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2章:滑轍ハイウェイ
25日目.急
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九年前、皆バラバラになった。私達が生まれたのは、日本の南西。それが全国に散らばってしまった。
もうあの頃のメンバーが揃うことは絶対にないし、私達に会いたがらない友達だっている。
そして、私は生活がほぼ監視下におかれていると言っても過言ではない。故に、過去はもう過ぎ去った遠い記憶であって、今と繋がりがないものだと思っていた。
長期休暇前、友達からこんな連絡が入った。
『蓮君が戻ってきたよ。もし良かったら貴方も来ない?散らばった人達を今集めてるんだ。』
「みのりん……。」
みのりんは信頼できる友達だけど文字だけじゃやっぱり信じられなくて、私は電話を掛けてみた。
『はい、豊穣です。』
「聖穂だよ。蓮君が戻って来たって本当?!」
『うん。けっこう長いこと滞在しているみたいなの。彼さえ来れば他の子はすぐ集まれるから今しかないと思って……。聖穂は今どこにいるの?』
「私?私は名古屋で暮らしているよ。」
『名古屋なんだね。てっきり東京だと思っていたよ。』
「東京だったら蓮君会えるかもじゃん!」
『確かにそうね。……それで、来られそうなの?』
「日程は空いてるよ!ただプロデューサーが許可するかは何とも……」
『流石に大丈夫でしょ。もし何かあるようだったら唱君に任せちゃえば。』
「そこまで酷い状況じゃないよ~。確認が取れたらまた連絡するね!」
そう言って、私は電話を切った。本当、芸能界は肩身が狭い。まぁ私の性格上、どんな職に就いててもそう言ってるんだろうけど……。
朝、目が覚めた俺はとりあえずスマホを確認した。すると、珍しい人から連絡が入っていた。
「実……?」
実と最後に会ったのは帰郷初日で、それ以降会っていなければ連絡も取っていなかった。
メールの内容はこうだ。
『聖穂が帰って来るらしいよ。だから、皆集めた。急で悪いのだけど、今日の夕方来られそう?』
流石に急過ぎる。だが、彼らと再会できるのは凄く嬉しい。唯一心残りがあるとすれば、那緒が居ないこと。
でも、向き合うって決めた。過去の友情を一生失うなんて、ここまで引っ張っておいて出来る訳ない。
咲淋達と居た大学のサークルも楽しかったけど、やっぱりあの頃は忘れられない。俺は実に“勿論行くよ”と返した。
夕方まで時間を潰すために、俺は咲淋の観測の手伝いをしながら、話していた。
「へぇ~昔のメンバーで集まることになったのね。」
とりあえず、今日の夕方のことについて話した。
「ちゃんと揃うのは九年ぶりくらいかも……。けっこう皆バラバラになっちゃったから。……咲淋は昔の友達って今も連絡取ったりしてるの?」
ふとそう思ってそう尋ねた。俺もなんだけど、うちのサークルメンバーはプラベートについてほとんど話さないし聞かないようにしていた。
出身もバラバラだけど、とても気が合っていた。特に同じ業界で生きていく友達だから、良好な関係を絶対に崩したくなかった。
「……やっぱり何でも………」
間があまりにも長いため触れてはいけない話題なのだと判断して言葉を取り消そうとしたが、彼女は口を開いた。
「少しは今でも連絡を取り合っているわよ。……昔とは随分変わってしまった変わってしまったけれどね。」
「………そうか。これ以上は踏み込まないでお……」
「私が上京して気象学や天文学の勉強をしようと思った動機って話してなかったよね?」
咲淋の纏う雰囲気とは裏腹に、話を続けてくれるようだ。
俺が彼女の問いかけに頷くと、空一面の雨雲を指差して彼女は言った。
「天気って不思議なんだよね。化学に基づいているはずなのに、時々不可解なことが起こったりする。……私はふと思ったの。“何故、天気って心の変化に結びついているのだろう……”って。」
「心の変化……雨だと心が沈むとかそういうこと?」
「ええ。だけど、私達が天気に心を操られているだけじゃなくて、逆に私達の心が天気を映し出していると思うの。相互に……って感じかな?」
「………。」
あまり馴染みの無い感覚だが、共感してしまう自分もいる。
悲劇に苛まれた時、俺を嘲笑うかのように風雨が吹き付ける。アクシデントが発生した時、風雨はより状況を悪化させるように吹き付ける。
偶然……と言ったらそこでお終いなのだが、感覚としては何も間違ってはいないはず。
「分かるよ……咲淋。天気はグッドタイミングで味方してくれるし、バッドタイミングで事態を悪化させてくる。それが望んだものであれ望まないものであれ、びっくりするくらい心とリンクしている。」
「私の意見も蓮斗と同じ。出会った時から言っているけど、私は人一倍ものごとに対して“何故”を追求してしまう好奇心旺盛な性格なの。だから気になったの。天気のあらゆることが……。」
そう言う彼女はどこか寂しげな表情だった。まぁ何かあったことは予想できるが、この話も勇気を出してしてくれただろうから、これ以上は何も訊かなかった。
不安定な決意に彼女が背中を押してくれた理由……きっとそれはこの話が関係していたのだろう。
「……ちょっと天気が荒れてきたな…」
正午前にも関わらず、辺りはとても暗くなっていた。雲の様子に注目した次の瞬間、空に閃光が走った。
「雷か……!ここで実物を見るのはもう遠い記憶だ……。初めての時、那緒が凄く怖がってたっけな。」
この地域、意外にも雷とは縁が無い。俺が生まれるよりずっと昔は普通にあったらしいが、止まない雨が降り始めてからは稀にしか観測されていないそうだ。
東京では毎年夏頃になると耳にしていたが、ここで見たのは二回目、聞いたのすら五回目だ。
「うーん……。」
すると、咲淋は頭を悩ませているようだった。
「咲淋?」
「あまりにも突然ね……恒夢前線にも動きが見られるわ。ねぇ蓮斗、雷雨のピークとかはあった?」
「まず、ここじゃ雷雨は年に一回もないことも珍しくない。周期などは特にないよ。……でも、山が割とあるのに町中に落ちることが多い。元の雷とは異なる点が多々見られる。」
「……分かった。悪いけど、低所からの様子を確認してきてほしいの。私は引き続き雲の様子を伺っているから。」
「ああ。」
緊急で調査することとなり、俺は車で観測地点から町へと降りていった。
もうあの頃のメンバーが揃うことは絶対にないし、私達に会いたがらない友達だっている。
そして、私は生活がほぼ監視下におかれていると言っても過言ではない。故に、過去はもう過ぎ去った遠い記憶であって、今と繋がりがないものだと思っていた。
長期休暇前、友達からこんな連絡が入った。
『蓮君が戻ってきたよ。もし良かったら貴方も来ない?散らばった人達を今集めてるんだ。』
「みのりん……。」
みのりんは信頼できる友達だけど文字だけじゃやっぱり信じられなくて、私は電話を掛けてみた。
『はい、豊穣です。』
「聖穂だよ。蓮君が戻って来たって本当?!」
『うん。けっこう長いこと滞在しているみたいなの。彼さえ来れば他の子はすぐ集まれるから今しかないと思って……。聖穂は今どこにいるの?』
「私?私は名古屋で暮らしているよ。」
『名古屋なんだね。てっきり東京だと思っていたよ。』
「東京だったら蓮君会えるかもじゃん!」
『確かにそうね。……それで、来られそうなの?』
「日程は空いてるよ!ただプロデューサーが許可するかは何とも……」
『流石に大丈夫でしょ。もし何かあるようだったら唱君に任せちゃえば。』
「そこまで酷い状況じゃないよ~。確認が取れたらまた連絡するね!」
そう言って、私は電話を切った。本当、芸能界は肩身が狭い。まぁ私の性格上、どんな職に就いててもそう言ってるんだろうけど……。
朝、目が覚めた俺はとりあえずスマホを確認した。すると、珍しい人から連絡が入っていた。
「実……?」
実と最後に会ったのは帰郷初日で、それ以降会っていなければ連絡も取っていなかった。
メールの内容はこうだ。
『聖穂が帰って来るらしいよ。だから、皆集めた。急で悪いのだけど、今日の夕方来られそう?』
流石に急過ぎる。だが、彼らと再会できるのは凄く嬉しい。唯一心残りがあるとすれば、那緒が居ないこと。
でも、向き合うって決めた。過去の友情を一生失うなんて、ここまで引っ張っておいて出来る訳ない。
咲淋達と居た大学のサークルも楽しかったけど、やっぱりあの頃は忘れられない。俺は実に“勿論行くよ”と返した。
夕方まで時間を潰すために、俺は咲淋の観測の手伝いをしながら、話していた。
「へぇ~昔のメンバーで集まることになったのね。」
とりあえず、今日の夕方のことについて話した。
「ちゃんと揃うのは九年ぶりくらいかも……。けっこう皆バラバラになっちゃったから。……咲淋は昔の友達って今も連絡取ったりしてるの?」
ふとそう思ってそう尋ねた。俺もなんだけど、うちのサークルメンバーはプラベートについてほとんど話さないし聞かないようにしていた。
出身もバラバラだけど、とても気が合っていた。特に同じ業界で生きていく友達だから、良好な関係を絶対に崩したくなかった。
「……やっぱり何でも………」
間があまりにも長いため触れてはいけない話題なのだと判断して言葉を取り消そうとしたが、彼女は口を開いた。
「少しは今でも連絡を取り合っているわよ。……昔とは随分変わってしまった変わってしまったけれどね。」
「………そうか。これ以上は踏み込まないでお……」
「私が上京して気象学や天文学の勉強をしようと思った動機って話してなかったよね?」
咲淋の纏う雰囲気とは裏腹に、話を続けてくれるようだ。
俺が彼女の問いかけに頷くと、空一面の雨雲を指差して彼女は言った。
「天気って不思議なんだよね。化学に基づいているはずなのに、時々不可解なことが起こったりする。……私はふと思ったの。“何故、天気って心の変化に結びついているのだろう……”って。」
「心の変化……雨だと心が沈むとかそういうこと?」
「ええ。だけど、私達が天気に心を操られているだけじゃなくて、逆に私達の心が天気を映し出していると思うの。相互に……って感じかな?」
「………。」
あまり馴染みの無い感覚だが、共感してしまう自分もいる。
悲劇に苛まれた時、俺を嘲笑うかのように風雨が吹き付ける。アクシデントが発生した時、風雨はより状況を悪化させるように吹き付ける。
偶然……と言ったらそこでお終いなのだが、感覚としては何も間違ってはいないはず。
「分かるよ……咲淋。天気はグッドタイミングで味方してくれるし、バッドタイミングで事態を悪化させてくる。それが望んだものであれ望まないものであれ、びっくりするくらい心とリンクしている。」
「私の意見も蓮斗と同じ。出会った時から言っているけど、私は人一倍ものごとに対して“何故”を追求してしまう好奇心旺盛な性格なの。だから気になったの。天気のあらゆることが……。」
そう言う彼女はどこか寂しげな表情だった。まぁ何かあったことは予想できるが、この話も勇気を出してしてくれただろうから、これ以上は何も訊かなかった。
不安定な決意に彼女が背中を押してくれた理由……きっとそれはこの話が関係していたのだろう。
「……ちょっと天気が荒れてきたな…」
正午前にも関わらず、辺りはとても暗くなっていた。雲の様子に注目した次の瞬間、空に閃光が走った。
「雷か……!ここで実物を見るのはもう遠い記憶だ……。初めての時、那緒が凄く怖がってたっけな。」
この地域、意外にも雷とは縁が無い。俺が生まれるよりずっと昔は普通にあったらしいが、止まない雨が降り始めてからは稀にしか観測されていないそうだ。
東京では毎年夏頃になると耳にしていたが、ここで見たのは二回目、聞いたのすら五回目だ。
「うーん……。」
すると、咲淋は頭を悩ませているようだった。
「咲淋?」
「あまりにも突然ね……恒夢前線にも動きが見られるわ。ねぇ蓮斗、雷雨のピークとかはあった?」
「まず、ここじゃ雷雨は年に一回もないことも珍しくない。周期などは特にないよ。……でも、山が割とあるのに町中に落ちることが多い。元の雷とは異なる点が多々見られる。」
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