思想で溢れたメモリー

やみくも

文字の大きさ
上 下
131 / 186
6章―A  ー心別編ー

撃沈寸前

しおりを挟む
 光も音も届かない。先程までもこの窮地を何度も突破してきたが、流石に身体が悲鳴を上げている。残された道は二つ。一つは何らかの方法で打ち破る。もう一つはこのまま虚しく終わる。
 方法を模索してはいるが、何せ身体がまともに動かない。どうしようもないのだ。

曖人「……ミィル、リダクテッドさん……英雄は帰還出来ない……ようやく現れた50代目も…目的を果たせずに散る……。あぁ…まだ早い相手だった……正直、強くなった気でいた……実際強くはなってる。……上には上がいるもんな……。ラピスラズリの仲間達……俺の分まで……頼んだぞ………。」

 「何勝手に死のうとしてんだ。」

曖人「ッ!」

 ようやく外部の音が聞こえた。その声の正体は……。

曖人「ギルム……!」

ギルム「俺はやりきった。お前もリヴォリーターとして何度も状況を打破してきたからこそ、今ここにいるんじゃねぇの。道中で諦めるなんて言語道断だ。諦めるなら最初か最後だ。期待を半端に無下にするな。」

 水音に飲まれぼやけているが、確実に、はっきりと内容が入ってきた。

セギン「久しぶり。ギルム。でも、お呼びじゃない。」

 セギンは刃に水を纏い鋭い斬撃波を飛ばすが、ギルムは一切振り向かずに一刀で斬り裂いた。

セギン「ありえない……。大体の人は集中してても防ぎきれないのに。」

 何を言われても反応しないギルムに、セギンは対応さえ面倒になった様子だった。

ギルム「やれ。俺はエネルギーを消費し過ぎた。この戦いは、お前が勝たないと勝ちではない。」

曖人「……ありがとう。先代はこんな最期を迎えてはこなかった。やりきった、全力を尽くした……息切れするまで命をかけた先の玉砕だったはずだ!」

 すると血に巡る魔力が思念波と共に活性化された。そのエネルギーを剣に宿し、俺は構えた。

曖人「……剣術:魔光・ラビリンス」

 強い光を纏った刃が水を切り裂き、蒸発させた。それだけじゃない、俺の身体にはその瞬間の感覚が余韻として残り続けている。

セギン「はぁ……成長速度がえげつない。やる気無くなる……。」

曖人「引き出せなかった本気をぶつけてやる。さぁ…反撃の時間だ……!」

 初めて真っ当な覚醒状態に入った俺は、臨戦態勢を整え直し、奴との決着を宣言した。

セギン「お互いに本気といったところか……。また同じようにしてあげるよ。」





      ー恒星ー


 Nv-213は液晶の前で退屈そうにしていた。当初の計画は狂ったが、どのみちラビリンスの英雄を潰せると確信していたからだ。

Nv-213「そういやプランティカ教は交戦中らしいな。DN-468/aに状況でも聞きに行くか。」
 
 液晶から離れ、彼はその部屋を後にした。彼はこれだから馬鹿にされているのだろう……。





     ーラグーン王室ー


 俺は地を蹴り、セギンの背後に移りながら剣を構えた。

セギン「動きにより磨きがかかったようだけど、僕からしたら大して問題では無い。」

 セギンは斧を振り上げ、剣撃を防いだが、俺はここで分かった。別に手を抜いた訳では無いと思うが、明らかに重みが感じられない。
 つまり力は大幅に向上しただろう。それでも力比べだけなら互角だ。意表を突くか戦況操作をしないと負けも考えやすい。
 そして相手が大罪人ともなれば、戦線復帰不可の致命傷あるいは、“死”のリスクが高い。思考し、力を存分に活用しなければならないのだ。
 そうこう考えながら攻防戦を展開していると、先に転換してきたのはセギンの方だ。

セギン「足場大事。飲まれて。」

 すると足元が浸水し、徐々に凍結し始めてきた。俺は剣に炎を纏って焼き払い、飛行形態に入った。

セギン「だよねー。…思術:溺れる子羊・流暗麓」

 水位が一気に上昇し、凍結すると、セギンの斧から放たれる周波によって氷が砕け散り、破片がこちらに飛んできた。

曖人「剣術:熱躪」

 しかし俺は剣に炎を纏って、溶かし尽くした。

セギン「……怠い。」

 刹那、眼前にセギンの斧が迫ったが、俺は素早く回避し、剣に光を纏った。

曖人「剣術:魔光・ラビリンス」

セギン「グッ!」

 斬撃で腕に損傷を与えてから蹴りを入れて降下させ、地面に叩きつけた。
 しかし、セギンは咄嗟に着地点に水を貼ったため無傷だ。

セギン「……ははは。萎える。不確定な勝負なんてする意味が無いんだけど…。」

 一見降参したように思えるが、彼の闘志はむしろ増している。要注意だ。
しおりを挟む

処理中です...