。

 それにしても、宰相のお父君が当主の侯爵家とはいえ三男のセシル様って学園を卒業されたらどうするんだろう。爵位は嫡男が継ぐと言うし。セヴラン様は騎士団入りが確実だから良いとして、セシル様は……わからないけど、でもこれだけ有能な人だったらどこでも仕事していけるか。爵位だって侯爵とはいかなくてもお家で幾つかあるうちのどれかは譲り受けそうだし。伯爵か子爵あたりで。
 まあ、私などに心配されたところで、という話だよね。
 
 そんな事をつらつら考えているうちに、皆んなの関心が長期休暇はどうするかという話に変わっていた。

 長期休暇が終わる頃までは社交シーズンでもあるので、シーズンに入る冬頃からずっと王都のタウンハウスにいる貴族たちも多く、なので長期休暇とはいえ必ずしも学園生の多くが領地へ帰るわけでもないらしい。
 と言っても、社交デビューは十六歳からなので、誕生日の来ていない第一学年の令息令嬢は舞踏会や晩餐会といった夜会に呼ばれる事はないため、タウンハウスか領地のカントリーハウスでのんびり過ごすのが一般的なのだとか。

 私もニコルもケイトも十六歳になるのは長期休暇より後なので、社交デビューはまだだ。
 なので、ニコルはお祖父様たちと王都で過ごし、ケイトはお家の商会の手伝いに明け暮れるらしい。二学年のジュディス様は必要不可欠な夜会や茶会にのみ出席し、あとは領地でゆっくりされるそうだ。
 
 セヴラン様は休暇中騎士団で鍛えてもらうらしく、セシル様は社交シーズンで忙しい嫡男のお兄様の代わりに領地の視察と管理を任されているようだけれど、去年は二番目のお兄様がその役目を負っていたのだそうで、そうやって領地の管理と社交について学ぶとの事。
 いずれ二男のお兄様が伯爵位を貰い受け、セシル様は子爵位なのだそう。先程予想した通りだった。
 なんならもう既に子爵位を譲り受けているとか。侯爵家や伯爵家ほど大きくはないけどそこそこの領地があるらしく、セシル様は学生にしてもう立派な貴族家御当主だった。
 末っ子だからね、これでも爵位を貰えるだけ良い方だよ、なんて面映げに微笑んでいたけど、学生のうちに任せてもらえるなんてよほど期待され信頼されているのだろうな、と素直に凄いと思う。
 
 そしてクレア様はというと、茶会や夜会に引っ張りだこらしく招待状が引っ切りなしに届いているそう。おっとりされているから嫌がってないだろうかと思ったら、意外にも夜会はお好きなのだそうだ。茶会は甘いものが苦手なためお菓子を勧められるのが苦痛らしいけど、夜会は美味しい軽食がたくさんあるのとダンスが大好きだから良いんだって。
 夜会で出される軽食を全種類制覇するのを毎回目標にしているらしい。クレア様、いつも気持ち良いくらいの食べっぷりだもんなあ。今も超高速でサンドイッチとパテが消えていってるし。

 そしてアシュレイ様は、基本的に長期休暇だろうと公務は変わらずあるので忙しいのは当然なのだけど、義足が直り次第私とデートがしたいのだそう。
 でもその前にようやく国王陛下と妃殿下がご帰還されるだろうからご挨拶が先だと思うんだよね。

 ……って、よく考えたらドレスとか持っていないな……どうしよう……さすがに国王陛下の御前で男装は憚られるよなあ……でも社交シーズン真っ盛りの今、新しく注文を受付けてくれるドレス工房なんてあるかな……この際既製品でも良いけど……良いのがあれば。

 王宮では制服かアシュレイ様が子供の頃着ていた服をお直ししてもらい、それを着ていたのだけど、あまりにも誰もがすんなり受け入れてくれてたからうっかり失念していたよね……。
 迂闊だ。わかっていた事なのに事前に用意していないとか迂闊以外の何ものでもないじゃないか。
 うう……今までもちょくちょくこういう抜けをやらかして弟に呆れられてたのだよなあ……。あー私の馬鹿。

 どうしたものか……とぎゅぎゅっと眉根を寄せた時。

 二度、扉を叩く音がしたと同時に「失礼します」と入って来たのはジスランだった。彼はAクラスなので本来はこの第三棟へは入れないのだけど、私の護衛という立場を担っているので私が第三棟にいる場合に限り特別に立ち入りを許されている。

「ジスラン。どうしたの?」

 どこか緊張した面持ちなので声をかけたら、さっと私の下に歩み寄って来た。少し戸惑った様子で眉尻がへにょ、と下がっている。

「あの……リヴィエール嬢」
「うん」
「もし可能でしたら殿下と共に至急王宮へお戻り願えるでしょうか」
「……え?」
「私も? 何かあった?」
「いえ、 ……それが、その……リヴィエール嬢の従兄弟と仰る方が押しかけ……あっ、いえ、面会を求めてらっしゃいまして……」
「――はあ!?」

 思わず大きな声を上げてしまったし、驚きのあまり義足がないのも忘れて立ち上がろうとしてしまい、案の定ひっくり返りそうになったところをディディにヒョイ、と抱えられ、そのままなぜか隣に座っているアシュレイ様のお膝に乗せられてしまった。
 ――え、これなんの羞恥プレイ?

 降ろして、と言おうとしたけど時すでに遅し、すかさず回されたアシュレイ様の腕によってぎゅうぎゅうに固められてしまった。

は本当によくわかってるよね」
「お褒めの言葉をいただき光栄にございます」
「ええ……私の羞恥心は……って! じゃなくて! ジスラン、今、私の従兄弟って言った!?」
「え? あ、はい……。確かに従兄弟だと仰ってました」

 私の剣幕に狼狽えながらもジスランが首肯する。

 あー……、来たかあ……。来るなら弟が良かったんだけど……いや、会えるのはもちろん嬉しいのだけど……一筋縄ではいかない人が来ちゃったなあ、って…………あー……。

 眉間に手を当てる私を見て、アシュレイ様が心配そうに首を傾げる。

「エメ、大丈夫? 理由をつけて帰ってもらう?」
「あっ、いえ。大丈夫です。久しぶりに会えるのはすごく嬉しいので。 ……ですが、その……ちょーっと……従兄弟が騒がしくするかもしれないと思うと……アシュレイ様をはじめ王宮の方々に申し訳ないなあという気持ちで……」
「どんな方なの、その従兄弟って」

 全員の視線が集まる中、うう……、と唸った私は苦し紛れに答えを絞り出した。

「……会えばわかります……会えば」

 








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