双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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ミシャルは知らない街の中を走り抜けていた。
どこに向かっているのかも自分ではわからず、呼吸するたび肺が引きつれて痛みを訴える。
それが信用し始めていたクロディクスからの裏切りによる痛みだと気が付かないまま、ミシャルは街の入り組んだ道にどんどんと足を踏み入れていった。

なりふり構わず進んでいるとミシャルはカクンと、崩れるようにして頭から地面に突っ伏した。
ズキズキと、全身が痛みを訴え、うつ伏せになった身体が冷たい。
そこでようやくミシャルは自分が凍り付いた水たまりに足を取られて転んだ事に気が付いた。

「まぁまぁ、こんな所でどうしたの」
「あっ……」
「可愛いドレスがどろんこじゃない」

慌てて身体を起こしたミシャルは座り込んだまま茫然と声の方を見上げると、杖をついた腰の曲がった老婆が扉からゆっくりと出てきてミシャルに声をかけた。
何も言えずに固まっているミシャルに、老婆は肩に巻いていた肩掛けを取るとミシャルの汚れた肩に被せた。

「綺麗なお洋服が汚れてしまいます」

何をされているのか理解できなかったミシャルは慌てて肩掛けを掴んだがもう遅く。
淡い紫色に染められていた綺麗な肩掛けがミシャルの服から水を吸って同じように色を変えてしまうのをミシャルは自分の事のようにショックを受けた。

「こんなのは洗えばいいのよ、それよりどうしたのお嬢さん。可愛い顔が台無しよ」

老人は穏やかな笑顔で話しかけてくる。
その表情には、どこか温かみが感じられ、ミシャルは老人の言葉に先程までのシャルルとのやり取りを思い出してしまった。

(クロディクス様もシャルルの方がいいのよね……)

柔らか微笑むクロディクスの姿を思い浮かべて、ミシャルは痛む胸に手を当てた。
喉が張り付いたように言葉を言えなくなっていて焦るミシャル。

(大丈夫ですって言わないといけないのに)

寒くなってきた外に長くいては目の前の老婆が風邪を引いてしまう。
そう思っているのに、なぜか言葉が出てこなくて、ミシャルのむしゃくしゃした気持ちがポロリと零れ落ちた。
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