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やみくも

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7章―B ー消墨編ー

追求の果ては……

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      ー数分前ー

 俺達が模擬戦を行っていたところ、突如空が邪力に覆われた。そして、強烈な邪力が辺りに広がった。

抗「おい。嘶……。」

嘶「分かっている。……俺達のものとは比にならない。“奴”だ…!」

 サニイはこれを予想していたのか。違う、偶然だ。そうでなければ、彼は警戒体制でいるはず。
 結界の一枚も張られておらず、日のエネルギーが今漂い始めたため、急襲だったのだろう。

抗「………行くぞ。」

嘶「…ああ。」

 しかし、意思に反して身体は動かなかった。

嘶「は……?どうして……。」

 すると、途端に人間の記憶と邪種にされる瞬間の記憶が、脳裏にフラッシュバックした。

嘶「ぐ……ぐぁぁぁぁぁ!」








 力はあり、名誉はない。トップ争いにならないくらい差は歴然。
 何が楽しくて力を追求したのだろうか。底のない力を。

 教祖による邪種化。禁忌邪種:嘶として力を証明した。だが、その先にあるものは名声ではない。悲鳴だ。
 誰もが怯える存在。気が付いたらそうなっていた。それに何の疑問も持たずに、同類を増やすために邪力を分配した。
 しばらくすると、肉体・能力が変異した。俺の周りには増殖させた邪種や俺と同じように邪種に変えた存在が集っていた。一つの群れとなったのだ。
 その過程で、何人かの変異者に出会った。共通点は教祖に直接邪種にさせられた事だった。







 二十分ほど金縛りに囚われていた。隣にいる抗も同様だ。
 あまりの強さにここまで充満してくるエネルギーを感じ取れば分かる。サニイが押されている。莫大なエネルギーを用いた攻撃を相殺するのに、魔力の大半を使ったのだろう。
 彼は簡単にはくたばらない。それでもエネルギーが切れれば、ただの一般人だ。いつまでも継続戦闘する事は不可能。

嘶「ぐぁぁぁ……!動…けよ……!動け…よ……!」 

 身体が重い。動かそうと思った瞬間、圧力が掛かる。これは奴の能力なんかではない。本能が拒んでいる。

嘶「……判断を誤った。決意さえあれば、動けるというのに…!」

 最後に行った実戦はサニイとの戦い。そこそこの年月が経っている。
 これだけの期間が開いた中、ここまでエネルギーが伝達するような奴に挑みにいく覚悟、俺には……。

エサラ「二人共!」

 すると、エサラが目の前に現れた。

嘶「何をしている……加勢に行かなくては……」

エサラ「そのままお返しします。このままだと終わってしまいます。ウォーム・クラスが、アスト大陸が!」

嘶「……ッ!」

エサラ「……最初は皆、過去に葛藤して縛られていました。ですが、干渉しなかったら干渉されないなんて、そんな甘い世の中ではありません。私も、それを身を持って体感しました……。故郷は悪魔に襲われて、一夜で灰になりました。何の前触れもなく居場所を奪われた私は、小さく無力ながらも放浪しました。」






 熊に襲われた。もう駄目かと思った時、熊は焼かれてしまった。

サニイ「怪我はない?一人かい?」

 私とそんなに年齢は違わないのに、彼はとても落ち着いていて、強かった。







エサラ「ですが、彼に出会ってから変わりました。自衛を超えて、誰かを守るために強くなれたんです。……それでも、貴方達には及びません。私も、“もっと強かったら皆を守れるのに……”。」

 その言葉は、俺の心に突き刺さった。
そうだ。俺は何のために力を追い求めていたのか。こんな姿になってまで。
 見返すためか、名誉のためか。最初からそうではなかった。

嘶「……俺は………。」

 圧力が全て消え、身体が身軽になった気がした。すると、上手く回らなかったエネルギーが身体に一気に流れ始めた。

嘶「俺は……俺を認めてくれる人の役に立つために、ここまで登り詰めた…!」

 そして、俺は邪力を身体に纏い、主戦場アストロック遺跡群の方へと向かった。







エサラ「抗。嘶は……」

抗「ありがとな。あいつを引き出してくれて。」

エサラ「貴方は平気だったのですか?」

抗「まさかな。俺も本当の金縛り状態だった。ただ俺は普段から脅迫されていた身。隣で悶える嘶と比べれば、余裕はあった。」

エサラ「そうですか。……向かいましょう。」

抗「ああ。」

 そして、エサラと抗も戦場へと向かった。
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