4 / 35
04.私にも婚約者がいましたね
しおりを挟む
帝国が全ての国を支配してしまえば、もう大陸全土と言っても過言ではない。ある程度、属国として独立させているからこそ運営できるのである。それを全て帝国へ土地返還のようにされても……無理だ。
「……数代に渡り、帝国の王族が各属国の王族へ嫁いだりして、帝国の教育を取り入れたりしている筈ですが……」
「……叔母から、手に負えなかったと手紙はきた」
属国であるという証の為、皇女はどこかの国の王族へ嫁いでいく、という決まりがある中、近しい親族としてお父様の叔母様からは手紙がきていたようで、お父様はそれを取り出して私達の前へ置いた。
――私が外交で不在をしている間に、騒動が起こりました。醜聞をもみ消す事も出来ず、王太子を廃嫡いたしましたが国王も信用に値せず。帝国法に則り、後は任せます。
「丸投げしましたね」
私の言葉に、お兄様とお父様が項垂れた。
お父様は子沢山というわけではなかった為、子どもは私とお兄様の二人だ。
あまりに多すぎても権力争いが起きても大変だという考えの元だったが、今となれば沢山作っておけば良かったのにと思う。本当に今更すぎるけど。
第二王子や第三王子が居れば、その者達に他国を治めさせる事も出来たのだ。
私はため息をつきながら、もう休ませてもらおうと腰を浮かせた瞬間、兄が心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「……リズの婚約者は大丈夫なのか?」
「え?あぁ、忘れていましたわ」
「忘れていた!?」
私の返事を聞くと、お兄様は驚愕し口を大きく開けた。
私も例にもれず、生まれた時から属国の王族へと嫁ぐ事が決まっていた。そして同じ年で立太子を済ませた隣国の王太子との婚約が決まった。しかし、会ったのなんて片手で数えられる程だ。隣国なのに!
まぁ、お互い恋心なんてものはないし、所詮ただの政略結婚である。国を治める事と世継ぎを生む事さえ出来れば他に何も問題はない。流石に帝国の血を引くものを入れないわけにはいかないので、そこはお互い頑張るところだと割り切ってはいる。
「……そういえば、手紙が来なくなって、どれくらいかしら」
「お前……婚約者の務めって知っているか?」
「お返事を頂けないのであれば、こちらからしつこく送るのも面倒……失礼かと思いまして」
「面倒って言ったな。本音が出ているぞ」
政略結婚だと割り切ってしまっていれば、相手に何かを期待する事や求める事もない。侍女達には冷たくないかと言われた事もあるけれど、恋愛に憧れがあるわけでもないのだ。
手紙だって、いわば書類のやり取りをしているようなもので、返事がこないなら書く必要性を見いだせない。むしろこちらが責を負わない為に返しているだけで、向こうから返してこないのであれば、向こうが責務を放棄したという事だと思える。
「……女は可愛げある方が良いぞ?」
「お兄様の好みに当てはまる必要もないと思いますの」
「ぐっ」
「あの……な?」
私とお兄様のやり取りを静かに聞いていたお父様は、言い出しにくそうに、視線を背けながら声をかけてきた。
まだ話があるのかと思えば、もっと早く逃げておくべきだったと後悔しかない。
もういっそ諦めて割り切ってしまおうと、お茶のお代わりを頼む。……そうでもしないと、休みたくてイライラしてしまう。
「…………ロス・ロドルに、親しくしている娘がいるという事を耳にした」
「なんだって!?」
ボソリと、小さな声で私を伺うようにお父様が呟いた。
その言葉に対していち早く反応したのはお兄様で、声の大きさに大変な事なのかと疑問に思いつつ私は小首を傾げた。
「……数代に渡り、帝国の王族が各属国の王族へ嫁いだりして、帝国の教育を取り入れたりしている筈ですが……」
「……叔母から、手に負えなかったと手紙はきた」
属国であるという証の為、皇女はどこかの国の王族へ嫁いでいく、という決まりがある中、近しい親族としてお父様の叔母様からは手紙がきていたようで、お父様はそれを取り出して私達の前へ置いた。
――私が外交で不在をしている間に、騒動が起こりました。醜聞をもみ消す事も出来ず、王太子を廃嫡いたしましたが国王も信用に値せず。帝国法に則り、後は任せます。
「丸投げしましたね」
私の言葉に、お兄様とお父様が項垂れた。
お父様は子沢山というわけではなかった為、子どもは私とお兄様の二人だ。
あまりに多すぎても権力争いが起きても大変だという考えの元だったが、今となれば沢山作っておけば良かったのにと思う。本当に今更すぎるけど。
第二王子や第三王子が居れば、その者達に他国を治めさせる事も出来たのだ。
私はため息をつきながら、もう休ませてもらおうと腰を浮かせた瞬間、兄が心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「……リズの婚約者は大丈夫なのか?」
「え?あぁ、忘れていましたわ」
「忘れていた!?」
私の返事を聞くと、お兄様は驚愕し口を大きく開けた。
私も例にもれず、生まれた時から属国の王族へと嫁ぐ事が決まっていた。そして同じ年で立太子を済ませた隣国の王太子との婚約が決まった。しかし、会ったのなんて片手で数えられる程だ。隣国なのに!
まぁ、お互い恋心なんてものはないし、所詮ただの政略結婚である。国を治める事と世継ぎを生む事さえ出来れば他に何も問題はない。流石に帝国の血を引くものを入れないわけにはいかないので、そこはお互い頑張るところだと割り切ってはいる。
「……そういえば、手紙が来なくなって、どれくらいかしら」
「お前……婚約者の務めって知っているか?」
「お返事を頂けないのであれば、こちらからしつこく送るのも面倒……失礼かと思いまして」
「面倒って言ったな。本音が出ているぞ」
政略結婚だと割り切ってしまっていれば、相手に何かを期待する事や求める事もない。侍女達には冷たくないかと言われた事もあるけれど、恋愛に憧れがあるわけでもないのだ。
手紙だって、いわば書類のやり取りをしているようなもので、返事がこないなら書く必要性を見いだせない。むしろこちらが責を負わない為に返しているだけで、向こうから返してこないのであれば、向こうが責務を放棄したという事だと思える。
「……女は可愛げある方が良いぞ?」
「お兄様の好みに当てはまる必要もないと思いますの」
「ぐっ」
「あの……な?」
私とお兄様のやり取りを静かに聞いていたお父様は、言い出しにくそうに、視線を背けながら声をかけてきた。
まだ話があるのかと思えば、もっと早く逃げておくべきだったと後悔しかない。
もういっそ諦めて割り切ってしまおうと、お茶のお代わりを頼む。……そうでもしないと、休みたくてイライラしてしまう。
「…………ロス・ロドルに、親しくしている娘がいるという事を耳にした」
「なんだって!?」
ボソリと、小さな声で私を伺うようにお父様が呟いた。
その言葉に対していち早く反応したのはお兄様で、声の大きさに大変な事なのかと疑問に思いつつ私は小首を傾げた。
76
お気に入りに追加
1,865
あなたにおすすめの小説

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。
里海慧
恋愛
わたくしが愛してやまない婚約者ライオネル様は、どうやらわたくしを嫌っているようだ。
でもそんなクールなライオネル様も素敵ですわ——!!
超前向きすぎる伯爵令嬢ハーミリアには、ハイスペイケメンの婚約者ライオネルがいる。
しかしライオネルはいつもハーミリアにはそっけなく冷たい態度だった。
ところがある日、突然ハーミリアの歯が強烈に痛み口も聞けなくなってしまった。
いつもなら一方的に話しかけるのに、無言のまま過ごしていると婚約者の様子がおかしくなり——?
明るく楽しいラブコメ風です!
頭を空っぽにして、ゆるい感じで読んでいただけると嬉しいです★
※激甘注意 お砂糖吐きたい人だけ呼んでください。
※2022.12.13 女性向けHOTランキング1位になりました!!
みなさまの応援のおかげです。本当にありがとうございます(*´꒳`*)
※タイトル変更しました。
旧タイトル『歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件』
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。
直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。
それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。
真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。
※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。
リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。
※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。
…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
★HOTランキング2位
★人気ランキング7位
たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!

そのご令嬢、婚約破棄されました。
玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。
婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。
その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。
よくある婚約破棄の、一幕。
※小説家になろう にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる