思想で溢れたメモリー

やみくも

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6章―A  ー心別編ー

戦場における辛い選択

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セギン「もうどうだっていい。ラグーンもろとも沈め。思術・出力最大:深海の藻屑」

 セギンから強いオーラが衝撃波として飛ばされると、建物が崩れ始め、来た時にギルムがぶった斬った水が戻った。
 奴は思念波の泡に身を包んで浮き上がるが、俺達は放流で崩れゆくラグーンに取り残されたままだ。




曖人「くっ…!泳げるか!ギルム!」

ギルム「水中呼吸は可能だが、この水流に抵抗できるかは別問題だ!残骸も勢いよく流れてるしな!」

 状況は最悪だ。ギルムはどこでも呼吸が出来るが、人間は無理だ。何より、水流は下に向かっている。奴は“確実”に仕留める気のようだ。
 直接では分が悪いと判断したか、このような手に出るとは。全く予想していなかったわけでは無いが、これといった対策が無い。
 これまで数々の敵と対峙して戦闘経験は積めてきており短期間で凄い成長を遂げているが、逆境からの脱出は一人でどうにかできた試しがない。
 アルフィティの時だってそうだ。仲間達がいたからこそ、隕石からラビリンスを守護できた。
 今、何をするのが正解か。先程からずっと水中に幽閉されてきたが、今回は範囲も広く、エネルギーによって生成された模造品でない本物の海水だ。それにセギンの水流操作が加わった形となる。
 絶望そのものだ。

曖人「……どうすれば……どうすれば!」 

ギルム「……後はお前に託す。」

曖人「……は?何言って……」

ギルム「長時間多色を使っている影響で身体に相当な負担がかかってる。だが、この異常に強い水圧を相殺するくらい容易い。」

 見ている限り、ギルムのエネルギーは消えかかっている。仮にそれに成功したとしても、彼の命が尽きかねない。

曖人「……お前最悪死ぬかもなんだぞ!」

ギルム「戦士だったらいつかはこうなる。何も出来ずに死ぬくらいなら、華麗に玉砕した方が後悔が少ない。……俺も簡単に死ぬ気はねぇがな。」

 彼の目に迷いは無い。それに、彼は自分を犠牲にこの状況を打破しようとしているようには思えない。確実な方法では無いが、生きようとしている者の闘志だ。

曖人「分かった。信じてるぞ。」

ギルム「そっちも頼んだぞ。…チャンスは一度のみ。水上に即座に昇り、恐らく待機してるであろうセギンに重い一撃を決めろ。」

 するとギルムは二刀にオーラを纏い、構えた。俺も剣にエネルギーを纏い、蹴る態勢をとなった。

ギルム「……剣術:縦虚殲判」

 刹那、水によって掻き消される轟音が鳴り響き、斬撃波が飛ばされ、水流を鮮明なくらいに弱体化させた。
 俺は先程の勢いを維持して直下する残骸を踏み台に、大きく跳び上がった。







 泡から身を出したセギンは、水上に浮かぶ王室の残骸を足場に、迎撃態勢を取っていた。

セギン「流石に藻屑になった。あまりにも遅いし、もういいか。」

 そして彼は思想釈放を解こうとしたが、莫大なエネルギーを感じ取り、咄嗟に斧を前に出した。しかし、一足遅かった。

セギン「く……なんてしつこい奴だ!」

 水上から身体を出した俺は、すぐさま剣を振るい、奴に斬り掛かった。しかし、防御が間に合わされた。
 それでも、こちらが圧倒的に優勢だ。俺は剣に思念波と共に光を纏い、より力を入れた。

曖人「何でこんな結末になったか、全員が生きるハッピーエンドが一番望ましいが、もしかしたら欠けたかもしれない故人を忘れてやんな。罪人から解き放たれ、彼のように…自由を……!与える。
剣術:希望の彗星・神光」

 ラビリンスは光は強く思念と共鳴し、セギンの力を押し退けて、刃を通した。
 常人は到底生き残れないが、心の何処かで、奇跡を信じていた。それでも、俺が奴の命を絶ったのは紛れもない事実だ。
 しかし、ここは戦場。リヴォリーターとして、英雄として、辛い選択を迫られる時だってある。
 甚大な被害が及んだものの、一応すべき事を達成したため、俺はその場を後にし、ジェット機を停泊させた島へと向かった。








 曖人が去ってから5分も経たない時。死亡したと思われた人物が浮き上がってきた。

ギルム「ぐはぁ……はぁ……終わったようだな……居ないか。…まぁ……あれだけ死亡フラグ発言して時間が掛かってたら、当然か……。」

セギン「……ギルムか……。」

ギルム「ッ!……生きていたか。それにその様子だと、七つの大罪怠惰の力を失ったようじゃないか。」

セギン「まぁ……瀕死だけど。……話さないか。何かさ。」
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