20 / 60
2章:滑轍ハイウェイ
20日目.互視
しおりを挟む
「あれ…ここは……」
目覚めると、そこは自宅であった。
「やっと目が覚めたようね。」
すると、そこには咲淋の姿があった。
「……あれから何日が経過した?」
「一日。大丈夫、事は全部片付いているから。……あっ…そうそう、夕焚君?が“蓮斗さんが起きたら自分の元を訪ねてとお伝え下さい”って言っていたよ。」
「分かった。伝言ありがとう。」
起きて早々でまた意識があやふやとしているが、それよりも行く末が気になるため、俺はすぐに支度して夕焚の家に向かった。
インターホンを鳴らすと、彼はすぐに玄関から出てきた。
「上がってください。話したい事が山程あります。」
そうして、先日のように彼の部屋に案内された。
用意された座布団の上に正座した俺は、早速用件について尋ねた。
「……俺のいない間に何かあったの?」
「はい、一応………」
そう言いながら彼はノートパソコンの画面を俺に見せてきた。
「まず、事故の根本の原因である可能性が一番高い液体を分析してみたのですが……当たり前のようにエラーを吐きましたね。」
「やっぱりか……」
あの液体の確認を行った時、知らない液体だということはすぐに分かった。ただ、別に俺は液体に関して豊富な知識を持つ訳ではないため、もしかしたら場違いではあるものの実在はしているものかと思ったが、そういう訳では無かったらしい。
どちらにせよ、俺が検証したように一部の物体を滑らせる性質があることから、予想通りに液体がタイヤに付着したせいでスリップしたとみて間違いない。それも、かなりいい防水素材でも全然弾けていないどころか、染み込んでいる。
「ただ、気になる事があってな……。警官さんが手袋越しに触れた時はベタついていると言っていた。その手袋はかなり層が薄いんだ。多分だけど、厚みで抵抗が変わりそうなんだよ。」
「そうなんですか……それはまた詳しく調べてみますね。それで、肝心な液体溜まりがあった理由についてなのですが……恒夢前線が関わっていそうなんですよ。」
歯切れの悪い言い方で、彼はそう告げた。先程までの話を聞く限りだとけっこうな事が分かっていそうであるが、やや謎めいた部分も残っているらしい。
「断定は出来ないのか?」
「はい。咲淋さんの方でも異常事態が起きていたようで、結論を出すまでにはもう少し時間が必要なようです。現状では、恒夢前線の降らした雨の一部分に何かが混じっていた可能性が高いようですが、まだ何とも……」
「判断材料が足りない訳じゃ無さそうだね。彼女ならやってくれるさ。」
「はい。今は進捗報告を待つのみですね……。」
一通りではあるが現状を把握したところで、俺の方も前回のシロバナタンポポの件を踏まえた上で今回のバーベナの件で思ったところについて話しておくべきだと思った。
夕焚達の側から干渉することは難しそうだが、野村さんなら何か知っていても不思議じゃないし、全員把握しておいた方が話がスムーズに進むだろう。
そう考えて、俺は話を切り出した。
「……意識を失っていた俺を何処で発見したの。」
「液体溜まりから更に進んだところの道端にもたれ掛かって倒れていたところを小林さんが発見しました。」
「その周りに何か目印になるようなものは無かった?」
「目印と言っていいのかは分かりませんが、電子板のほぼ真下でした。」
偶然なのかもしれないが、位置関係がある程度リンクしている。それでも、防音壁などはない。
「……俺からも一つ、話しておく事がある。」
俺はあの空間で起きた出来事について彼に共有した。
説明が全て終わると、夕焚は少し考えた後、何とか理解したように首を軽く縦に振った。
「それに関しては俺の専門外ですね……蓮斗さんにそのような事があることは把握しておきます。」
「そうしてもらえると助かるよ。……野村さんなら何か知っているのかな?」
「サイキッカーというものがどこまで見通せるものなのかどうか………。まだ二度しか前例が無く、自分自身で体験した訳では無いので断定は出来ないのですが、貴方の言うようにこことは違う空間でありそうですね。正直、その空間と何が因果関係を持っているのかは、貴方に思い当たる節があり過ぎて……。」
「そう……だね……。まぁ今日はもう出し尽くしたかな。また進捗があったら報告会にしよう。」
「ですね。」
話題が尽きて丁度良い頃合いだったので、俺達は一旦お開きにした。
とある建物の中、失踪事件解決までの経緯が明るみになっていないことを怪しんでいた男達は、ある記事を読んで話し合っていた。
「なぁ青空、九州自動車道が一部通行止めになっていたようだが、先日の事故の取り調べは一旦済んだのではなかったか?」
すると、パソコンでの作業に集中していた青空は画面から目を離さずに言った。
「今調べてみたのですが、警察官が何か調べているためのようです。」
「事故原因でも探るためか?……待て、事故当時と通行止め中の間、恒夢前線はどんな様子だった。」
男がそう質問すると、青空はすぐに地域の天気記録を確認した。それを見て彼は察した。
「どちらも活性化していました……。ついでに航空カメラからも確認したのですが、先日までと同様の事故が発生しており、それらに群がる人達がいました。それだけなら根拠として薄いですが、アンテナを使って気象観測している様子も確認できます。」
発言の中に何か思うところがあったのか男は少し考え込んだ後、思い出したように言葉にした。
「そういえば、最近よく耳にするなぁ。ほぼ一日中毎日のように気象観測を行っている人が居ると。普段はもっと山の方でやっているとのことだが……。」
「……会長の主張は分かりました。近々調査に携わったと思われる人を特定し、怪しい点がないか審査します。」
「頼んだぞ。」
「はい。では、自分はお先に失礼します。月一くらいは実家に顔を見せなければならないので。」
「ゆっくり休みなさい。」
業務を切り上げた青空はかっぱを着用し、バイクに乗って帰路に着いた。
夕焚の家から帰って来てから、俺はこの数日間で届いた新規の仕事を一気に進めていた。
午後九時になる頃、キリの良いところまで終わらせて俺は背を伸ばした。
「たまには早く寝ようかな………。」
そう思ってパソコンを閉じて布団に転がっていると、外でバイクが走っている音が鳴っていた。
「こんなずっと雨の地域でバイクなんて乗る人、変わり者もいる者だ…。」
気のせいだろうか、バイクの音はどんどん大きくなっている。こちら側に近づいている証拠だ。
そして家の目の前を通った時、バイクの音は止まった。
「宅配だったのかな……?玄関前で一応待機しておこう……。」
丁度リビングの方に用事があるため、宅配ならついでに回収しておこうと玄関に向かった。
玄関の扉を開くと、俺達の目はバッチリと合い、思わずこう口に零した。
「「は?」」
目覚めると、そこは自宅であった。
「やっと目が覚めたようね。」
すると、そこには咲淋の姿があった。
「……あれから何日が経過した?」
「一日。大丈夫、事は全部片付いているから。……あっ…そうそう、夕焚君?が“蓮斗さんが起きたら自分の元を訪ねてとお伝え下さい”って言っていたよ。」
「分かった。伝言ありがとう。」
起きて早々でまた意識があやふやとしているが、それよりも行く末が気になるため、俺はすぐに支度して夕焚の家に向かった。
インターホンを鳴らすと、彼はすぐに玄関から出てきた。
「上がってください。話したい事が山程あります。」
そうして、先日のように彼の部屋に案内された。
用意された座布団の上に正座した俺は、早速用件について尋ねた。
「……俺のいない間に何かあったの?」
「はい、一応………」
そう言いながら彼はノートパソコンの画面を俺に見せてきた。
「まず、事故の根本の原因である可能性が一番高い液体を分析してみたのですが……当たり前のようにエラーを吐きましたね。」
「やっぱりか……」
あの液体の確認を行った時、知らない液体だということはすぐに分かった。ただ、別に俺は液体に関して豊富な知識を持つ訳ではないため、もしかしたら場違いではあるものの実在はしているものかと思ったが、そういう訳では無かったらしい。
どちらにせよ、俺が検証したように一部の物体を滑らせる性質があることから、予想通りに液体がタイヤに付着したせいでスリップしたとみて間違いない。それも、かなりいい防水素材でも全然弾けていないどころか、染み込んでいる。
「ただ、気になる事があってな……。警官さんが手袋越しに触れた時はベタついていると言っていた。その手袋はかなり層が薄いんだ。多分だけど、厚みで抵抗が変わりそうなんだよ。」
「そうなんですか……それはまた詳しく調べてみますね。それで、肝心な液体溜まりがあった理由についてなのですが……恒夢前線が関わっていそうなんですよ。」
歯切れの悪い言い方で、彼はそう告げた。先程までの話を聞く限りだとけっこうな事が分かっていそうであるが、やや謎めいた部分も残っているらしい。
「断定は出来ないのか?」
「はい。咲淋さんの方でも異常事態が起きていたようで、結論を出すまでにはもう少し時間が必要なようです。現状では、恒夢前線の降らした雨の一部分に何かが混じっていた可能性が高いようですが、まだ何とも……」
「判断材料が足りない訳じゃ無さそうだね。彼女ならやってくれるさ。」
「はい。今は進捗報告を待つのみですね……。」
一通りではあるが現状を把握したところで、俺の方も前回のシロバナタンポポの件を踏まえた上で今回のバーベナの件で思ったところについて話しておくべきだと思った。
夕焚達の側から干渉することは難しそうだが、野村さんなら何か知っていても不思議じゃないし、全員把握しておいた方が話がスムーズに進むだろう。
そう考えて、俺は話を切り出した。
「……意識を失っていた俺を何処で発見したの。」
「液体溜まりから更に進んだところの道端にもたれ掛かって倒れていたところを小林さんが発見しました。」
「その周りに何か目印になるようなものは無かった?」
「目印と言っていいのかは分かりませんが、電子板のほぼ真下でした。」
偶然なのかもしれないが、位置関係がある程度リンクしている。それでも、防音壁などはない。
「……俺からも一つ、話しておく事がある。」
俺はあの空間で起きた出来事について彼に共有した。
説明が全て終わると、夕焚は少し考えた後、何とか理解したように首を軽く縦に振った。
「それに関しては俺の専門外ですね……蓮斗さんにそのような事があることは把握しておきます。」
「そうしてもらえると助かるよ。……野村さんなら何か知っているのかな?」
「サイキッカーというものがどこまで見通せるものなのかどうか………。まだ二度しか前例が無く、自分自身で体験した訳では無いので断定は出来ないのですが、貴方の言うようにこことは違う空間でありそうですね。正直、その空間と何が因果関係を持っているのかは、貴方に思い当たる節があり過ぎて……。」
「そう……だね……。まぁ今日はもう出し尽くしたかな。また進捗があったら報告会にしよう。」
「ですね。」
話題が尽きて丁度良い頃合いだったので、俺達は一旦お開きにした。
とある建物の中、失踪事件解決までの経緯が明るみになっていないことを怪しんでいた男達は、ある記事を読んで話し合っていた。
「なぁ青空、九州自動車道が一部通行止めになっていたようだが、先日の事故の取り調べは一旦済んだのではなかったか?」
すると、パソコンでの作業に集中していた青空は画面から目を離さずに言った。
「今調べてみたのですが、警察官が何か調べているためのようです。」
「事故原因でも探るためか?……待て、事故当時と通行止め中の間、恒夢前線はどんな様子だった。」
男がそう質問すると、青空はすぐに地域の天気記録を確認した。それを見て彼は察した。
「どちらも活性化していました……。ついでに航空カメラからも確認したのですが、先日までと同様の事故が発生しており、それらに群がる人達がいました。それだけなら根拠として薄いですが、アンテナを使って気象観測している様子も確認できます。」
発言の中に何か思うところがあったのか男は少し考え込んだ後、思い出したように言葉にした。
「そういえば、最近よく耳にするなぁ。ほぼ一日中毎日のように気象観測を行っている人が居ると。普段はもっと山の方でやっているとのことだが……。」
「……会長の主張は分かりました。近々調査に携わったと思われる人を特定し、怪しい点がないか審査します。」
「頼んだぞ。」
「はい。では、自分はお先に失礼します。月一くらいは実家に顔を見せなければならないので。」
「ゆっくり休みなさい。」
業務を切り上げた青空はかっぱを着用し、バイクに乗って帰路に着いた。
夕焚の家から帰って来てから、俺はこの数日間で届いた新規の仕事を一気に進めていた。
午後九時になる頃、キリの良いところまで終わらせて俺は背を伸ばした。
「たまには早く寝ようかな………。」
そう思ってパソコンを閉じて布団に転がっていると、外でバイクが走っている音が鳴っていた。
「こんなずっと雨の地域でバイクなんて乗る人、変わり者もいる者だ…。」
気のせいだろうか、バイクの音はどんどん大きくなっている。こちら側に近づいている証拠だ。
そして家の目の前を通った時、バイクの音は止まった。
「宅配だったのかな……?玄関前で一応待機しておこう……。」
丁度リビングの方に用事があるため、宅配ならついでに回収しておこうと玄関に向かった。
玄関の扉を開くと、俺達の目はバッチリと合い、思わずこう口に零した。
「「は?」」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
量子幽霊の密室:五感操作トリックと魂の転写
葉羽
ミステリー
幼馴染の彩由美と共に平凡な高校生活を送る天才高校生、神藤葉羽。ある日、町外れの幽霊屋敷で起きた不可能殺人事件に巻き込まれる。密室状態の自室で発見された屋敷の主。屋敷全体、そして敷地全体という三重の密室。警察も匙を投げる中、葉羽は鋭い洞察力と論理的思考で事件の真相に迫る。だが、屋敷に隠された恐ろしい秘密と、五感を操る悪魔のトリックが、葉羽と彩由美を想像を絶する恐怖へと陥れる。量子力学の闇に潜む真犯人の正体とは?そして、幽霊屋敷に響く謎の声の正体は?すべての謎が解き明かされる時、驚愕の真実が二人を待ち受ける。
没入劇場の悪夢:天才高校生が挑む最恐の密室殺人トリック
葉羽
ミステリー
演劇界の巨匠が仕掛ける、観客没入型の新作公演。だが、幕開け直前に主宰は地下密室で惨殺された。完璧な密室、奇妙な遺体、そして出演者たちの不可解な証言。現場に居合わせた天才高校生・神藤葉羽は、迷宮のような劇場に潜む戦慄の真実へと挑む。錯覚と現実が交錯する悪夢の舞台で、葉羽は観客を欺く究極の殺人トリックを暴けるのか? 幼馴染・望月彩由美との淡い恋心を胸に秘め、葉羽は劇場に潜む「何か」に立ち向かう。だが、それは想像を絶する恐怖の幕開けだった…。
花ちゃんと僕のポケット
有箱
大衆娯楽
小児科の緩和ケアにやってきた、九歳の女の子、花ちゃん。
治る見込みのない病に侵されており、死を待つ状態にあったが、とても明るく元気な子だった。
ある日、花ちゃんが僕のポケットに何かが入っているのを見つける。
その後も、さらにその後も、ガラクタ同然のものを見つけては花ちゃんは笑った。
どんなものでも宝物にしてしまう。
そんな花ちゃんに癒しをもらっていたが、最期は突然訪れてしまう。
生命の宿るところ
山口テトラ
ミステリー
生命が宿るのは、脳か、心臓か。
生命が宿るのは、生か、死か。
生命が宿るのは、子宮か、卵か。
生命が宿るのは、他殺か、自殺か。
あなたの生命が宿っているのはどこですか?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる