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最終章:亡花の禁足地
59日目.真相
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夢が跡は深い山の奥にあったため、入口に帰って来てくる頃には日が沈み始めていた。
開いた金属扉から外に出ると、フェンスを背にして本を読んでいる聡の姿があった。
「ただいま。聡。」
「……ッ!…無事で良かったです…蓮斗先輩。」
「聡は……青く澄み渡った空を直接見るのは初めて?」
「……そうです。県内でこの光景が見れるなんて、夢にも思わなかった……先輩、ありがとうございます。そして…すみませんでした。」
「…何を謝っているの?止めたことだったら、撤回して。」
「…ッ!何故ですか!僕は行手を阻んで迷惑を……」
「君は実際に、怖く恐ろしい経験をして、自分なりに考えた上でこの選択をした。俺みたいに余程の命知らずで、追求意欲がある人でない限り、半端な覚悟なら帰って来られない。覚悟を決めても帰って来られない。……そう考えると、君は犠牲者を抑制できたとも言えるんじゃない?」
「……お人好しが過ぎるなぁ…先輩は。」
「よく言われるよ。帰ろう、俺も聡も、ずっと居間を空けてるでしょ。誰にも伝えずに。」
「はい。……青空の葬式…参加できるようにお願いしますよ。」
「勿論。君は弟にとって上司でもあり、家族同然だっただろうから。」
そう色々会話をしながら、俺達は山を降りて帰路に着いた。
家に到着して、玄関の扉を開く。すると、咲淋と妹達が出迎えてくれた。
「おかえり、蓮斗。」
「「おかえりなさい!」」
「ああ、ただいま。」
これは決して当たり前などでは無い。今、こうして家に帰ることができたのは、ある意味偶然かもしれない。懸けなければ、一方的に永遠なる眠りに誘惑されていただろうから。
靴を脱いで廊下に上がると、咲淋は一言かけた。
「晴れたね。流石だよ。」
「……呪いも晴れて、雨も上がった。これが俺がやりたかったことなのかはさておきね。」
「蓮斗だって学者なのだから、調べているうちに更に深いところまで行くと私は思っていたよ。……また、聞かせてね。君の活躍を…」
「勿論。……ちょっと今日はもう寝させて…疲労感がやばい……」
「「「おやすみなさい。」」」
俺は自室に入り、ノートパソコンを置いている机の上に歴史書を置いて、布団で横になって眠りに就いた。
呪いは恐らく祓えたものの、まだ痕跡だけが乱雑に散らばった状態だ。とはいえ、真相として全て繋がるまで、もう僅かの努力だ。抹消された歴史“夢が跡”に、俺は少しだけクロユリとの繋がりを感じていた。
赤き雲が晴れてから、丁度一週間が経過した。この間、俺はラストスパートを駆けていた。
青空が亡くなった事を家族に明かし、葬式を開いて彼を見送った。クロユリの過去と遺言の意味を調べるために、持ち帰った歴史書の解読に努めた。考古学に強い大学生時代の友達を呼んで、夢が跡や各地に点在する石碑の謎を紐解いたりもした。
その一方で、夕焚や咲淋、野村さんも崩落事故の具体的な原因解明に努めて、見事辻褄を合わせたらしい。
各々が非常に濃い一週間を過ごして今、全員が錆びれた公園に集合していた。
「大事な情報交換会を屋外でやるとは……正気じゃないですよ、蓮斗さん。」
「ここなら聞かれないし、聞かれても別に困らないから。折角なら快晴の空の下で、地道に集めたパズルを完成させたいと思って。」
「いいじゃん。蓮斗らしくて!」
夕焚は少し呆れているようだが、咲淋も野村さんも賛成してくれた。彼も断固拒否でないところを見るに、“心の何処かでは良いと思っているだろう”と俺は勝手に解釈していた。
場の空気も和らいだところで、俺は司会進行をする。
「始めよう。俺の方であったことは少し長くなりそうだから、崩落事故を先に聞かせてもらうよ。」
「はい。俺から話させてもらいます。」
そう言って夕焚は資料を俺に渡してから、話し始めた。
「まず、崩落事故が起きた原因は蓮斗さんと現地調査をした通り、“水道管が破裂したことにより、ショッピングモール全体の支えとなる時計塔下の土壌が極端に緩み、バランスが崩れたことです。”他の水道管でもそれが連鎖的に起こり、倒壊したと推測できます。」
ここまでは俺もよく知っている情報。形跡として残っていたものだ。
「そして、肝心な水道管が破裂した理由についてです。蓮斗さんが別行動中の間、我々は水道管の経路確認や事故当時の気象状況について調べていました。その中で、“恒夢前線が降らせた局所的な雨が水道施設を襲い、水道管を流れる水の量が限界を迎えた”ようです。」
「増水し過ぎて水道管が耐えられなくなったと……よく住宅地は生き残ったね……」
「はい。どちらにせよ、不幸中の不幸にはなりますが……。」
管理が甘かったと見るか、予想外の大洪水でどうにもならなかったと見るかは人それぞれだろう。
その辺りのことはもっと法律に詳しい方々に任せるとして、崩落事故の真相とするには充分だろう。
「これを崩落事故の真相として提出する。問題ない?」
そう三人に訊ねると、三人とも異論はないサインを出した。
「分かった。夕焚、コネクションを任せてもいい?」
「はい。後は任せてください。」
縦横繋がりが広い夕焚なら、スムーズに立証してくれることだろう。
崩落事故の話は一旦区切りがついたため、その元凶として繋がることについて、俺は話を持ちかけた。
「じゃあ、次は俺の話を聞いて欲しい。…花の亡霊…いわゆる呪いについて分かったことを……」
__________________
「久しぶりだね蓮斗!」
「急に呼んでごめん。来てくれてありがとう莉乃。」
クロユリの話を聞く限り、この地域の歴史が関係していると考えた。今は亡き祖父はどうやらその手の歴史に詳しかったらしいので、祖父の家で古い本をかき集めてみた。
古本の数々と石碑、そして夢が跡に遺された歴史書を解読すれば真実に近づけると思った俺は、考古学にも詳しい莉乃を呼んだという訳だ。
莉乃と歴史の謎解きをすること五日。全体像がはっきりとした。消えかかった昔の文字、ボロボロになった石碑、歩いて読んでの百二十時間だった。
「中々にえげつないな……」
「ほんとね、人の心が垣間見えたやばい歴史だよ……抹消したことも含めてね。」
“ゾッとした。”それ以外に適切な表現は恐らくないだろう。
__________________
「俺と莉乃で時系列順に整理した歴史の内容はこうだよ。」
『かつてより日本列島は、幾度となく災害によって多くの命を落としてきた。太刀打ちできない自然の脅威に人々が怯えていた頃、一人の外国人が姿を現した。メイデン。国籍不明、年齢不詳、どのような経緯で日本に居たのかも分からない謎多き男。彼はある神の信仰を人々に促した。すると、しばらくの間災害が起こることはなかった。
彼と神を信じた民衆は教会を設立し、秘密裏に信仰を続けていた。“神の代弁者”とも言われた彼は、姿を現してから二十年の間、ずっとその若さをキープし続けていた。
しかし、世界情勢はやがてこの状況を黙認してくれなくなった。第二次世界大戦初期。異国の人、謎の宗教団体、信仰対象の一人、不老長寿説、所出不明とあまりにも奇妙であった彼を、国は野放しにする訳がない。やがて彼は拷問を受け、死亡した。
戦後、メイデンが亡くなって以降も、人々は彼の石碑を彫って崇めた。神の御加護もあってか、日本は目まぐるしく速度で復興していった。しかし、それと同時に“公害”が目立ち始めた。
その辺りの頃からか、神の御加護は消えた。人災という過ちを、神は守ってはくれない。近頃、教会では時々怪奇現象が起こっていた。メイデンの呪い。人々は彼を取り巻く歴史を抹消して、教会を去った。
後に、優里奈という少女の魂とメイデンが遺した怨念が結合して、花の亡霊クロユリが誕生したと考えられる。』
「……っていう話。人災を嫌う二人の憎悪が一つの存在となって、恒夢前線という血の雨を形成した。“人間の過ちで死んだ人間の復讐の怨念”。…俺はそう捉えているよ……」
複雑で長い上、個人の主観も含まれている話を、彼らは最後まで顔色を変えずに聞いてくれた。
すると、野村さんは言った。
「早瀬君、凄いよ君。バラバラになった形跡から、真相を全部暴いてしまった。サイキッカーでも、そこまではできないよ。」
「野村さんの言う通りよ。蓮斗の“何故”は止められない。…これからも、共に精進したい!」
咲淋もそう褒めてくれた。
そして流れ的に、夕焚も一言言う空気となり、彼は少し間を置いて口にした。
「ありがとうございます。蓮斗さん。貴方が帰って来てくれて、本当に良かった。」
夕焚は頭を深く下げて、そう感謝を述べた。
「こちらこそ。君達の手助けもあったから…ありがとう。」
それから少し雑談をして、それぞれ帰路に着いて流れ解散をした。
これで、疑問は全て払拭された。滞在期間的にも、そろそろ東京に戻る時間が迫ってきている。
今はただ、この晴れた故郷での生活を満喫するのが一番だ。
次回……最終日.邁進
開いた金属扉から外に出ると、フェンスを背にして本を読んでいる聡の姿があった。
「ただいま。聡。」
「……ッ!…無事で良かったです…蓮斗先輩。」
「聡は……青く澄み渡った空を直接見るのは初めて?」
「……そうです。県内でこの光景が見れるなんて、夢にも思わなかった……先輩、ありがとうございます。そして…すみませんでした。」
「…何を謝っているの?止めたことだったら、撤回して。」
「…ッ!何故ですか!僕は行手を阻んで迷惑を……」
「君は実際に、怖く恐ろしい経験をして、自分なりに考えた上でこの選択をした。俺みたいに余程の命知らずで、追求意欲がある人でない限り、半端な覚悟なら帰って来られない。覚悟を決めても帰って来られない。……そう考えると、君は犠牲者を抑制できたとも言えるんじゃない?」
「……お人好しが過ぎるなぁ…先輩は。」
「よく言われるよ。帰ろう、俺も聡も、ずっと居間を空けてるでしょ。誰にも伝えずに。」
「はい。……青空の葬式…参加できるようにお願いしますよ。」
「勿論。君は弟にとって上司でもあり、家族同然だっただろうから。」
そう色々会話をしながら、俺達は山を降りて帰路に着いた。
家に到着して、玄関の扉を開く。すると、咲淋と妹達が出迎えてくれた。
「おかえり、蓮斗。」
「「おかえりなさい!」」
「ああ、ただいま。」
これは決して当たり前などでは無い。今、こうして家に帰ることができたのは、ある意味偶然かもしれない。懸けなければ、一方的に永遠なる眠りに誘惑されていただろうから。
靴を脱いで廊下に上がると、咲淋は一言かけた。
「晴れたね。流石だよ。」
「……呪いも晴れて、雨も上がった。これが俺がやりたかったことなのかはさておきね。」
「蓮斗だって学者なのだから、調べているうちに更に深いところまで行くと私は思っていたよ。……また、聞かせてね。君の活躍を…」
「勿論。……ちょっと今日はもう寝させて…疲労感がやばい……」
「「「おやすみなさい。」」」
俺は自室に入り、ノートパソコンを置いている机の上に歴史書を置いて、布団で横になって眠りに就いた。
呪いは恐らく祓えたものの、まだ痕跡だけが乱雑に散らばった状態だ。とはいえ、真相として全て繋がるまで、もう僅かの努力だ。抹消された歴史“夢が跡”に、俺は少しだけクロユリとの繋がりを感じていた。
赤き雲が晴れてから、丁度一週間が経過した。この間、俺はラストスパートを駆けていた。
青空が亡くなった事を家族に明かし、葬式を開いて彼を見送った。クロユリの過去と遺言の意味を調べるために、持ち帰った歴史書の解読に努めた。考古学に強い大学生時代の友達を呼んで、夢が跡や各地に点在する石碑の謎を紐解いたりもした。
その一方で、夕焚や咲淋、野村さんも崩落事故の具体的な原因解明に努めて、見事辻褄を合わせたらしい。
各々が非常に濃い一週間を過ごして今、全員が錆びれた公園に集合していた。
「大事な情報交換会を屋外でやるとは……正気じゃないですよ、蓮斗さん。」
「ここなら聞かれないし、聞かれても別に困らないから。折角なら快晴の空の下で、地道に集めたパズルを完成させたいと思って。」
「いいじゃん。蓮斗らしくて!」
夕焚は少し呆れているようだが、咲淋も野村さんも賛成してくれた。彼も断固拒否でないところを見るに、“心の何処かでは良いと思っているだろう”と俺は勝手に解釈していた。
場の空気も和らいだところで、俺は司会進行をする。
「始めよう。俺の方であったことは少し長くなりそうだから、崩落事故を先に聞かせてもらうよ。」
「はい。俺から話させてもらいます。」
そう言って夕焚は資料を俺に渡してから、話し始めた。
「まず、崩落事故が起きた原因は蓮斗さんと現地調査をした通り、“水道管が破裂したことにより、ショッピングモール全体の支えとなる時計塔下の土壌が極端に緩み、バランスが崩れたことです。”他の水道管でもそれが連鎖的に起こり、倒壊したと推測できます。」
ここまでは俺もよく知っている情報。形跡として残っていたものだ。
「そして、肝心な水道管が破裂した理由についてです。蓮斗さんが別行動中の間、我々は水道管の経路確認や事故当時の気象状況について調べていました。その中で、“恒夢前線が降らせた局所的な雨が水道施設を襲い、水道管を流れる水の量が限界を迎えた”ようです。」
「増水し過ぎて水道管が耐えられなくなったと……よく住宅地は生き残ったね……」
「はい。どちらにせよ、不幸中の不幸にはなりますが……。」
管理が甘かったと見るか、予想外の大洪水でどうにもならなかったと見るかは人それぞれだろう。
その辺りのことはもっと法律に詳しい方々に任せるとして、崩落事故の真相とするには充分だろう。
「これを崩落事故の真相として提出する。問題ない?」
そう三人に訊ねると、三人とも異論はないサインを出した。
「分かった。夕焚、コネクションを任せてもいい?」
「はい。後は任せてください。」
縦横繋がりが広い夕焚なら、スムーズに立証してくれることだろう。
崩落事故の話は一旦区切りがついたため、その元凶として繋がることについて、俺は話を持ちかけた。
「じゃあ、次は俺の話を聞いて欲しい。…花の亡霊…いわゆる呪いについて分かったことを……」
__________________
「久しぶりだね蓮斗!」
「急に呼んでごめん。来てくれてありがとう莉乃。」
クロユリの話を聞く限り、この地域の歴史が関係していると考えた。今は亡き祖父はどうやらその手の歴史に詳しかったらしいので、祖父の家で古い本をかき集めてみた。
古本の数々と石碑、そして夢が跡に遺された歴史書を解読すれば真実に近づけると思った俺は、考古学にも詳しい莉乃を呼んだという訳だ。
莉乃と歴史の謎解きをすること五日。全体像がはっきりとした。消えかかった昔の文字、ボロボロになった石碑、歩いて読んでの百二十時間だった。
「中々にえげつないな……」
「ほんとね、人の心が垣間見えたやばい歴史だよ……抹消したことも含めてね。」
“ゾッとした。”それ以外に適切な表現は恐らくないだろう。
__________________
「俺と莉乃で時系列順に整理した歴史の内容はこうだよ。」
『かつてより日本列島は、幾度となく災害によって多くの命を落としてきた。太刀打ちできない自然の脅威に人々が怯えていた頃、一人の外国人が姿を現した。メイデン。国籍不明、年齢不詳、どのような経緯で日本に居たのかも分からない謎多き男。彼はある神の信仰を人々に促した。すると、しばらくの間災害が起こることはなかった。
彼と神を信じた民衆は教会を設立し、秘密裏に信仰を続けていた。“神の代弁者”とも言われた彼は、姿を現してから二十年の間、ずっとその若さをキープし続けていた。
しかし、世界情勢はやがてこの状況を黙認してくれなくなった。第二次世界大戦初期。異国の人、謎の宗教団体、信仰対象の一人、不老長寿説、所出不明とあまりにも奇妙であった彼を、国は野放しにする訳がない。やがて彼は拷問を受け、死亡した。
戦後、メイデンが亡くなって以降も、人々は彼の石碑を彫って崇めた。神の御加護もあってか、日本は目まぐるしく速度で復興していった。しかし、それと同時に“公害”が目立ち始めた。
その辺りの頃からか、神の御加護は消えた。人災という過ちを、神は守ってはくれない。近頃、教会では時々怪奇現象が起こっていた。メイデンの呪い。人々は彼を取り巻く歴史を抹消して、教会を去った。
後に、優里奈という少女の魂とメイデンが遺した怨念が結合して、花の亡霊クロユリが誕生したと考えられる。』
「……っていう話。人災を嫌う二人の憎悪が一つの存在となって、恒夢前線という血の雨を形成した。“人間の過ちで死んだ人間の復讐の怨念”。…俺はそう捉えているよ……」
複雑で長い上、個人の主観も含まれている話を、彼らは最後まで顔色を変えずに聞いてくれた。
すると、野村さんは言った。
「早瀬君、凄いよ君。バラバラになった形跡から、真相を全部暴いてしまった。サイキッカーでも、そこまではできないよ。」
「野村さんの言う通りよ。蓮斗の“何故”は止められない。…これからも、共に精進したい!」
咲淋もそう褒めてくれた。
そして流れ的に、夕焚も一言言う空気となり、彼は少し間を置いて口にした。
「ありがとうございます。蓮斗さん。貴方が帰って来てくれて、本当に良かった。」
夕焚は頭を深く下げて、そう感謝を述べた。
「こちらこそ。君達の手助けもあったから…ありがとう。」
それから少し雑談をして、それぞれ帰路に着いて流れ解散をした。
これで、疑問は全て払拭された。滞在期間的にも、そろそろ東京に戻る時間が迫ってきている。
今はただ、この晴れた故郷での生活を満喫するのが一番だ。
次回……最終日.邁進
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