双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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暖かい。
そう感じた瞬間、ミシャルの中で押し込められていた感情が、堰を切ったように溢れ出した。

「……うっ……ぅあ」

思わず漏れた嗚咽は止まらず、目から涙が次々と零れ落ちる。
瞬きをするたび、頬を伝う涙の感覚が鮮明に伝わってきた。
ミシャルはずっと自分の悲しみや苦しみは出し尽くしたと思っていたが、それはただの勘違いだった事に気が付いた。
止めようと思えば我慢できたはずの涙が溢れる涙を止めることができない。
それはまるで、ミシャルの心の奥底で固まっていた何かが、ついに解けて流れ出した証のようだった。

「悲しい時はね、うんと声を上げて泣くのがいいのよ」

優しい声が頭上から降り注ぐ。
声の持ち主であるセグレッタは、ミシャルの髪をそっと撫でながら語りかけてきた。
生まれてから初めて受けた優しい手の仕草があまりにも温かくて、ミシャルの涙は制御不能になりつつあった。
押し込めていた大きな塊がほどけていけば行くほど、嗚咽を押し殺すことができずにミシャルはセグレッタの胸の中でただただ泣きじゃくった。

セグレッタの手がミシャルの頭を何度も優しく撫でる。
まるで赤ん坊が初めて泣くように、は声を上げて泣き切ったミシャルは、小さく嗚咽を漏らしながらも落ち着きを取り戻した。そんなミシャルをエレナは嫌な顔せず頬を伝う涙を指先で拭うと、微笑みながらミシャルの肩を軽く叩き、優しい声で言った。

「お茶を用意してあげるわ」

ミシャルはセグレッタの言葉に頷くと、彼女からそっと離れてからセグレッタの背を見つめていたが、はっと先ほどまでの自分の行動に顔を青くした。知らない人に、それも初めて会った人間にとんでもないことをしてしまったと慌てるミシャルは何をするでもなく立ち上がった。

「どうしたの?」
「その……」

セグレッタは何も咎めることなく、静かに紅茶を淹れて戻ってくると立ち上がったミシャルに小首をかしげた。
煮え切らないミシャルの様子にセグレッタは困った表情を浮かべることなく静かにミシャルへ座る様にうながすと、ミシャルはその言葉にしたがうしかなかった。


「さあ、飲んで。落ち着くわよ」
「……ありがとうございます」

差し出されたカップを両手で受け取りミシャルはエレナが淹れてくれた紅茶が入ったマグカップに一口口をつけた。
淡い茶色の紅茶はミルクと少量のハチミツが加えられているのか甘い香りを漂わせていた。
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