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2章:滑轍ハイウェイ

19日目.繁茂道路

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 あれからけっこうな距離を歩いたが、それらしき気配など全くしていなかった。それもそのはず、高速道路上に花が自然に生えるようなスペースは中々ない。
 逆に言うと、花は奇妙な形で植わっているはずなので、見落とすなんて事はそうそうないだろう。

 「にしてもだけど………何かがおかしいな……?」

 俺は違和感を感じていた。もう何だかんだ四時間位歩いているが、景色が変わらない。
 そう思って後ろを確認すると、そこは元いた場所とは違うようだった。

 「……え?」

 歩いてきた自動車道が繁茂して、荒廃していた。それだけでなく、繁茂している範囲の空を見上げると、綺麗な境目を作って雨が降っていなかった。
 一度現状を報告した方が良いと感じた俺は、スマホを取り出して夕焚達に連絡を入れようと試みた。

 「駄目……繋がらない……。」

 電波が妨害されているようで通信に失敗した。よく見ると時計、位置情報、温度までもがエラーを吐いており、完全に遭難した状態となっていた。
 普通に考えたら、こんなこと起きるはずがない。すると以前シロバナタンポポのあった洞窟の事を思い出した。

 「そういえば、あの時の洞窟の天井の穴からも太陽の光が………。そういうことか。」

 今起きている事態が一体何なのかはまだ分からないが、探している花は確かにあの繁茂道路の中にあり、それを摘み取るまで出られないという事だ。
 意を決した俺は来た道を引き返して行った繁茂道路を進んで行った







 一方その頃、夕焚の方では……。

 「繋がりませんね……。小林さん、そちらから蓮斗さんの姿は見えないのですか?」

 『残念ながら……。』

 「……蓮斗さんは何か言っていましたか。」

 『“もう一つやるべきことがある”、“一人で大丈夫”と……。』

 夕焚は何となく察していた。彼は自分にも教えられない何か重大な任務を抱えていると。それが彼に宿る“何か”に関係するものであり、鍵であると。

 「……信じて待ちましょう。彼なら…何があっても帰って来るでしょう。ただ、やはり心配です。しばらく経っても戻ってくる気配が無かった場合は捜索をお願いします。」

 『分かりました。』

 その返答を聞いて、夕焚は小林と自分自身を一時ミュートした。そして、ただ一言無意識に零した。

 「命だけは丁重にお願いしますよ……蓮斗さん…!」







 繁茂道路は意外にも花は咲いておらず、ほとんど背の高い雑草だった。さらに、苔生した廃車が道路端に点在していたため、ごちゃごちゃしているのも見つけにくい理由の一つだろう。
 
 「この前とは違って何をすればいいのかは分かるのに、この前みたいに簡単には出てきてくれない……人影のサポートがないから……?」

 そうこう歩いていると、突如上空の壊れた電子板が落下してきた。




 「……危機一髪…。」

 見知らぬ空間で油断してはいなかったためすぐに対応できたが、もう少し電子板が大きかったら避けきれなかった。
 ひとまず安心して、俺は一息つく。
 
 「ふぅ……こんなところでもトラブル体質が遺憾無く発揮される………のは違うかも。こんなところだからこそ、事故が起こる。どうしても偶然には思えない。」

 事故を引き起こすために花が必要で、それを潰されないように妨害をしている。俺の中ではそう解釈していた。
 理由がどうであるかはともかく、もしも現象や概念自体に自我があるなら、そうしているだろう。そうしなければ、存在出来なくなってしまうから。
 これらはあくまでも妄想に過ぎないが、一つの仮説とすることで、全くない手掛かりを無理矢理引き出すことができるかもしれない。
 そしてその仮説にのっとるのならば、花は隠れやすくて危険が多い場所に生えていることになる。
 探している花がどんな花なのかすら分かっていないが、幸い周りの雑草の種類は全て同じに見える。どんなに色が近くても、特定は可能だ。
 
 そうと決まればと思い、丁度目と鼻の先にある事故の全容を体現しているかのような複数台の絡み合った廃車の辺りを注意深く調べることにした。







 背の高い雑草を掻き分け、廃車と道路の隙間まで細かく覗き見して、タイヤを持ち上げたりしてまで確認したが、一向に花は見つからない。
 しかし、何処かには必ずあるはずだ。そう思って諦めずに調査を続けると、遂に努力は実った。

 「ん?あれは……バーベナ?」

 廃車を一通り調べ終わり、フロントガラスの上に座って休憩がてら遠くを見ていると、偶然それは視界に入った。赤いバーベナだ。
 しかし、そのバーベナは廃車が突っ込んで突き刺さっていて、防音壁は壊れている。そのスレスレの崖っぷちに生えていたのだ。おまけに、何故か道路の下は底の見えない無限に広がる水溜まりだった。
 そこで疑惑は確信に変わった。この空間は元いた場所とは一致していない。まるで邪魔者を拒むように構成されているのだと。

 「あれさえ摘み取れば、解決するというのに………脳が危険信号を発している。あの水溜まりに落ちたら最期……。……恐れるな。じっと待ってたって状況は変わりしない。」

 廃車から降りて、バーベナを摘み取るために崖っぷちへと足を進めた。
 何とも都合が悪いことに、突っ込んだ廃車が邪魔で足場の安定するところから絶妙に手が届かない。

 「………おいおい、本気か…?……いや、腹をくくるしか……!」

 突き刺さったまま傾いていて衝撃を与えても平気なのか確証が持てない廃車を足場にして、俺は手を伸ばした。
 一応片足は道路に着けており廃車は身体を伸ばすために使っているが、バランスが崩れたらどのみち巻き添えをくらうだろう。

 「あと……少し……!」

 ほんのあと少しだった。それなのに、最悪のタイミングで突風が吹いた。

 「……!」

 それはあまりに強く、片足だけでは耐えられずに滑った。
 そして、身体全体を廃車に預ける結果になってしまった。すると、途端に廃車がさらに傾き始めてしまった。バランスが崩れたのだ。

 「最悪だ!……ここで落ちた場合どうなる?夢落ちで済む?呪いの類の可能性があるのにか?」

 このまま落下してしまったら死ぬ。不覚にも、そう悟ってしまう。
 ただ、この前はシロバナタンポポを摘んだと同時に元いた場所で目覚めた。幸い、まだ頑張れば届く距離にバーベナはある。

 「まだだ。まだ……!」

 決死の覚悟で手を伸ばした。ここで摘み取れなければ、先があるかなんて分からないし、想像もしたくない。
 生きるか死ぬかの賭けに近いものだった。



 遂に身体が空中に放り出された。“もう終わりだ。”そう思った時、防音壁の一部が崩れ落ち、一瞬の足場となった。
 これが最後のチャンスだと思い、俺はそれを踏み台にして跳んだ。そして、バーベナの回収に成功した。

 「よし。」

 そのまま再び空中に放り出されるが、次第に視界は霞んでいき、意識は中断された。
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