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2章:滑轍ハイウェイ

20日目.互視

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 「あれ…ここは……」

 目覚めると、そこは自宅であった。
 
 「やっと目が覚めたようね。」

 すると、そこには咲淋の姿があった。

 「……あれから何日が経過した?」

 「一日。大丈夫、事は全部片付いているから。……あっ…そうそう、夕焚君?が“蓮斗さんが起きたら自分の元を訪ねてとお伝え下さい”って言っていたよ。」

 「分かった。伝言ありがとう。」

 起きて早々でまた意識があやふやとしているが、それよりも行く末が気になるため、俺はすぐに支度して夕焚の家に向かった。







 インターホンを鳴らすと、彼はすぐに玄関から出てきた。

 「上がってください。話したい事が山程あります。」

 そうして、先日のように彼の部屋に案内された。



 用意された座布団の上に正座した俺は、早速用件について尋ねた。

 「……俺のいない間に何かあったの?」

 「はい、一応………」

 そう言いながら彼はノートパソコンの画面を俺に見せてきた。

 「まず、事故の根本の原因である可能性が一番高い液体を分析してみたのですが……当たり前のようにエラーを吐きましたね。」

 「やっぱりか……」

 あの液体の確認を行った時、知らない液体だということはすぐに分かった。ただ、別に俺は液体に関して豊富な知識を持つ訳ではないため、もしかしたら場違いではあるものの実在はしているものかと思ったが、そういう訳では無かったらしい。
 どちらにせよ、俺が検証したように一部の物体を滑らせる性質があることから、予想通りに液体がタイヤに付着したせいでスリップしたとみて間違いない。それも、かなりいい防水素材でも全然弾けていないどころか、染み込んでいる。

 「ただ、気になる事があってな……。警官さんが手袋越しに触れた時はベタついていると言っていた。その手袋はかなり層が薄いんだ。多分だけど、厚みで抵抗が変わりそうなんだよ。」

 「そうなんですか……それはまた詳しく調べてみますね。それで、肝心な液体溜まりがあった理由についてなのですが……恒夢前線が関わっていそうなんですよ。」

 歯切れの悪い言い方で、彼はそう告げた。先程までの話を聞く限りだとけっこうな事が分かっていそうであるが、やや謎めいた部分も残っているらしい。

 「断定は出来ないのか?」 
 
 「はい。咲淋さんの方でも異常事態が起きていたようで、結論を出すまでにはもう少し時間が必要なようです。現状では、恒夢前線の降らした雨の一部分に何かが混じっていた可能性が高いようですが、まだ何とも……」

 「判断材料が足りない訳じゃ無さそうだね。彼女ならやってくれるさ。」

 「はい。今は進捗報告を待つのみですね……。」

 一通りではあるが現状を把握したところで、俺の方も前回のシロバナタンポポの件を踏まえた上で今回のバーベナの件で思ったところについて話しておくべきだと思った。
 夕焚達の側から干渉することは難しそうだが、野村さんなら何か知っていても不思議じゃないし、全員把握しておいた方が話がスムーズに進むだろう。
 
 そう考えて、俺は話を切り出した。

 「……意識を失っていた俺を何処で発見したの。」

 「液体溜まりから更に進んだところの道端にもたれ掛かって倒れていたところを小林さんが発見しました。」

 「その周りに何か目印になるようなものは無かった?」

 「目印と言っていいのかは分かりませんが、電子板のほぼ真下でした。」

 偶然なのかもしれないが、位置関係がある程度リンクしている。それでも、防音壁などはない。
 
 「……俺からも一つ、話しておく事がある。」

 俺はあの空間で起きた出来事について彼に共有した。







 説明が全て終わると、夕焚は少し考えた後、何とか理解したように首を軽く縦に振った。
 
 「それに関しては俺の専門外ですね……蓮斗さんにそのような事があることは把握しておきます。」

 「そうしてもらえると助かるよ。……野村さんなら何か知っているのかな?」

 「サイキッカーというものがどこまで見通せるものなのかどうか………。まだ二度しか前例が無く、自分自身で体験した訳では無いので断定は出来ないのですが、貴方の言うようにこことは違う空間でありそうですね。正直、その空間と何が因果関係を持っているのかは、貴方に思い当たる節があり過ぎて……。」

 「そう……だね……。まぁ今日はもう出し尽くしたかな。また進捗があったら報告会にしよう。」

 「ですね。」

 話題が尽きて丁度良い頃合いだったので、俺達は一旦お開きにした。







 とある建物の中、失踪事件解決までの経緯が明るみになっていないことを怪しんでいた男達は、ある記事を読んで話し合っていた。

 「なぁ青空そら、九州自動車道が一部通行止めになっていたようだが、先日の事故の取り調べは一旦済んだのではなかったか?」

 すると、パソコンでの作業に集中していた青空は画面から目を離さずに言った。

 「今調べてみたのですが、警察官が何か調べているためのようです。」

 「事故原因でも探るためか?……待て、事故当時と通行止め中の間、恒夢前線はどんな様子だった。」

 男がそう質問すると、青空はすぐに地域の天気記録を確認した。それを見て彼は察した。

 「どちらも活性化していました……。ついでに航空カメラからも確認したのですが、先日までと同様の事故が発生しており、それらに群がる人達がいました。それだけなら根拠として薄いですが、アンテナを使って気象観測している様子も確認できます。」

 発言の中に何か思うところがあったのか男は少し考え込んだ後、思い出したように言葉にした。

 「そういえば、最近よく耳にするなぁ。ほぼ一日中毎日のように気象観測を行っている人が居ると。普段はもっと山の方でやっているとのことだが……。」

 「……会長の主張は分かりました。近々調査に携わったと思われる人を特定し、怪しい点がないか審査します。」

 「頼んだぞ。」

 「はい。では、自分はお先に失礼します。月一くらいは実家に顔を見せなければならないので。」

 「ゆっくり休みなさい。」

 業務を切り上げた青空はかっぱを着用し、バイクに乗って帰路に着いた。







 夕焚の家から帰って来てから、俺はこの数日間で届いた新規の仕事を一気に進めていた。
 午後九時になる頃、キリの良いところまで終わらせて俺は背を伸ばした。

 「たまには早く寝ようかな………。」

 そう思ってパソコンを閉じて布団に転がっていると、外でバイクが走っている音が鳴っていた。

 「こんなずっと雨の地域でバイクなんて乗る人、変わり者もいる者だ…。」

 気のせいだろうか、バイクの音はどんどん大きくなっている。こちら側に近づいている証拠だ。
 そして家の目の前を通った時、バイクの音は止まった。

 「宅配だったのかな……?玄関前で一応待機しておこう……。」

 丁度リビングの方に用事があるため、宅配ならついでに回収しておこうと玄関に向かった。



 玄関の扉を開くと、俺達の目はバッチリと合い、思わずこう口に零した。

 「「は?」」
 
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