思想で溢れたメモリー

やみくも

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7章―B ー消墨編ー

共犯関係

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 俺はこの世界の出身ではない。所謂地球人アースブランカーという者だ。何処にでもいる普通の大学生だった。
 普通が一番幸せだということは理解している。だが、その頃の俺は刺激を求めていた。

喰墨「暇だ……何か面白いことでも起きないかな……違うな、受け身じゃ駄目だ。自分で起こさないとな!」



 正直、あの頃の俺は自覚する程いかれていた。無差別爆破、強盗、人質、ありとあらゆる犯罪の限りを尽くし、快感を覚えた。
 当然指名手配されていたが、最早どうカモフラージュして逃げ切るかという楽しさにすら取り憑かれていた。
 特に、警察を撒いた後に何食わぬ顔で喰らうラーメンは絶品であった。



客A「ねぇ貴方。カウンター席のあの客、何処で見覚えがない?」

客B「……確かに、連日記事になっている爆弾魔に似ている……」

 ある日の事、いつものようにラーメンを食べていると、そんな噂話をしているのが耳に入ってきた。

喰墨「大丈夫だ。気づきやしない。だってもう2週間だぞ?逆に凄いわ。」

 そう高を括って汁を飲み干し、店を出ると沢山の警察官に包囲されていた。







喰墨「マジかぁ………」

 俺は刑務所の独房に入れられ、退屈にしていた。あれだけの事をした俺は、重い刑罰を架せられたのだ。

喰墨「ここじゃ刺激がないな……何か面白いこと起きないかな……」

 そう思っていたある日、突如として空間の歪みが独房の中に現れた。

喰墨「退屈しないな!」

 当然のように俺は歪みの中に入った。







 歪みの先、そこは広い沼地であり、俺は倒れていた。
 立ち上がって辺りを見渡してみると、背が高い蛙が闊歩していた。

喰墨「何処だここは……奇妙なところだ……」

RT-▓▓6「目覚めたか、地球人。」

喰墨「ッ!誰だ……」

 音も気配もなく、身体に黒い液体を纏っている人型の生物が現れた。

RT-▓▓6「正式な名前はまだない。現在は単独行動ゆえ、呼び合う場面がないのでな。」

喰墨「まぁいいか。ここは何処だ?黒塗り君が連れ出したのか?」

RT-▓▓6「黒塗り君……もうそれでいい。その通り、青年を連れ出したのは拙者だ。天性の大罪人が刑務所の外に出られたことは奇跡だと思え。」

喰墨「やっぱり君も思うか?俺がいかれてるって。」

RT-▓▓6「自覚がありながらやっているとは……愚か過ぎて救いようがないな。…今回に限っては、そういう奴が適性な訳だが。」

喰墨「……?ッ!」

 少し沈黙が流れたその刹那、ものすごい怠さが身体を襲った。
 朦朧とする意識の中で顔を下に向けると、腹部に黒塗り君の刀が刺さっていることが分かった。

喰墨「…おい……何の…つもりだ……」

 怠さに耐えられず、俺は気絶してしまった。

RT-▓▓6「手荒な真似はしない。その空っぽの器に、大罪人に相応しい魂を入れ込むだけの話。」







 再び目が覚めると、そこは一面鏡のように反射する空間だった。そして、俺は自分の姿を見てすぐに違和感に気付く。

喰墨「何だこの姿は……それに、言葉にできない力が漲る……。」

RT-▓▓6「おめでとう。7つの大罪暴食に昇華させた。これからは喰墨と名乗るように。」

 すると、またしても気配もなく黒塗り君が姿を現した。

喰墨「状況が掴めない。どういうことか説明しろ。」

RT-▓▓6「お前はもう人間ではない。我々も人間ではない。感じるだろう?エネルギーの流れを。」

 言われてみれば、得体の知れない力の流れが全身で感じられた。

RT-▓▓6「その力を使って、憎き生命体を滅ぼすのだ。従来であれば、思想の強さが力に直結する関係で同じ志しを持つ奴に力を与えているが、お前には別の意味で惹かれてポテンシャルを感じた。仲間になれとは言わない。度が過ぎた愉快犯であるお前と、その過程が役に立つ我々。共犯関係として、悪くはないだろう。」

喰墨「なるほど……君には助けられた身だし、悪い提案ではないな。分かった、何をするかは知らないが、協力しよう。」

RT-▓▓6「話が分かる奴で助かる。多少は主従関係に見えるように振る舞えよ?」

喰墨「勿論。ポーカーフェイスは得意なんだぞ。」

 そんなことがあり、俺は喰墨としてマインダーの傘下に加わることとなった。
 それから800年の間、割と自由に、RT-▓▓6殿に従いながら地上で暴れていた。
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