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10.サボればソコに
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「……学ぶ事がないわ」
午前中の授業が終わり、中庭でベルが昼食の準備をしている間、木陰で座りながら溜息をつく。
コソコソと遠巻きにされ、挙句の果てには学ぶ事がないとすれば、私は学園へ来ている時間を苦痛の為に消費しているというもの。何という無駄時間!
「教室という密室空間よりもサボって頂いた方が護衛しやすいのですが」
「ジェン!お嬢様が言っているのはそういう問題ではないの!」
流石に、学園へ侍女や護衛を伴って来ている人は居ない。言ってしまえば私が特例なのである。それでも授業の間、ベルは別室で待機となっているし、ジェンは教室の外で待機となっている。ベルは暇だろうし、ジェンとしても守りづらい上、私にとっては無駄時間となっている。
こんな非効率的な事があるのかと、責任者へ数百枚の申請書で問い続けたい。
「そういえば、この国の王太子殿下とは、まだお会いしておりませんね」
ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえそうな表情でベルが言葉を吐き捨てた。
「教室が違うのでしょう。昼食も食堂へ行っているでしょうし、会わなくても不思議ではないわ」
「一度も顔を見せず、挨拶すら来ないのは無礼ですけどね」
ベルは怒りを隠す事もせずに吐き捨てた。
まぁ、侍女達を連れて来ることが出来ない貴族の令息令嬢達は食堂を利用する。私の場合はジェンが護衛しやすいよう食堂を使わない方が良いのでは?というベルの計らいで、ベルがお弁当を用意してくれているのだ。
私としても、異国の料理は楽しみであるけれど、それは王城で食べる事が出来るので、お昼くらいは食べなれた味を口にしたいという本音が9割程占めている。
「サボりますか」
学ぶ事もなく、精神をすり減らすだけの時間に疲れ切った私は、この時間を有意義な時間にしたいと考え提案した。
二人は言葉を発することもなく、ただ「お好きにどうぞ」と言わんばかりの態度だ。本当にダメな事であれば、私の為を思って二人は遠慮なしに諫めてくれる。
だからこそ心地いい二人の態度に、私は授業の始まる鐘の音を静かに聞いていた……のだが、ガサリと草の根を踏む音がして、ジェルが私を庇うように前へと出た。
「……あれ?ノルウェット帝国のリズ皇女殿下……?」
肩にかかる濃紺の髪を1つに束ねた青年が、貴族らしくもない口調と驚いた表情で思わずといった感じで私の名前を口にした。
口にした後、しまった!と言わんばかりに手を口に当てて水色の目を見開いていた。
「はい、そうですよ」
「!名乗らず申し訳ありません。私はガルム・レスター男爵……です……ございます」
敬語が苦手なのだろうか。噛んだ言葉使いに、どこか違和感のある礼だ。
でも今、令息ではなく、男爵と答えていたという事は、この者自体が爵位を持っている事になる。
……爵位を持っている貴族が、マナーを覚えたばかりの平民に見える。
「何か?」
「授業は始まっ……りまし……あっ」
ついうっかり声をかけてしまっただけだろう。視線を彷徨わせたまま言葉を噛みながら口にした人物を、私はジッと観察した後にベルへと目を向けた。
皆、遠巻きにして声をかけるどころか近寄ろうとすらしなかったのに?つい、といった感じだとしても、この者の意図は?それに、言いかけて何か不味いと思った様子もあった。
「貴方こそ。授業は始まっておりますよ?」
まず、同じ言葉を返して、相手の出方を伺った。
レスター男爵は更に視線を彷徨わせると、しばらく考えた後に諦めたかのように、後方を指さした。
指さした先は、校舎へ戻る為に必ず通る道で、私は中庭の奥まった所に居たため何かがあったとしても気が付いていなかった。
午前中の授業が終わり、中庭でベルが昼食の準備をしている間、木陰で座りながら溜息をつく。
コソコソと遠巻きにされ、挙句の果てには学ぶ事がないとすれば、私は学園へ来ている時間を苦痛の為に消費しているというもの。何という無駄時間!
「教室という密室空間よりもサボって頂いた方が護衛しやすいのですが」
「ジェン!お嬢様が言っているのはそういう問題ではないの!」
流石に、学園へ侍女や護衛を伴って来ている人は居ない。言ってしまえば私が特例なのである。それでも授業の間、ベルは別室で待機となっているし、ジェンは教室の外で待機となっている。ベルは暇だろうし、ジェンとしても守りづらい上、私にとっては無駄時間となっている。
こんな非効率的な事があるのかと、責任者へ数百枚の申請書で問い続けたい。
「そういえば、この国の王太子殿下とは、まだお会いしておりませんね」
ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえそうな表情でベルが言葉を吐き捨てた。
「教室が違うのでしょう。昼食も食堂へ行っているでしょうし、会わなくても不思議ではないわ」
「一度も顔を見せず、挨拶すら来ないのは無礼ですけどね」
ベルは怒りを隠す事もせずに吐き捨てた。
まぁ、侍女達を連れて来ることが出来ない貴族の令息令嬢達は食堂を利用する。私の場合はジェンが護衛しやすいよう食堂を使わない方が良いのでは?というベルの計らいで、ベルがお弁当を用意してくれているのだ。
私としても、異国の料理は楽しみであるけれど、それは王城で食べる事が出来るので、お昼くらいは食べなれた味を口にしたいという本音が9割程占めている。
「サボりますか」
学ぶ事もなく、精神をすり減らすだけの時間に疲れ切った私は、この時間を有意義な時間にしたいと考え提案した。
二人は言葉を発することもなく、ただ「お好きにどうぞ」と言わんばかりの態度だ。本当にダメな事であれば、私の為を思って二人は遠慮なしに諫めてくれる。
だからこそ心地いい二人の態度に、私は授業の始まる鐘の音を静かに聞いていた……のだが、ガサリと草の根を踏む音がして、ジェルが私を庇うように前へと出た。
「……あれ?ノルウェット帝国のリズ皇女殿下……?」
肩にかかる濃紺の髪を1つに束ねた青年が、貴族らしくもない口調と驚いた表情で思わずといった感じで私の名前を口にした。
口にした後、しまった!と言わんばかりに手を口に当てて水色の目を見開いていた。
「はい、そうですよ」
「!名乗らず申し訳ありません。私はガルム・レスター男爵……です……ございます」
敬語が苦手なのだろうか。噛んだ言葉使いに、どこか違和感のある礼だ。
でも今、令息ではなく、男爵と答えていたという事は、この者自体が爵位を持っている事になる。
……爵位を持っている貴族が、マナーを覚えたばかりの平民に見える。
「何か?」
「授業は始まっ……りまし……あっ」
ついうっかり声をかけてしまっただけだろう。視線を彷徨わせたまま言葉を噛みながら口にした人物を、私はジッと観察した後にベルへと目を向けた。
皆、遠巻きにして声をかけるどころか近寄ろうとすらしなかったのに?つい、といった感じだとしても、この者の意図は?それに、言いかけて何か不味いと思った様子もあった。
「貴方こそ。授業は始まっておりますよ?」
まず、同じ言葉を返して、相手の出方を伺った。
レスター男爵は更に視線を彷徨わせると、しばらく考えた後に諦めたかのように、後方を指さした。
指さした先は、校舎へ戻る為に必ず通る道で、私は中庭の奥まった所に居たため何かがあったとしても気が付いていなかった。
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