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2章:滑轍ハイウェイ

24日目.複雑化

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 色々あったものの、無事に家に到着することが出来た。そして、急遽夕焚と会議することとなった。

 「そうですか……蓮斗さんもTCCに接触したのですね。」

 車内で夕焚に一連の出来事について話したが、どうやら彼は予想出来ていたらしい。

 「面と向かって宣戦布告できるなんて流石です。俺は彼らに諦めて、裏でコソコソやっていましたから。……バレていたでしょうけど。」

 言及はしていなかったが、俺が見つかったのなら協力者全員抜けたはずだ。
 青空の情報収集力は凄まじい。警察である夕焚と張り合える…下手したらそれ以上かもしれない。
 
 「それで、これからどうやって動くか。TCCに目をつけられたものの、聡は俺に敵意剥き出しではなかった。もし本当に消したいのなら、あの場で俺は何かされてるよ。」

 「まぁ…貴方に対しての憎しみではないですからね。結局、彼も真相を知りたい心と納得できる答えなのか不安な心が混ざり合っているのでしょう。」

 「それには同感だよ。表面上に見える心だけが全てだとは思えない。TCCも地域自治の延長線上らしいし、邪魔をするとは言っても問題になるような事はしてこないはず……。」

 こんなにも期間が空いたというのに、未だに彼は先輩呼びをしている。つまり、何もかも変わってしまった訳じゃない。根っ子は無傷だ。
 そんな事を思っていると、夕焚は何故俺にTCCの存在を教えてくれなかったのかが気になったため尋ねた。

 「というか、なんで俺にTCCの事を黙ってたの?」

 「まだ貴方の決意が確固たるものか分からなかったからです。意を決してここに戻ってきた時点で覚悟は少なからず出来ているとは思っていましたが、俺と貴方が再会した時、貴方がまだ優柔不断な感じでしたから。そんな状態で彼のささやきを聞いたら、揺らいでしまいそうだったので……。」

 どうやら、夕焚なりにも考えがあったようだ。でも、もう少し早く聡に会っていたら、そうなっていた可能性もあったかもしれない。
 すると彼は付け足すようにこう言った。

 「ただ、今の蓮斗さんは何があっても揺らぎそうにないですね。安心しました。」

 俺は静かにゆっくりと首を縦に振った。話が脱線しそうだったため一度主線に戻した。

 「……と、話を戻そうか。TCCに関して俺はさほど心配する必要はないと思ってるから、今後も今まで通りに怪奇事故が起きたら調査しに行こうと思う。」

 「はい。それ以外にないですからね。」

 “この現実主義者が……”と思ったのは内緒だ。

 「ただ、聡は口だけの人でもない。もし何かありそうだったら、俺が対応するよ。夕焚はやるべき事が山積しているはずだからね。」

 「頼みますよ。」

 ひとまずは対策などは特にせず、何かあったらその都度俺がどうにかするという事に決まった。方向性が緩過ぎるとは思うが、これくらいが丁度いい。
 
 「あ、そうだ……」

 すると夕焚は思い出したようにこう言った。

 「先日の連鎖事故について恒夢前線との関連性が確証されました。それに伴い、恒夢前線に隠されたヒントのようなものも出てきました。帰ったら咲淋さんに聞いてみてください。」

 「夕焚が今説明すればよくない?」

 「俺の語彙力じゃあれは……」

 「なるほど、複雑だということは分かったよ。」

 夕焚はある程度、恒夢前線の知識がある。そんな彼でも理解するのがやっとの程の情報を一回で見つけた咲淋はやはり凄い。







 帰って来て、俺は仕事の書類のデータを送ってから、咲淋を訪ねた。

 「夕焚から連鎖事故と恒夢前線の関連性が分かったと聞いたよ。説明をお願いできる?」

 すると咲淋はあるファイルを開いて、パソコンの画面を見せた。

 「プレゼン風にした方が分かりやすいと思って作ってみた。前提としてなのだけれど、固定概念には囚われ過ぎない方がいいわよ。無限に矛盾が生じちゃうから。」

 「ああ。分かった。」

 固定概念に囚われないのは慣れたものだ。これまでの人生、科学では表せられない経験はいくらでもしてきた。
 彼女は説明を始めた。

 「まず、事故の原因だと思われる液体について。あれは恒夢前線の雲から出来たものだよ。ちょっと何の物質かは分からないのだけれど、雲の中で結合してあれの気体が漂ってるみたい。あの日起こっていた事は寒冷化。」

 「寒冷化?」

 「そう。前兆で日が差したでしょ?実はあれ私達が見ている雲の上に何層も雲があるらしいの。日が差したところだけは重なってないの。でも法則性があって、そこが通過した後は四層構造の雲が通過するようになっているの。あの気体が結合している雲は下から丁度四層目。上の層がクッションになって日の熱が入ってこなかったけど、それが急に無くなるから気体が他の層と混ざる。また上の層が現れるから寒冷化して凝結するって訳。」

 「ええと……つまり、雨が降る時にその気体の成分が一部混じって一緒に降ってきたっていう事?」

 「ええ。過程については複雑になるからそれだけでいいと思うよ。」

 何となく言いたいことは分かったが、完全に理解するのは難しそうだ。
 特に気になったのは何層もの雲についてだ。聞いた感じそれが互いに作用し合った結果、不思議な事態を巻き起こしているっぽい。

 「事故の原因は一旦置いておくとして、止まない雨の原因は何層もの雲が関わっていると睨んでよさげだな。」

 「ええ。あんな雲、見たことがない。しかも表面上は普通に見えてるのが厄介ね……。あの雲の一つ一つに迫っていけば、恒夢前線の全容は把握出来そうだよ。」

 咲淋はそう言いながらパソコンを閉じた。連鎖事故の液体だけで見たらあまり進んだ感じがしないが、雲の構造について分かったのは大きな進展になるだろう。
 俺が自室に戻ろうとすると、彼女はまだ何か伝えそびれた事があったらしく、“ちょっと待って。もう一つ大事なことが……!”と俺を引き留めた。
 
 「どうした?」

 「まだ断定は出来てないけれど、恒夢前線は幻聴・幻覚を見せる作用があるように思うの。一応警戒しておいて……。」

 「ああ…分かった……。」

 もう情報が錯乱し過ぎて何が何だか分からなくなっている自分がいる。
 一つだけ絶対に揺るがないことは、恒夢前線は超常現象に近いヤバいものだということ。
 俺達はそれに触れようとしているのだということを忘れてはならない。

 
 自室に戻り、俺は頭を整理するために眠りに就いた。
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