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11.王太子殿下の恋人は

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「私が」

 ジェンがそのまま、レスター男爵が指さした方へ足音を立てず静かに向かい、木陰から様子を探った後、その視線は射貫くような厳しさになり殺気が少しだけ漏れ出した。
 何があったのか。
 ベルと二人、視線を合わせながら小首を傾げ、そのままジェンの方へ近づく。

「っ!」

 慌てたレスター男爵が止めようと手を差し伸べるも、皇女に気安く触れてはいけない事を思い出し、ピタリと動きを止めて静止の声をあげようとするも、口をパクパクさせるだけだ。
 言いにくい事なのだろうか、それとも口に出すのも憚られる事なのか。
 私がレスター男爵の方へ意識を取られている間にジェンの後ろへ付いて木陰から覗き込んだベルは、小さく舌打ちしながらもジェンと同じように殺気を少しだけ放った。

「…………」

 何があると言うのだ。
 呆れつつも興味を持った私も、二人から隠れるように、その視線の先を追うと、そこには寄り添い合う男女が居た。
 ベビーピンクのさらっとした腰上ほどのストレートロングに大きな紫の瞳をした可愛らしい女性は、少しあざとさを感じる。可愛い顔とはギャップがある、出るとこが出ている我儘ボディなのに、小物は可愛い系だ。
 女性を肩にもたれかからせて、その腰を引き寄せている男性は前髪が少し長めのツーブロックをした金髪で、瞳はエメラルドグリーンで……。

「ん?」

 何か既視感を覚える色合いだな、と思いながら、よく眺めていると、ジェンとベルが小声で吐き捨てるように言った。

「あんのクソ王子」
「ふしだらなっ」
「……あぁ」

 その言葉で、そこに居る男性がこのロドル王国王太子、ロス・ロドルである事に気が付く。確かに国王や王妃の面影や色合いがあるから、既視感を感じて当たり前か……いや、片手で数えられる程は会っているから、それか。

「あれが親しくしている令嬢かしら?」

 確実にそう見えるが、あえて口にしてみる。むしろ、そうでなければどれだけ女好きなのだと言えるし、女性との距離感も分からない馬鹿とも言える。
 王族に種馬は要らないのだ。それこそ王子教育の基礎中の基礎だ。
 後ろから溜息が聞こえたので振り返ると、レスター男爵が目を抑えて天を仰いでいた。

「ちょっと話を聞かせてもらえる?」

 そう言って私は元居た場所へと手を向けると、レスター男爵は目を見開いてギョっとした顔をした。
 全面に嫌だという表情が出ているし、嫌なのは凄く分かる。身分差的にも私の相手をするのは緊張するだろう。しかしそこは笑顔で圧をかけると、ベルとジェンが有無を言わさぬようにレスター男爵の両側に立ち、私達が元居た場所まで戻った。

「それで、あの女性は王太子殿下の恋人なの?」

 ベルに入れてもらったお茶に口をつけながら、レスター男爵へ率直に訊ねる。

「えっと……」

 どう言って良いものなのか悩んでいるのだろう、私と視線を合わせないよう俯きながら、手を口元へと持ってきている。出されたお茶には手をつけようとしない。

「……楽にしていいわよ、敬語も慣れていないようだし、多少言葉使いがなっていないくらいは何とも思わないわ」

 馬鹿は嫌いだけれど。
 心の中でそう呟きつつ、チラリとレスター男爵を盗み見ると、考えこんでいるようだ。

「実は商会をしていて新しく爵位を貰ったばかりの平民なので礼儀の方も見逃して頂けると嬉しいのですが?」
「余程の不敬じゃなければ許すわ。そんなの気にしてたら、この学園に居る貴族達はどうなるの」
「確かに」

 私が許すと言ったからか、肩の力が抜けたレスター男爵は噴き出した。
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